だれにも看取られず亡くなる「孤独死」を防ぐために…
「老後の一人暮らしは気楽でいい」と思う半面で、急病時やケガをした時など“万が一”の不安はつきまとうもの。とくに、ご近所づきあいが希薄になりがちな集合住宅では、だれにも看取られずにひっそりと亡くなる「孤独死」のケースが増えている。
そこで名古屋市では、高齢者の孤独死を防ぐ手立ての一つとして、2011年度から、高齢者共同居住事業『ナゴヤ家ホーム』をスタートさせた。こちらは、市営住宅の一室を改築して、2人または3人で同居するという取り組み。名古屋市北区の「上飯田荘」を皮切りに、現在、千種区「楠荘」、中川区「中島荘」の計3団地で『ナゴヤ家ホーム』を展開している。
公営住宅では全国初の取り組みとなる、高齢者向けのシェアハウス『ナゴヤ家ホーム』。気の合う仲間とワイワイ楽しく暮らすという“シェアハウス”は、若者だけでなく、高齢者にも浸透するのだろうか? 名古屋市住宅都市局 住宅管理課の担当者にお話を伺ってきた。
冷蔵庫や洗濯機、テレビ付き!『ナゴヤ家ホーム』のお宅拝見
さっそく、上飯田荘内にある『ナゴヤ家ホーム』の未入居のお部屋に案内していただいた。玄関を開けると、広々としたLDとなり、南面に4畳半ほどの各個室が並んでいる。個室スペースはコンパクトだが、窓が多くて明るく、縁側や収納スペースがあることからも、開放的に感じられる。
キッチン・浴室・トイレは共同使用となり、共用部には、冷蔵庫、ガスコンロ、エアコン・照明、テレビ、ダイニングテーブルがあらかじめ備え付けられているのも魅力。入居者は、個室部分を整えればいいので、引っ越しがスムーズだ。
さらに、特徴的なのが、介護事業についての豊富な知識や経験を有するNPO法人による「見守り等サービス」付きということ。
「見守り・安否確認サービスは、週3回の訪問を基本にしています。体調がすぐれなくなり家の中で過ごすことが増えると、外の目が行き届きにくくなります。そこで『ナゴヤ家ホーム』では、1つでも見守りは多い方がいいと考え、同居人と、外部スタッフの目を加えることで、本人も気づかない小さな体調の変化をいち早く察知したいと考えました」(担当者)
このようにさまざまなサービスが付加された『ナゴヤ家ホーム』であるが、賃料は? ナゴヤ家ホームは住宅・年度によって賃料が変動するため、だいたいの目安を教えてもらった。
「1人月額約3万円~というのが賃料の目安です。同じ広さの70m2弱の部屋が月額約3万円~となるため、こちらを定員の数で按分し、見守り等サービス料を含めた金額として算出しています」
一般の市営住宅に比べれば、見守り等サービス付きなので割高になってしまうが、民間の賃貸住宅や高齢者向け住宅に比べれば相当なお得感である。もちろん、誰でも入居できるのではなく、市営住宅ならではの入居条件があるので、続いてご紹介したい。
ポイントは同居人との相性。見守りのサービスが“潤滑油”にも
『ナゴヤ家ホーム』の主な入居条件としては、名古屋市に在住または在勤であること、満60歳以上で単身者であること、持ち家がないこと、そして身の回りのことが自分でできること、などがある。所得の上限も定められているが、年金暮らしの方は、ほとんど入居が可能ということだ。
さて、一番気になるのが、毎日を共に暮らす同居人のこと。『ナゴヤ家ホーム』は1人で申し込んで同居人が決まるのを待つこともできるし、2人や3人のグループで申し込んで一緒に住むこともできるのだそう。
「市営住宅の一般募集は年に4回あり、抽選で入居者を決定しますが、現在『ナゴヤ家ホーム』は随時申し込めて、先着順で入居できます。ただし、部屋の1人使用はできませんので、同室者が揃うまでお待ちいただくことはあります。また、男性同士、女性同士が同室となり、きょうだいやグループでも、性別が違えば一緒に住むことはできません」(担当者)
とくに、初対面の人と一緒に住む場合、生活習慣の違いに戸惑ったり、うまく折り合っていけるかどうかが心配になる。そこで入居前には、見守り等サービスを行うNPO法人のスタッフが同席して顔合わせをしたり、ルール決めを取り持ってくれる。「見守り等サービス」は、安否確認だけでなく、他人同士が暮らす際の“潤滑油”となる役目も担ってくれるようだ。
平均倍率10倍以上、人気の市営住宅で実施する意義とは?
名古屋市の市営住宅の供給数は約6万戸にのぼる。そんな中『ナゴヤ家ホーム』は、市営住宅の“空き室対策”だと思ったのだが、担当者はキッパリと否定。
「名古屋市の市営住宅は、毎回平均倍率が10倍以上あります。上飯田荘は、平成6年竣工で駅近なのでさらに人気が高く、世帯向けに一般募集をすればすぐ埋まると思いますが、高齢単身者の住まいのサポートという目的から、『ナゴヤ家ホーム』を継続していきたいと考えています」
実は上飯田荘だけでなく、楠荘、中島荘も、駅からわりと近く、病院や買い物施設が揃っているという“高齢者にとって暮らしやすい環境”を重視して選ばれており、まさに将来を見据えた肝入りの事業と言える。
今後の課題となるのは「ナゴヤ家ホームの認知拡大ですね」と話す担当者。実際、広報誌や高齢者の集まりで紹介をしているものの、「シェアハウス」というイメージがなかなか伝わりにくいのだとか。
「高齢になってから他人と暮らすなら、一人暮らしの方が気楽と思われる方もいると思います。そこで今後『ナゴヤ家ホーム』では、友人と入居したい方のニーズを、どんどん掘り起こしていきたいですね。お問い合わせや見学も大歓迎です」
一人暮らしの気楽さか?それとも同居人のいる安心感か? これは住む人の価値観次第なのだが、単身者が増えている今、「老後は友人同士で住みたい」という声も聞く。近い将来、ニーズが高まっていきそうだ。
■取材協力
名古屋市住宅都市局住宅部住宅管理課
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