どんどん自由になりつつある賃貸の現状

ここ数年、様々なコンセプト賃貸物件が生み出されている。HOME'S PRESSでも何度か取り上げているが壁紙が選べたり、プチリノベーションができたり…といった物件が増えている。以前は、賃貸は平均的な部屋しかなく“つまらない”イメージしかなかったが、今はたとえ賃貸でも、どう自分らしく楽しく暮らせるかを選べる環境になってきたと思う。

今回、注目するのが東急電鉄が企画するコンセプト賃貸住宅「TOP-PRIDE(トッププライド)」。2002年に第1棟ができてから、2013年現在まで東横線や田園都市線など東急電鉄沿いを中心に30棟建つ。コンセプト賃貸住宅では先駆け的な存在だ。

今回、TOP-PRIDEを企画する東急電鉄 都市開発事業本部に立ち上げから約10年経った“コンセプト賃貸の現状”を取材してみた。

コンセプト賃貸住宅の立ち上げの理由

取材させていただいた東急電鉄の都市事業開発事業本部のお二人。左から中村 昂喜氏、谷 幸一郎氏取材させていただいた東急電鉄の都市事業開発事業本部のお二人。左から中村 昂喜氏、谷 幸一郎氏

そもそも何故コンセプト賃貸住宅を立ち上げたのだろうか?

「オーナー様から土地を預かっていく中で、通常の賃貸物件であれば当初は順調に借り主も見つかりますが、年月が経つと老朽化して稼働率が下がってしまいます。中長期的な高稼働率を目指す上で、デザインを含め入居者にしっかりと訴求できるポイントをつけようということになり、その結果コンセプト賃貸住宅が誕生しました。東急沿線に住んでいただく方への起爆剤と言いますか、感性にお届けできるような住まい作りを目指しています」(東急電鉄 都市開発事業本部 資産マネジメント部 中村昂喜氏談)

感性にしっかり訴求できるような住まい作り…。
確かに今まで東急電鉄が企画したTOP-PRIDE30棟の賃貸住宅を見ると、それぞれが特色のあるコンセプトの上で建てられている。車がいつでも眺められるようなガレージ付き物件、近所の友人と一緒に遊べるような共同の庭のある物件、ヨガや陶芸教室が階下にあり防音室なども完備した趣味や音楽にひたれる物件などなど。

こうした様々なコンセプトがあるためTOP-PRIDEの部屋を一度退去しても、別の賃貸情報を得るためにそのまま登録している人も多いという。ちなみに会員登録をするとメルマガ等で、物件情報を知れるサービスが受けられる。

自分らしい住まいのために…。実際に2棟のコンセプト賃貸住宅を訪れてみた

今回、中村氏の案内のもと江田駅近くにある「KINOWA(キノワ)」と「platform(プラットフォーム)」のそれぞれ異なるコンセプトの賃貸住宅を訪れてみた。

「KINOWA(キノワ)」は“実りある「路地」の庭”をキャッチとしたファミリー向けの戸建て賃貸住宅。内覧した部屋の間取りは3LDKタイプ。友人や家族と一緒にバーベキューなどのイベントができそうなステキな中庭を19棟の建物でL字型に囲んでいる。

オーナーの方が造園関係の仕事をしており、緑とコミュニケーションの場にこだわった結果こうした形になったという。どの部屋も光が差し込み、とても気持のいい印象を受ける。住民の方同志のコミュニケーションは盛んで、子供同士遊んでいる様子もよく見られるという。

実りのある路地の庭をコンセプトにした「KINOWA」。左が外観。<br />右上が1F中庭が臨めるダイニング。右下が中庭実りのある路地の庭をコンセプトにした「KINOWA」。左が外観。
右上が1F中庭が臨めるダイニング。右下が中庭

コンセプト+自分なりのカスタマイズ=Only oneの空間へ

「platform(プラットフォーム)」はメゾネットタイプの物件。この物件は各階の構造がそれぞれ異なり、総戸数62戸のマンションにも関わらず、階によっては1部屋しかなかったりもする。初めて歩くと、少し迷路に迷いこんだ不思議な気分になる。

部屋は打ちっぱなしのコンクリートの壁が特徴。DIYをしたい人には様々なところでカスタマイズできる要素があり嬉しいところだ。
常時あるモデルルームを内覧すると、一例として部屋の壁をボルダリングにしたものがあった。カラフルな色の壁がいきなり現れて驚いたが、天井が高いため不思議と圧迫した印象はない。

こうした趣味に特化した部屋作りも可能なのだ。部屋のカスタマイズについてTOP-PRIDEでは同じグループの東急ハンズと提携もしており、入居者に紹介もしてくれるという。

1R~2LDKまで様々なタイプの部屋があるのでカスタマイズすることで自分の思い通りの場所がつくれそうだ。

パノラミックな眺望と落ち着いた光庭をコンセプトとした「platfom」。<br />左上がボルダリングできる室内の壁。左下が螺旋階段のあるリビング。右が外観パノラミックな眺望と落ち着いた光庭をコンセプトとした「platfom」。
左上がボルダリングできる室内の壁。左下が螺旋階段のあるリビング。右が外観

住まい手、建築家、オーナーの3者がそれぞれのアイデアで住まいを変えていく

10年経ったTOP-PRIDEだからこその課題もある。「施工してから10年経つ物件もあり、長期修繕工事をする必要があります」一般的には10年を過ぎると、外壁や配管などの改修・塗装が行われる。資産維持のためにも必要ことだ。「その中で、入居者さんからいかに意見をくみ上げ、修繕等を検討していくのかが重要だと思っています」

こうした課題もある一方、今後のTOP-PRIDEにおいての抱負もある。
「個人的な意見ですが、やはり都市部では自動車よりも自転車が便利な部分もあるので、自転車をコンセプトにした賃貸住宅を作れたらなと思います。当社エリアの中で多摩川沿いはサイクリングロードにとても最適なので、もし機会があればぜひ企画してみたいですね」

様々なコンセプト賃貸が生み出される中で、TOP-PRIDEは住まい手、建築家、オーナーの3者を東急電鉄が中心となって結び、それぞれの“住まいレベル”をあげるような取り組みに見られた。

そこを、スキームとして1年で1~2棟ずつだが着実に建ち続けているのを見ると、刹那的ではなくそれぞれの住まいの担い手達から評価をもらっているのが伺える。課題点という入居者の声をピックアップして今後どういう進化をしていくのだろうか。次の10年どんなコンセプト賃貸住宅が生まれるのか楽しみだ。

公開日: