借りて住みたい街は郊外化、買って住みたい街は都心・郊外に二極化

まずはランキングについてみていこう。「LIFULL HOME'S 住みたい街ランキング」は今回で7回目。「借りて住みたい街」(以下「借りる」)、「買って住みたい街」(以下「買う」)を首都圏、近畿圏、中部圏、九州圏の4エリアで出している。そのうち、2021年の注目は首都圏。「借りる」「買う」ともに変化が起きているのである。

まずは「借りる」のランキングだが、一見して分かるのは今回、前年より3位ランクアップした本厚木駅(小田急小田原線・神奈川県厚木市)を筆頭に大宮駅、八王子駅、千葉駅、蕨駅など郊外の街が上位に上がってきているという点である。逆に前回まで4回連続で1位だった池袋駅(JR山手線その他・東京都豊島区)が5位に後退したのをはじめ、三軒茶屋駅(東急田園都市線その他・東京都世田谷区)、吉祥寺駅(JR中央線その他・東京都武蔵野市)など都心周辺の人気エリアが軒並みランクダウンしている。明らかに郊外化が進んでいるのである。

首都圏の買って住みたい街、借りて住みたい街のランキング。前年との順位の差も含めてご覧いただきたい首都圏の買って住みたい街、借りて住みたい街のランキング。前年との順位の差も含めてご覧いただきたい

続いては「買う」だが、こちらでも橋本駅(JR横浜線その他・神奈川県相模原市)、千葉駅(JR総武線その他・千葉県千葉市)、平塚駅(JR東海道本線その他・神奈川県平塚市)など大きくランクアップした郊外の街もある一方で、勝どき駅(都営大江戸線・東京都中央区)がトップをキープ、白金高輪駅(東京メトロ南北線その他・東京都港区)が大幅アップするなど、同時に都心エリアも人気を集めている。「借りる」とは違い、二極化が進んでいるのである。

全国で見ると変化が起きているのは首都圏だけ

だが、変化が起きているのは首都圏だけ。その他のエリアのランキングでも前年に比べると順位が多少異なるなどの変化はあるものの、これほど大きな変化ではない。簡単にその他エリアを見ていくと、近畿圏では「借りる」「買う」とも市街地を中心に人気が集まっており、「借りる」では1位の三ノ宮駅(JR東海道線その他・兵庫県神戸市)、2位は新大阪駅(大阪メトロ御堂筋線その他・大阪府大阪市)は変わらず、「買う」ではトップの本町駅(大阪メトロ御堂筋線その他・大阪府大阪市)は変わらないのものの、三ノ宮が30位アップして2位に。「買う」では大型の分譲計画のある地域が大幅にランクアップしている。

中部圏では「借りる」で岐阜駅(JR東海道本線その他・岐阜県岐阜市)が3年連続1位をキープ、「買う」では前回の49位から一気に順位を上げた名古屋駅(JR東海道本線その他・愛知県名古屋市)がトップに。とはいえ、市街地中心の上位の顔ぶれはさほど変わってはいない。

近畿圏のランキング近畿圏のランキング
近畿圏のランキング中部圏のランキング

九州圏では「借りる」で博多駅(JR鹿児島本線その他・福岡県福岡市)が4年連続トップ。「買う」では前回3位の唐人町駅(福岡市地下鉄空港線その他・福岡県福岡市)が初の1位になったものの、全体として福岡市中心部が人気をキープし続けている。

首都圏では変化が起き、その他エリアではほとんど変化が見られていないわけだが、LIFULL HOME'S 総研の副所長である中山登志朗氏はその違いは都市圏の規模の違いだという。

近畿圏のランキング九州圏のランキング

買う人は長い目で見た資産性、利便性も気になる

「首都圏ではコロナの影響が顕著で、その他のエリアではコロナ前と変わらず、中心部に人気が集まっていますが、その違いは都市圏の規模と見ています。首都圏では都心部から30分、1時間郊外に引越しをても、生活圏はさほど変わりません。郊外でも日常の生活に必要なものはそろうし、生活が大きく変わることはありません。一方で賃料は確実に下がり、より広いところに住めることも。郊外に引越しをするメリットがあるわけです。

ところが、他のエリアで電車で30分、1時間行くと生活圏が変わり、生活自体がまったく変わったものになります。一方で郊外でもそれほど賃料が下がるわけではない。郊外に出るモチベーションが上がらないのです。中部圏の「借りる」で多少郊外の駅の台頭が見られはしますが、首都圏ほど大きな流れにならないのはそうした理由からでしょう」

