買い物弱者は約700万人と推計され、年々増え続けている

「買い物弱者」の問題は過疎部などにとどまらず、都市の問題として認識され始めている「買い物弱者」の問題は過疎部などにとどまらず、都市の問題として認識され始めている

「買い物弱者」あるいは「買い物難民」と呼ばれる問題がマスコミで数多く取り上げられるようになったのは、ここ10年ほどのことである。2009年に経済産業省が調査を開始し、翌2010年に「買い物弱者」を約600万人と推計する報告書を公表した。

最近の調査では「買い物弱者」が約700万人とされ、今後も深刻化することが懸念されている。
ただし、この700万人は65歳以上の高齢者を中心とした推計であり、自動車を持たないままバス便エリアで暮らす若い世代なども加えれば、1,000万人を超えるとする見方もあるようだ。

「買い物弱者」などの言葉がいつから使われるようになったのかはさておき、毎日の買い物が困難な生活をしている人は山間部の過疎地域などを中心に、かなり昔から少なからず存在していただろう。それが社会問題として大きく取り上げられるようになったのは、「買い物弱者」が山間部や農村部などにとどまらず、都市の問題として認識され始めたからにほかならない。

もちろん国もその対策に乗り出しているが、「買い物弱者」の発生要因が多岐にわたるぶん、所管する官庁も内閣府・総務省・経済産業省・農林水産省・国土交通省・厚生労働省にまたがるなど、複雑で難しい側面もある。

「買い物弱者」の現状がどうなっているのか、それに対してどのような対策が講じられているのか、最近の主な動きをみていくことにしよう。

買い物弱者は大都市圏も例外ではない

「買い物弱者」について、経済産業省は「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている人々」と定義している。その一方で、農林水産省は「自宅からスーパーなど生鮮食料品販売店舗までの直線距離が500m以上離れ、自動車を持っていない人」を「買い物弱者」としている。

経済産業省が約700万人と推計する「買い物弱者」だが、定義の異なる農林水産省の推計ではどうなっているだろうか。農林水産省農林水産政策研究所が2010年時点でまとめた人口推計を確認してみることにしよう。

同省の推計によれば、生鮮品販売店舗までの距離が500m以上離れている人は全国で4,600万人(総人口比36.2%)にのぼり、このうち自動車を持たないのが850万人(うち65歳以上が380万人)である。これを人口割合でみると地方圏平均が全国平均を上回っているものの、「500m以上」の人口割合は地方圏と名古屋圏が拮抗し、「500m以上で自動車を持たない」の人口割合は地方圏と大阪圏がほぼ並ぶ。

また、ここで気になるのは「500m以上、65歳以上」の人口が2005年比で地方圏は8.0%の増加にとどまったのに対して、東京圏は24.6%(三大都市圏平均は20.4%)の大幅増加を示していることだ。地方圏の問題として考えられがちだった「買い物弱者」だが、その予備軍は大都市圏で顕著になりつつあるといえるだろう。

さらに、農林水産省による「買い物弱者」の人口推計を都道府県別でみると、三大都市圏の都府県が上位に並んでいる(下表)。もともとの居住人口が多いこともあるが、すでに買い物弱者が地方圏だけの問題ではなくなっていることが分かる。今後は山間部や農村部に加え、大都市や郊外のベッドタウン、地方都市でも問題が深刻化する可能性は高いのだ。

なお、500m以内に食料品などの小売店舗があればそれでよいというわけでもない。あるとき、横浜市内の住宅地を調査していたところ、衰退した商店街のはずれにある個人商店で某商品が1つ240円で売られているのをみつけた。2つで400円の「大特価」という表示だった。

だが、まったく同じ商品が駅近くのスーパーで通常98円(税別)、特売日には85円程度で販売されているのだ。よく目にする商品だったので気づいたのだが、スーパーの2倍以上の価格でも近隣の高齢者は買うのだろう。かといって、個人商店がスーパーと価格競争をすれば経営が成り立たなくなるなど難しい問題もある。近くに店舗があっても割高でしか購入できない人も加えれば、買い物弱者はさらに膨大な数になるのかもしれない。

農林水産政策研究所公表資料をもとに作成農林水産政策研究所公表資料をもとに作成

買い物弱者の原因はさまざま、総合スーパーなどの閉店も相次いでいる

「買い物弱者」が生じる原因は、地理的な問題や社会構造の変化、家族構成などさまざまだ。古くから問題が潜在していた農村部や山間部では、過疎化が最も大きな要因だろう。人口の減少によって地域の商店が経営を維持できないのだ。さらに、人口減少に伴って公共交通機関の利用者が減少し、バス路線が廃止されることなどによって自動車を持たない世帯の買い物が困難さを増すといった悪循環に陥っている。

住民の高齢化は全国的な問題だろう。高齢になっても問題なく自動車を運転できるうちはまだよいとしても、近年は高齢者による事故も大きな社会問題になりつつある。2017年3月12日に道路交通法が改正され、高齢者に対して運転免許証の返納を促すようになったが、今後は自動車を運転できない人の大幅増加も考えられる。だが、加齢とともに身体機能が低下すれば、歩いて買い物へ行くことが難しくなるだけでなく、バス停までの移動も困難だ。

その一方で、食料品などについても郊外型大型店が増加し、競争は激化している。そのあおりを受けて地域の食料品店の廃業や閉店が相次ぎ、中心市街地などでも既存商店街が衰退するケースは後を絶たない。そのような地域では後継者不足も顕在化しつつあるだろう。

