家の中の気温差による怖いヒートショック

寒い冬、日々の暮らしの中で注意したいのがヒートショック。
ヒートショックとは、暖かい空間から寒い空間への移動など、温度の急な変化によって身体が受ける影響のこと。温度変化によって引き起こされる血圧の急な乱高下により、心臓へ負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中などの疾患につながる恐れがある。

住まいの構造や間取り、設備機器、個々の体調などによってその影響は異なるが、たとえば入浴時。暖かいリビングから寒い廊下を通り、脱衣室で衣類を脱ぎ、浴室に入るとなると、血管が縮んで血圧が急上昇する。バスタブ(お湯)に入ると血管が広がり、今度は逆に血圧が下降する。このような血圧の乱高下が心臓に負担をかけることになるのだ。また、深夜に暖かい布団から寒い廊下、トイレに移動する場合も同様だろう。

このようなヒートショックについて、リンナイが行った「冷え・ヒートショックに関する都道府県意識調査」のデータからみていこう。

冬場は、ヒートショックを起こさないために特に室内とお風呂場までの気温差に注意が必要冬場は、ヒートショックを起こさないために特に室内とお風呂場までの気温差に注意が必要

ヒートショックの認知度は?

ヒートショックが心配になるのは、家の中での寒い場所だ。具体的にはどのような場所なのか。
調査によると、冷えが気になる場所はどこかという質問に対して、最も多い回答は「脱衣所・洗面室(51%)」。続いて「トイレ(42%)」、「浴室(34%)」と続く。衣類を脱ぐ空間であることと同時に、住まいの北側に配することの多いスペースであったり、暖房機器を設置していない(設置しにくい)場所だと言えるだろう。

では、ヒートショックの認知度はどの程度なのだろうか。「よく知っている(17%)」「ある程度知っている(48%)」と約7割は認知している結果。最近では、国や自治体などの啓蒙活動も盛んになり、さまざまなメディアで取り上げられ、それなりに浸透していると言える。

地域別では、群馬(88%)、山梨(82%)、東京(78%)の認知度が高く、鹿児島(48%)、大阪(50%)、奈良(52%)で低い傾向という結果に。地域の環境によっても異なるが、寒い地域で認知度が高いとは一概にいえないようだ。

<上> 冬の時期についてお伺いします。あなたは、自宅で冷えが気になる場所がありますか。(複数回答、N=2350)
<下>.あなたは、ヒートショックについてどの程度ご存知ですか。(単一回答、N=2350)

<上> 冬の時期についてお伺いします。あなたは、自宅で冷えが気になる場所がありますか。(複数回答、N=2350) <下>.あなたは、ヒートショックについてどの程度ご存知ですか。(単一回答、N=2350)

今回行われた調査を監修した早坂信哉先生(東京都市大学人間科学部学部長・教授、医師、博士(医学)、温泉療法専門医)は、
「例年注意を促しているヒートショックですが、やはり脱衣所・洗面室の冷えを気にされている人が最も多かったです。入浴時服を脱ぐ場所であり冷たい空気に直接触れますので特に注意が必要な場所です。 ヒートショックのことを皆さん認知するようになってきましたが、暖冬でも油断できません。室内にはかなりの温度差があります。冷えている部屋に移動するときは1枚羽織る、スリッパを履くなどのひと手間をかけるようにしましょう」と話す。

ヒートショックを防ぐプランニングのポイント

ヒートショックを防ぐための住まいづくりを考えてみる。

まず、外気温の影響を受けにくいように断熱性能の高い住まいとすることが基本。新築やリフォームの際には、地域環境や条件に適した断熱性能、断熱材や窓やドアの開口部性能を確保することが重要になる。築年数が古い住宅の場合、断熱性能が低いケースが多くみられるが、最近では、リフォーム向けの商品として比較的簡単な方法で断熱性能を高めることが出来る建材商品、窓サッシや内窓、断熱玄関ドアなどもみられるので、検討してみてもいいだろう。

また、断熱性を高めると同時に、屋内の温度差を抑えることが大切だ。プランニングに適した暖房・空調計画は専門的な知識が必要なので、設計担当者と十分に検討したい。たとえば、全館空調を取り入れれば家中をあたためることが可能。洗面脱衣室やトイレ、廊下などだけが寒いということが無くなるだろう。空間に合わせて床暖房を取り入れることも考えられる。WHO(世界保健機関)では、寒さによる健康影響から居住者を守るための室内温度として18℃以上を強く勧告している。住まい全体の温度を18℃以上にすることを目安にしたい。

その他、冷えが気になる場所の個別の暖房としては、浴室であれば浴室暖房乾燥機。浴室の換気はもちろん、乾燥や洗濯物を乾かすこともできる人気の設備機器だが、入浴の際の暖房としても有効なアイテムだ。リフォームでも設置できるタイプも揃っている。また、洗面脱衣室用にも壁面などに設置できるタイプ、タオルハンガーを兼ねた商品がみられるし、トイレなど限られたスペースでも取り入れることが出来るパネルタイプの暖房機器などもある。

<上> 頭から足元まで温度ムラが少なく、運転の立ち上がりがとても早いガス温水式。[浴室暖房乾燥機 天井埋込型]
<下>入浴前後の脱衣室もあたたかく。現在の脱衣室に設置可能。[脱衣室暖房機 壁掛型]

