突然の実家の相続。焦らないためにどうすればいい?
実家もわが家も、いつかは空き家になる……。今は考えにくいことでも、住まいの役割をどう終わらせるかは、人生の終活と同じように考えておきたいことのひとつだ。空き家は相続が絡むことも多く、社会課題でもある空き家問題に強く紐づいている。空き家を相続したものの、どう扱ったらいいか分からず放置してしまうことで、近隣の迷惑になったり災害時のトラブルにつながったりするケースもある。
自分や大事な家族が空き家で困らないために、後回しになりがちなこの問題について意識しておきたい。
2024年3月14日、オンラインセミナー「すまいの終活フェスティバル〜実家を相続した時の完全ガイド、放置空き家にしないための賢い選択と戦略〜」が開催され、専門家やプロフェッショナルによる、11のプログラムが展開された。
すまいの終活フェスティバルWebサイト:https://www.j-akiya.jp/festival-march2024/
主催の全国空き家対策コンソーシアムは、空き家の課題解決のために、2023年9月に生まれた組織だ。知見を共有することで、空き家所有者への情報提供・支援を行い、空き家問題の課題解決を促進している。現在15団体が参画し、4自治体が賛同する。(※2024年4月現在)
セミナーでは、住まいの終活にまつわるさまざまな選択肢について、各分野の専門家が分かりやすく解説してくれた。そのうち2つのトークイベントを取り上げ、住まいの終活を考える上でのポイントをまとめてみた。
問題の先送りによって生まれる「負動産」化した空き家
「住まいの終活について」というテーマで、明治大学政治経済学部教授 野澤千絵氏が登壇。空き家問題にまつわる国の動きとともに、空き家問題を先送りするリスクを解説した。
まず押さえたいのは、空き家数の推移だ。2018年時点で全国に849万戸の空き家があり、1978年度の394万戸から右肩上がりに増加傾向にある(※)。野澤氏は都市政策・都市行政が専門で、全国各地の自治体や国の都市政策、住宅政策に長年関わってきた。「地方だけの問題だと思われがちな空き家問題は、今後首都圏でも起こってくる」と話し、「2030〜40年頃の空き家予測を行ったところ、相続発生が見込まれる中古住宅、いわゆる『空き家予備軍』は全国的に増えることがわかった」と危機感を募らせる。団塊世代の持ち家が空いてくることが、その理由として挙げられる。さらに実需の視点から見ても、少子高齢化と人口減少が進む中、需要そのものが減っていくことも明白だ。
※出典:総務省「住宅・土地統計調査」2018年度データより
空き家問題の根本原因は、相続が発生した後の相続人の行動だ。分からないのでとりあえずそのままにしておこう、という問題の先送りにより、空き家という「点」が誕生する。それが、同じエリアで続出することで「面」として空き家・空き地が出現し、都市のスポンジ化が起こってしまう。そうなると生活利便施設の撤退、公共交通の減便などが発生し、空き家問題は都市問題へと発展してしまうのだ。
なかでも増えているのは、売るに売れない、貸すに貸せない「負動産」だ。街の中に放置や放棄された空き家が増加すると、周辺の地価の下落にもつながってしまう。
2024年4月から相続登記の義務化がスタート。「住まいの終活」が当たり前に
持ち家の所有者が動かないことが、日本の根深い空き家問題の大本だと野澤氏は訴える。そこで一貫して伝えているのが、「住まいの終活」の重要性。空き家にはいくつかのフェーズがあり、空き家予備軍レベル(フェーズ0)から、先ほどの事例にあげたような、市町村も対応困難の都市問題化レベル(フェーズ5)に分けられる。「空き家が利活用可能なレベル(フェーズ2)までに住まいの終活を完了することが重要だ」と野澤氏は話す。具体的には、既存住宅の売却や賃貸、または空き家を解体後の土地売却や土地保有などだ。
国も、空き家問題解決に向けて「住まいの終活」が当たり前になる社会を目指して動き始めている。2021年4月に民法・不動産登記法の改正が行われ、2024年4月1日から相続登記の義務化(不動産を取得した相続人に、その取得を知った日から3年以内の相続登記申請を義務付け)が施行された。これにより相続が発生する前ではなく、空き家化した早期の段階から相続人やその相続予定者が、住まいを円滑に引き継ぐための活動をはじめることが促される可能性がある。
「住まいの終活」の手順はこうだ。まずは持ち家に関する情報を整理して、相続予定人に伝えること。次の世代がより活用しやすくなるような条件整理がそれだ。すでに空き家を持っている人は、今すぐ動き出すのがおすすめだ。なぜなら、今住んでいる家以外に空き家を所有している人の7割が60歳以上というデータもあるからだ。体力や気力も低下していくなかで、早め早めに動くことが必要になってくる。自分が今住んでおらず、活用していないなら、なおさら。空き家になってから3年以内、「なるべく早く」と野澤氏は念押ししする。
