市制100周年を迎え、一宮駅周辺で始まった再開発の動き
愛知県一宮市の玄関口である「尾張一宮」駅が、大きな変貌を遂げつつある。2022年10月6日、尾張一宮駅構内の商業施設「アスティ一宮」がリニューアルオープン。さらに12月14日には、駅前ビル南側に新たな商業施設「尾州ビレッジ」が開業した。これまでにないにぎわいあふれる駅空間を生み出すのが狙いだ。
2021年4月から中核市へと移行し、9月に市制100周年の大きな節目を迎えた一宮市。その中心市街地にある一宮駅は、JR東海道本線の「尾張一宮」駅と名鉄名古屋本線の「名鉄一宮」駅が一体をなすターミナル駅で、乗降客数は両駅を合わせて1日平均9万人ほど。一宮市の代表駅として交通の要衝となっている。
名古屋駅まで快速電車で10分強というアクセスの良さから、近年は一宮駅周辺に新たなマンションや店舗が続々とオープン。一時はシャッター街と化しつつあった商店街にも少しずつ活気が戻り始めている。そんな駅周辺の活性化の起爆剤として期待を集めているのが、一宮駅構内の商業施設「アスティ一宮」の大規模なリニューアルである。
2022年10月、駅構内の商業施設「アスティ一宮」が改装オープン
2022年10月6月、JR東海の子会社で、駅構内の施設の運営などを手掛ける「名古屋ステーション開発」が、一宮駅構内に設けられた商業施設「アスティ一宮」を改装オープンした。1994年にアスティ一宮が開業して以来、初めてとなる大規模なリニューアルである。
「まいにち。よりみち。マーケット」をコンセプトに掲げ、精肉、青果、鮮魚の生鮮品や日用品の品揃えを充実。10月19日には、東海エリア初出店の精肉店「タカギフーズ」のほか、いずれも一宮市初出店となる青果店「カネ井青果」鮮魚店「魚喜」豆腐の工場直売所「とうふや豆蔵」が並ぶ生鮮品売り場「イチエキマルシェ」が全面開業した。
名古屋ステーション開発 企画開発部の品野友博さんは、「これまでも定期的なリニューアル工事は行ってきたものの、抜本的な設備の更新などは行われてきませんでした」と振り返る。開業からすでに30年近くが経過。部分的な改修では今後の設備の維持が難しいこと、駅構内に店舗を構えていたJR東海ツアーズ一宮支店の撤退が決まったことを受け、空いた区画を活用した増床リニューアルが決まったという。
「当社が手掛ける別の商業施設を見てみると、コロナ禍の影響で飲食店の売上が落ち込む中、逆に売上が伸びたのがスーパーマーケットやテイクアウトの業態でした。これを踏まえ、アスティ一宮でも食物販、とりわけ生鮮に力を入れる方向でリニューアルを進めました」(品野さん)
尾張一宮駅の改札を出るとメインファサードがお迎え
改装後のレイアウトは、特に買い回りしやすい店舗配置を意識したという。見通しの良い通路や居心地の良いレストスペースなどを設置し、買い物が楽しくなる明るい空間を演出。「デザインのキーワードは『市場』です」と解説する品野さん。「店舗がそれぞれの個性を出し合い、市場のようなにぎわいを出したいと考えました。そのため、テナントの個性が存分に引き出せるようなデザインを意識しました」
同じく今回のリニューアルに関わる同社 企画開発部の野本荒太さんは、一番大きく変わった点に「メインファサード」を挙げる。「一宮駅の改札を出てすぐ目の前に、アスティ一宮のエントランスがどんと構えている。それが今回の改装のポイントです。買い回りの動線なども大胆に見直しましたが、メインファサードを大きく変えたことで、お客様に入っていただきやすい施設ができたと思います」
これまでは、アスティ一宮の施設としての印象が薄く、店舗を隔てる通路も薄暗かったことから、店舗を利用せず通り抜けるだけの人も少なくなかった。メインファサードが設けられたことで、アスティ一宮が強く印象付けられ、思わず入店してしてみたくなるような明るいイメージへと生まれ変わった。
12月には、駅ビル南側に新たな商業施設「尾州ビレッジ」が誕生
アスティ一宮の改装オープンに続き、12月14日には、尾張一宮駅前ビル南側の駐車場の一角に、5棟の建物からなる商業施設「尾州ビレッジ」が開業した。高さ7mほどの建物が並び、ガラスを多用した開放感のある造りが特徴だ。夜になると建物から明かりがこぼれ、店内のにぎわいが伝わってくる。まずは洋菓子カヌレのテイクアウト専門店「RonRon THE SECOND(ロンロン ザ セカンド)」と、ジンギスカンが味わえる飲食店「なまらむ 羊羊軒」の2店舗が先行オープン。今年春にはクラフトビール工房「尾州ブルーイング」が新たに営業を開始する予定だ。
尾州ビレッジのコンセプトは、「街の新しいコミュニティスポット」だという。「開業に向けた準備を進めるなかで、私たちも一宮駅周辺を見て回りましたが、緑があまりなく歩行者も少ない印象を持ちました」と品野さん。そこで、建物の間にはベンチなどを配し、回遊しながら店舗を巡る楽しみを演出できるように意識した。「買い物だけでなく、散歩コースや待ち合わせスポットとしても使ってもらえれば」と品野さんも期待する。
残り2店舗のテナントは今のところ未定だが、飲食店などを中心に調整を進めているという。「いずれにしても駅周辺にマッチした店舗に入居してもらい、一宮市の魅力をさらに発信していければと考えています」(品野さん)
市街地の活気を取り戻すため、一宮駅周辺が「歩行者の街」に
近年のマンションの林立により、一宮駅から徒歩圏内で暮らす人が増加する一方で、スーパーなどの普段使いの店舗があまりないのが現状だ。駅には名鉄百貨店があるものの、高価格帯の品揃えがメインとなるため、気軽に利用できるとは言い難い。アスティ一宮の改装オープンは、駅周辺で暮らす地域住民の生活インフラとしても機能しそうだ。
改装オープンから3ヶ月あまり。品野さんによれば滑り出しは好調で、想定以上に地域住民の利用が多いという。「鉄道を利用される方はもちろん、周辺で暮らす方にもわざわざ足を運んでもらえるような魅力的な店舗が集まったと思います。今後も買い物を楽しんでもらえるような運営を続けていきたいですね」(品野さん)
2022年秋には、一宮駅東口から本町通商店街へと続く銀座通りが歩行者天国になった。駅東側一帯で「まちなかウォーカブル」と題するイベントが開かれ、普段は車が走る道路にヒツジが登場したり、古い織機が展示されたりするなど、多くの来場者でにぎわいを見せた。一宮市では、国土交通省の「ウォーカブル推進都市」に登録され、2021年から本格的に事業を開始。今後は一宮駅周辺の中心市街地を一新し、歩行者が楽しめるエリアに変える再開発の構想も浮上する。そんな中での今回の一連のリニューアルは、一宮駅が持つ新たな可能性を示したともいえる。一宮駅周辺がどう生まれ変わるのか。今後に期待が高まっている。
アスティ一宮【公式】|名古屋ステーション開発
https://www.nsk-eki.com/asty-ichinomiya/
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