四国初開催のエンタメ系まちづくりのクリエイティブバトル「三豊VS高知」

日本は人口減少や高齢化、空き家問題などを抱えているが、その中でも特に深刻なのは各地方である。地方創生という言葉が浸透してきたこともあり、各地で「まちづくり」を行う事例も増えてきた。
そんな中、地域の課題解決のテーマをもっと頭を柔軟にして、エンターテインメント的にアイデアをぶつけ合おうという動きがある。日本クリエイティブバトル実行委員会による「エンタメ系まちづくり」である。

日本クリエイティブバトル実行委員会は、北九州に本部を置き、全国19ケ所に支部を配置。北海道エリアから九州沖縄エリアまですべてのエリアで展開していく”エンタメ系まちづくり”の企画・運営を担う実行委員会だ。地域課題や企業課題をテーマにその地域のホーム内外のクリエイターが3対3の団体戦形式で『エンタメ系まちづくり』をコンセプトに、社会課題、地域課題、企業課題等のテーマについて、日本各地のクリエイター達の自由で創造的なアイデアを競う、クリエイターによるアイデアバトルである。その目的を
・地域の優秀なクリエイターの発掘
・全国の事業者や行政等とクリエイターがマッチングし、クリエイターによる課題解決に向けたアイデア・ヒントの提供
・エンターテインメントとして広く公開することで地域間の交流および技術・知識の拡大・促進
としている。

このクリエイティブバトルは、第一回は「北九州vs熊本」、第二回は「奈良vs岐阜」、そして2024年4月27日に第三回が四国で初開催された。今回は、クリエイティブバトル実行委員会香川支ブ長 平宅正人さん主催で、運用を行ったのは平宅さんの会社「しわく堂」。香川県三豊市の地元企業 株式会社モクラスがスポンサーとなり、モクラスが行う地域ビジネスの課題を解決するという「三豊vs高知」のクリエイティブバトルである。会場は、三豊の旧酒蔵をリノベーションした「三豊鶴」。過去2回もかなり好評だったというこのイベント。会場とオンラインを含めて、なんと100名を超える参加者が熱いバトルの様子を見守った。

今回、三豊鶴の会場に伺い、熱気も含めて取材した。その様子をお伝えしたい。

会場となったのは、三豊の旧酒蔵をリノベーションした「三豊鶴」会場となったのは、三豊の旧酒蔵をリノベーションした「三豊鶴」
会場となったのは、三豊の旧酒蔵をリノベーションした「三豊鶴」第一回は「北九州vs熊本」、第二回は「奈良vs岐阜」、そして2024年4月27日に第三回が四国で初開催された「三豊vs高知」

クリエイティブバトルのルールと 「クリエイティブバトル 三豊VS高知」のテーマ

さて、クリエイティブバトルだが、三豊と高知が3つのテーマに対して、各チーム一人ずつが交互にプレゼンを行う。

バトルルールは、
・1チーム3名の団体戦
・スポンサー(今回は株式会社モクラス)によって提供されたバトルテーマのそれぞれに対して、両チームとも担当するクリエイターを選出。1テーマを1ラウンドとし、各テーマ毎にバトルを行う。
・クリエイターは1人あたり8分でバトルテーマに対するソリューションアイデアをプレゼンテーション
・その後、対戦チームのクリエイターからの質疑応答を交えた2分間のブラッシュアップタイム
・アイデアの勝敗は各ラウンド毎に、参加している観戦者の投票によって決定
となる。

今回のバトルテーマは、多様なビジネスを地域で行っている株式会社 モクラスの以下の3つのビジネス課題。いずれもモクラスが行っている、または関わっている地域のビジネスの課題となる。
バトル1:大型UVインクジェットプリンターを使ったヒット商品を企画せよ
バトル2:三豊鶴を舞台とした新しい活用アイデアを発明せよ
バトル3:RACATIチョコレートの新しい楽しみ方を提案せよ

先攻は、地元・三豊チーム、そして後攻が高知チームである。
三豊チームは以下の3名:北川智博さん、横山裕一さん、田島颯さん
高知チームは以下の3名:小松優大さん、西森達也さん、西森梢さん
である。それでは、各テーマごとの対戦の様子をお伝えしよう。

三豊鶴でのリアルイベントの様子をオンラインでも視聴でき、100名を超える参加者が熱いバトルの様子を見守った三豊鶴でのリアルイベントの様子をオンラインでも視聴でき、100名を超える参加者が熱いバトルの様子を見守った

バトル1:大型UVインクジェットプリンターを使ったヒット商品を企画せよ

最初のお題は、「大型UVインクジェットプリンターを使ったヒット商品を企画せよ」というもの。
ちなみに断っておくが、「エンタメ系」と称している通り、プレゼンの内容はお堅いものではなく、大いに遊び心が入っていることを先にお伝えしたい。

「家具建材加工業を営むモクラス社。同社が有する大型UVインクジェットプリンターは、ガラスや紙、合板など多様な建材に写真やオリジナルのデザインをプリントすることができる多様な可能性を秘めた設備だ。
しかし、同社では現状まだまだこの設備の可能性を最大限に引き出した商品やサービスを提供できていないと考えており、よりクリエイティブなアイデアで思いもよらなかった新しい商品を企画してほしい」ということがビジネスの課題。

まずは三豊チーム。先鋒は北川智博さんのプレゼン。
北川さんは、三豊鶴の活用のビジネス化を立ち上げたメンバーのひとり。その北川さんが着目したのは選挙戦のポスターだ。
現在、全国で行われている選挙にかかっているポスターの印刷費用は概算で52.8億円。選挙ポスターを貼る人の人件費を入れ、年間の選挙の平均回数を考えると6135億円のビジネスになるという。
そこで、ポスター掲示板一体型の大型選挙掲示板をUVインクジェットプリンターで印刷し、大幅なコストカットを行うというもの。選挙終了後は子ども達の遊び場として活用する。モクラスの代表、矢野太一さんを総理大臣にして、これをやる、というプレゼン。

プレゼン後の2分間のバトルタイムでは、高知チームからは、以下のツッコミとやりとりが入った。
「インクジェットプリンターは屋外に向いていないのはどうするのか?」 「半年前にインクジェットで印刷したものを見てください。選挙期間1週間なので全然いけます」などというもの。

インクジェットプリンターを使った選挙ポスターのイメージインクジェットプリンターを使った選挙ポスターのイメージ

次に後攻の高知チーム、小松優大さんのプレゼン。
大型インクジェットプリンターの特徴の3つ「大きなサイズに対応できる」 「様々な素材に対応できる」 「スマホの写真など幅広く対応できる」だが、それは、実はシート印刷でも可能。シート印刷でできないことを考えると「継ぎ目が出ない」 「素材感が生かせる」ことがインクジェット印刷で可能だという。インクジェット印刷で作品作りが可能だということを、アーティストなどクリエイターなどに認知してもらうために、三豊にある父母ヶ浜(ちちぶがはま)を利用してイベントを起こすというもの。
高知の黒潮町のTシャツアート展を手本に一般の人たちも含めた思いのこもった200点の作品を父母ヶ浜に飾るイベントをすれば収益もあげられるというプレゼンだった。

プレゼン後の2分間のバトルタイムのやりとりは「本当に父母ヶ浜にいらっしゃいましたか?Googleの画像のような…」 「今回のバトルが決まってから、4回くらい来ました」 「おお、もう関係人口ですね」と笑いを誘った。

視聴者の投票の結果、バトル1は高知チームの勝ちとなった。

インクジェットプリンターを使った選挙ポスターのイメージ父母ヶ浜(ちちぶがはま)で行うインクジェットプリンターを利用したアートイベントのイメージ

バトル2:三豊鶴を舞台とした新しい活用アイデアを発明せよ

バトル2は「三豊鶴を舞台とした新しい活用アイデアを発明せよ」
「三豊市の瀬戸内海を望む約150年の歴史を持つ元酒蔵の建造物をリノベーションした『三豊鶴』は、これまで“地域の価値”を醸造する新たな観光拠点として一蔵貸しの宿泊施設、アートイベント、文化醸造レストラン等の活用がなされてきた。この三豊唯一の酒蔵を営んでいた建造物群をリニューアルした『三豊鶴』を舞台に、クリエイティブな切り口によるこれまでにない新しい活用アイデアを発明してほしい」というもの。

