4人に1人が65歳以上――着実に数を増やす「サービス付き高齢者向け住宅」

サービス付き高齢者向け住宅「グレイプスガーデン西新井大師」室内サービス付き高齢者向け住宅「グレイプスガーデン西新井大師」室内

高齢化社会と呼ばれて久しい。内閣府の「2014年版高齢社会白書」によると、2013年10月時点で日本の総人口1億2730万人に対して、65歳以上が25.1%――4人に1人が65歳以上である。

この背景をうけ、国は高齢者が住み慣れた街で介護・医療サービスを受けられるようにする「地域包括ケアシステム」を推進している。この実現の一歩として2011年に鳴り物入りで登場したのが、在宅介護と有料老人ホームの中間的な存在「サービス付き高齢者向け住宅(以下サ高住)」。介護・医療機関と連携したバリアフリー構造の賃貸住宅で、高齢者が住んでいる地域から離れずに安心して暮らせる住まいである。政府はサ高住の建設費1割負担や固定資産税などの税制優遇で普及を促しており、2014年1月末時点の登録数は13万戸と着実に数を増やしている。

今回は、花卉小売事業者の日比谷花壇がはじめて手がけたサ高住「グレイプスガーデン西新井大師」が仕掛ける“植物”を使ったアクティビティから、今後のサ高住を考察する。

「終の棲家」にならないサ高住。地域包括ケアシステムとの乖離が明らかに

左:東京建物不動産販売 高橋潤さん 右:日比谷花壇 武山直義さん グレイプスガーデン西新井大師の6階屋上庭園で左:東京建物不動産販売 高橋潤さん 右:日比谷花壇 武山直義さん グレイプスガーデン西新井大師の6階屋上庭園で

サ高住の登場から3年が経ち、徐々に明らかになった問題として、入居時に自立していた高齢者の介護度が進み、サ高住では対処しきれず老人ホーム等へ転居するため“終の棲家”にならないことや、介護度の低い高齢者しか受け入れないサ高住があり、本当に介護サービスを必要としている高齢者が入居できない場合があること、等が挙げられる。これは、住み慣れた街で介護・医療サービスを受けられるようにするという「地域包括ケアシステム」と乖離している。

この現状に対して、日比谷花壇文化事業室室長の武山直義さんの言葉は心強い。
「グレイプスガーデン西新井大師では、入居者の皆さんに最後まで自分らしくすごしてもらうことを大切にしています。施設で亡くなった場合、裏口からそっと出て行く…こんな悲しいお別れではなく、暮らしの中でできたコミュニティをいかして家族や仲間に看取られ、その人らしいエンディングを迎えてもらう。日比谷花壇は“花とみどりを通して真に豊かな社会づくりに貢献する”という企業理念のもと、人生の様々なシーンで花を通して感謝の気持ちを伝えるお手伝いをしてきました。この理念をサ高住でも貫きたいと思っています」

サ高住は賃貸物件であり、老人ホームに入ることではない。本来引越しは夢や希望のある人生の一大事であり、それは高齢者の引越しでも同じだと話す。グレイプスガーデン西新井大師では要介護度5(最重度の介護を要する状態。生活全般で全面的な介護が必要とされる者)の高齢者も受け入れる体制を整え、看取りからエンディング(葬儀)までを手がけるという。

「植物」で高齢者を癒やす

日比谷花壇がサ高住事業に進出するにあたってパートナーに選んだのが、グレイプスシリーズを中心にサ高住を運営する「東京建物不動産販売」と、介護サービス提供事業者の「やさしい手」。

「遊休地の活用相談からスタートして一般的な賃貸物件や商業施設の案も出ましたが、日比谷花壇さんの花を介した人生の節目への関わりという話から、サ高住に決まりました。西新井という高齢者の多い街であったことも理由のひとつです。結果として、フラワーアクティビティプログラムや広い庭園など独自のサービスが充実して、他のサ高住との差別化になっています」と東京建物不動産販売シニア住宅営業推進グループの高橋潤さん。

グレイプスガーデン西新井大師の特長として、1・6階にある100種類以上の植物が植えられている四季を感じる庭園が挙げられる。ここでは、地域交流イベントや日比谷花壇独自の「フラワーアクティビティプログラム」が実施されている。「フラワーアクティビティプログラム」とは、季節の切り花を生ける活動を通して高齢者の認知症予防と心身の健康維持を目的として実施しているもので、産学民で共同研究を行い、高齢者の脳波測定実験で脳の賦活が確認されている。また、90m2ある6階の屋上庭園では、園芸作業を通して健康増進や生活の質の向上をはかることができる。

「においや風・手触りで五感を刺激したり、植物が成長する過程を見ることで生きる活力がわくなど、植物には高齢者を癒やす様々な効果があります。エントランスでは花を販売する即売会も行っていて、ご近所の方が買いにいらっしゃいます。また、1階の庭園で行うイベントに地域の学生さんに入ってもらって、この物件が入居者さんと地域の方との交流の場になっています」

2014年10月にオープンしたグレイプスガーデン西新井大師の現在の契約率は30%、女性比率80%、入居者で最も高い要介護度は3(入浴や排泄行為が一人で出来ない、中等度の介護を要する状態)だという。

左上:1階庭園 右上:6階屋上庭園 左下:食べられる植物も栽培し、成長の過程を見守る 右下:寝たきり状態でも入れるバスタブ左上:1階庭園 右上:6階屋上庭園 左下:食べられる植物も栽培し、成長の過程を見守る 右下:寝たきり状態でも入れるバスタブ

「高齢者施設がけん引する街のコミュニティ」がある未来

「グレイプスガーデン西新井大師」外観「グレイプスガーデン西新井大師」外観

日本は2025年に65歳の割合が30.3%になると予測されており、近い将来、街づくりに高齢者施設・医療施設が欠かせなくなるだろう。実際に国土交通省の発表した住生活基本計画では、2020年までに高齢者向け住宅を60万戸(2014年1月末時点では13万戸)まで整備する方針だ。
街の中心地に高齢者施設があり、そこからはじまるコミュニティという姿はすぐそこまで来ている。

「フラワーアクティビティプログラムを通して、花の生け方や育て方、知識など入居者さんから学ぶことも多いんです。考えてみれば、戦後から花を愛でる文化を育ててきたのは入居世代の皆さんですから、僕たちはその経験や知識に及びません」と高橋さん。

高齢者は、潤沢な資産から消費のけん引役としての側面がある。また、長い仕事経験から、豊富な知見や人脈で若い人の指導役になることもあるだろう。郊外にひっそりある高齢者施設ではなく、街の中心にあって老若男女が教えあい、影響しあうコミュニケーションの場として活用されるのが、今後のサ高住の役割のひとつになるかもしれない。
支援や介護が必要になった場合に在宅・病院・居住という今までの選択から、最後まで自分らしくすごす“終の棲家”として存在し、高齢者が地域の一員として経験と知識を後進に伝える場を用意できるかどうか――サ高住の今後に注目だ。

「長寿を寿ぐ(ことほぐ)という言葉はいつの間にか使われなくなりましたね。社会の高齢化は大変なことではなく、本来、長生きは喜ばしいことなんです」と武山さん。
本当に、その通りだ。

2014年 12月11日 12時54分