犬も猫も高齢化。単身高齢者世帯も増加傾向

一般社団法人ペットフード協会が発表した令和元(2019)年「全国犬猫飼育実態調査」によれば、犬の平均寿命は14.44歳、猫の平均寿命は15.03歳。9年前の平成22(2010)年の同調査では、犬の平均寿命13.9歳、猫の平均寿命14.4歳と、犬・猫ともに寿命が延びている。犬や猫が人間の5倍の早さで成長すると仮定した場合、15歳であれば人間の75歳くらい。高齢の犬・猫が増えているということがいえそうだ。

人間も高齢化が進行していることは周知の事実であるが、同様に、高齢の単身世帯は増加傾向にある。65歳以上の一人暮らしの人は、平成27(2015)年には男性約192万人、女性約400万人、65歳以上人口に占める割合は男性13.3%、女性21.1%となっており、2040年には男性が約355万人で20.8%、女性が約540万人で24.5%を占めることが予想されている(平成30年版高齢社会白書より)。

高齢化のなか、気になるのは平均寿命と、日常生活に制限なくいられる期間・健康寿命との差だ。2016年時点での男性の平均寿命が80.98歳、女性が87.14歳と年々延びている。日常生活に制限のない期間、いわゆる健康寿命が男性が72.14年、女性が74.79年となっており、年々平均寿命は延びているものの、健康寿命との間に大きく差異が出ていることは明白だ。

さて、単身高齢者世帯が増えるなか、ふと思うのは「もし急に自分の健康の問題でペットが飼えなくなったとしたら…?」という疑問・不安だ。
いま注目されている老犬・老猫ホームについてお話をうかがった。

東京ペットホームの、ドッグホーム2号館。1階は日当たりが良く広々としており飼い主と犬との面会スペースになっている東京ペットホームの、ドッグホーム2号館。1階は日当たりが良く広々としており飼い主と犬との面会スペースになっている

震災で、入院で、万が一の事態で犬や猫を飼い続けることができなくなったら?

東京ペットホーム本館(キャットホーム)の猫用個室。ドッグホームとキャットホームはそれぞれ建物が別になっている。個室は猫用も犬用も広々東京ペットホーム本館(キャットホーム)の猫用個室。ドッグホームとキャットホームはそれぞれ建物が別になっている。個室は猫用も犬用も広々

「老犬・老猫ホームをはじめようと思ったきっかけは、2011年に発生した東日本大震災です」と話すのは、東京都大田区で老犬・老猫ホーム「東京ペットホーム」を運営する、渡部帝さんだ。

「私自身、犬を1頭飼っていますが、東日本大震災で被害にあわれた方たちとそのペットたちの行く末を見て、無事に飼育し続けられるケースは非常に珍しいことだと感じました。避難所にはペットとの同行避難を受け入れていないところもありますし、保護シェルターにも入れなかったり、なかには野犬になってしまうペットたちもいました。そして自分自身に状況を置き換えたときに、『はたして、自分も飼い続けることができるのだろうか』と…。震災は予測のつかないことですが、それだけでなく、飼い主自身の入院や死去というのは不幸にも突然やってきてしまう。そういったときに相談できるところが、選択肢があるのだろうかと」

そして、情報収集をするなかで、そういったときの選択肢が決して多くはないということを知ったという。

「飼い主が高齢で飼育困難な状況に陥った場合、真っ先に考えられる方法は身内の方に里親になってもらうことです。ペットもご家族になついていれば引き取られた後のストレスも少なくすみます。次に考えられるのが家族以外の里親を探すこと。ですが老犬・老猫の場合引き取り手が見つかりにくいという問題があります。また、飼育権が完全に移っていますので、もし面会をしたくともできない、安否確認も期待できないでしょう。飼い主の方が老人ホームに入居することをきっかけに飼育困難になった場合には、ペットと同居できるホームやサ高住を探すという方法もあります。そして、弊社のような老犬・老猫ホームが選択肢になると思います」

飼育困難の理由は老人ホームへの入居、飼い主本人の死去などが多い

渡部さんが事業をはじめようと思った当時、まだまだ老犬・老猫ホームは多くなく、山奥など郊外にあることが多かったという。そうすると高齢の方は特に会いに行きにくい。都市部にあっていつでも会える環境を提供しようと思ったそうだ。

「当時、ペットと暮らす住宅リフォームを手がける工務店を営んでいましたが、2013年に動物愛護法が改正され、動物取扱業での老犬・老猫ホームが登録制になるのを待って2014年に東京ペットホームを開業しました。当初は工務店と兼業で、はじめは猫のみではじめたのですが、思った以上に問合せが多かったため家族とスタッフ2名だけでは手が足りずすぐに増員、犬向けのサービスも開業し、以降は東京ペットホームの事業のみに集中することにしました」

2014年に開業して以降、年間200件は問合せがあり、2018年までに長期預かりを引き受けたのは犬43頭、猫59頭、計102頭。なかでもシニア世代からの依頼が6割を超えるという。

「理由で最も多いのが飼い主の方の老人ホームへの入居、死去などです。若い世代の方では転勤による住宅環境の変化が多いですね。犬や猫そのものが介護が必要になってという理由もありますが、15%くらいでそこまで多くありません。人の環境や健康状態の変化に起因することが多いです」

特に飼い主の方が高齢の場合、息子さんや娘さんが問合せしてくることが多いという。老犬・老猫ホームの認知度が上がってきているのかもしれない。

写真右手が東京ペットホーム代表 渡部帝さん。愛犬飼育管理士。写真左手は奥様でキャットホーム店長の渡部まいこさん。
ペット介護士写真右手が東京ペットホーム代表 渡部帝さん。愛犬飼育管理士。写真左手は奥様でキャットホーム店長の渡部まいこさん。 ペット介護士

元気なうちからもし飼えなくなったときのことを考えて相談しておこう

ブラッシング中、終始店長のまいこさんに甘えっぱなしの猫ブラッシング中、終始店長のまいこさんに甘えっぱなしの猫

できることなら、飼育困難になってしまう前の元気なうちに、そうなったときにどうするかを家族に相談しておきたい。また、引き取りが可能な保護団体を探したり、里親探しを手伝ってくれそうな人を探しておくなど方法はいくつかありそうだ。ペットを飼っているシニアの人は「終活」の一つとして準備をしておきたいが、意外にも、若い世代の方からの問合せもあるという。

「若い方では20代の方からの問合せもあります。一人暮らしの方が多いですね」と、渡部さん。東京ペットホームに生涯引き取りを依頼する人も、自分自身の体調が著しく悪化していてもなんとか自宅で飼育し続けたいと努力している人ばかりで、それでもにっちもさっちもいかなくなった状況で相談されることが多いそう。そうなる前の、生前のうちから遺産を残したいと遺言を残す方も中にはいるそうで、そういった方向けに専門の弁護士と協力し信託サービスも提供している。そういった方法は非常に有効だ。なぜなら万が一に孤独死をしてしまってペットが残された場合、引き取ってくれる家族がいなければペットは残置物として扱われてしまい殺処分をされてしまう可能性が高い。最悪のケースに備えておく必要があるのだ。

「なかには一度生涯引き取りをしたら二度と面会できない、返還不可、飼育状況の報告も一切しないというホームもあります。見学不可のところは避けたほうがいいでしょう。引き取ってくれる家族や知り合いの方がいない場合は、できれば元気なうちに老犬・老猫ホームを見て回って、納得して任せられるホームを選んでおけるといいですね」と、渡部さん。

残念なことに、犬や猫などを過剰生産してしまったブリーダーやペットショップ向けに、何十匹で100万円、などとして引き取る「引き取り屋」といわれる業者も存在する。恐らくペットが怪我や病気をしても獣医に見せることはできそうにない金額で引き取るという。そういった業者が個人向けにも引き取りをしているそうで、現時点の動物愛護法では明確なルールがないため、例え「老犬・老猫ホーム」と看板を掲げたとしても違法ではないのだ。しっかりと自身の目で見極めることが必要になる。

「衛生的でない劣悪な環境、介護不能なのに老犬・老猫ホームをうたう会社が無秩序に増えていけば、老犬・老猫ホームのイメージダウンになりかねませんし、飼い主の方もペットも不幸です。運営基準の明確化やルール作りを目的に活動する一般社団法人 老犬ホーム協会の副会長も兼任しています」と、渡部さん。

飼い主から感謝の言葉をいただいたときが一番うれしい

東京ペットホームでは、犬と猫で建物がそれぞれ分かれており、どちらも掃除しやすく犬と猫に配慮されたリフォームが施されている。ペットと暮らすリフォームを工務店時代に行っていた渡部さん自身が施工したものだ。現在は渡部さんご夫婦とスタッフの方8名で運営しており、1日20時間、早朝から夜まで3~4シフト制。

「みなさん、預けた当初は不安だったり、最後まで飼えなかったことで責任を感じていたりしますが、ここでの生活を報告したりしていくなかで、猫たちに仲間や家族をつくってあげられたのかも、と前向きに思ってくださる方も多いです」と、キャットホーム店長の渡部まいこさん。お話を聞きながらも渡部さんはブラッシング、トイレのお世話、猫の点滴やコミュニケーションと、絶え間なく動き続ける。

「ペットが亡くなってしまった際は、飼い主の方と私たちスタッフで葬儀をするのですが、スタッフたちも数年一緒にいた犬や猫が亡くなってしまうので、みんな泣いてしまう。その様子を見て、飼い主の方がこんなに大切に愛してくれてありがとう、とみなさん感謝の言葉を述べてくださいます。大変なこともありますが、そういう言葉をいただいたときが一番やりがいを感じますね」と、渡部さん。

よく高齢になると、保護猫団体から引き取りを許可してもらえなかったという話を聞く。犬や猫の年齢、飼い主の年齢、健康状態、一人暮らしかどうかなど、一様ではなくさまざまな状況を踏まえて飼育可能かどうかは考える必要があると思うが、飼い主が高齢であっても、たとえまだ若くとも、もし飼えなくなってしまったらどのように対処するのか、それはしっかりと考えておく必要があると感じた。

取材協力:東京ペットホーム
http://www.tokyo-cathome.com/

もともと歩くこともままならかったビーちゃんは、東京ペットホームに来てから歩けるようになったとのこと。高齢なこともあり細い脚で、まっすぐ歩けないながらも一生懸命歩いていた。東京ペットホームの猫たちはみんな人なれしていて人懐っこかったもともと歩くこともままならかったビーちゃんは、東京ペットホームに来てから歩けるようになったとのこと。高齢なこともあり細い脚で、まっすぐ歩けないながらも一生懸命歩いていた。東京ペットホームの猫たちはみんな人なれしていて人懐っこかった

2020年 03月10日 11時05分