なぜ修繕積立金不足のマンションが多いのか
分譲マンションの区分所有者が毎月支払う修繕積立金は、外壁やエレベーターなど、住人が共同で使用する共用部分の修繕に充てるためのものだ。
しかし、2018(平成30)年度「マンション総合調査」(国土交通省)では、修繕積立金の積立額が長期修繕計画に対して不足しているマンションが34.8%あると示す。ちなみに、積立金に余剰があるとしたのは33.8%。残りの31.4%は「不明」と回答した。「不足」はもちろん、「不明」もなかなか不安な状態ではないだろうか。
修繕積立金が不足する理由として、大きく2点が挙げられる。ひとつは建築費の高騰、もうひとつは分譲時に設定された修繕積立金額が低すぎることだ。
建築費の高騰は、首都圏の建築ラッシュ、コロナ禍が引き起こしたウッドショックや住宅設備不足、輸送コストの上昇などによって発生し、現在も慢性的な人手不足などさまざまな要因により続いている。この傾向は止まるどころか、働き方改革による建設業の残業上限規制(いわゆる「建築業の2024年問題」)も関連して、当面続きそうな気配だ。こうした建築費の高騰により、分譲当初に立てていた長期修繕計画上の工事費と実際に必要な工事費に差が生じてしまい、積立金が足りなくなってしまうのである。
もうひとつ、分譲時に設定された修繕積立金額が低すぎる点についてはこうだ。修繕積立金の積み立て方式には、均等積立方式と段階増額積立方式がある。均等積立方式は、長期修繕計画の期間中に推定される工事費を按分し、期間中は一定額を徴収する方法だ。一方の段階増額積立方式は、数年ごとなど段階的に徴収金額を増額していく方式である。その採用割合は、均等積立方式が41.4%、段階増額積立方式が43.4%(2018年度・国交省「マンション総合調査」)となっているが、完成年次が新しいマンションほど段階増額積立方式が採用されている。段階増額積立方式を採用することで、分譲時の修繕積立金額を低く設定し、購入者が月々に支払う負担額を小さく見えるようにして販売する傾向があるためだ。
段階増額積立方式は、いずれ値上げをしながら修繕までに必要な金額を積み立てるわけなので、値上げが適切に実行されれば問題はない。しかし実際には、そう簡単な話ではない。というのも、修繕積立金の値上げは区分所有者によって構成される管理組合の総会で可決されなければ実行できないためだ。築年数が経ったマンションでは区分所有者の高齢化も進んでおり、月々の支払負担額が増えることに対して容易に同意がとれないケースが増加している。
修繕積立金の不足は、暮らしの質の低下を招きかねない
マンションは、築年数の経過とともにさまざまな箇所に劣化が見られるようになる。そこでマンションごとに作成された長期修繕計画に沿って、おおむね十数年ごとに共用部分の大規模修繕が実施される。しかし修繕積立金が不足すると、それができなくなってしまう。
たとえば外壁塗装や屋上防水工事。これが行われず、ひび割れなどからコンクリートの躯体に雨水が染み込むと建物の劣化が進む。あるいは給排水設備、消防設備、機械式駐車場、エレベーターなどの修繕や交換。これらが行われず劣化したままだと、日常生活にも支障をきたす。
つまり大規模修繕ができないと、建物の劣化が進行し続けて危険であったり、生活の質が落ちて不便さや不具合を感じたりすることになる。安心安全で満足のいく生活が維持できないとなると、マンションの資産価値も損なわれるだろう。
避けては通れない大規模修繕に対して、修繕積立金が不足しているマンションはどうすればいいのだろうか。そのような場合の選択肢のひとつに、マンション共用部分リフォーム融資がある。
マンション共用部分リフォーム融資とは
マンション共用部分リフォーム融資とは、住宅金融支援機構による主にマンション管理組合向けの融資商品だ。
対象となるのは、管理組合が行うマンション共用部分のリフォーム工事。外壁や屋上、バルコニー、共用階段や共用廊下などの補修や塗装、自転車置き場や駐車場の補修や設置、オートロックやエレベーターの設置のほか、耐震改修、浸水対策、省エネルギー対策、エレベーターや機械式駐車場の安全対策、アスベスト対策などの工事費が対象である。また、専門家によるマンションの劣化状況の診断や調査設計の実施、耐震性の診断や長期修繕計画の作成などに必要な費用も融資対象とされている。
マンション共用部分リフォーム融資の利用条件
融資を受けたい場合、必要書類を準備のうえ地域管轄の機構本支店に事前相談をすれば、約1週間程度で回答がくる。必要書類には、マンションの管理規約の写しや直近の総会で決議された決算書の写し、予算書の写し、工事見積書の写しなどが挙げられている。事前相談の回答がきた後に本申し込みへと進み、融資の可否決定がなされる流れだ。
ところでこの融資は誰が申し込めるのか。これは、マンション管理組合が申し込む場合と、区分所有者が申し込む場合の2種類がある。それぞれの条件は、おおむね以下のようなものである。
●マンション管理組合が申し込む場合
マンション共用部分リフォーム融資を管理組合が申し込む場合、管理規約で管理組合の組合員、業務、役員、総会、理事会および会計について定めている管理組合であることが前提だ。そして、総会で、管理組合が共用部分の工事を実施することと、その工事費を借入れることの決議がとれていることが条件となる。また、借入れの返済には修繕積立金を充当することとされている。
さらに次のような点も条件として挙げられる。
・管理費または組合費から支出すべき経費に、修繕積立金を充当できる旨の定めがないこと
・管理費と修繕積立金が区分して経理されていること
・修繕積立金が適正に保管されていること(管理組合名義または管理者(代表者)名義であること)
・修繕積立金が1年以上定期的に積み立てられており、滞納割合が原則10%以内であること
つまり、管理組合で適切に会計処理をおこなっていることが条件だといえる。
融資は対象工事費以内(補助金などの交付がある場合は、補助金などを除いた額)で借りることができ、1~10年の1年単位で返済期間を設定できる。ただし、工事内容によっては返済期間を最大20年以内とすることもできる。また、公益財団法人マンション管理センターに保証委託することにより、無担保で融資を受けることができる。
●区分所有者が申し込む場合
大規模修繕を実施する際、区分所有者が毎月支払う修繕積立金では不足している場合には、それを補うために修繕積立一時金を徴収するケースがある。場合によっては世帯当たり百万円単位になるケースもあり、その負担は小さくない。手持ちでまかなえないこともあるだろう。そんな時、区分所有者がマンション共用部分リフォーム融資を申し込むことができる。
主な条件は以下だ。
・管理組合の総会で決議された、マンション共用部分のリフォーム工事であること
・自らが居住しているマンションであること
・総返済負担率が次の基準以下であること(場合によっては、同居予定者の収入を合算できることもある)
(1)年収が400万円未満の場合:30%以下
(2)年収が400万円以上の場合:35%以下
・日本国籍、または永住許可などを受けている外国人
融資額については「区分所有者が負担する一時金の100%」または「1,500万円」の、いずれか低い額が限度だ。保証人は不要だが、敷地権登記された専有部分に抵当権の設定が必要となる。共有部分の工事に対して借り入れるものだが、抵当権は申込者の専有部分に設定される点に留意したい。ただ、借入額が300万円以下の場合は、抵当権の設定は不要となっている。
マンション共用部分リフォーム融資のメリットとデメリット
2022年4月にマンション管理適正化法が改正され、適切な管理計画を有するマンションを自治体が認定する管理計画認定制度などがスタートしている。国としてもマンションの維持管理における課題を認識し、またその支援を行うために、こういった融資制度を設けている。そんなマンション共用部分リフォーム融資の、主なメリットとデメリットはこうだ。
●メリット
・住宅金融支援機構が実施しているため低金利である
・省エネルギー対策工事を実施すると、年0.2%の金利引き下げが受けられる
・金利は固定金利のみのため、借入れ申込み時点で返済額が確定し返済計画が立てやすい
●デメリット
・融資には利息がつくため、いずれは修繕積立金の値上げにつながる可能性がある
マンション共用部分リフォーム融資の利用も念頭に、適切な大規模修繕を
鉄筋コンクリート造の住宅の法定耐用年数は47年とされているが、これは減価償却計算に使われるもの。マンションがその年数で寿命を迎えてしまうということではない。ではマンションの寿命は何で決まるのか。それは適切な時期に適切な修繕が行われてきたか、今後も適切な時期に適切な修繕が行われるかどうかによるだろう。
2018(平成30)年度「マンション総合調査」には、「永住意識」の調査項目もある。ここでは「平成25年度と平成30年度を比較すると、マンション居住者の永住意識は高まっており、平成30年度は62.8%の区分所有者が『永住するつもりである』としている」とあり、永住意識が高まっている傾向がわかる。
鉄筋コンクリート造の建物は、劣化が進行すると木造建物の場合よりもその回復は困難だ。もし修繕積立金の不足によって大規模修繕を先延ばしにしたり、そもそも実施しなかったりすると、マンションの寿命に影響を及ぼすことになり、永住したいとする意向にも影響があるかもしれない。修繕積立金が不足しているマンションでは、マンション共用部分リフォーム融資の利用を検討してみる価値があるのではないだろうか。
一方で、あくまで借入れであるため、当然返済が必要となる点には留意したい。たとえば管理組合が申し込む場合の融資条件に「借入れの返済には修繕積立金を充当すること」とあり、デメリットで挙げたとおり、ひいては将来の修繕積立金の値上げにつながる可能性も出てくる。あるいは、そもそも滞納割合が多い管理組合や、会計管理をきちんと行えていない管理組合では借入れそのものができない。
大規模修繕には大きな費用が必要となるが、快適な住環境は、人生の満足度にもつながると言っても過言ではない。マンションを購入するとき、立地や住戸の内部はもちろんのこと、外観や共用部を見て、そこでの生活にイメージを膨らませたことだろう。愛着あるマンションで長く暮らし続けるために、またその価値をいつまでも維持するために、大規模修繕の必要性を改めて考えたいところだ。
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