関係人口を増やしてゆく「DAO」「NFT」「マイナンバーカードの活用」
日本全体で人口減少が進むなか、移住・定住人口を増やす取り組みに限らず、二拠点生活の促進や、地域に関わる人を意味する「関係人口」の増加を進めることで、"人口をシェアする"という考え方が近年の地方創生において進められている。
そんな中、関係人口創出に取り入れられてきているのが「DAO」だ。DAOを活用した地方創生をテーマに、東急不動産ホールディングスが「渋谷DAO DAY」を開催。
DAOとはなんなのか、どのように活用されているのか、イベント内容を紹介する。
冒頭では、デジタル大臣の平将明氏が、web3を活用した内閣府の「地方創生2.0」の方向性について説明した。「10年前に地方創生大臣を務めていた石破首相は、当時は実現できなかったことがデジタルの力によってできるようになってきている」と力を入れていて、特に、NFT、DAO、マイナンバーカードの活用の3つが要になってくるという。
NFT
NFTの活用事例として、パウダースノーで世界的に知られるニセコのスキー場があげられる。NFT「Niseko Powder Token」を購入することで、アーリーエントリーの権利、つまりリフトのファストパスが得られる。NFTは転売も可能だが、転売のたびに事業者に還元される仕組みとなっており、グローバルに展開する鍵となっている。
DAO
詳しい意味は後述するが、ブロックチェーンを用いた「分散型自律組織」であるDAOは、多様な人の関わりしろを創出するコミュニティをつくる。地方において、地域外の人や若者、違う視点でアイデアを出す人などの意見を積極的に地域の地方創生計画に取り入れていく必要があり、多様な関係者を巻き込んだ組織運営を可能にするDAOは、関係人口による地域運営と相性がよい。山古志村の「デジタル村民」の仕組みが代表的だ。
マイナンバーカードの活用
話を聞く中で地方創生の文脈に出てきて意外だったのが、マイナンバーカードの活用だ。山古志村で実証実験を行っているというが、マイナンバーカードに商店街のクーポンを付与したり、地元住民とインバウンド向けの価格分けをマイナンバーによって居住地を識別して行ったりするなど、居住情報と紐づけた地域活性化のための活用が試されている。
このように、観光資源のさらなる活用や、関係人口との連携強化などが、デジタル技術を用いた新しい切り口から取り組まれはじめるなかで、今回のイベントではDAOの可能性に着目した。
web3を活用した新たな組織形態「DAO」とは
まず、「DAO」という言葉を聞いたことがあるだろうか。DAOとは「Decentralized Autonomous Organization」の略で、分散型自律組織を意味する。中央集権やトップダウンではなく、参加者が平等な立場で組織を動かしていくという組織のあり方だ。ブロックチェーンを用いることで、NFTなどのデジタル資産が投票権や決定権となる、新たな組織形態だ。
DAOに参加する人たちは、自身が持つNFTの価値を高めるために、参加するDAOの目的に貢献するアクションを行う。お金の使い道や、組織のルール変更といった意思決定に参加したり、プロジェクトの企画・実行をしたりすることで、トークンというDAO内で使える独自通貨を与えられ、自らつくりだした価値にアクセスする権利が得られるという仕組みだ。
例えば空き家を活用した宿を運用することを目的としたDAOであれば、DAO参加者は、宿の魅力向上につながる行動をすることで、トークンを与えられ、そのトークンをつかって宿への宿泊ができる。つまり、自分たちで経済圏をつくっていくことができる組織体なのだ。
共創DAO合同会社の本嶋孔太郎さんは、DAOの意義をこう話す。
「市場で評価されるような、価値がわかりやすくお金になるものであれば資金調達ができますが、東京以外の地域だと、重視する価値がお金とは違ってくる場合があります。そうなると、ヒト・モノ・カネの調達が難しいという問題が起こります。そういった課題を、DAOなどのweb3のツールを使うことで、ヒト・モノ・カネの調達のハードルを下げることができます」(本嶋さん)
さらに、DAOはヒト・モノ・カネといったリソースの調達面だけでなく、関係人口のネットワーキングの強化にもつながるという。
「DAOでは、これまで関係人口といわれる人がなかなか実際に地域の産業をつくっていくことに関わりにくかったところを、関わりやすく、関わりたくなるような設計をすることで、関わり自体が増えていきます。それがコミュニティになり、ネットワーク効果が働き、どんどん人を呼び、さらに価値が高まっていく。これまでは費用面や専門的な知識を持つ人材の不足などでできなかったことを、価値創出につなげていくことができるのではないかというふうに考えています」(本嶋さん)
3つの実例「三島ウイスキープロジェクト」「寿司といえば富山DAO」「おさかなだお長崎」
