久屋大通公園の南エリアが持つ可能性とは

名古屋都心部の中央を貫く久屋大通公園名古屋都心部の中央を貫く久屋大通公園

名古屋市の都心部、栄地区では2027年までの遂行を目指したまちづくりプロジェクト「栄地区グランドビジョン―さかえ魅力向上方針―」が進められている。その方針の一つ、公共空間の再生に含まれるのが、久屋大通公園の整備だ。

エリアを南北に貫く道路、久屋大通りの中央分離帯部分につくられた公園で、まちのシンボルにもなっている中部電力MIRAI TOWER(旧・名古屋テレビ塔)がそびえる。その中部電力MIRAI TOWERのあるエリアとその北エリアは、2020年9月に公園と商業施設が一体化した「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリパーク)」に生まれ変わった。

今回は、これから再整備予定の南エリアで開催された公園の新しい可能性を探るイベントの第2弾「PAXX?(読み:ぴーえー)」を取材した。

名古屋市が目指す「新たな創造が生まれるウォーカブルタウンのコア~多様な人が集まる刺激と居心地~」の実現に向け、公園の使い方や過ごし方のアイデアを試行するというもの。この南エリアでは年間を通して週末を中心にさまざまなイベントが開催されて賑わいが生まれているが、イベント開催時以外にも賑わい、訪れたくなる「公園と沿道が呼び合う空間づくり」が必要と考えられている。

名古屋都心部の中央を貫く久屋大通公園会場となった久屋大通公園南エリアにあるエンゼル広場の通常の風景。地面から噴き出す構造の噴水ひろばを樹木が囲んでいる。南エリアにはここのほか、エンゼル広場と同じく大規模イベントが行われる久屋広場や、ライトアップされるモニュメントがある光の広場などがある

テーマは「My Place/Our Park」

2023年9月27日~10月2日の6日間行われた「PAXX?」。J.フロント都市開発株式会社、三菱地所株式会社、株式会社竹中工務店の3社で構成される久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会が主催し、株式会社大丸松坂屋百貨店、株式会社パルコが協賛、名古屋市、株式会社名古屋三越、株式会社中日新聞社、株式会社日建設計が後援を務めた。

前項で紹介した空間づくりのため、公園のそばにある商業施設など、久屋大通の沿道事業者が連携しての開催とわかる。


シンボルにもなるようにと、来場者と作り上げるガーランドオブジェを設置。来場者が小さな木製魚にクレヨンで好きな色を塗り、それをつないで大きな魚のうろこのように(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)シンボルにもなるようにと、来場者と作り上げるガーランドオブジェを設置。来場者が小さな木製魚にクレヨンで好きな色を塗り、それをつないで大きな魚のうろこのように(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)
シンボルにもなるようにと、来場者と作り上げるガーランドオブジェを設置。来場者が小さな木製魚にクレヨンで好きな色を塗り、それをつないで大きな魚のうろこのように(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)ワークショップでは、公園を楽しむためのアイテムとして木製チェアなどを制作©VUILD PlaceLab

今回のテーマは「My Place/Our Park」。いつ訪れても自分のお気に入りの場所“My Place”を見つけることができ、訪れる人たちに愛着を持ってもらえるような都市の憩いの空間“Our Park”の実現を目指すというものだ。

久屋大通公園南エリアのエンゼル広場と呼ばれる一角に約800平方メートルの芝生を敷き、遊具の設置やキッチンカーの出店、市民参加型のワークショップなどを実施した。

シンボルにもなるようにと、来場者と作り上げるガーランドオブジェを設置。来場者が小さな木製魚にクレヨンで好きな色を塗り、それをつないで大きな魚のうろこのように(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)以前、筆者が当サイトで取材させてもらった日建設計が企画・プロデュースした可変式木質ユニット「つな木」(https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01178/)を活用した空間も。キッチンカーで購入した飲食物を楽しんだり、友人などとおしゃべりや休憩する姿が見られた(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)
シンボルにもなるようにと、来場者と作り上げるガーランドオブジェを設置。来場者が小さな木製魚にクレヨンで好きな色を塗り、それをつないで大きな魚のうろこのように(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)つな木は、訪れた人がお気に入りの一冊を寄贈し、他の人に公園で読んでもらう「公園ライブラリー」の提供場にも使われた(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)

第1弾から第2弾へ、その反響は?

