“移住の先輩”の話を聞く、そして知るための移住セミナー

これまでの移住には、仕事を離れてのんびり暮らすというイメージがあったのではないだろうかこれまでの移住には、仕事を離れてのんびり暮らすというイメージがあったのではないだろうか

2020年12月に実施された内閣府による「第2回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、東京圏に住む人の31.5%の人が、地方移住に「強い関心がある」「関心がある」「やや関心がある」と回答した。その中で特に注目したいのは、20歳代に限るとその数字は、40.3%に上るということだ。

東京など大都市圏から地方への「移住」と聞くと、従来はリタイアした高齢者が仕事を離れてのんびりとした生活をおくるというイメージもあったが、もはや移住の目的は、仕事や子育てを継続しつつ地方暮らしを満喫するためのものになってきている。

コロナ禍は毎日都心のオフィスへ通うといった働き方の形を変えた。毎日の通勤が不要になり、自宅での時間が増え、その時間の過ごし方や生活の環境への関心が大きくなってきている。
そんななかJR西日本は、沿線の3つの自治体と連携し、「おためし地方暮らし」を企画した。

地方への移住のきっかけづくりを狙った、「おためし地方暮らし」の中身。そして企画のプロモーションとして開催された、オンラインセミナーの様子を紹介しよう。

仕事はそのまま、ローカルに暮らし、ときどき出社。「おためし地方暮らし」の中身とは

JR西日本が企画した「おためし地方暮らし」は、神戸・大阪・京都に通勤する人を含む家族が対象。提携した自治体(丹波篠山市・南丹市・高島市)や地元企業によって用意された賃貸住宅を、あらかじめ設定した期間の契約で賃借し、居住してもらう企画だ。お試し期間は短期(1~3ヶ月)と長期(6~10ヶ月)を用意する。

通勤に際しては鉄道会社ならではのサービスもある。神戸や大阪、京都への通勤に利用してもらうため、月額の定額料金で毎月20回まで特急等を利用できる「鉄道サブスクサービス(※)」を提供する。たまの通勤も、これで賄える。
そのほかにも、短期利用の住宅には最低限の家具や家電製品が備えられ、身の回りの物だけで引越しが可能な物件もあるほか、モバイルWi-Fiルータが無償で貸し出されたり、レンタカーが格安で借りられたりするサービスも付く。

これが、「おためし地方暮らし」のざっとした中身だ。

一般的に、都会で働いていた人にとって、生活を支える収入の面が移住のハードルになることが多い。今回のJR西日本の企画は「仕事はそのまま、ローカルに暮らし、ときどき出社」というキャッチフレーズのとおり、京阪神の都市部で働く人をターゲットにしている。地方暮らしを満喫しながら、仕事を変えずに都会へも出社できるという、都市生活のいいところとローカル生活のいいところを合わせて暮らしてみようという試みだ。鉄道会社ならではのこの企画。以下、4月21日に行われたセミナーの様子を紹介する。


※丹波篠山市・南丹市の場合、毎月20回までの特急料金が月額定額となる(運賃は別途必要)。高島市の場合、毎月20回までの運賃が月額定額となる(特急は利用不可)。

セミナーの登壇者(当日のスライドより)セミナーの登壇者(当日のスライドより)

丹波篠山市、南丹市、高島市の魅力を紹介

オンラインセミナー「新たな移住のカタチ!? JR西日本と『おためし地方暮らし』を考える」は、ファシリテーターとして滋賀県在住の株式会社いろあわせ北川雄士さん、コメンテーターとしてローカルジャーナリスト田中輝美さん、この2名のパネリストに加えて、3つの自治体で実際に移住を果たした”移住の先輩”たちがゲストで参加した。それぞれの自治体の魅力の紹介から、移住に至った経緯や移住のいいところ、困ったことなどの話。最後にはオンライン参加者からの質問にも答えるなど、移住に関心を持つ層には興味深い話が多く、盛り上がりを見せたセミナーとなった。

北川さんの進行の下、JR西日本の「おためし地方暮らし」の紹介ののち、3氏の“移住の先輩”が、各市の魅力をプレゼンテーションした。

◇丹波篠山市
兵庫県丹波篠山市からは、同市の移住・定住アドバイザーとして若者の移住促進事業を行う一般社団法人TSUMUGI代表理事を務める林健二さん。

「黒豆で有名な城下町丹波篠山は、京阪神から電車やクルマで約1時間。古民家を活用した事業も多い街です。移住者も多いので駅周辺には生活施設も整っています。光回線の普及率も高く、都市生活者が地方暮らしを始めるには、ちょうどいい街です」(林さん)

◇南丹市
「京都府中部、京都駅まで特急で約30分。京都府のおへそに位置するのが南丹市です。移住者の定着率が高く、京都までの保津川沿いの通勤は、車窓からの風景が旅情満点で楽しめます。京都や大阪に通勤ができるため、多拠点生活や二拠点生活、週末移住にも適しています。行政などの定住や移住の相談窓口も充実していますよ」

2017年に京都府南丹市に移住。移住者による移住ガイドブック「楽しい移住」を制作されている東裏晶子さんのお話だ。

◇高島市
続いて、結婚を機に滋賀県高島市に移住。公益社団法人びわ湖高島観光協会の職員として活躍されている坂井田智宏さん。

「琵琶湖の北西部にある高島市は、新快速で大阪まで約70分。「琵琶湖とその水辺景観」が日本遺産にも認定されているほど、水が暮らしの文化に深くかかわった土地です。春は桜、夏はビーチの湖水浴と、アクティビティーも充実。街を挙げてアウトドアをPRしています。秋はメタセコイア並木も有名です」(坂井田さん)

日本遺産に認定された景色を身近に感じる暮らしも、大阪まで約70分と通勤圏内だ日本遺産に認定された景色を身近に感じる暮らしも、大阪まで約70分と通勤圏内だ

“移住の先輩”に聞く移住のいいところと困ったこと

移住を考えるときには、期待と不安が入り混じるもの移住を考えるときには、期待と不安が入り混じるもの

“移住の先輩”から各自治体へのお誘いのメッセージの後は、クロストークだ。進行役北川さんからの質問にゲスト3氏が答えた。まずは、それぞれに「移住を決断するきっかけは?」という質問。

「勢いですね。それまでは家族の時間がなく、田舎での暮らしは、変えたかった暮らしをイメージできたので、移住を決めました」(東裏さん)

「移住前に今回のセミナーのようなイベントがあり、先輩たちの話を聞くうちに、「定住する必要もないし、帰る自由もあるんだよ」と言われて、すーっと肩の荷が下りました。そこで、ちょっと始めてみようと。移住はタイミングですよ」(坂井田さん)

移住してよかったことのほか、当初思っていたことと違っていた部分も聞いている。

「それまでの不摂生な生活が規則正しくなりました。自分らしい生き方ができているかな。残念なことは、もともと愛知県の暖かい地方で育っていますので、ここの盆地の寒さは苦手かな」(林さん)

「お天気がいい日は、本当に気持ちがいい。都会生活にはない空の広さがあります。困ったことは、見たこともない虫が出ることです」(東裏さん)

「食べるものもおいしいですし、通勤の途上でも景色が素晴らしく、日々のちょっとしたことで、いいなあと感じています。嫌なことは、まぁありませんね」(坂井田さん)

オンラインでの参加者からも質問が飛び交った。
まず、子育てについて、学校教育に関する質問への答え。

「まだ子どもが小さいので、自然に囲まれた中で育つほうが大事じゃないかなと思います」(東裏さん)

学びといっても学校教育だけではい。情操教育を考えたら、塾にはない学びがあるというのが、ゲストの一致した意見だった。

田舎暮らしならではのオフの過ごし方を聞く質問には、
「庭の草刈りやタイヤ交換です。日常は忙しいです。でもそんな生活の中の何気ないところで『よかったな』と思える瞬間があります」(林さん)

「ストーブは焚き放題です。燻製とかもやっています。煙も出し放題ですし、DIYで釘を打つ音も、都会のように気兼ねすることなく出すことができます」(東裏さん)

田舎暮らしならではの、広い庭に囲まれた休日の様子がうかがえる。

町内会や自治会、消防団など、田舎ならではコミュニティに関する質問もあり、進行役の北川さんからも、「ネット上では『田舎暮らしは都会にない人間関係、隣人関係が煩わしい』との指摘もありますが…」という話もでた。

「お誘いがあれば、参加してみればいいと思います。大変な部分もありますが、地域になじめるなど、いいこともあります」(林さん)

「同じ市内でも、都市に近いところや古い付き合いの残っている地域など、地域によると思います。まず移住先を決めるときに、地域活動が盛んなところなのかそうでないのかなど、情報を得ることが必要です」(東裏さん)

移住者が地域と積極的にコミュニケーションをとる生活もできるが、一定の距離を保った生活もやろうと思えばできる。噂のように居場所がなくなるなどということはない。というのがゲストの意見だった。

移住を考えるときには、期待と不安が入り混じるもの地域のコミュニティについても、事前に情報収集をすることが大切だ

とにかくやってみる。移住はポジティブライフの決め手

参加者からの意見の中で、「各市の魅力はよく分かりました。でも決められません。決定打がありません」との意見もあった。
それに対して、ローカルジャーナリストの田中輝美さんからは、「移住を決断することは、すごく勇気のいること。ですからとりあえず試してみてください。試せることがこの企画の価値です。そして、合う合わないは確かにあります。試してみて違うなぁと思ったら、別のところをまた試してみたらよいのではないでしょうか」という意見がでた。

“移住の先輩”たちの話でも、移住のきっかけはそれぞれだ。転職を機にあるいは結婚を機に踏み出せた人もいる。しかし押しなべて皆が語ったのは、そのきっかけは「踏み出せるタイミングがやってきた」というものであった。

移住前は、不安や心配があるのは当たり前だ思う。田中さんが言うように、それを試せることに「お試し移住」は価値があると思う。

最後にファシリテーター北川さんの言葉を紹介する。

「都会生活には楽しいことはいっぱいあります。それを捨てて移住するということは、それ以上の楽しみを見つけなくちゃならない。能動的に、それを勝ち得ようとする。こんなポジティブなこと、ないじゃないですか」

移住は、まさにポジティブライフの決め手なのかもしれない。

「おためし地方暮らし」では、ポジティブライフに向けて、まずは移住を「試してみる」という選択を用意「おためし地方暮らし」では、ポジティブライフに向けて、まずは移住を「試してみる」という選択を用意

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