先攻の三豊チームは田島颯(はやて)さん。
三豊発のローカルスタートアップとしての場の「三豊鶴」に着目。「人と人とが醸造し合う場」で、「醸造=醸す→鴨・加茂→神に由来している」というところをピックアップ。
田島さんのプレゼンは今回のプレゼンで最も突飛なアイディアで「三豊鶴を遊休資産を活用する聖地に。ローカルスタートアップ宗教を起ち上げる」というもの。伝道師は5名の三豊鶴のスタートアップメンバー、教祖はモクラスの代表の矢野太一さんに務めてもらう、というプレゼン。

宗教という、ちょっと突飛なアイディアにバトルタイムのツッコミも困ったのか、高知チームからは「特に指摘することはないです…」という困惑したやりとりとなったが、会場は笑いに包まれた。しかし、宗教はともかく、「人の集まる場所として、ローカルスタートアップの聖地に」というところは本質をついている。

「三豊鶴をローカルスタートアップの聖地に」という三豊チームのプレゼン「三豊鶴をローカルスタートアップの聖地に」という三豊チームのプレゼン

さて、後攻の高知チームのプレゼンターは西森達也さん。映画監督・映像ディレクターで、元警察官という経歴をもつ。

三豊鶴の活用については、最初に「酒樽にカツオを養殖して、サウナでタタキにする……と考えてみたが、絵面もグロいのでやめます」とつかみで笑いをとるも「三豊鶴はもっとエモい場所だと思います。三豊鶴をロケ地化する」という、「三豊鶴映画村計画」である。
映像を仕事としている西森さんは、「制作会社も撮影場所を探している、宿泊を伴う、貸出場所として活用。屋根がある、トイレがある、お風呂がある、というのが撮影場所として向いている」という。三豊という場所は、ロケーションが備わっている。上映会もできる場所がある。
プレゼンの中で、自身で撮った短編映画「三豊の鶴の恩返し」の1分予告編を流し、三豊鶴から世界に発信し「三豊を日本のハリウッドに」と締めくくった。
映像を仕事にしている西森さんの説得力のある動画とプレゼンに会場からは大きな拍手が沸いた。

バトル2の勝者は、こちらも高知チームとなった。

「三豊鶴をローカルスタートアップの聖地に」という三豊チームのプレゼン「三豊鶴映画村計画」のプレゼン
「三豊鶴をローカルスタートアップの聖地に」という三豊チームのプレゼン「三豊の鶴の恩返し」予告編まで作成し、説得力のあるプレゼンとなった

バトル3:RACATIチョコレートの新しい楽しみ方を提案せよ

バトル3は「RACATIチョコレートの新しい楽しみ方を提案せよ」。
「香川県の小さなショコラトリー『RACATI』(ラカティ)は、カカオ豆の選別・焙煎・製造までの全工程を一貫して行うBean to Barの専門店だ。単一産地のカカオ豆のみで作るシングルオリジンにこだわった商品の提供を行っている。このRACATIのチョコレートの、製造者でも気づかないような魅力を掘り起こして柔軟な発想による思いもよらなかった新しい楽しみ方を提案してほしい」というのが課題。

先攻の三豊チームのプレゼンターは横山裕一さん。三豊で農業を営む若手農家である。
「今やチョコレートで豆からこだわってつくるBean To Barは日本にもたくさんプロダクトがあり、差別化が難しい。そこで注目したのがチョコレートの中の恋愛ホルモン、フェニルエチルアミン。この恋愛ホルモンを使って少子化問題を解決しましょう」とプレゼンした。

「食べたら恋するラブカカオをつくる。そのためにモクラスでカカオ豆を栽培する。Bean To BarならぬFarm To Barを起こそう。そして、僕農家でした。ただし、資金がかかります。さきほどのプレゼンの宗教のお布施、そして耕作放棄地をつかいましょう。少子化をストップ、ラブカカオで日本を救おう」とプレゼンした。

バトルタイムでは「素晴らしいお話で特にいうことはないんですが、お金の事ですが、お布施は貯まるまで時間がかかりそうですね」というツッコミに対し、「8000万円があれば始められます。矢野さんがいます」とエンタメ要素の強いやりとりとなった。

日本の少子化を救う、恋するチョコレート、というプレゼン日本の少子化を救う、恋するチョコレート、というプレゼン

最後の後攻となる高知チームのプレゼンターは西森梢さん。料理家である。

西森さんのプレゼンは、分かりやすく紙芝居形式。物語形式で、素材にこだわり、日々お客様に向き合う矢野さんを主人公にカカオの神様とのやりとりをプレゼンした。
1今すぐ始めよう
チョコレートづくりのワークショップや、山登りやお遍路さんも片手で食べられるカジュアルな商品、ヤマンバー(手を汚さずにエネルギーチャージ)、夜のお供になる商品、みなぎる力マックス
2みんなではじめよう
2月14日にチョコレート祭りをする。山車に似た販売車でお祭りをする。父母ケ浜に来る観光客にうどんを結んでチョコをかける、うどんチョコ「うっきー」やチョコ結びの商品、ホットチョコレートをつくる

「人と自然を大切にしたい。カカオ香るまち三豊」というプレゼンテーションを行った。
バトルタイムでは「一緒にできることがあるんじゃないかな、と思いました。ヤマンバーはカカオを栽培する山に登るときに食べられるんじゃないかなと思いました」と三豊チームが歩み寄る場面も。

勝敗は、わずか3ポイントの差だったが、こちらは三豊チームが勝った。

日本の少子化を救う、恋するチョコレート、というプレゼン高知チームは様々な商品化を行う「人と自然を大切にしたい。カカオ香るまち三豊」というプレゼンテーションを行った

エンタメ系バトルの根底にある「まち」と「ビジネス」への想い

今回のスポンサーとなった三豊市の地元企業 株式会社モクラスの矢野太一さん今回のスポンサーとなった三豊市の地元企業 株式会社モクラスの矢野太一さん

終始白熱した、三豊vs高知のプレゼンバトル。
ホームチームの三豊は負けてしまったが、会場の盛り上がりの熱気をつくりあげたのは、紛れもなく三豊チームであった。ちなみに過去3回とも、ホームチームは勝てていないとのこと。盛り上げ隊の役割も担うホームチームの宿命かもしれない。

優勝した高知チームは「エンタメ系のバトルではあっても、実現不可能なことではなく、具体化できることをチーム内では意識してアイデアを練った。三豊チームのプレゼンも素晴らしかった。よいバトルができたと思います」と感想を話した。

今回のスポンサーである、モクラスの矢野太一さんは、閉会の挨拶でこう述べた。
「まずはお疲れさまでした。やることがたくさんできました。まずは宗教法人を起ち上げて、立候補し、総理大臣になります(笑)。思ってもいないアイデアがたくさんでて、面白く三豊の地域を盛り上げていきたい、と思いました。まずは映画祭を本気で検討して、ぜひ開催したいと思います」

また、今大会を主催した日本クリエイティブバトル実行委員会 香川支ブ長で「しわく堂・クリエイティブディレクター」の平宅さんは
「クリエイティブバトルで提案されたクリエイターの刺激的なアイデアがきっかけとなって、地域や企業の課題解決プロセスすらも楽しめる社会になることを期待しています」と、話した。

「エンタメ系」と称する通り、終始笑いが伴うプレゼンだったが、その突飛もない話の根底に、まちづくりのアイデアと愛があった。エネルギーがぶつかり合う、エンタメ系クリエイティブバトル。次の開催地での熱いバトルと、実際の地域ビジネスの起爆剤につながることを期待したい。

今回のスポンサーとなった三豊市の地元企業 株式会社モクラスの矢野太一さん主催者と今回プレゼンテーションを行った三豊チーム・高知チームの皆さん

■取材協力
日本クリエイティブバトル実行委員会
しわく堂 https://shiwakudo.com/

■参考URL
クリエイティブバトルのアーカイブYOUTUBEチャンネル
https://www.youtube.com/@CreativeBattle/featured

「三豊の鶴の恩返し」予告動画
https://youtu.be/OOt4FgP_Oms?si=OV9_XF7qJr1GF0Vv

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