具体的に、DAOはどのように活用されているのだろうか。
イベントでは、静岡県三島市「三島ウイスキープロジェクト」、富山県「寿司といえば富山DAO」、渋谷×地域「Local web3 Lac.@渋谷」「おさかなだお長崎」の3つの事例が紹介された。
静岡県三島市「三島ウイスキープロジェクト」
静岡県三島市で三島ウイスキープロジェクトを進めるWhiskey&Co.株式会社の大森章平さん。三島にこだわったウイスキーづくりは、町中の小型蒸留所でつくり、モデルハウスのガレージや無人駅の駅舎なども活用しながら町中で熟成。そして、三島でしか買えないというこだわりだ。そうした少量小規模の製造でも経営を回していける鍵になるのが、DAOだという。「key3」というNFTを購入し、継続保有することで、三島でしか買えないウイスキーをECでも買うことができる。1,000トークンでこれから発売される最初のウイスキーを、5,000トークンで5年もののウイスキーを、1万トークンで10年もののウイスキーを購入する権利が手に入る。
「経年優化する特性をもつウイスキーと、持っていると価値が高まる株式的な役割をもつNFTの相性はよいと思います」と大森さんは話す。
現時点で3,400人ものコミュニティとなっている三島ウイスキープロジェクト。ウイスキーを通じてこれだけの人が三島と関わっている。希少な地域資源も、DAOを活用することで価値を広げていくことが可能だ。
富山県「寿司といえば富山DAO」
「寿司といえば富山DAO」は、「寿司といえば、富山」のブランディングをみんなで考えるコミュニティだ。富山県 ブランディング推進課と、Web3 Times合同会社が運営している。
富山の課題をデジタルで解決する実証実験プロジェクト「Digi-PoC TOTAMA」で、①寿司といえば富山のブランド浸透 ②富山県の深い関係人口の創出の二点を課題としてプロジェクトを募集していたところ、Web3 Times からの提案を採択することがはじまりとなった。
「寿司と言えば富山DAO」は、誰でも参加できるオンラインプラットフォーム上のコミュニティだ。富山の寿司を盛り上げる企画立案、実行、参加などのアクションをすることで、「お寿司マイル」というポイントがたまる。お寿司マイルは、富山県の特産品などと交換が可能だ。これまでに、お寿司スタンプ作成コンペや観光消費が少ないという課題に対しては、「富山きときとデジタル手形ツアー」が、SNSのフォロワーをどうやったら増やすことができるかという課題に対しては、寿司といえば富山DAOクイズなど、さまざまな企画がDAOのメンバーによって実行された。県外のメンバーが企画を考えるにあたって、富山県のことを調べ、知り、好きになっていくという。
2025年2月時点で参加者は196名ほど。うち富山県民が38%で、他は関東圏のメンバーが多いという。地元が好きで応援したい富山県民メンバーを、デザイナーやエンジニア、マーケターなどデジタル意識の高い関東圏メンバーによる共創がうまれている。オンラインだけでなく、東京・富山でオフ会も開催されている。
渋谷×地域「Local web3 Lab.@渋谷」「おさかなだお長崎」
面白い人やアイデアの集まる渋谷に本社を構える東急不動産ホールディングス。そんな東急不動産ホールディングスからは、岸野麻衣子さんが登壇。渋谷を起点に日本各地の地域課題を解決していくプロジェクト「Local web3 Lac.@渋谷」について説明した。第一号として、長崎の「おさかなだお長崎」が進められている。
実は長崎、250種もの魚をとることができて、これは日本一の種類の多さだという。しかし、魚種の多さはなかなか知られておらず、地域の一大産業である水産業を盛り上げていきたいという課題があった。「おさかなだお長崎」はそうした課題を解決するための組織として、「Local web3 Lac.@渋谷」のメンバーのよって立ち上げられた。「おさかなだお長崎」というキャッチーな名前も、NFTの可愛らしいおさかなのイラストも、DAOのメンバーによるものである。
活動内容は、魚捌き教室やイベント出店といった企画の発案・実行に加えて、参加メンバーの特性によって、さまざまな切り口の企画が生まれているのが特徴だ。
「学校の先生にDAOのメンバーに入っていただいたことで、東京の中学校と長崎の中学校をつないだオンライン授業を開催させていただきました。有志の学生が集まり、長崎のおさかなや地域貢献活動について意見交換をするといった新しい体験ができたかなと思います」(岸野さん)
こうした取り組みは長崎市にも認められ、「長崎創生プロジェクト」として市から応援を受けている。参加者からは、「長崎との心理的な距離が縮まった」「新しい出会いがあったのがよかった」「人とのつながりが非常に増えた」という声があげられているという。
「熱量の高い人たちのいるコミュニティに入ることで、『自分もやってみたい』というように熱量を持った人がどんどん増えていくのではと思っております。いきなり大きな事業や売上を立てるということよりも、"熱量パーソン"を広げていくということにDAOはすごく役立つんじゃないかなと思います」(岸野さん)
パネルディスカッション「地域コミュニティの課題はDAOで解決できるのか? web3が叶えるコミュニティの未来像」
最後は、「地域コミュニティの課題はDAOで解決できるのか? web3が叶えるコミュニティの未来像」というテーマでパネルディスカッションが行われた。
パネリストは夕張市農業協同組合で「夕張メロンNFTプロジェクト」を推進する藤本尚弘さん。贈答文化やお中元の減少や、購入者層の高齢化が課題だったところ、デジタルの力を活用した「夕張メロンNFT」で、若い購入者層に魅力を広げている。NFTを購入すると、夕張メロンを一玉受け取る権利が得られる。特徴的なの取り組みは「ミツバチ大作戦」だ。ファンの輪を広げる活動に貢献すると、ミツバチポイントがもらえて、それに応じて届くメロンの等級があがり、より甘いメロンが届けられる。
もうひとりのパネリストは、ネオ山古志村の竹内春華さんだ。「デジタル村民」として、DAOの先駆けとなるような事例といえる山古志村。高齢化率56%、人口720人ほどという村で、「Nishikigoi NFT」を持った全国各地のデジタル村民と地域住民が村の課題解決にともに取り組む。平成の大合併で長岡市に合併された山古志村で、伝統を守りながらも新しいものをつくっていく。「ネオ山古志村」という名前にはそんな意味も込められているという。
DAOの運営において、どのような悩みが出てくるのだろうか?ふたりのパネリストの回答とともにご紹介する。
1回DAOから離れてしまった人の熱量をどうやったら戻していけるのか?
藤本さん:熱量高くやりすぎると疲れる気がするんですよね。疲れちゃうから、ほどよくというか、頑張りすぎないくらいというか、それくらいでいい気がします。離脱したことに誰も気づかないというか、知らないうちに離脱していたかもしれないけど、また入ってくるくらいの感じの方がいいと思います。
デジタル参加者とリアル参加者との共感をつなぐために、どのようなことをしているか
竹内さん:デジタル村民のみなさんだけで熱量高く盛り上がっていても、リアル村民のみなさんに知られておらず、一方的になってしまうケースもありますよね。ネオ山古志村の場合は、リアル村民の方々に向けた情報発信を意識しています。デジタルだとLINEはみんな使えますし、やっぱり月報などの紙媒体にデジタル村民の取り組みや想いを、おじいちゃんおばあちゃんにも見やすい大きな文字にしてお渡ししています。
こうした話も踏まえて、デジタルとリアルをつなぐ「翻訳者」が必要だと思います。藤本さん、竹内さんおふたりは翻訳者のような役割をされているのでしょうか?
藤本さん:意外と地域に住んでいる人は、まだそこまで熱量が高くないという部分も実際あります。「今のままで十分なんだよね」と仰る方もいらっしゃいますし、今の暮らしを不便に感じていない層も結構いると思います。だけど、このままだともしかしたら街がなくなるかもしれないとか、夕張メロンの生産者を守らないといけないとか、そういった課題をどうにかしないといけません。だから、街全体で何かやるというか、自分の周りで少しずつ活動が行われていくことで、市民の皆さんにも少しずつ共感いただいているところです。
竹内さん:最初は難しかったですね。デジタル村民の方が実際に山古志村に足を運んでくれるようになったんですが、「デジタル村民に何を話せばいいの?」「どういうふうにお出迎えすればいいの?」というのは、おじいちゃんおばあちゃん世代には結構言われました。お互いに「何者なのか」という懐疑心があったと思うんですよね。そうしたなかで、何度も通ってきてくださったり、数日間滞在してくださったりするなかで、デジタル村民の想いを伝えることで理解が深まってきたようです。今では、そうしてつながりを深めたデジタル村民が、リアル村民とデジタル村民のブリッジ役を担ってくれるようになりました。
ブロックチェーンやデジタル技術を活用しているため、すこし理解の難しさもあるといえるDAO。「説明するのがむずかしい」と、登壇者の方々も口にしていた。とはいえ、パネルディスカッションを聞いていると、結局大事なのはシンプルな「人同士のつながり」であることがうかがえた。DAOを普及させていくためには、簡単な言葉や行動に落とし込んで参加者に伝え、楽しんでもらうことなのではないだろうか。デジタルを活用することで、関係人口がどのように広がっていくか、今後の動きに注目したい。
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