また、高度成長期に開発された大型団地などでは、同じ時期に入居した人々が揃って高齢化する。居住者の入れ替わりが多い地域に比べて高齢化の進行が急速で、全体の購買力低下によって団地内の食料品店が閉鎖されたり、近隣スーパーの撤退を招いたりする。このような団地は最寄り駅までの間に坂道や階段が多いケースもあり、高齢者が毎日の買い物に苦労することになりかねない。

ネット通販が普及するのとは対照的に、既存の総合スーパーや百貨店などの閉店も相次いでいる。競争力のない赤字店舗では、経営の合理化だけでなく建物の老朽化も大きな要因になっているようだ。耐震性のない大型商業施設は建て替え、もしくは耐震改修が社会的に求められているものの、採算面で難しいケースも多い。1974年4月に開業した「イトーヨーカ堂上大岡店」(横浜市港南区)は、アメリカ発祥のファミリーレストラン「デニーズ」の日本1号店があることでも知られていたが、建物の老朽化を一因として2017年3月20日に閉店した。

デニーズの日本1号店があったイトーヨーカ堂上大岡店は2017年3月に閉店したデニーズの日本1号店があったイトーヨーカ堂上大岡店は2017年3月に閉店した

何らかの対策を実施している市町村は6割

地方では駅前の商店街など、「歩いて行ける」商圏が衰退したことも一因といえる地方では駅前の商店街など、「歩いて行ける」商圏が衰退したことも一因といえる

「買い物弱者」問題の解決に向けて、国や自治体はさまざまな支援をしている。経済産業省では2010年度以降、全国で展開されている対策事業(買物環境整備促進事業など)を公募し、採択事業に対して補助金を交付するなどの取り組みを進めている。

経済産業省が2016年4月にまとめた「地方公共団体における買物弱者支援関連制度一覧」をみると、28都県495市町村が何らかの対策に取り組んでいるようだ。支援の内容は補助金、助成金、人的支援、委託、扶助費など多岐にわたる。

その一方で、農林水産省が2017年3月に発表した「食料品アクセス問題に関する全国市町村アンケート調査結果」によれば、有効回答数1,245市町村のうち、1,020市町村(81.9%)が「何らかの対策が必要」と回答している。だが、実際に何らかの対策を実施しているのは622市町村(実施率61.0%)で、328市町村(32.2%)は対策の実施も検討もしていないようである。

買い物弱者対策の実施や検討ができない理由として、小都市では「どのような対策を実施すべきかわからない」「財政上の問題からできない」などが比較的多く挙げられており、買い物弱者対策の難しさがうかがえる。多くの市町村では民間事業者が参入しているものの、都市規模が小さくなるほど民間事業者の参入率が低くなる傾向もあるようだ。

買い物弱者対策としてまず考えられるのは、宅配や買物代行、配食といった「家まで商品を届けるサービス」だ。多くの民間事業者が参入し、高齢者の見守りを兼ねた活動もされている。生協や日本郵便なども宅配を手がけるほか、コンビニ大手や総合スーパーも参入している。セブン-イレブンでは2000年に食品の宅配サービスを始めているが、2017年にUR子会社と提携し、郊外の団地などへの出店も進めるようだ。団地管理業務の一部をコンビニで担うほか、高齢者などに対して食事の宅配をするという。

だが、インターネットを使った注文が中心になりがちな買物代行や宅配は、高齢者にとってハードルが高い側面も否めないだろう。ネットに慣れ親しんだ世代が高齢化する頃には環境が大きく変わることもありそうだが、現状では一つの選択肢にとどめざるを得ない。

高齢者の外出を促すサービスが増えつつある

宅配を頻繁に利用することによって高齢者が外出しなくなると、栄養や健康面での影響が生じるとの指摘もある。宅配などをあまり使わなくても「買い物弱者」になることで低栄養問題が生じ、地域や国全体の医療費や介護費の増加を招く可能性も懸念されているのだ。そのため、買い物などをきっかけにして高齢者の外出を促すことも必要である。また、自分で実際に商品を見て選びたいというニーズもあるだろう。

そこで、ネットや電話によって注文をするのではなく、本人がお店で買い物をした後に商品を家まで届けるサービスも一部で実施されているようだ。雨の日はネットで注文、晴れの日は外出して買い物、といったサービスの使い分けも考えられる。

さらに移動スーパーなどのサービスも増えつつあるようだ。曜日や時間を決めて、特定の場所を移動販売車が巡回する。専門事業者のほかに、大手コンビニや地元の百貨店なども参入している。また、団地の自治会などが主体となって定期的に「あおぞら市」などを開催する事例もある。自治体はこれらの活動を支援するほか、空き店舗対策として常設店舗の出店や運営に関する支援をする事例も多いようだ。

そして、高齢者が家から出かけやすくするため「移動手段の提供」を支援する自治体も多い。コミュニティバスや乗合タクシーの運行に対して費用補助や助成をするものだ。福岡市は2017年2月1日に、地域との協働による移動支援モデル事業をスタートさせた。これはボランティアの参加を得て、ドアツードアで高齢者の買い物支援をすることになっている。乗車は無料であり、付添ボランティアが荷物の持ち運びなどを支援するという。

いずれにしても、「買い物弱者」の発生要因がさまざまであるのと同時に、求められる対策も多岐にわたる。そのぶん、対策が行き届かずに取り残される「買い物弱者」も多いだろう。

これからますます深刻化することが懸念される「買い物弱者」だが、自分がそうならないためにどうすればよいのか、一人ひとりが自分自身のこととしてしっかり考えることも必要だ。これからの住まい選びは、全国各地で進められる「立地適正化計画」によるコンパクトシティ政策なども踏まえながら検討するようにしたい。

さいか屋横須賀店(地元の百貨店)が2014年11月にスタートした移動販売さいか屋横須賀店(地元の百貨店)が2014年11月にスタートした移動販売

2017年 05月15日 11時03分