都市インフラとして機能してきた東京高速道路

新橋から京橋にかけて銀座を横切る「東京高速道路」(以下、KK線)をご存じだろうか。首都高速道路とつながってはいるものの、この区間だけは民間企業である東京高速道路株式会社が無料で供用している。特異な成り立ちを持つ自動車専用道路なのだ。

その歴史は第二次世界大戦の終戦後間もなくまでさかのぼる。財界人23名が発起人となり、銀座の復興と飽和点に達した自動車交通量の緩和を目的に1951年12月に東京高速道路株式会社が設立された。

ただし、自動車専用道路の新設には莫大な費用が必要になる。それを可能にしたのが、「道路下を賃貸スペースとし、その賃貸収益を道路の建設費と維持管理費に充て、無料で一般に供用する」という仕組みだ。そのため、全長約2kmにわたる高架道路の下部には、14棟の賃貸スペースが設けられた。

同社は、当時の運輸・建設両省から、道路運送法に基づく自動車道事業(一般自動車道)免許を取得したのち、約13年の期間をかけて建設。KK線は1966年7月に蓬莱橋から新京橋間の全線供用を開始することとなった。

以来、経済成長を遂げる日本における都市インフラとして機能。賃貸スペースは、商業施設として銀座のショッピング、グルメの一翼を担う存在として、多くの人が行き交う場となってきた。「銀座コリドー街」「銀座インズ」などのテナント名で知る人も多いことだろう。

自動車道から遊歩道へ。2020年代の一部供用を目指す

銀座を走る高速道路として長らく親しまれてきたKK線だが、首都高速道路が日本橋周辺で地下化し、新しく都心環状ルートを建設することにともなって、その役割を終えることになった。

2021年3月には、東京都から示された「東京高速道路(KK線)再生方針」により、東京高速道路は、歩行者中心の公共的空間(遊歩道)に転換することが発表された。首都高再編と並行して、2020年代中頃にはKK線は通行止めになる。そして、「ひと・まち・環境をつなぐ、グリーンインフラとして、東京に新しい価値や魅力を加えるシンボル」を目指し、緑に囲まれた歩行者中心の空中回廊「Tokyo Sky Corridor(トウキョウ スカイ コリドー)」として整備していく。2030 年代から 2040 年代には全区間の整備完了することを目標にしているという。

このように聞くとずいぶん先のようにも感じられるかもしれない。しかし、全区間を一度に整備することは難しいので、周辺のまちづくりと連携し段階的に整備して、2020年代のうちに一部供用することを目指しているのだそうだ。

道路を歩行者空間として開放して「未来のKK線」を体感

こうした取り組みの一環として、東京都と東京高速道路が開催したイベントが、「GINZA SKY WALK 2024」だ。2024年5月4日から6日までの3日間、KK線を交通規制し、車のない道路上を歩行者空間として開放することで、「未来のKK線」を体感してもらおうというねらいがある。

同様のイベントは昨年も「銀座スカイウォーク(銀スカ)」として開催され、2日間で約3,000人の参加があった。好評につき、今年は期間を3日に増やし、約1万5,000人の参加者が集まった。

参加者は、新橋入口からKK線に上り、新京橋出口へと向かう、約2kmの一方通行のルートを散策。経路内には、「モビリティエリア」「プレイエリア」「エシカルエリア」「インタラクションエリア」という4つのイベントエリアが設置された。それぞれのエリアでは、近隣の企業が協力し、コンテンツを提供。吹奏楽や御神輿などのパフォーマンス、地域産品ショップやマルシェの出店、ワークショップなどの催しも開かれていた。

今年は、高速道路上でランニングやヨガを体験するというモーニングプログラム、19時からは1ドリンク付き1,500円で銀座の夕景を楽しむナイトプログラムも実施された。

筆者は昨年に続き、今年もウォーキングに参加。地上8mの高架道路からの、都心部の眺めは見晴らしがよく、新鮮に感じられた。特に土橋交差点付近では、新幹線や在来線の線路と道路が並行しており、近い距離で電車が行き交う様子を目の当たりにすることができる。鉄道ファンならずとも目を奪われる光景を楽しむことができた。

道路は最大4車線分、約16mの幅があるため、歩行空間を確保しながらも、ショップやイベントのためのスペースも十分にとることができる。さまざまな活用法と可能性を秘めた場だ。今後、どのように整備されていくのか、楽しみだ。

参加者がKK線を歩いている様子。ふだんは車で走り抜ける道をゆっくりと歩く参加者がKK線を歩いている様子。ふだんは車で走り抜ける道をゆっくりと歩く
参加者がKK線を歩いている様子。ふだんは車で走り抜ける道をゆっくりと歩く2024年5月4~6日に行われた「GINZA SKY WALK 2024」。約1万5,000人が参加した
参加者がKK線を歩いている様子。ふだんは車で走り抜ける道をゆっくりと歩く会場には飲食店が出店。休憩所も設けられた。公園のような雰囲気に
参加者がKK線を歩いている様子。ふだんは車で走り抜ける道をゆっくりと歩くコースのあちこちでイベントやワークショップも開催

新たな銀座の魅力を生み出し、さらなる賑わいの創出へ

小池百合子都知事は、昨年に続き今年もイベントの視察に訪れた。「Tokyo Sky Corridor」については、都心の繁華街における再開発事業として、都としても力を入れているようだ。ニューヨークの貨物鉄道跡を公園や遊歩道として再生させたハイラインの事例などを参考に、都市計画の一部として取り込む。

都の整備方針によると、歩行者中心の公共空間とした上部の部分には、カフェやイベントのスペースを設ける。その維持管理費については、今までと同様に下部空間のテナントから得た賃貸収益を充当する予定だ。

都と千代田・中央・港区は「有楽町・銀座・新橋周辺地区地区計画」を変更し、KK線の上部空間を約3万m2の広場として位置づけた。

KK線上を歩行者中心の公共空間として再整備し、高架下のテナントや周辺の商業施設との連動性を強化することで、地域の活性化を図る。銀座の新たな魅力のひとつとして再生して、さらなるにぎわいを生むことを目指している。

KK線から数寄屋橋交差点を望むKK線から数寄屋橋交差点を望む

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