平均引越し回数は3.04回、不動産会社選びの機会は多くない

接客力の高い不動産会社を見分けるには?接客力の高い不動産会社を見分けるには?

国土交通省によると、全国の宅地建物取引業者数は、12万7,215(2021年3月末)。これはコンビニエンスストアの約2倍である。
一方、生まれてから現在までの引越し回数は全国平均で3.04回(国立社会保障・人口問題研究所 2018年)であり、それだけの数の不動産会社がありながら、実際に私たちが不動産会社を選び、訪れる機会は決して多くないと思われる。

とはいえ、引越しは大きな出費を伴ったり、人生の新たな門出であったりする。せっかくなら、気持ちの良い接客で、納得できる不動産取引や部屋探しをしたいものだ。

運営している7店舗のうち、2店舗がグランプリと準グランプリに

株式会社Best com 代表 出口貴士氏株式会社Best com 代表 出口貴士氏

2022年2月17日、LIFULL HOME'Sの主催でウェブセミナーが実施され、「LIFULL HOME'S接客グランプリ2021」でグランプリと準グランプリを獲得した株式会社Best comの代表である出口貴士氏へのインタビューが行われた。接客グランプリとは、覆面調査員が電話対応や問合せメールへの返信から、店舗での接客対応、物件見学、クロージングまでを調査し、対応マナー、店舗やスタッフの雰囲気、ヒアリング力や提案力といった項目を消費者目線で評価して、ランキング付けするものだ。
Best comは賃貸物件を専門に扱い、大阪府と和歌山県で7店舗を運営している。7店舗の中で三国ヶ丘店がグランプリ、長居駅前店が準グランプリに輝いた。Best comの取組みから、接客力の高い不動産会社を見分けるヒントを探してみた。

スピードときめ細やかな顧客対応を両立できているか

対応のスピードだけでなく、質が伴っているか確認したい対応のスピードだけでなく、質が伴っているか確認したい

インタビューで、問合せメールへの返信において取組んでいることを聞かれた出口氏は、迅速な返信は顧客満足につながることから、最優先で返信に取組むようにしていると回答。そのために、住宅メーカー、初期費用、新築・既築などの条件によって細分化した15種類以上のテンプレートを用意し、そこから問合せ内容に適したものを選んでいるそうだ。テンプレートの活用により、メールを受けてから最短で5分後の返信を実現している。一方で、顧客の年齢や性別などによって、テンプレートの文面を変えたり、検索履歴などから顧客が興味を覚えそうな情報を追加したりといったきめ細かい対応も同時に行っているという。

「例えば、検索履歴から防犯に関心が高いとわかったお客さまには、物件の周辺環境についてコメントを追加するといったことを行っています。また、若いお客さまと年配のお客さまで文面も変えています」(出口氏)

出口氏は「返信のスピードは大切ですが、メールの質も同様に重要です」と言い、機械的にテンプレートを送るようなことはせず、顧客一人一人を意識したメールを送っているそうだ。問合せへの返信が遅いとストレスを感じるが、返信が早くても、文面や内容がありきたりのものだと、不満とはいわないまでも、やはり味気なさや物足りなさを感じてしまう。メールが自分にあてたものだと感じられると親近感を覚えるものだ。メールで問合せをした際には、その返信スピードのほかにも、自分に寄り添った内容が添えられているかをチェックしてみると、その会社の接客に対する姿勢が見えてくるだろう。

担当者以外の対応で、全体の接客レベルをチェック

Best comでは、メールを返信する前に、各店舗の店長などの責任者が必ず内容を確認しているという。
「他社との差別化ができているか、お客さまにインパクトを与えるものになっているかといった点をチェックし、スタッフの返信のレベルを揃えるようにしています」と出口氏。内容の確認・修正を通じて、スタッフのスキルアップを図ることができ、スキルは対面での営業活動でも活用することができる。これは、思った以上に波及効果が大きい取組みだと出口氏は説明する。店舗のどのスタッフが対応しても、同じレベルのサービスを提供することは、消費者に会社や店舗としての信頼感や安心感を持ってもらうために必要だ。不動産店に限らず、どの業界の店舗も大切にしているポイントだが、思い通りにならないポイントでもある。会社全体の接客レベルを見極めるには、担当者以外からのメールや、電話での対応に注目してみるといいかもしれない。

本音を聞き出し、積極的に提案してくれるかどうか

店舗での顧客対応において出口氏が意識しているのは、「お客さまが問合せている物件が、本命のものかどうか」を見極めることだ。

「今のお客さまは、ネットで物件情報を収集できるので、情報量も知識も豊富です。その状態で来店されるわけですから、お問合せの物件以外にも『いい物件がありますよ』と提案するのは、せっかくお客さまが選んだ物件の価値を下げ、またお客さまを迷わせることにもなって、契約を決まりにくくするだけです」

