栄ミナミにできた新施設BAUM HAUS(バウムハウス)

ガラス張りのおしゃれな外観が目を引く
ガラス張りのおしゃれな外観が目を引く

2021年3月、バウムクーヘンで有名な株式会社ユーハイムが、フードホールを併設したシェアオフィスをオープンさせた。百貨店、ファッションビル、飲食店が立ち並ぶ「栄ミナミ」エリアにできたBAUM HAUS(バウムハウス)だ。(以下、バウムハウス)

1階にはバウムクーヘン専用AIオーブン“THEO(テオ)”を使った焼きたてのバウムクーヘンが食べられるカフェや、デリ、ベーカリーを併設したフードホール「BAUM HAUS EAT」、2階はアバターロボットが回遊するシェアオフィス「BAUM HAUS WORK」という造りになっている。

リリースされたパンフレットには、『1919年にドイツのヴァイマールで開校し、今日のアートとデザインに大きな影響を及ぼした学校「Bauhaus(バウハウス)」のように実験精神を持って、テクノロジーを用いながら新しい価値観にチャレンジできる、オープンイノベーションの場を目指します』とある。
洋菓子の会社が、何を目指そうとしているのか。バウムハウスでどんな実験・挑戦をしようとしているのか取材してみた。

AI職人が作る焼きたてバウムクーヘンが食べられる初の施設

フードホールは一般の客だけでなく2階を利用するワーカーのための場所でもあるフードホールは一般の客だけでなく2階を利用するワーカーのための場所でもある
フードホールは一般の客だけでなく2階を利用するワーカーのための場所でもあるドイツの焼き菓子であるバウムクーヘンが日本ではじめて焼かれたのが1919年。同じ年にドイツで開校したBauhausの実験精神に倣って新しいことにチャレンジしていこうという意味を込めてBAUM HAUS(バウムハウス)と名付けられた
フードホールは一般の客だけでなく2階を利用するワーカーのための場所でもある焼きたてのバウムクーヘンを目当てに開店前から人が並ぶことも

食の未来をテーマにした実験と挑戦の場へ

リモートで取材させていただいた町田さん。
「BAUM HAUSをきっかけに、食だけでなくさまざまな分野の方たちとアイデアや技術の交換をしていくことで新しいものを生み出していきたいと思っています」と話していた
リモートで取材させていただいた町田さん。 「BAUM HAUSをきっかけに、食だけでなくさまざまな分野の方たちとアイデアや技術の交換をしていくことで新しいものを生み出していきたいと思っています」と話していた

ユーハイム株式会社 海外企画室の町田啓さんにバウムハウス誕生のいきさつを聞いてみた。

「計画が持ち上がったのは2018年です。ちょうどその頃、私たちは食とITの融合(フードテック)を目指してバウムクーヘン専用のAIオーブン“THEO(テオ)”を完成させようとしていました。そこで、フードテックによるインキュベーションをテーマに新しい場づくりをしてみようということになり、 “食の未来をテーマにした複合施設”というバウムハウスのコンセプトが生まれました」
と振り返る。

そもそもなぜユーハイムがフードテックの分野に力を入れているのだろうか。

「2016年に弊社の代表が南アフリカを訪れたときに感じた、『地球の裏側でも美味しいお菓子を食べてもらいたい』という想いがきっかけです。日本で作ったものを現地に送るというやり方では輸送費やエネルギー効率を考えると無駄が多い。だったら、ネットワークを使って遠隔操作できるロボットのようなオーブンを作ったらどうだろう、という発想から“THEO”の開発がスタートしました」(町田さん)

お菓子を食べると心が満たされるのは、私だけではないだろう。幸せな気分になれるお菓子をどうしたら世界中に届けられるか―、そんな想いがフードテックを手掛けるエネルギーになっているのだという。まだ遠隔操作はできないものの、全自動で焼ける“THEO”が完成したことで「当初は“絵に描いた餅”だったものが、少しずつ現実に近づいている」と町田さんは話す。

こうした背景からバウムハウス内には国内外のフード系スタートアップ企業を支援する組織「フードテックイノベーションセンター」のショールームも設置されることになった。

リモートで取材させていただいた町田さん。
「BAUM HAUSをきっかけに、食だけでなくさまざまな分野の方たちとアイデアや技術の交換をしていくことで新しいものを生み出していきたいと思っています」と話していた
取材時、2階のショールームで展示されていたのはペット型ロボット「LOVOT」。バウムハウスは、後述する「newme」など、最先端テクノロジーを搭載したロボットをインフラとした新しいシェアオフィスを目指している

バウムクーヘン専用AIオーブン“THEO”の仕事ぶりを見ることができるフードホール

ユーハイムが開発したバウムクーヘン専用AI オーブン“THEO”。職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化。無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができるのだというユーハイムが開発したバウムクーヘン専用AI オーブン“THEO”。職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化。無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができるのだという

施設の概要を紹介していこう。

まず1階のフードホール。4つのショップで構成されたフードホールは地域に開かれた「食堂」をイメージしているという。見どころは、ユーハイム直営の「THEO’S CAFE」。前述した専用AIオーブン“THEO”が作る焼きたてのバウムクーヘンが食べられるカフェだ。約5年の歳月をかけて作られた“THEO”がせっせとバウムクーヘンを焼く工程を間近で見ることができ、ちょっとした工場見学気分が味わえる。

ユーハイムが開発したバウムクーヘン専用AI オーブン“THEO”。職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化。無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができるのだという店内のカフェでは“THEO”が作った焼きたてのバウムクーヘンがいただける

ほかには新鮮な野菜を使用した日替わり惣菜を提供する「Deli BAUM HAUS」と、ベーカリーの「DONQ EDITER(ドンク・エディテ)」が常設。施設を案内してくれたバウムハウスマネージャーの和多野大介さんによると
「どちらの店舗も食材にはこだわりを持っています。Deliのランチボックスは野菜中心なので女性の方に人気がありますし、毎日食べていると体が軽くなった気がしますよ」とのこと。

また、町田さんは
「農薬・化学肥料を使用しないで育てられた野菜をはじめ、放牧の豚など育成法や製造法にこだわった素材を使用しています。普段はなかなかそういった素材に触れる機会は少ないと思いますので、自然の素材のおいしさを体感してもらいたいと思います」

と食に対するこだわりについて話してくれた。

ユーハイムが開発したバウムクーヘン専用AI オーブン“THEO”。職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化。無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができるのだというフードアレンジャー・キムラカズヒロ氏プロデュースのメニューが並ぶ「Deli BAUM HAUS」。「一般のお客様だけでなく、ここで仕事をする人たちが毎日食べても飽きない、身体にも優しいメニューを提供することも目的としています」と和多野さん。写真はランチボックス
ユーハイムが開発したバウムクーヘン専用AI オーブン“THEO”。職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化。無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼き上げることができるのだというバウムハウスオリジナルの商品を展開する「DONQ EDITER」

アバターロボットが回遊する「アバターパーク」

2階は「BAUM HAUS WORK」。最新テクノロジーを体験できる「アバターパーク」が設置されている。公園に見立てたエリアでアバターロボットnewme(ニューミー)が動き回る「BAUM HAUS」の目玉スペースだ。

アバターロボットとはいったい何なのか―。簡単にいうと自分の分身のようなもので、newmeにアクセスし、上下に首を動かしたり前後左右に移動させたりと、自分の分身のように操りながらコミュニケーションを図れるのだという。

例えば、バウムハウスに入居しているオフィスの場合、リモートワーク中の社員がnewmeで出社し、出勤している同僚たちと会議ができたり、アバターパークで開催されるイベントに自宅からアバターインして参加し自身で操作しながら自由に見学することも可能だ。

「今まで、時間がないとか外出がはばかられるという理由でイベントに参加できなかった方も、自宅にいながら出席することができ、よりリアルに体感できるようになると思います」(和多野さん)

百貨店や水族館などでも試験的に取り入れられているというnewme。フードホール利用の一般客もここまでは立ち入りができる(システム入れ替えのため2021年夏以降に再オープン)。写真提供/ユーハイム百貨店や水族館などでも試験的に取り入れられているというnewme。フードホール利用の一般客もここまでは立ち入りができる(システム入れ替えのため2021年夏以降に再オープン)。写真提供/ユーハイム

「newmeと人が新しい関係を生み出すことがアバターパークのコンセプトです。この場所で“人と人”が会議をしていたり“人とアバター”が商談をしたりと、自然に人とロボットが共存する空間を作ろうとしています。
シェアオフィスを使ってくださるお客さまが、それぞれのアイデアでアバターロボットを有効的に使っていただければいいなと思っています」
と和多野さんは話していた。

百貨店や水族館などでも試験的に取り入れられているというnewme。フードホール利用の一般客もここまでは立ち入りができる(システム入れ替えのため2021年夏以降に再オープン)。写真提供/ユーハイムディスプレイ部分に顔が映し出されるnewme。
バウムハウスのオープン前、東京にいるスタッフとの打ち合わせにnewmeを使っていたという和多野さん。
「画面越しのオンライン会議よりも、彼、彼女がそこにいるような感覚で話ができるので、こちらも話しやすいですし、アバターで参加している側に会話の雰囲気が伝わりやすい気がしますね。段差など手助けは必要になりますが、自由に動けるのでアバターインしている側は、気になる箇所まで自分で操縦しながらチェックをすることができるのも便利だと思います」。写真提供/ユーハイム

サードプレイスとして利用できるシェアオフィス

「アバターパーク」の奥が、会員制のコワーキングスペース、ワークラウンジ、プライベートオフィスで構成されたシェアオフィスフロアとなる。

1階にはコンシェルジュが常駐(平日10:00~18:00)し、来客対応をしてくれる。ワークラウンジ以外の作業スぺースは24時間利用可能で、複合機や個人ロッカー等の設備も充実。現在はサードプレイスとしての利用が多いそうだ。

フリーデスクスペース。月額利用料は30,000円(税別)で法人登記が可能フリーデスクスペース。月額利用料は30,000円(税別)で法人登記が可能

フリーデスク会員は応接室を持たないが、来客時には1階のカフェを利用できるし、わざわざ出かけずとも館内のカフェでお茶をしたりミーティングをしたりできるのは気軽でいい。天気がよければ屋外のテラススペースの利用も可能。館内を自由に使いながら仕事ができるのは気分転換ができて仕事がはかどりそうだ。

フリーデスクスペース。月額利用料は30,000円(税別)で法人登記が可能窓の外には緑豊かな矢場公園が広がる天井の高い個室オフィス。約14~59m2の部屋が11区画ある

生活者の新しいライフスタイルに寄り添う拠点を目指して

施設を案内してくれた和多野さん
施設を案内してくれた和多野さん

「われわれは洋菓子屋ですので、今回の試みはすべて未知の世界。これまでは仕入れメーカーや百貨店といったつながりがメインだったので、バウムハウスを利用されるお客様すべてが新鮮です。シェアオフィスの会員の方や企業、一般のお客様と今後どのように関わっていけるのか楽しみです」と話す和多野さん。

WORK(働く)とEAT(食べる)をかけ合わせたバウムハウスは、生活者の新しいライフスタイルに寄り添う拠点を目指している。働き方に変化がおこったコロナ禍、ユーハイムの実験と挑戦の歯車がニーズとどうかみ合っていくのか、今後に注目していきたい。


【取材協力・写真提供】
https://baumhausjapan.com/

公開日: