猫の殺処分を減らしたい願いから、猫と安心して暮らせる賃貸物件を企画
日本人のペットは、長らく猫より犬のほうが多かったが、2017年に猫が犬を逆転した(ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」)。全国の猫の飼育数(推計)は2017年で952万6000頭、さらに翌2018年には964万9000頭に増えている。一方、犬の飼育数は減少傾向にあるので、その差は開きつつあるようだ。
他方で、殺処分される数もまた、犬より猫のほうが圧倒的に多い現実もある。環境省の統計によれば、2017年度に行政が引き取った犬は3万8511頭、猫は6万2137頭で、このうち犬8362頭、猫3万4854頭が殺処分されている。特に猫の場合は離乳前の子猫の割合が高く、痛ましい。
2019年2月、福岡市早良区に完成した全館猫向けのマンション「if CAT藤崎」は、こうした現実を少しでも変えたいという願いから生まれた。「if CAT(イフキャット)」というブランド名には「もし、ねこと一緒に暮らせたらどんなに楽しいだろう。どんな幸せがまっているだろう」というコンセプトがこめられている。住戸内はもちろん、共用部も猫とその飼い主に配慮した仕様になっているのが特徴だ。
プロデュースを手掛けたのは、作詞家、歌手でタレントの依布サラサさん。
7年前、2匹の猫と一緒に東京から福岡に移住してきた。その際、猫と住める賃貸物件を探すのにかなり苦労したという。また、タレントとして何度か市の動物愛護管理センターを取材する機会があり、猫の殺処分の実態を知って心を痛めていたそうだ。「猫と一緒に、安心して、快適に、そしておしゃれに暮らせる住まいがあれば、救われる猫が増えるのでは」と語る。
キャットウォークや外を眺めるための窓など、猫が喜ぶ仕掛けがいろいろ
「if CAT藤崎」は、福岡市地下鉄空港線・藤崎駅から徒歩3分。鉄筋コンクリート造6階建て全20戸で、面積24.95m2〜29.06m2の1Kだ。各室3匹まで猫が飼える。募集家賃は6万1000円〜6万8000円(共益費4500円、2019年3月現在)。
住戸の内装でまず目をひくのは、鮮やかなバーガンディに彩られた居室の壁面だ(ブルーの住戸もある)。そこに、箱型の収納棚とキャットウォークが取り付けられている。キャットウォークは途中にジャンプする隙間があったり、階段状になっていたり、のぞき穴の付いたトンネルがあったりと、猫の運動にも、インテリアとしての見た目にも変化がある。
同じく猫用の家具として、各室に「多目的キャットボックス」が用意されている。狭いところが好きな猫の寝床、またはトイレボックスに使う想定だ。キャスターが付いてるので、住まい方によって好きな位置に置けるし、来客時に移動することもできる。
バルコニーに面した掃き出し窓の網戸は一般的なものより頑丈な仕様になっており、猫の爪研ぎによる破損を防ぐ。さらに、掃き出し窓の隣には、高めの位置に設けた小さな出窓がある。これは、猫が外を眺めるために設けたものという。
キッチンと居室を隔てるドアも、猫仕様。猫がドアノブにぶら下がって勝手に開けることがないよう、ノブを上にあげて開閉する仕組みだ。扉の下部には猫専用のくぐり戸も付いている。
猫を飼う人のために機能面にも配慮。IoT機能も導入した最新型マンション
居室の天井には、消臭効果の高い塗料を使用。脱衣室の洗面台は下部キャビネットのないシンプルなつくりにして、猫用トイレやキャットボックスを置くスペースを確保した。
また、最新のマンションとしてIoTも導入した。全室にIoT機能付きシーリングライトを設置して、外出先からスマートフォンでテレビ録画や空調の操作ができるようになっている。初回入居者には、猫の見守り用カメラもプレゼントするそうだ。
共用部にも猫用設備。家賃の一部は動物愛護管理センターに寄付
1階エントランスホールには入居者の飼い猫の写真を展示するコーナーを設けるほか、保護猫の情報も掲示する計画だ。前述のように、このマンションでは各室3匹まで飼えるので、2匹目、3匹目として保護猫を引き取ってもらえれば、という狙いがある。
エントランスホールの隣には、共用のグルーミングルームがある。ここには猫用シャワー付き洗面台とトリミングスペースが用意されている。
エレベーターには、猫同士がいきなり鉢合わせすることがないよう、ペットボタンが設置されている。エレベーター内のボタンを押すと、外側のランプが点灯して、猫が乗っていることを知らせる仕組みだ。
また、ごみの収集日にかかわらず、いつでもトイレの猫砂を捨てられるよう、共用部にふた付きのペット用ごみ置き場を設けた。管理スタッフが回収して収集日にごみ集積所に出す。
事業主は福岡市の三好不動産。一棟丸ごとの猫共生仕様は、自社所有物件ならではのチャレンジだ。依布さんのプロデュースを仰ぐと同時に、動物病院やねこカフェなどにヒアリング。2017年には福岡県獣医師会と福岡県が共催する、猫と人の関係を考えるイベント「共に生きようプロジェクト」に出展し、約170人にアンケートを実施。猫との暮らし方やそのために必要なもの、家賃などへの意見を募り、企画に反映させている。
3月5日に開催された完成披露記者発表会にはテレビや新聞などメディア約20社が集まり、地元での関心の高さをうかがわせた。登壇した三好修社長は「これからも猫向け物件をどんどん企画していきたい」と意気込みを語った。今後は、クライアントの物件オーナーに対しても、猫専用マンションの建設や猫仕様のリノベーションを提案し、普及に努めたいという。「if CAT藤崎」の家賃収入の一部は、動物愛護管理センターに寄付する計画だ。
if CAT藤崎ホームページ https://www.smileplaza-chintai.jp/nb_ifcat_fujisaki/
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