<上> 頭から足元まで温度ムラが少なく、運転の立ち上がりがとても早いガス温水式。[浴室暖房乾燥機 天井埋込型] <下>入浴前後の脱衣室もあたたかく。現在の脱衣室に設置可能。[脱衣室暖房機 壁掛型]

ヒートショック予備軍とならないために……入浴方法をチェック

ヒートショックを防ぐための住まいとなっていても、入浴の仕方によっては危険が伴う。早坂先生が作成したヒートショック診断テストをもとに、入浴方法を見直してほしい。

<ヒートショック診断テスト>
以下9項目のうち当てはまる項目をチェック。
チェック数3個以上でヒートショック予備軍。チェック数2個以下であれば安心入浴。

1. お風呂に入る前よりお風呂の後に水分をとる
2. できるだけ食後すぐにお風呂に入る
3. 家族に声をかけずにお風呂に入る
4. お風呂場が寒くても我慢する
5. お風呂に入ったらすぐに湯船に浸かる
6. あつあつの湯船に浸かる
7. 湯船から出るとき立ちくらみすることがある
8. 湯を張るときは湯船にふたをする
9. サウナに行ったら水風呂に入る

<上> Q17. ご自身に当てはまる項目をチェックしてください。(単一回答、N=2350)
<下>Q18.あなたは、家族の入浴について、普段から気にかけていることはありますか。(複数回答、N=2350)
<上> Q17. ご自身に当てはまる項目をチェックしてください。(単一回答、N=2350) <下>Q18.あなたは、家族の入浴について、普段から気にかけていることはありますか。(複数回答、N=2350)
<上> Q17. ご自身に当てはまる項目をチェックしてください。(単一回答、N=2350)
<下>Q18.あなたは、家族の入浴について、普段から気にかけていることはありますか。(複数回答、N=2350)
急激な温度変化により血圧は乱高下する。脱衣所とリビングの温度差は5℃以内がベストだという

調査対象者へのテストの結果では、ヒートショック予備軍は全体41%。地域別では、宮城(62%)、福井・群馬(56%)となっている。チェックが最も多い項目は「8.湯を張るときは湯船にふたをする(60%)」。 家族の入浴について気にかけている割合は57%で、地域別では福島(72%)が最も多い結果だ。

それぞれの項目の注意点をみていこう。
1. お風呂に入る前よりお風呂の後に水分をとる
脱水は血液の粘り気を増やし、血のかたまり(血栓)ができやすい。心筋梗塞をひき起こしやすくなることから、入浴前にもコップ1~2杯の水分をとるようにしたい。
2. できるだけ食後すぐにお風呂に入る
食後すぐに入浴すると、本来消化器官に血液が集まるべきタイミングなのに、皮膚へ血液が集中し、消化不良の原因となる。食後は1時間程度空けることが望ましい。
3. 家族に声をかけずにお風呂に入る
ヒートショックが怖いのは意識を失いお風呂でおぼれてしまうことだ。異変に気付いてもらいやすいよう、入浴前には家族に声をかけておきたい。
4. お風呂場が寒くても我慢する
急激な温度変化により血圧が乱高下する。昨今の光熱費アップに伴い節約の意識が高まっているかもしれないが、健康のためにも入浴時は室温に気をつけたい。脱衣所とリビングの温度差は5℃以内がベスト。
5. お風呂に入ったらすぐに湯船に浸かる
かけ湯で徐々に身体を慣らしたい。血圧の急激な上昇を防ぐ。
6. あつあつの湯船に浸かる
体温が上がりすぎて意識障害に陥る可能性がある。血圧も上がる。
7. 湯船から出るとき立ちくらみすることがある
めまいや立ちくらみは、急激な血圧低下によるもの。若い方でも起こり得る。立ちくらみで転倒して大けがをすることもあるので気をつけたい。
8. 湯を張るときは湯船にふたをする
もったいないと感じるかもしれないが、湯船のふたを外して湯を張ることで、浴室内の温度を上げることができる。
9. サウナに入ったら水風呂に入る
体温を上げた後、一気に水風呂で身体全体を冷やすと、若い方でもヒートショックの危険がある。水風呂に入る場合は、手足からゆっくりと水をかけて身体を慣らしたい。

早坂先生は
「浴室暖房機があれば安心ですが、設備がない場合でも、湯船のふたを外すことや、家族で声を掛け合うなど、できることから始めるのが大切です。若い方でも血圧の急な低下による立ちくらみは起こります。湯船から出るときは、手すりにつかまってゆっくり立ち上がりましょう。また、湯船から立ち上がる前に手に水をかけると、交感神経の刺激になり血圧の低下を防げます」と話す。

浴室での安全性を高めるためには、家族構成に合わせて適する場所に手すりを設けること、また、万が一の場合に備え、浴室や脱衣室、トイレなどの扉は外からでも開けることが出来るようなプランとしておくことも考えておきたい。家づくりの際には、快適さはもとより安心・安全にも十分に配慮し、家族構成やライフスタイルを踏まえ、住まい全体で検討することが重要だ。


【調査概要】 
調査名:熱と暮らし通信 冷え・ヒートショックに関する都道府県意識調査
調査時期:2023年9月24日~10月4日
調査方法:インターネット調査
対象者:都道府県別 計2,350名、20~60代男女

調査データ・写真協力/リンナイ株式会社

公開日: