団地の魅力を磨く管理の一環としてコンビニエンスストアを
団地はもともと、敷地内に商店街やスーパーその他生活利便施設一式とともに開発されてきた。だが、時間が経つにつれ、入居者と同様に商店主も高齢化、廃業する店が増えた。高齢化は購買力低下に繋がり、やがてスーパーも撤退、買い物に不自由する団地も出始めているという。
そうした団地内での高齢化、買い物難民出現に対処しようとUR都市機構は2016年7月にセブン・イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンと、2017年4月にはミニストップと連携協定を締結。団地内にコンビニエンスストアを誘致し、コミュニティ活性化、高齢者支援、防犯、入居促進、団地管理業務の実施その他と幅広く連携していくこととなった。協働する内容からも分かるように、目指しているのは従来型のモノを売るだけのコンビニエンスストアではない。団地ごとに異なる地域特性、入居者構成などに配慮し、コミュニティ形成に寄与するような多機能型の新しいタイプのコンビニエンスストアだという。
「URは賃貸住宅の所有だけでなく、管理も一体的に行っている組織です。これからは単に維持するだけの管理ではなく、団地の魅力を向上させるようなことが重要と考えています。すでに団地を地域の医療福祉拠点とする取り組みを始めており、医療機関や福祉施設との連携などを行ってきました。そうした動きとともに新しいタイプのコンビニエンスストアの出店により、将来的には多機能型の新しいタイプのコンビニエンスストアを軸として団地内だけではなく、周辺地域も含めた横の繋がりができることを期待しています」(UR都市機構ウェルフェア総合戦略部企画課主幹・駒形直也氏)。
地域住民のニーズを聞き取った独自の品揃え
2017年4月に試行店舗としてオープンしたのは東村山市にあるグリーンタウン美住一番街内のセブン・イレブン。この団地は西武新宿線久米川駅から歩いて10分ほどの場所にあり、総戸数は945戸。主に入居者を対象に商売することを考えると、ある程度の規模は必要ということだろう。入居者は長く住んでいる人もいるものの、比較的高齢者が少なく、若い人と半々くらいとのこと。
利用したのはかつてコンビニが入っていた店舗。今回オープンした店舗の特徴は、出店前に団地内の全世帯を回り、直接、出店の挨拶をした上でニーズをヒアリングし、自治会相手には販売する食事の試食会を行ったという点だ。
「ヒアリングでは945世帯のうち、お目にかかれたのは200世帯強ですが、6~7人で2日間かかりました。他の場所での出店ではなかなか、ここまでの時間は取れません。おかげでできてすぐから認知度が高く、品揃えにも満足頂いており、来店された方からは『便利になった』『できて良かった』と言われています」(美住一番街店店長・金子興人氏)。
具体的に欲しいと言われた品としてはドラッグストア代わりに使いたいということだろう。12ロールのトイレットペーパーや洗剤などの日用品、スーパー代わりという意味での野菜、冷凍食品など。学校が近いにも関わらず、周辺に文具店が少ないことから学習帖などの文房具を置いて欲しいという声もあったそうだ。それに応えるため、他店では扱っていない野菜についてはわざわざ仕入れルートを作って並べるなど、ニーズに最大限配慮した品揃えを実現している。
店頭が様々な年代が集まる憩いの場に
逆に置いて欲しくないと言われたのは男性誌。たいていのコンビニでは入口付近に広い雑誌コーナーが配されるが、子どものいる世代からは男性誌は子ども達に見せたくないという声が出た。そのため、店舗を入ったところの窓際にはドラッグストアばりに日用品がびっしり並べられており、雑誌は店内奥の目立たない小さなスペースになった。もうひとつ、要望されたのは宅配。店内の品物のほか、食事の宅配も行っており、1日平均3~4件、多くて数件の宅配をしているという。
イートインコーナーが欲しいという声もあった。URが考えていたコミュニティ形成にも合致する要望であり、結果、店の前にはテーブル2卓、椅子3脚ずつが置かれることになった。「これがよく利用されています。朝はコーヒーを飲む高齢者、昼は周辺で工事をしている人たち、午後はおしゃべりするママ、学校帰りの時間にはゲームをする子ども達、夕方はファミリーでの夕涼みと一日中誰かが利用しています」(前出・金子氏)。
同じ意図から、歓談できるスペースに加え、店内入口には掲示板が用意され、自治体や団地自治会、URなどからのお知らせが貼られている。また、管理サービス事務所が開いていない時にはコンビニエンスストアで集会所等の鍵を預かり、利用できるようにもなっている。団地の夏祭り、秋祭りにも参加する予定で、「今後はもっとコミュニティを作るようなことを仕掛けていきたい」(金子氏)とも。順調に地域に馴染む店が生まれつつあるようだ。
なぜか売れる、駄菓子とミックスサンド
もうひとつ、試みられたのは雇用の創出だ。「団地内には介護、子育てなどで遠くまでは通勤できないけれど数時間なら働けるという人が少なからずいらっしゃいます。働く場を作ることで地域を活性化、団地の価値を向上しようと考えました」(前出・駒形氏)。そのため、試行店舗が従業員を採用するに当たっては団地居住者を意識、実際に7人を雇用した。住む場所=働く場所となれば、住む満足度も上がりそうだ。
開業から4ヶ月。出店前のヒアリングもあり、順調に売り上げが伸びている試行店舗だが、意外なものが売れてもいると言う。「学校が隣にあることから、思っていた以上に子どもが多く、駄菓子やグミなどが売れます。団地=高齢者というのは思い込みでした。また、高齢者が多いからおにぎりが売れるかと思っていたら、売れるのはサンドイッチ。しかも一人暮らしでは多種の具を用意するのが大変だからでしょうか、ミックスサンドです。お惣菜、デザートも他店よりよく売れており、あと一品のおかずに、つまみにと広く利用されているようです」(前出・金子氏)。
店員も客も同じ団地内の人というケースがあるためか、店内では会話しながらの接客が目立つ。その距離感からか、『こんな品が欲しい』という要望も多く寄せられており、「可能な限り、要望に合わせて商品を入荷するようにしています」(前出・金子氏)とも。地域の人にとっては小回りの利く、我が家の冷蔵庫というところだろう。実際、日に3~4回来店、すでに顔なじみという人も少なくないそうだ。
コンビニ側にも人口が集まる場所への出店にメリット
UR、団地入居者にとってはメリット大の新型コンビニエンスストアだが、コンビニエンスストア側からしたらどうだろう。前出の駒形氏は「連携協定を締結している4社の関心は高いです。お互いにメリットがあると考えていただいているのではないでしょうか」という。
そのメリットのキーワードは多角化と地域密着だ。コンビニエンスストア自体、ここ何年か、地域独自の商品を開発したり、小型スーパー化する、カフェや薬局、介護事業を併設するなどで多角化が進んでいる。1店舗で様々なモノを売れるようになっているのである。それがある程度の人口が集まっている場所=団地に立地するとしたらどうだろう。人口が点在する場所に立地するよりははるかに有利だろう。また、団地の立地にもよるが、他に競争がないこともある。そう考えると、地域のコミュニティに寄与するなど社会的な役割を担う必要があるとしても、団地での商売は決して損ではない。
URでは100団地程度の出店を目指し、空き店舗がある団地で出店予定という。団地にはいろいろな立地、規模のものがあり、中には広い敷地にプライバシーを意識してゆったりした建物が建てられているなど住環境に恵まれたものも多いが、2004年の独立行政法人化以来、認知度が劣るためか、率直なところ、人気は限定的。新たな利便性が加わることで再発見されていくことになるか。今後が楽しみである。
公開日:







