コロナ禍で関心が高まるワーケーション
ワーク(仕事)とバケーション(休暇)からつくられた造語、ワーケーション。観光地やリゾート地でテレワークをしながら余暇も楽しむというスタイルのことをいう。近年、働き方改革の一環として導入が進められてきたが、このコロナ禍による新しい生活様式が求められるなかで、ますます注目度が高まっている。
そんななか、2020年10月6日に公益社団法人 国際観光施設協会が主催する「ワーケーションシンポジウム~宿泊施設と働き方のこれからを考える~」がオンラインで開催された。
国際観光施設協会は、ホテルや旅館などの観光施設について建築・設備・インテリアなどの整備や改善、観光地の活性化やまちづくりについて調査・研究するなど、国際観光振興に技術で貢献することを目的に設立された。会員は、設計事務所、施工会社、設備調度備品などのメーカーといった技術者で構成される。
今回は、今後のホテルや旅館のあり方を考える機会のひとつとなるよう発信。同協会の鈴木裕会長は、冒頭のあいさつで「ワーケーションを推進されている皆さまのお話を伺って、具体的にどういうことが行われ、どういう可能性があるかを勉強していきたいと思います」と語った。
その模様をご紹介する。
環境省が国立・国定公園でのワーケーションを推進
まずは基調講演として、環境省 自然環境局 国立公園課長の熊倉基之氏が登壇。環境省が展開を進める、国立公園、国定公園でのワーケーション活用の取り組みについて紹介した。
国立公園は、日本が誇る自然の景勝地を国が指定し、保護、管理を行っている場所で、全国に34ある。また、国が指定し、都道府県が管理する国定公園は57。自然公園法によって、保護するとともに利用の推進もしている。利用とは、登山道、展望台、トイレ、ビジターセンターなどの整備も含むが、環境省では2016年から「国立公園満喫プロジェクト」と銘打って、公共施設を民間に開放してカフェを整備したり、自然体験アクティビティなどのプログラムを充実させたりと、さらなる利用の促進を図っている。
熊倉氏はワーケーションが盛り上がっている背景として、多拠点居住やサテライトオフィスといった新しい働き方、また今年度では新型コロナウイルスの影響をピックアップ。加えて、2019年には和歌山県と長野県の知事がリーダーシップをとり、「ワーケーション自治体協議会(Workation Alliance Japan)」を立ち上げ、自治体が主体となって取り組みを進めていることも挙げた。
「こういった背景を受けまして、国立公園でもワーケーションを、と進めております。いままでは観光推進でやってきましたが、従来型の観光旅行以外の新しい利用価値を国立公園から発信したいのがひとつ。もうひとつは、とりわけ国立公園は紅葉やゴールデンウィーク、お盆、そういった時期に利用が集中してしまい、大変な混雑であまり自然が楽しめないという点がありますが、平日の観光地の活用、平準化というのが地域にとっての新しい需要にもなると思っています」と熊倉氏。
環境省では新型コロナウイルス対応の一環で、令和2(2020)年度1次補正予算ではワーケーションの支援にも取り組む。国立公園、国定公園のほか、同じく環境省が所管する温泉地も対象にし、支援を進めているそうだ。
また、環境省としても、2020年9月の第4週にあった4連休のあとに、「ワーケーションDays」として、有志の職員が実際にワーケーションを実施。アンケートでは、9割が「モチベーションが非常に上がった」と答え、業務の効率については7割がアップ、残り3割も普段どおりの仕事はできたという回答だったという。
家族を対象にしたホテルでのワーケーションプログラム事例
事例紹介1つめは、新潟県妙高市にあるホテル、ロッテアライリゾートのセールスマネージャー 岡田麻梨亜氏が、2020年10月2日から2泊3日で行われたワーケーションプログラムについて発表した。
ロッテアライリゾートは、北陸新幹線・上越妙高駅から車で約20分の場所にある。東京駅から上越妙高駅までは新幹線で約2時間だ。
今回のモデルプランは、ホテルに滞在して仕事をすることと、ホテルから15分ほどの場所にある妙高戸隠連山国立公園でのバケーションでつくられた。「ハイシーズンを除き、妙高エリアのようなスキーリゾートでは、それ以外のシーズンをどのように活用するかが命題。特に雪不足やコロナなどの不測の事態が起きた2019から2020年は今後に大きな不安を残しました」と岡田氏。これらの問題を解決するための試みとなった。
参加者として、ビジネス・マネージメント層の家族、外国人(日本国内でインターナショナルスクールに子どもを通わせている家族)、インフルエンサーとなるような社会的プレゼンスのある家族を招致した。
バケーションの面では、充実したアクティビティプログラムなども用意し、自然豊かな土地柄が満足度を高めたそうだ。「親御さまがお仕事をしている間、お子さまが充実した時間を過ごせるかというのが、今回行ったあとのヒアリングで大切なものであることがわかり、当リゾートがツリーアドベンチャーなどのアクティビティを備えていることで、親御さんの仕事の効率もかなりあがったのではないかなと思っております」と岡田氏は振り返った。
さらに「ワーケーションでは、オンオフの切り替えが求められており、親御さんはお子さまがいるにしても仕事のメリハリをつけるのがかなり大変だったということもおっしゃっていました。そこで妙高戸隠連山国立公園のような、ちょっと移動時間があるような場所ですと、移動時間も含めて心身ともに切り替えをしてバケーションを楽しめることが皆さまに好評でした」とも語った。
一方、ワーク、バケーションの両面で、ロッテアライリゾートが高速Wi-Fiを備えていることが強みに。テレワークでWi-Fi環境が整っているのは重要であることに加え、岡田氏は「テレスクールのようなWEB授業をリゾートに持ってきて教育の場をつくることもいいのではないかと思いました」と話した。
課題の1つには、高速Wi-Fiを使えるエリアが公園内で限られてしまうことを挙げた。「海外ではエリア全体で利用可能であったりしますので、インバウンド需要や今後のワーケーションに重きをおいていくのであれば、考えていかなければならないと。そのためには自治体との協力も必要ですし、理解をいただきながら確立していけたらと思っております」
そのほか、ワーケーションで長期滞在となることで短期のバケーションの際にはない、ランドリーなどのサービスの充実や価格設定、家族向けワーケーションにおける子ども向けプログラムの確立なども課題と考えていると話した。
地方創生に波及するワーケーション事例
2例目は、三菱地所株式会社の取り組みを、同社の営業企画部 副主事である本田宗洋氏が解説。
不動産ディベロッパーである三菱地所は、さまざまな事業を展開するなかでも、オフィスビルの開発、賃貸、運営管理業務や商業施設の開発といったコマーシャル不動産事業の収益が半分以上だという。そのなかでオフィスの賃貸が会社全体の収益の3割を占める。例えば、東京駅と皇居の間にある丸の内エリアでは、120棟ほどあるビルのうち、同社が40棟ほど保有、または一部保有しているそうだ。
近年、営業活動のなかで、「①必要な時に必要な規模のオフィスを使いたい②イノベーションを起こすことのできるオフィス空間に入居したい③いつでもどこでも働くことのできるサービスが欲しい④社員一人一人の働き方を支えたい」という相談を受けることが多くなってきたと本田氏。
それに応えるように、マンスリータイプのオフィスや、コワーキングオフィスなども展開するとともにワーケーションにも取り組むことに。「テナントサービスの延長にあるというところから始まっているのが、三菱地所のワーケーション」だという。
そして、2019年にワーケーションのための施設「WORK×ation Site南紀白浜」を開設。「想定の倍くらい稼働した」そうだが、2020年度は新型コロナウイルスの影響があって誘致が進まなかったものの、最近は予約が戻り始めているそうだ。
施設名にある“WORK×ation”というのは、同社はVACATIONに限定しないことを示しているのだという。「簡単に言いますと、Location(場所)を変えて、Motivation(動機)をアップさせて、Communication(対話)を増やして、Innovation(刷新)を起こしましょうと」と、本田氏は説明。
同施設は、南紀白浜空港から車で5分ほどのところにある平草原公園のなかに位置する。白浜町が管理・運営する「白浜町第2ITビジネスオフィス」の1室を同社が借り、一部改修した。南紀白浜を選んだのは、東京・羽田空港から60分~70分ほどで着き、施設から車で5分~10分で繁華街や名所であるビーチに行けること、さらに先の環境省の熊倉氏の話にも出てきたが、和歌山県は自治体としてワーケーション導入の先駆者であることなどが要因という。
施設の特徴となるのが、オフィス機能だけを備えていることだ。「我々のワーケーションビジネスに関する考え方として、宿泊機能や飲食機能は持ち合わせていません。さまざまな理由がありますが、地方創生の観点でも大事な事だと思っています。あくまで我々の収益があがるところは施設の利用料で、飲んだり、食べたり、宿泊したりというのは、地元の企業、自治体に」
利用者からの声として、「プロジェクトチームですと、大きい会社であればあるほど社内で“はじめまして”という状態であることもあります。そういったときに、週に1回のミーティング1時間を2ヶ月やっても8時間しかとれないですが、ここに来てしまえば1日、2日で8時間、16時間ととることができますから、アウトプットが早くなったというお話をいただきます」と明かした。
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施設の強みを活かしたプラン、地域創生にもなるスタイルと、それぞれに利点のある取り組み事例が実に興味深かった。景観のすばらしい国立公園、国定公園の活用にも期待したい。コロナ禍のなかで、ワークスタイル、ライフスタイルを考える、見つめ直す機会にもなっている。いずれにしても多様な選択ができ、働きやすい環境が整えられていくことを願う。
取材協力:公益社団法人 国際観光施設協会 http://www.kankou-fa.jp/
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