久屋大通公園 光の広場久屋大通公園 光の広場

J.フロント都市開発の経営企画室・福士久美子さんに、まずは2022年に開催されたイベント第1弾「PXXX?(読み:ぴー)」の総評について伺った。この第1弾は、久屋大通公園南エリアの南端にある光の広場で開催された。

「開催地の光の広場の来場者数が平常時と比べ2~3倍に増加し、普段は少なかったグループでの利用が増えました。音楽ライブ開催時にはとくに多く、改めて久屋大通公園の集客力、ポテンシャルを感じた一方、日常的に休憩や飲食のできる心地よい空間に対するニーズを感じました」とのこと。

このイベントをきっかけに光の広場を初めて知った、訪れたという人も多く、階段状の造りがおもしろいといった意見もあったという。

「ハレとケ(※イベントなどがある非日常といつもの日常)の両方に対応できる、多様な世代が利用できるコンテンツや可変的な空間が必要である」との仮説のもと、2023年の第2弾において、更なる検証を試みることとなった。

「第1弾の課題を踏まえ、集客イベントだけに依らない、日常的な賑わい空間の創出と多様な世代の来場を企図しました。いつ訪れてもお気に入りの“My Place”を見つけることができ、訪れた人々が愛着を持てる空間“Our Park”の実現のため、設えとして広範囲に芝生を敷設。思い思いにくつろげるハンモック、ガゼボ(屋根付きの休息場所)、遊具やストリートピアノ、LEDインテリアなど、さまざまなファーニチャーを設置しました。クロスリアリティを楽しめるARあおぞら水族館、ピクニックシートやランタン、卓球ラケットの貸し出しも新たに実施しました」

その反響については、「昨年と比較し、ファミリー層の来場が格段に増え、多様な人々が集う場の形成に成功しました。来場されたお客様から、『こんな芝が広がる公園ができたらいい』『ここに親子で遊べる場所ができたらいい』という声をたくさんいただきました」と話す。

ストリートピアノも好評で、情報拡散や来場者を増やす策として優れたコンテンツと感じたという。また、DJによる音楽イベントやLEDインテリア、お酒を提供するキッチンカーによる“芝生チル(※芝生の上でゆったりくつろげる)”を楽しめる夜の雰囲気も好評で、今までにない夜間帯の賑わいを創出することもできた。

久屋大通公園 光の広場「PAXX?」では、普段はない芝生空間が来場者の心をとらえた(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)
久屋大通公園 光の広場LEDの明かりが夜の公園を美しく彩り、いつもと違う雰囲気に(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)

今後は公園と沿道、周辺エリアの連携を強化

2度のイベントを終えたいま、見えた課題とは?
「屋外の公園なので天候リスクに常にさらされるため、設営・撤収スケジューリングや物品保管、雨風、日光を防ぐ設えの不足、イベントの開催か否かの判断に難しさがありました。多様な人々が気持ちよく共存できる空間やルール作り、意識づけに課題を感じました」

現時点での「公園の新しい可能性」については、「久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会としては、公園の新たな可能性がいくつか見えてきたかなと思います。まずは、設えを時間帯や平日休日で変えることにより、状況に応じた心地よい空間を作り出せること。貸出しアイテムやストリートピアノ、公園ライブラリーなどコンテンツを少し提供することで、それを用いて自由に利用者が公園を使いこなし、どんどん発展させて楽しんでくれること。大規模な集客イベントに限らず、ワークショップやキッチンカーなどの運営の仕組みづくりをすることで日常的な賑わいを創出できる可能性も感じました。また、周辺に大規模な百貨店・商業施設が多く立地しているため、今後は公園と沿道・周辺エリアとの連携で久屋大通公園南エリアに賑わい創出していける可能性があると感じています」という。

公共の空間をいかに利用してもらい、市民や周辺エリアとの相乗効果を生み出すか、ということだろうか。

久屋大通南エリアの再整備に向け、「近年、各都市で沿道建物と道路の一体的な活用によるウォーカブルなまちづくりが推進されています。久屋大通南エリアにおいても公園自体の魅力向上と併せて、並行して通る歩行空間の活用による賑わいも高めながら、久屋大通として一体的な流れを生み出せるよう、沿道事業者や行政と共に挑戦したいと考えています」と結んだ。

都心部の真ん中にある久屋大通公園。ショッピングやデート、仕事の合間はもちろん、そこが目的地としても楽しめるようになれば、さらに充実した都市空間になるはずだ。多様な人々が満足できるというのは難しいこととも思われるが、今回の取組みの有用な結果を経て、すばらしい空間ができることを心から願う。

広場には両サイドにベンチが設置されているが、今回のイベントではハンモックなどでも寝転がって休憩できるようにした(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)広場には両サイドにベンチが設置されているが、今回のイベントではハンモックなどでも寝転がって休憩できるようにした(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)
広場には両サイドにベンチが設置されているが、今回のイベントではハンモックなどでも寝転がって休憩できるようにした(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)キッチンカーは日替わりで地元の人気店が出店(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)
広場には両サイドにベンチが設置されているが、今回のイベントではハンモックなどでも寝転がって休憩できるようにした(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)キッチンカーの出店による日常的な賑わいの可能性に期待
広場には両サイドにベンチが設置されているが、今回のイベントではハンモックなどでも寝転がって休憩できるようにした(写真提供:久屋大通公園南エリア賑わい創出実行委員会)最先端の技術を都市空間で楽しめる企画も。「ARあおぞら水族館」では、スマホやタブレットにダウンロードしたアプリ「STYLY」を起動し、公園内を映すとARの海底空間が出現。筆者も体験してみたが、まちの風景と生き物の融合に大人でも想像以上にワクワクした

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