LIFULL HOME'S総研 副所長 チーフアナリスト 中山 登志朗氏LIFULL HOME'S総研 副所長 チーフアナリスト 中山 登志朗氏

もうひとつ、「借りる」と「買う」の違いだが、状況の変化に応じて身軽に引越しができる賃貸、そうそう簡単に決断できない分譲という違いに加え、資産性、利便性という観点にも差があるという。

「借りる場合に資産性や将来性を気にする人はあまりいませんが、購入となれば非常に気になるもの。郊外の中古マンションのこなれた価格が魅力と思う人もいる一方で、やはり価格を維持する都心部と思う人がいるのが二極化につながっています。ランキング上位の都心部には新築大型マンションが集中していますし、郊外でも八王子、柏、橋本など同様の計画がある場所が人気を集めています」

LIFULL HOME'S総研 副所長 チーフアナリスト 中山 登志朗氏借りて住みたい街のランキング。人気が高まっているエリアが赤、ランクダウンしているエリアは青で表示されている
LIFULL HOME'S総研 副所長 チーフアナリスト 中山 登志朗氏買って住みたい街ランキングでは都心も郊外も同時に選ばれている

街が個性を出し始め、それを手がかりに街選びをする人も出始めた

イベントではランキングの解説に続き、「ウィズコロナ時代の住まい探しと街選びの変化」と題したパネルディスカッションが行われた。その中からいくつか、これから住まいを探す人に役立ちそうな部分をご紹介しよう。

「借りる」でランキングに上がってきている街に共通するのは都心から離れてはいるが、急行停車駅などで駅の周りの繁華性は担保されており、生活スタイルを変えることなく暮らせる街であること。日常はテレワークだとしても、都心に行く場合にもストレスなく通える場所なのだが、それに加えて、「その街らしさを追求する街づくりが行われている場所なのでは?」と指摘したのは登壇者の一人である、ソトコト編集長の指出一正氏。

「八王子では地域全体をキャンパスと見立てて学びを通じてコミュニティを生み、地域を再発見する試みが東京にしがわ大学と称して続けられていますし、柏には東京大学と連携したエリアマネジメントその他、ほかにない動きがあります。日本の街が個性を出し始めてきたといえるわけで、そこに惹かれる人が出てきているのではないかと思ってます」

同じく登壇者の東京大学大学院工学系研究科都市デザイン研究室の深谷信介氏も街の変化を指摘した。「これまで、郊外の街は駅を降りるとどこも同じような風景。それが最近になり、街で行われているさまざまな活動が街の新しい魅力になってきた。それを選択肢のひとつとして街を選ぶ人が出てきた。自分の暮らし方と街が近づいている、そんな印象があります」

右側は東京大学大学院工学系研究科都市デザイン研究室 深谷信介氏、左側はソトコト編集長 指出一正氏右側は東京大学大学院工学系研究科都市デザイン研究室 深谷信介氏、左側はソトコト編集長 指出一正氏

コロナ終息後にも変化は続くか?

コロナ禍下での変化がいつまで続くかについては意見が別れた。中山氏は都心回帰はテレワークとオンライン授業の普及次第と現実的だったのだが、指出氏、深谷氏はどちらかといえば郊外化に期待を寄せる。

たとえば指出氏は終息が早ければ早いほどかつての状態に戻る人が多いだろうとしつつも、住まいの選び方が変わり、郊外を選ぶ人が出てくることを予測した。

「これからはコミュニティベースで生活を考える人が増えると考えており、郊外でそうしたものが得られればコロナが終息しても郊外にとどまる人も出てくるはず。イメージだけでふわっと選ぶやり方から顔が見えることを大事にした探し方になり、住んでいる人の顔が見える街が選ばれるようになるでしょうね」

深谷氏は郊外にある余白に注目、個人的には郊外化の流れに期待しているという。

「都心から郊外に行くと自分が関われる余地、余白があることに気づきます。それまで街づくりやコミュニティに関心がなかった人がそれに気づいて街を知り、関わることで愛着を持ち、徐々にシビックプライドを感じるようになり、自分が拡張したような感覚で街を育てるような形になっていく。日本の主要都市はどこも非常に密ですが、海外ではもっと人口密度が低く、それなのにそれぞれの街に特徴がある。それは関わる人が多いことで元気になり、その街らしさが醸成されているということでしょう。郊外化の流れが日本でもそこにつながっていくことを期待しています」

左からLIFULL HOME'S PRESS編集長 八久保誠子氏、LIFULL HOME'S総研 副所長 チーフアナリスト 中山 登志朗氏、ソトコト編集長 指出一正氏、東京大学大学院工学系研究科都市デザイン研究室 深谷信介氏左からLIFULL HOME'S PRESS編集長 八久保誠子氏、LIFULL HOME'S総研 副所長 チーフアナリスト 中山 登志朗氏、ソトコト編集長 指出一正氏、東京大学大学院工学系研究科都市デザイン研究室 深谷信介氏

数字やスペックにこだわらない探し方を

続いてはこれからの住まいを探す人へのアドバイス。指出氏は自分の身近な人に意見を聞くことを勧める。

「ランキングに出てきた街が実際にどんな街なのかを聞いて二段階認証してみるのです。また、その街が10年後、20年後にどのような未来を目指しているのかを現地で感じる、考えてみることも大事。意外に鉄道会社によって違うものです」

中山氏はこれまでの住まい選びで多くの人が参考にしてきた数字、スペックなどでは表れない部分をどう感じ取るようにするかがポイントだという。

「より安全で快適、自分らしい住まいをと考えると、従来の定量的な考え方では自分なりの解には到達できません。ただ、いきなり定性的な考え方といっても数字に表されない解を探すのは難しい。そこで、ここと思う街でとりあえずはシェアハウスなどを利用して暮らしてみることをお勧めします。自分が参加できる余地があり、快適と感じられるかどうか。コロナ禍でテレワーク、ワーケーションなどにチャレンジしやすくなっているタイミングを生かし、数字に頼らない選び方をしてみるとよいと思います」

深谷氏もどういう個性の街に住みたいかを選択の基準にしてほしいとアドバイス。街からすると行政の個性を出した街づくりができるのが今のタイミングだとも。コロナ禍で増えた在宅時間で住まいや暮らす場所について再考し始めた人たちが増えたといわれるが、その人たちに選ばれるかどうかは今後の街づくり次第というわけだ。

東武動物公園駅、つくばエクスプレス、十日市場駅に注目

埼玉県 東武動物公園駅周辺埼玉県 東武動物公園駅周辺

最後に行われた質疑応答からもいくつか、参考になりそうなやり取りをご紹介しよう。

ひとつはなぜ、本厚木がトップだったのか。中山氏は交通の利便性、駅周辺の拠点性や繁華性、家賃が安くて生活しやすいという3点を中心に上げ、加えて自然環境も含めた余暇を楽しめる場所が多くあることを指摘したが、同時にそうした街は本厚木以外にもあるとも。通勤が絶対でなくなり、これまでより自由に住む場所を選べると考えれば首都圏には選択肢となる街は多数あるのだ。

では、これから注目を集めそうな街はどこか。

指出氏は東武伊勢崎線・日光線が利用できる東武動物公園駅(埼玉県宮代町)を挙げた。理由は駅西口で地域の人と来街者が交流する買い物と街づくりの活動拠点の整備計画があること。これからの変化が期待される街で街とともに成長する暮らしが楽しめるのではないかという。

つくばエクスプレスつくばエクスプレス

個人的にはつくばエクスプレス沿線のようにアクセスが魅力的な地域を挙げたいというという深谷氏。最近は郊外に引越しをした人がさらに外に遊びに行くことで新たな選択肢に気づく流れが出てきているそうで、「そうなれば北関東は十二分に居住地として考えられるようになる」と郊外化のもう一段階の深化を期待する。

中山氏はSDGsをキーワードにこれから開発される郊外の駅周辺大規模開発に注目したいという。これから始まるプロジェクトであれば今の課題に対応できるはずというのである。その中でひとつ具体的に挙がったのは横浜線の十日市場駅(神奈川県横浜市緑区)。子育てに注力した街になりそうとのこと。確かにこれからの計画なら従前とは異なる街ができるはず。どのような変化がある街になるのか、住むつもりのない人も注目しておきたいところだ。

東武動物公園駅西口商業施設 東武鉄道プレスリリース
https://www.tobu.co.jp/cms-pdf/releases/20200629140322q1G7maV9TEPNBlvyq0SwRg.pdf

公開日: