資金と人材の壁をどう越えるか。地方まちづくりの新しい選択肢
地方のまちづくりにおいて、全国共通の課題とされるのが「資金調達」と「人材確保」である。空き家の活用やシャッター商店街の再生といった地域課題に対し、採算性の不透明さや担い手不足がハードルとなり、多くのプロジェクトが立ち上がる前に頓挫している。
和歌山県紀の川市も例外ではなかった。同市が空き家の利活用の対象エリアとした「とんまか通り」は人通りも少なく、地元からは「採算が取れない」「リスクが大きい」として、手を挙げる事業者は現れなかった。
しかし2022年、同市の職員が不動産会社の株式会社エンジョイワークスに対し、「地域と一緒に空き家活用に取り組んでほしい」と声をかけたことから動きが始まった。同社は、とんまか通りに面した大正期創業の旧三笠館を拠点にまちづくりを進めることとしたのだ。
誰もが採算が合わないと思った事業に踏み出した背景には、「地域再生推進法人」という地元・紀の川市との強固な連携体制、さらに、クラウドファンディングや「地域活性化起業人」「企業版地域おこし協力隊」といった資金と人材の両面を支える制度活用があった。
本稿では、エンジョイワークスがいかにして資金・人材という2つの壁を越え、地域で実現可能なプロジェクトへと育てていったのか、そのノウハウと再現性を詳しく見ていく。
「不動産屋」では終わらないエンジョイワークスの正体
エンジョイワークスは、2007年に神奈川県鎌倉市で不動産仲介や売買で創業した。「湘南のライフスタイル」を描いている人に寄り添いながら、「古民家をリノベしたい」「設計も相談したい」といった声に応える形で、社内に一級建築士チームを作り、さらに宿泊やカフェを運営する関連会社まで設立。事業は広がっていった。
やがて、地域に入り込み、地域資源を活かしたまちづくりを支援する“エリア編集型”の不動産会社へと進化。この過程を「不動産1.0~5.0」と独自に定義し、自社の変遷とともに業界の新たな役割を提案してきた。
今回の紀の川でのプロジェクトも、主役はあくまで地元。エンジョイワークスは現地入りし、住民と共にワークショップを重ねながら、空き家や空き店舗の利活用の方向性を探った。そして外から来た事業者として黒子に徹し、場づくりと関係性の設計に注力している。
人件費の大部分は国の補助金によってまかなわれる
資金面では、施設のリノベーション工事部分はエンジョイワークスが運営する「ハロー!RENOVATION」を通じて2,550万円を調達。これは単なる不動産投資ではなく、投資家が進捗に関わり、現地を訪れる体験を伴う仕組みだ。地域住民からの出資もあり、「自分たちのプロジェクト」として共感の形成にもつながった。
人材面では、国の「地域活性化起業人」制度と「企業版地域おこし協力隊」を併用した。地域活性化起業人として、エンジョイワークス本社から1人を3年間にわたり派遣。人件費の大部分は国の補助金によってまかなわれている。このスタッフは、面的に地域を再生するための戦略立案や調整役を担っている。
一方、紀の川三笠館の運営を担うスタッフについては「企業版地域おこし協力隊」の仕組みを利用。従来のように自治体が協力隊を雇うのではなく、企業が直接雇用し、ミッションを明確に定めたうえで協力隊として業務を進めてもらう。これにより、従来の協力隊にありがちだった、自治体側が「何をさせればいいかわからない」という悩みもなく、企業側の事業方針に沿った実践的な人材活用が可能となる。
実際、現在施設運営を担うスタッフの一人は家具職人として独立を目指しており、紀の川三笠館の家具DIYを手がけた経験を生かして、今後もこの地で事業を続けていく予定だ。エンジョイワークスはこのような人材が地域に定着し、プロジェクト終了後も持続的に活動を続けられるよう支援を行っている。
協力隊制度を活用することにより、地域外からの人材流入と定着、そして次なる起業へのステップという循環が生まれつつある。人材育成と地域定着の好循環を、制度によって後押しする構造が確立しつつあるのだ。
マルシェから始まる資金と人材の循環
こうしてエンジョイワークスは紀の川三笠館の整備に取り掛かった。しかし地域のにぎわいを取り戻すには、単に建物を再生するだけでは不十分だ。エンジョイワークスが再生にあたり最初に仕掛けたのは「こかわつなぐマルシェ」だった。2024年末から毎月開催されているこのマルシェでは、地元農家の野菜や果物、クラフト雑貨、軽食などが並ぶ。
マルシェの狙いは、施設の認知やコミュニティの形成だけではない。もう一つの重要な役割が、資金と人材の“地元循環”を促すことだ。出店者には、起業準備中の若者や子育て中の主婦、地元の生産農家もいる。副業としての挑戦や、お試し出店として活用されることで、ビジネスへの第一歩を踏み出す場となっている。
マルシェに関わることが、将来的に施設の運営補助やイベント運営といった人材確保の候補へとつながりそうだ。さらに、地元住民と域外の人がつながる場づくりとしても活用され、「関係人口」の接点にもなっている。
このように、マルシェは単なる販促イベントではなく、「資金調達」と「人材確保」というまちづくりの二大課題を地域内で解決するための実験装置といえる。建物というハードだけでなく、人や関係、仕組みというソフトを同時に育てていく思想は、紀の川三笠館のコンセプトである「水とフルーツの楽園」にも通じている。
2024年6月にリニューアルオープンした紀の川三笠館は、ただの宿泊施設ではない。旬の果実を使ったカフェ、サウナ、ワーキングスペースなどを内包する地域複合拠点として実装している。
三笠館やマルシェを起点に、さまざまなつながりが生まれ、やがてエリア全体の活性化へと広がっていく。それが、エンジョイワークスが描く「価値共創」のまちづくりである。
自走型まちづくりの未来図
エンジョイワークスが目指すまちづくりのゴールは、関係人口の増加や施設運営の継続だけではない。本質的な目標は、地域が外部に依存せず、自ら回り出すことにある。そのために必要なのが、資金と人材を地域内で循環させる仕組みの構築だ。
このプロジェクトでは、クラウドファンディングによる資金調達と、企業版地域おこし協力隊などを活用した人材確保が鍵を握った。これにより、初期費用や固定人件費のリスクを抑えつつ、事業に必要なリソースを段階的に整えることができた。このモデルは、他地域のまちづくり事例にも応用可能な再現性のあるノウハウといえるだろう。
同社は「#新しい不動産業研究所」などを通じ、他の不動産会社や建築事業者、施工会社とも情報共有・協働できるネットワークを築いている。競合関係ではなく、共創の視点で地方の課題に取り組む姿勢が、今後の地域再生には不可欠だという認識だ。
2024年11月には紀の川三笠館の施設全体のリニューアルが完成。駅前通り全体を“フルーツストリート”として再構築し、観光・商業・暮らし・仕事を支える複合エリアとしての機能強化が図られている。
まちは、誰かがつくるものではなく、誰かとつくり続けるもの。エンジョイワークスのアプローチは、建物というハードにとどまらず、人や仕組みというソフトへと広がっていく。資金と人材という難題を乗り越えたその先に、“自走型まちづくり”の未来図が描かれ始めている。
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