早めの情報整理を。まずは所有者が動き出すこと
具体的には、持ち家にまつわる記録や家系図、連絡先の整理から始めよう。その次には、所有している不動産をリスト化し、そして登記名義人や抵当権の設定があるかなど、基本的な資料をそろえていく。せめてここまでは早めにしておくことが大切だと野澤氏は話す。その中で生じた不明点は、早めに専門家へ相談するのがベター。全国空き家対策コンソーシアムへ連絡するのもいいだろう。
その後、持ち家が売れそうなのか、貸せるのかなど、民間市場での流通性を判断していく。周辺相場なども加味して、近所の不動産会社などから情報を収集して、相続予定人と情報を共有すると計画が立てやすくなるだろう。こうして最終的に、相続した人が考えるフェーズがやってくる。相続人が離れて住んでいる場合は情報を得にくいので、持ち家のある地域で相談できる相談先も共有しておくことが、住まいの終活を円滑に進めるポイントになる。
近年では災害の多発化、激甚化で空き家問題が新たなフェーズに入っている。被災した空き家がそのまま放置されてしまい、2次被害が起こったり、浸水したままの所有者不明の空き家がそのまま残されてしまったりする場合もある。2024年の元日に起こった能登半島地震にも当てはまるが、空き家問題がスムーズな復興を阻むケースもある。空き家の所有者が不明の場合、探索に費用と時間が強いられ、復旧・復興の足かせになってしまうのだ。
まずは所有者が動き出すことが重要だと野澤氏。「今ある家を使い捨てにせず、次世代に引き継ぐことで、街も変わっていく。とりあえず空き家のままにしておくと、新たな住民が流入する余地を奪い、街が発展する流れを阻害してしまうことにもなりかねない。一人ひとりが住まいの終活を心がけることで、次世代も引き継ぎたいと思える衰えない街が生まれるのではないか」と締めくくった。
地方と都市における空き家問題に違いはあるのか?
空き家が放置されることで、建物所有者だけでなく近隣やまちづくりに悪循環を及ぼす空き家問題。街という視点から空き家問題を考えてみたい。続いて、「地方と都市における空き家問題〜民間・行政視点での課題と取り組み〜」というテーマでディスカッションが行われた。空き家の現状や課題の本質、地域による課題の違いについて、空き家対策に取り組む企業の代表らが語った。
地方の空き家の買取再販を行う株式会社カチタスの代表取締役 新井健資氏は、地方の空き家中古住宅の流通が難しい理由として、3つの課題を述べた。地方の空き家のほとんどは相続によって発生すること、地方不動産の仲介手数料が低いため、積極的に仲介する不動産仲介会社が少ないこと、そして空き家の所在地と所有者の居住地が離れているケースが多いことだ。
それを受けて、株式会社LIFULL 代表取締役社長執行役員の伊東祐司氏は、都市部での空き家問題についても言及し、土地価格が高いのが都市部の特徴で、都市部は地価が落ちにくいため、建物が放置されやすいリスクもあると述べた。そして自社で取り組む「空き家の見える化」活動を紹介。空き家バンクへの掲載から利活用プロデュース、1日でリノベーションが可能になる新たな施工技術の導入も実証実験段階だという。空き家バンクへの登録だけがゴールではない。その後の空き家の活用をどうするかも、今後の課題だろう。
空き家を活用した新しいビジネスモデルの発展も
全国2,000社の解体工事会社とのマッチングと、全国79の自治体(2024年4月現在)で空き家対策を支援するサービスを行う株式会社クラッソーネ。代表取締役CEOの川口哲平氏は、空き家は利活用するか解体してまた新しい活用を生むか、基本的には2つしかないと述べたうえで、解体によって街の循環再生文化を育む必要性を語った。
前出の企業の例のように、空き家を活かした新しい産業について、従来どおりではないビジネスモデルが今後より必要になってくると広島県安芸高田市の市長 石丸伸二氏は話す。そして、「今あるものをいかに生かすかという発想と、セカンダリーマーケットの発展にも期待を寄せたい」とディスカッションを締めくくった。
地方でも都市部でも空き家問題は起こる。空き家を見る際、需要と供給だけではないさまざまな視点が広がれば、産業が育ち経済も動く。経済が動けば社会が変わる。今後、空き家をベースに日本の再生が始まるのではないかと想像できる内容だった。
空き家の価値をなくさず次の世代に引き継ぐための、所有者による「住まいの終活」と、受け取った空き家を経済に生かす視点。これらが社会の中で活性化すれば、空き家は価値に変わるだろう。どのタイミングでどう手を打つのか、とにかく動き出すのは早ければ早いほうがいいことは確かだ。
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