「世界自然遺産登録」で話題の奄美大島へ移住

2021年7月、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として、世界自然遺産登録が正式に決定した奄美大島。鹿児島本土と沖縄本島のほぼ中間にあり、全国の離島の中では沖縄本島、佐渡島に次いで3番目に大きい島だ。5つの市町村に約200の集落があり、今も独自の文化が息づいている。

飛行機から見た奄美大島飛行機から見た奄美大島
新しく建て替わった奄美市役所。直接、移住相談に来る人も多いそう新しく建て替わった奄美市役所。直接、移住相談に来る人も多いそう

豊かな自然と温暖な気候に恵まれた奄美大島には、現在6万人ほどが暮らしている。中でも島全体の面積の4割を占める奄美市は、住民約4万2,000人のうち生産年齢人口が6割弱を占めるが、2060年には半数が老齢人口になるという推計がある。そのため「しあわせの島へ~奄美市『攻め』の総合戦略2020」では「仕事づくり」を攻めのポイントに挙げて、移住定住と働く場のサポートに力を入れている。

コロナ禍で注目が高まる奄美市への移住と仕事支援について、奄美市役所の総務部プロジェクト推進課で移住を担当する林瑶子さんと、商工観光情報部商工政策課しごと政策係の中江康仁さんに話を聞いた。

飛行機から見た奄美大島奄美市総務部プロジェクト推進課の林瑶子さん(左)と商工観光情報部商工政策課の中江康仁さん

移住者の暮らしや本音を紹介したガイドブックが好評

「もともと移住に関しては住まいを中心に支援していましたが、移住と雇用施策は一体という認識のもと、3年前からしごと政策課でも予算化して積極的に動いています。東京や大阪で移住相談会を実施すると、本気で検討している方がたくさん来られて手応えを感じています」と中江さんは話す。

移住を後押しするため、奄美市では2020年に「奄美市移住ガイドブック」を作成した。全24ページの冊子では、市の概要から住まい、仕事、子育て・学校、日常、医療・福祉まで紹介。移住者11組のインタビューやアンケートなど、リアルな声をふんだんに盛り込んだ内容となっている。掲載されているのは東京から家族で移住して自家焙煎珈琲店を始めた40代男性や、大阪から来てフリーランスで働く30代の夫婦、神奈川から引越しセカンドライフを満喫中の60代の夫婦、京都から移り住み伝統工芸の大島紬を織る30代の女性など、年代も職業も多種多様だ。

※「奄美市移住ガイドブック」はネットからダウンロードできる
https://www.city.amami.lg.jp/pjsenryaku/ui-turn/slowlife/link/index.html

移住・定住に関する情報がそろった市の公式ホームページ移住・定住に関する情報がそろった市の公式ホームページ

住まいの支援は定住促進住宅・助成金など3つ

現在、入居者を募集している長浜定住促進住宅現在、入居者を募集している長浜定住促進住宅

住まいについて、市では3つの支援を行っている。まず2012年から取組みを始めた「定住促進住宅」は、空き家となった住宅を市が借り受けて、公的住宅として提供するもの。木造や鉄筋コンクリート造平屋のほか、鉄筋コンクリート造の2階建てや5階建て住宅などがそろい、3Kで月17,000円~と割安で人気が高い。2021年9月時点では、2戸のみ入居者を募集している。

2015年からは、貸したい・売りたい所有者と借りたい・買いたい移住希望者が登録して利用できる「空き家バンク」をスタート。「移住希望の登録者は117人にのぼる一方で、空き家の登録は31物件。空き家自体は増えているようですが、そのままにされていて、なかなか登録が増えません」と林さんは現状を説明する。同じく2015年から、市への移住者向けに新築または中古住宅の購入費、既存住宅のリフォーム費用を最大100万円交付する「移住定住・住宅購入費助成金/住宅リフォーム等助成金」も始めた。

「これらの市の施策を通じた移住者は2020年度で73人になっています」と林さん。そのほか、移住者への特別枠はないが市内には市営住宅や県営住宅もあり、民間アパートは1K~3DKで4~5万円が相場という。

就職に起業、フリーランスへの支援も多様

仕事に関する支援が充実しているのは、奄美市の大きな魅力といえる。「市では働き手が足りない状況で、今は特に情報通信とバス乗務員、建設、福祉、大島紬の従事者を重点的に求めています」と中江さん。

働き方の選択肢が幅広く、就職を希望する人には「インターンシップ補助事業」として、市内事業者での就業体験や合同企業説明会などへ参加する際に、旅費や宿泊費を最大3万円支援する制度がある。起業のサポートにも力を入れており、受講料無料の「あまみ創業塾」、起業した人に対する「奄美市創業支援事業助成金」、情報通信関連の企業が入居できる「奄美市ICTプラザかさり」、新店舗に2年間家賃を補助する「出店支援補助制度」などがそろう。

また、2015年に「フリーランスが最も働きやすい島化計画」を策定して、無料で受講できる講座「フリーランス寺子屋」を開催し、今年7月にはフリーランスの拠点「WorkStyle Lab」を開設。そのほか、農業や漁業、大島紬などの分野でも研修や支援金、補助金の制度がある。

2021年にオープンした「WorkStyle Lab」のコワーキングスぺース。市の重要施策であるフリーランス支援の拠点で、お試しサテライトオフィス2室やキッズスペース、会議室などもある2021年にオープンした「WorkStyle Lab」のコワーキングスぺース。市の重要施策であるフリーランス支援の拠点で、お試しサテライトオフィス2室やキッズスペース、会議室などもある

デメリットも理解した上で検討してほしい

2019年東京での合同相談会。奄美大島は多くの島の中でも人気の移住先だ2019年東京での合同相談会。奄美大島は多くの島の中でも人気の移住先だ

市は住まいを中心とした移住相談会を開催していたが、2019年度からは雇用者確保支援事業として東京と大阪で相談会を開催。2019年度は東京開催2日間で117人、大阪1日で27人、2020年度は大阪2日で36人から相談があった。その後に奄美市内で行うジョブマッチングに来島した人も多かったという。2021年は東京で10月23・24日に相談会を開催し、11月19日に奄美市で合同企業説明会と面接会を開催する予定だ。

2020年に大阪で開催した移住相談会の様子2020年に大阪で開催した移住相談会の様子

最後に、これまで3年にわたって数百人の移住相談に乗ってきた中江さんからメッセージをもらった。「相談会では、住まいや仕事に関するリアルな話はもちろん、都会に比べて賃金が低いことや台風が来ること、虫が大きいことなど、島のデメリットもしっかり伝えます。それでも移住への熱意がある方は実際に奄美市に来て、具体的な支援について質問されたり、地元の人とつながって住まいや仕事の情報を入手されたりしています。オンラインでの相談も受け付けていますが、やはり1度来られることで実感できることがたくさんあると思います。『奄美市移住ガイドブック』やネットの情報を参考にされつつ、気になることがあれば気軽にお問合せください」

公開日: