オートロック式を導入している共同住宅は2割にも満たない

ALSOK本社(東京都港区)のセキュリティショールームで取材に対応いただいたALSOK本社(東京都港区)のセキュリティショールームで取材に対応いただいた

引越しシーズンを迎えている。新居を検討する際、気になることのひとつに防犯対策があるが、どんな点に注意したらいいのだろう。賃貸住まいでは退出時に原状復帰の義務があるため、自由にセキュリティ設備を取り入れるというわけにはいかないのだが、できる防犯対策はあるのだろうか? そこで取材に出向いたのは、警備会社のALSOK(アルソック)。個人向けのホームセキュリティサービスなどの企画に携わる、HOME ALSOK事業部 セキュリティ・プランナーの今井仁也さんに話を聞いた。

「賃貸住宅でも、防犯に関心をもつ物件オーナーさん、管理会社さんは増えています」と、今井さん。他の物件との差別化をはかる目的もあって、防犯カメラやセンサーなどを導入している賃貸も増加しているので、セキュリティ設備の有無やどこに取り付けられているのかなど、部屋探しの際には確認しておきたいポイントだ。

ただ、セキュリティ設備が充実している賃貸に住みたいと思っても、自分が支払える家賃とのかねあいもあるだろうし、セキュリティ設備のない賃貸のほうがまだまだ多いという実情もある。例えばエントランスのオートロック設備。「2018年 住宅・土地統計調査結果(2020年1月公開)」(総務省統計局)によると、オートロック式を導入している共同住宅は全体の14.3%という結果になっているのだ。

新居選びで確認したい防犯環境

賃貸住宅選びの際には防犯環境もチェックしておきたい

賃貸住宅選びの際には防犯環境もチェックしておきたい

「しかし、セキュリティ設備の有無にかかわらず、賃貸の居室探しでは基本的な防犯環境が整っているかどうかのチェックは欠かせません」と、今井さん。
次の3つのポイントを教えてくれた。

ポイント① 汚れていないか?

築年数による古さとは別に、建物の外観が汚れていないか、エントランス付近や共用部は片付いているのかなど、確認しておきたい。ゴミ集積場が乱雑に散らかっていないか、自転車置き場に倒れたまま誇りをかぶった自転車が置かれていないかも要チェックだ。

「汚れている賃貸は、掃除や管理が行き届いていない賃貸ともいえます。さらには住人の防犯への関心が低いという印象も与えるので、空き巣に狙われやすくなる傾向があります。侵入を企てる泥棒にとって、隙のある住宅と思われてしまうからです」(今井さん)

ポイント② 夜間の環境はどうか?

「賃貸の内見は、昼間に行かれる人が多いと思いますが、夜間にエントランスや共用部の照明灯が暗すぎないかも、確認しておきたいポイントです。特に仕事の都合などで帰宅時間が夜遅くなりがちな人は要注意です。照明灯が壊れたままになっているような賃貸は避けたほうがいいと思います」(今井さん)

部屋探しの段階で「どっちのアパートにしようか?」などと迷っているときは、夜間にも訪れ、エントランスの明るさを確認してから決めるのもありだろう。

ポイント③ 近所づきあいがあるか?

都市部の賃貸住まいでは、隣の人の顔も知らないといったケースは少なくないだろうが、防犯の面から考えるとあまり好ましい状態ではない。共用部で会った人が、その賃貸の住人なのかどうか判断ができないので、よからぬ侵入者がいても通報されないという、泥棒には好都合な状況なってしまう。

「住人同士、顔を合わせたときは挨拶の言葉を交わしているなど、適度なコミュニケーションがとれている賃貸だと、侵入者が入ってきにくくなるので、犯行を未然に防ぐことが可能になるでしょう」(今井さん)

賃貸の近所づきあいの状況は、内覧で確認するのは難しいかもしれないが、チェックポイントとして意識しておきたい。

2階以上の部屋でも安全というわけではない

ALSOKのセキュリティ・プランナー、今井仁也さんALSOKのセキュリティ・プランナー、今井仁也さん

部屋を選ぶ際、意外と盲点なのが、室内からの視認性という。
「外部から侵入者が近づいてくるのが見えやすいかどうか、ということも大切です。高い塀や、庭の植栽などが視界を遮っていて、見通しが悪くなっていると、泥棒が忍び込んできても周囲の人に気づかれにくい状態になってしまいます」(今井さん)

また、賃貸に限らないことだが、2階以上にある部屋だから安全ということではない。

「2階、3階くらいだと、雨どいをつたったり、エアコン室外機、屋外に置かれた物入から登っていくことができます。ひとたび登ってしまえば、路上からは気づかれにくいので、簡単に部屋に侵入されてしまいます。そうした犯行を防ぐために、部屋選びでは上の階に登るための足場になりやすいものがあるかどうかもチェックしておきたいです」(今井さん)

6階、7階といった高層階でも狙われる。ベランダの窓から侵入されてしまうのだ。屋上や、上の階の居室に侵入してそこからロープを使って下の階のベランダから侵入、さらにはベランダ伝いに隣の居室へ移動して、次々に犯行を行うというから油断できない。また、隣にほぼ同じ高さの建物が接近して建っているような場合も要注意。その建物の通路などから居室のベランダへと移動し、侵入されてしまったケースもあるという。

「高層階だからと安心しきって、ベランダの窓を開けたままにして外出してしまうと、その隙に侵入されてしまいます。いつでも戸締りは忘れずに、しっかり行ってください」(今井さん)

第一の防犯対策は「戸締り」を確実にやること

空き巣の侵入手口で「無締まり」とともに多いのは「ガラス破り」。窓から侵入する犯人はクレセント錠回りのガラスを割って開錠するという手口だ

空き巣の侵入手口で「無締まり」とともに多いのは「ガラス破り」。窓から侵入する犯人はクレセント錠回りのガラスを割って開錠するという手口だ

さて、ここで警察庁の調査データを紹介しよう。住宅などの侵入犯罪対策をまとめた『警察庁すまいる防犯110』の調査結果によると、住宅への侵入強盗の数は減少傾向にあるというが、それでも2020年には年間2万1030件、1日あたり約58件、発生している。

侵入手段ランキング

侵入窃盗の主な手口は以下で示すように、一戸建て、共同住宅ともに圧倒的に多いのが鍵をかけ忘れた玄関や窓などから侵入する「無締り」となっている。

■一戸建て住宅

・1位 無締り 52.8%
・2位 ガラス破り 29.8%
・3位 合いかぎ 1.9%
※このほか、「ドア錠破り(ドアの隙間にバールなどを差し込み、施錠部を強引にこじ開けるもの)」1.8%、「その他の施錠開け(合かぎ、ピッキング、サムターン以外で施錠を開けるもの)」2.8%など。

■共同住宅(3階建て以下)

・1位 無締り 52.1%
・2位 ガラス破り 22.2%
・3位 合いかぎ 9.6%
※このほか、「ドア錠破り」1.4%、「その他の施錠開け」2.7%など。

■共同住宅(4階建て以上)

・1位 無締り 45.8%
・2位 合いかぎ 19.7%
・3位 ガラス破り 13.0%
※このほか、「その他の施錠開け」2.6%、「ドア錠破り」2.1%など。

(いずれも2020年の調査結果)

侵入口ランキング

侵入手段のデータを裏付けるように、侵入口で多いのは、窓と表出入口という結果となっている。

一戸建て住宅の場合

窓(53.5%)、表出入口(19.4%)

共同住宅(3階建て以下)の場合

窓(49.5%)、表出入口(39.2%)

共同住宅(4階建て以上)の場合

表出入口(57.8%)、窓(30.1%)


こうした調査結果からわかることは、賃貸に限らず、住まいの防犯対策の基本は戸締りということだ。ゴミ出しや近くのコンビニへの買い物など、ごく短時間であっても外出の際は玄関ドアはもちろん、窓もしめて施錠する習慣を身につけておきたい。

防犯に役立つグッズで、泥棒に侵入を諦めさせる

この「警察庁すまいる防犯110」には「侵入者の心理と行動」に関するデータも発表されている。泥棒は侵入に手間取ると、その家には侵入しないといわれているが、5分かかると、侵入者の約7割は侵入をあきらめる。10分以上かかると、侵入者のほとんどがあきらめるという。つまり、侵入に時間をかけさせるような住まいにすることが、防犯対策につながる。

その方法として、市販の防犯グッズを利用するのも一案だ。賃貸住まいでは、退去時の原状復帰のことを考えると、防犯グッズの取り付けはハードルが高いように感じるかもしれないが、大がかりな工事を要さないものもあるので、検討してみてはどうだろう。

ALSOKでも防犯グッズを取り扱っているので、一部を紹介する。

補助錠

ドアや窓に設けられている一般的な鍵は、クレセント錠といい、回して開閉するもの。防犯のためには、もうひとつ、補助錠をつけておきたい。
侵入者の主な手口は鍵の近くの部分を破り、鍵をこじ開けるというものだが、補助錠を付けて鍵が2ヵ所、あるいはそれ以上となると、複数ヵ所を割らなければならず、その分、手間と時間がかかるので、侵入をあきらめる可能性がある。
「ALSOKロック」は、引戸式のアルミサッシ窓の内側ガラス面に直接粘着シールで貼り付けるだけで簡単に設置できる補助錠。ロック板が2枚あり、1枚のみ施錠することによって、換気などのために窓を数㎝開けた状態でのロックも可能。1枚の窓の上下に1個ずつ設置すれば、侵入者に手間をかけさせることになる。ただし、強力に接着できる分、取りはずしがしにくい。賃貸で取り付ける前に、物件オーナーや管理会社に相談し、承諾を得る必要がある。
ちなみにALSOKでは、この製品よりも手軽に取り付けられ、取り外しも簡単な補助錠も扱っている。

ALSOKロックを取り付けた窓。外からは補助錠の接着面に印刷された「ALSOK」マークが見えるので、侵入を抑制する効果が期待できるかもしれない。ALSOKロックは3740円(2個セット:税込み)ALSOKロックを取り付けた窓。外からは補助錠の接着面に印刷された「ALSOK」マークが見えるので、侵入を抑制する効果が期待できるかもしれない。ALSOKロックは3740円(2個セット:税込み)
防犯フィルム「ガラスマン」は、窓ガラス面の内側に貼り、鍵周辺の防犯機能を高めるという製品。窓の破壊に耐え、飛び散ることもなく、窓にバールなどをぶつけて割る「打ち破り」、ライターやバーナーで窓を焼き破る「焼き破り」対策に利用できる。A3サイズのフィルム2枚のセットで、6480円(税込み)防犯フィルム「ガラスマン」は、窓ガラス面の内側に貼り、鍵周辺の防犯機能を高めるという製品。窓の破壊に耐え、飛び散ることもなく、窓にバールなどをぶつけて割る「打ち破り」、ライターやバーナーで窓を焼き破る「焼き破り」対策に利用できる。A3サイズのフィルム2枚のセットで、6480円(税込み)

窓ガラスの防犯フィルム

窓ガラスに貼り付けてガラス面を強化し、窓を破って侵入するのを防ぐという防犯フィルム。
「防犯フィルムを貼っても窓ガラス の強度は変わらないので、窓は割れます。しかし、フィルムを貼ることで破りにくい窓になります。ガラスは割れたとしてもフィルムが貼られていることで穴が開きにくい状態になっていて、破れにくい窓になります。つまり、泥棒が窓を破って鍵をこじ開けるまでに手間をかけさせることになります」(今井さん)

ALSOKの防犯フィルムは「ガラスマン」という製品で、複層で強固。フィルムを貼った後も窓ガラスの透明性には影響はなく、見た目も悪くはならないという。地震など自然災害が発生した際に、割れた窓ガラスの飛散を防ぐ効果や、紫外線をカットする機能もある。ただし、ガラスにフィルムを圧着させるので、ひとたび貼り付けると、簡単にははずせない。事前に物件オーナーや管理会社から承諾を得たうえで使用してほしい。

賃貸入居者も利用可能なホームセキュリティシステム

アルボeyeの接続に必要なのは、電源、インターネット環境とカメラID・パスワードのみ。さらに無線(Wi-Fi)にも対応。機能の異なる3種類があり、写真はIoT機器との連携が可能なタイプ。スマホなどから遠隔操作ができる(月額利用料金は2750円、IoT機器は別売り)</BR>※記載の料金には機器の分割代金が含まれ、税込み。ガードマンに駆け付けを依頼した場合は別途、費用がかかるアルボeyeの接続に必要なのは、電源、インターネット環境とカメラID・パスワードのみ。さらに無線(Wi-Fi)にも対応。機能の異なる3種類があり、写真はIoT機器との連携が可能なタイプ。スマホなどから遠隔操作ができる(月額利用料金は2750円、IoT機器は別売り)
※記載の料金には機器の分割代金が含まれ、税込み。ガードマンに駆け付けを依頼した場合は別途、費用がかかる

賃貸住宅でも個人で導入可能なホームセキュリティシステムがあるので、ALSOKが提供しているシステムの概要をお伝えしよう。いずれも物件オーナーや管理会社の許可を得てからの導入となるが、ひとり暮らしの安心・安全のために、こうしたシステムがあることは知っておくといいだろう。

センサー付きカメラ

玄関回りや天井など、室内に手軽に設置できるセンサー付きカメラ「アルボeye」。 カメラの映像を、外出先からスマホで確認できるほか、不在時に侵入者を感知した場合には、画像とともに、設定したアドレスにメールで異常を知らせてくれる。必要に応じてALSOKのガードマンに出動を依頼することも可能。住んでいる賃貸住宅の周辺の確認をしてもらえる。

モバイルセキュリティ

携帯電話を利用した持ち運びができるモバイルセキュリティ「まもるっく」。室内でも外出先でも、いざというときに端末のストラップを引っ張るだけで24時間365日、ALSOKに通報される。ALSOKが利用者の安否を確認するとともに、事前に登録された緊急連絡先に状況を報告。依頼があれば、ガードマンが現地に駆けつける。GPS機能も搭載。ストーカー対策にも使われているという。

オンラインセキュリティ

敷地内や室内への不法侵入のほか、火災やガス漏れなどをセンサーが感知して警備会社に自動的に通報するシステムで、通報を受けてガードマンが出動。 セキュリティコントローラー (制御装置) は無線通信回線を標準装備し、インターネット回線がない物件でも設置が可能で、「壁面設置タイプ」のほか、壁を傷つけることなく設置できる「据え置き設置タイプ」もある。

アルボeyeの接続に必要なのは、電源、インターネット環境とカメラID・パスワードのみ。さらに無線(Wi-Fi)にも対応。機能の異なる3種類があり、写真はIoT機器との連携が可能なタイプ。スマホなどから遠隔操作ができる(月額利用料金は2750円、IoT機器は別売り)</BR>※記載の料金には機器の分割代金が含まれ、税込み。ガードマンに駆け付けを依頼した場合は別途、費用がかかるモバイルセキュリティ「まもるっく」。レンタルで月額1870円、初期登録費用6600円(いずれも税込み)。契約期間は3年で、3年経過後は1年ごとの更新。※ガードマンの駆け付けサービス料金は別途
アルボeyeの接続に必要なのは、電源、インターネット環境とカメラID・パスワードのみ。さらに無線(Wi-Fi)にも対応。機能の異なる3種類があり、写真はIoT機器との連携が可能なタイプ。スマホなどから遠隔操作ができる(月額利用料金は2750円、IoT機器は別売り)</BR>※記載の料金には機器の分割代金が含まれ、税込み。ガードマンに駆け付けを依頼した場合は別途、費用がかかるオンラインセキュリティのホームセキュリティプラン。施錠確認センサー、扉や窓の開封を感知する開閉センサー、火災センサー、人体の熱を感知する空間センサーなどが備えられている。下は、据え置き設置タイプのセキュリティコントローラー。導入方法は買取りとレンタル。賃貸アパート・マンションを対象にしたプランでレンタルの場合、工事費など初期費用がかからないプランもあり、月額費用は6611円(税込み)

普段から防犯に対する心構えを

今回、侵入者が入ってきにくい賃貸住宅を選ぶことや、防犯グッズや最新のセキュリティシステムについて伝えてきた。が、防犯対策には「絶対、大丈夫」はない。侵入者は常に下見をしていて侵入しやすい家を探し、隙あらば忍び込むという。
「しかし、泥棒が入りにくい住まいにすることはできます。例えば、留守が多いと確信されてしまうと空き巣に狙われやすくなるので、郵便受けにチラシなどを貯めこまないように心がけるなど、できることはあります。また、ひとり暮らしの人ですと、留守のときには誰もいなくなるのですが、それを空き巣に悟られないよう、帰宅時に室内に誰もいなくても『ただいま』とひと声かけてから中に入るようにするのも一つの方法です。自分の身を守り、安心して暮らすためにも、常日頃から防犯を意識することが大切です」と、今井さんはアドバイスしてくれた。

これから新居を探す人も、既に新居が決まった人も、住まいの防犯について、できることから実践していきたい。

ALSOK本社のセキュリティショールームで見かけた、窓ガラスの種類別の破壊比較。一見、頑丈そうに見える網入りガラスだが、防火用に開発されたものなので、侵入犯罪対策という面では、防犯ガラスよりも割れやすく、高い防犯効果は期待できない。こうした窓ガラスの基本的な機能を知っておくことも防犯対策につながるALSOK本社のセキュリティショールームで見かけた、窓ガラスの種類別の破壊比較。一見、頑丈そうに見える網入りガラスだが、防火用に開発されたものなので、侵入犯罪対策という面では、防犯ガラスよりも割れやすく、高い防犯効果は期待できない。こうした窓ガラスの基本的な機能を知っておくことも防犯対策につながる

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