問合せ物件が優良な物件で、本命とわかったら、「お客さまはお目が高い」と、早速物件の見学に出かけると出口氏。しかし、問合せの物件が既に契約されていることもよくある。そうした際に、接客力の高い会社はどう対応するのだろうか。

「お客さまはどのような物件をお探しですかと改めて聞きがちですが、それではお客さまを物件探しのスタート地点に戻してしまうことになります。それに、お客さまのことをわかっていませんと言うようなものなので、不信感を招いてしまうことにもなります」と出口氏。既に契約されていることがわかったら、「もっといい物件がありますよ」と即答できるだけの商品情報と知識を仕入れておくことが重要だという。

希望する物件に既に申し込みが入っていた場合の対応も、不動産会社の接客力を見分けるポイントだ希望する物件に既に申し込みが入っていた場合の対応も、不動産会社の接客力を見分けるポイントだ

また、顧客とのコミュニケーションにおいて、出口氏は本音を聞き出すことに特に気をつけているそうだ。

「たとえば、営業マンからの提案を断る場合に、優しいお客さまであればあるほど、営業マンが傷つかないような言い方をされます。しかし、それは本音ではないので、うっかり信じてしまうと、断られたという事実の問題点が見えなくなってしまいます」(出口氏)

ある意味で顧客の言葉を信じないことが重要という出口氏は、本音を引き出すポイントとして「本音を話してもいいとお客さまが思える関係づくり」を掲げる。

「初めて来店されたお客さまは、誰でも緊張されています。それを解きほぐすには、お客さまが連れている犬でも、乗ってきたクルマでもいいので、お客さまの身近にあるものの話をするようにしています。そこからお客さまの緊張がほぐれて、関係がつくられていきます。そして、お客さまはそれぞれ違うので、どのお客さまともシンクロする、つまり、それぞれのお客さまに合わせることも忘れたくないものです」

こちらの希望を上手に引き出してくれる聞き上手で、察しのいい担当者がいると、スムーズに物件探しができそうだし、自分でも気づいていないニーズを引き出してくれることもあるかもしれない。接客力といっても、私たちが不動産会社に求めている接客は、接遇などの表面的な部分だけではなく、不動産の専門知識や、地域に根差した物件やエリアの情報をもっているかという点だ。私たちの御用聞きとなるのではなく、本音をくみ取り、物件を通してニーズを叶える提案をしてくれるかどうかは、不動産会社の接客力を見極める大きなポイントとなるだろう。

細部への気遣いもできる不動産会社を選ぼう

最後に、顧客からの信頼を獲得するために大切なことを問われ、「スタッフに必要な考え方を教え、それに従ってスタッフが行動を変えて、それが習慣になるまで継続することが重要です。また、店長などの責任者も、習慣になるまでスタッフの行動を確認することを継続しなければなりません。習慣になって初めてお客さまの信頼を得ることができます」と答えた出口氏。あわせてビジネスマナーや言葉遣い、服装などにも気を配っているという。

「スタッフというフィルターを通して、お客さまは物件を見るわけですから、いくらいい物件でもフィルターが汚れていたらどうでしょうか」と話し、細部に注意することの重要性を強調。
「たとえば、お客さまの発言を手近な紙の端に書き留めるのではなく、きちんと手帳に書く。それだけのことでお客さまの見る目は変わってきます」(出口氏)

不動産会社を訪れた際、スタッフの身だしなみや、接客を受ける中での細かな行動など、つい気になってしまうことがあるかもしれない。しかし、出口氏の話からは、そういった細部にまでこだわっている会社こそ、他の部分の接客にもこだわっている会社だと考えてよいだろう。

Best comの接客は、基本的には顧客に寄り添うことを大切にしたオーソドックスなもので、その継続と改善の積み重ねがグランプリ、準グランプリに結びついた。インタビューの中で、出口氏がたびたび口にしていた「当たり前のことです」や「どこでもやっていることです」こそ、どの店舗も提供を目指しているものであり、消費者が求めているものといえる。
本稿では「接客グランプリ」のグランプリと準グランプリを受賞したBest comの取組みから、接客の良い不動産会社の見分け方を考察した。暮らしのなかで、多くの時間を過ごす住まい探しを任せることになる不動産会社。機会は多くないからこそ、気持ちの良い接客をしてくれる不動産会社に任せたいものである。

気持ちの良い住まい探しで、気持ちの良い新生活をスタートさせたい気持ちの良い住まい探しで、気持ちの良い新生活をスタートさせたい

■参考
国土交通省(2022年). 令和2年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001425490.pdf

国立社会保障・人口問題研究所(2018年). 2016年社会保障・人口問題基本調査 第8回人口移動調査 報告書
https://www.ipss.go.jp/ps-idou/j/migration/m08/ido8report.pdf

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