「Suita サスティナブル・スマートタウン(Suita SST)」誕生

Suita サスティナブル・スマートタウンのまちのサインSuita サスティナブル・スマートタウンのまちのサイン

人生100年時代といわれる昨今、高齢者が健康で快適に暮らせるまちづくりへの取組みが進んでいる。その一例が、2022年4月にまちびらきが行われた、大阪府吹田市の「Suita サスティナブル・スマートタウン」(以下、Suita SST)だ。

Suita SSTはパナソニック株式会社をはじめとする異業種15団体と吹田市の共創による多世代居住型健康スマートタウンで、日本の超高齢社会の課題を解決するために、さまざまなサービスを組み合わせ、まち全体で新たな実証・取組みを目指している。今回、Suita SST内にあり、幅広い世代が利用する施設「Gakken多世代スクエア吹田SST」の仕組みや運営を通して、少子高齢化社会における多世代交流型の暮らしの場づくりのヒントを探ってみる。

Suita サスティナブル・スマートタウンのまちのサイン複数の建物からなる「Suita サスティナブル・スマートタウン」
タウン内には複合商業施設「オアシスタウン吹田SST」も開業タウン内には複合商業施設「オアシスタウン吹田SST」も開業

最初にSuita SSTの概要を説明しておこう。
Suita SSTは、パナソニックグループが推進するサスティナブル・スマートタウンの第3弾。関西初であるだけでなく、多世代居住型をテーマにしているのも初めてだ。場所はJR東海道線「岸辺」駅から徒歩9分の、開発総面積約2万3,370m2の敷地。そこに、ファミリー分譲マンション(100戸)、シニア分譲マンション(126戸)、単身者共同住宅(73戸)、ウェルネス複合施設「Gakken多世代スクエア吹田SST」、複合商業施設「オアシスタウン吹田SST」、交流公園が造られた。ここでは、「Suitable Town for Fine Tomorrows」のタウンコンセプトの下、「多世代居住」「健康」「地域共生」の3つのテーマに取組み、カーボンニュートラルが当たり前の社会、誰もが幸せに生きられるウェルビーイング社会を目指している。

Suita SSTは、5つの価値提供で社会のあるべき姿を実現する

地域住民のコミュニティスペースなどを備える「Suita SST base」地域住民のコミュニティスペースなどを備える「Suita SST base」

Suita SSTでは、これからの社会のあるべき姿を実現するために、異業種15社と吹田市が協力し、5つの価値提供を目指す。

1. Energy(エネルギー)
エリア一括受電と再生可能エネルギー、非化石証明書等の活用により、街の中で消費する電力を実質再生可能エネルギー100%で賄う、日本初の「再エネ100タウン(※)」を実現する。また、太陽光、蓄電池、EV、先進ガス機器等の活用により街全体の危機対応力の向上を図っている。再生可能エネルギーを最大限活用し、いざというときも機能し続ける街を目指す。

※街全体の消費電力を継続的に実質再生可能エネルギー100%とすることを目指し、少なくともまちびらきから5年間は実施するという。商業施設、住宅施設を含む街全体を対象とする取組みは日本初(関西電力調べ)

2. Security(セキュリティ)
AIや4K搭載の高性能タウンカメラでの「転倒」「滞留」「車椅子・白杖」等の画像解析を備えたシステムで街を見守り、取得したデータを分析する。誰もがいつまでも安心して暮らし、誰もがいつでも安心して訪れることができる街を目指す。

3. Wellness(ウェルネス)
子どもから高齢者までそれぞれの世代を支援する教育・医療福祉サービスやIoT(モノのインターネット)を活用した高齢者の認知機能低下の検知に取組む。また、「心」「身体」「社会」の3つの観点から、健康につながる要素を取り入れた街の空間やサービス設計など、誰もが健康で心ゆたかに暮らしつづけられる街を目指す。

4. Community(コミュニテイ)
多世代が交流するために街の中心部に公園を設置し、街のコミュニティ醸成をタウンマネジメント組織「一般社団法人 Suita SSTタウンマネジメント」が担う。多世代の交流が自然に生まれ、互いに支え合いながら暮らしつづけられる街を目指す。

5. Mobility(モビリティ)
環境配慮型モビリティシェアリングとして、電動モビリティ、吹田市と連携したシェアサイクル実証を展開。生活を楽しみつつ快適なモビリティサービスを実施する。

ほかにも、吹田市などが近隣で進める北大阪健康医療都市(健都)と相互連携を図り、地域の価値向上につながる取組みを推進していくそうだ。

地域住民のコミュニティスペースなどを備える「Suita SST base」街の中心部にある交流公園
地域住民のコミュニティスペースなどを備える「Suita SST base」吹田市の実証実験「シェアサイクル・ハローサイクリング」

ウェルネス複合施設「Gakken多世代スクエア吹田SST」

ウェルネス複合施設「Gakken多世代スクエアSST」はさまざまな役割を担っているウェルネス複合施設「Gakken多世代スクエアSST」はさまざまな役割を担っている

今回はSuita SSTのうち、「Gakken多世代スクエア吹田SST」に注目したい。この施設は、教育・福祉サービスを総合的に提供する複合拠点で、まちびらきに先駆けてオープンしている。

学研グループは、創業以来75年にわたって、「社会課題の解決」に取組んでいる会社で、主力事業である「教育」と、少子高齢化社会の課題を解決するために新たにスタートした「医療福祉」の2つの事業を中心に、すべての世代に「心ゆたかに生きる」ためのサービスやコンテンツ、環境を提供している。ここでは、「安心できる環境・住まい」「まなび」「交流」をベースとした最先端のサービス提供を通し、誰もが健康で心ゆたかな暮らしを続けられるための拠点を目指しているという。

1階の交流ホールにある学研オリジナルの「多世代マーブルマシン装置」は、ハンドルを回すと、ボールが転がる運動の動きに合わせて自然や地域にまつわる歴史の映像が流れる仕掛けになっている。子どもたちと高齢者が一緒にハンドルを回したり、親子で楽しんだり、いろいろな人たちが一緒に楽しめる、多世代スクエアを象徴するマシンである。

ウェルネス複合施設「Gakken多世代スクエアSST」はさまざまな役割を担っている多世代マーブルマシン装置「からくりコロコロマシン」
ウェルネス複合施設「Gakken多世代スクエアSST」はさまざまな役割を担っている建物内では、最新技術のサーマルカメラにより、立ち止まることなく通過しながら非接触で自動的に温度を測定。安全性を重視した殺菌線遮光方式殺菌灯で常時空間を除菌しているほか、監視カメラによる顔認証により、入居者や施設利用者の安全を守っている

多世代交流を促す各フロアのゾーニング

1階の交流ホールは開放的な空間が広がる1階の交流ホールは開放的な空間が広がる

「Gakken多世代スクエア吹田SST」は、最先端の教育福祉サービス・コンテンツで幅広い世代の、健やかで、心ゆたかな暮らしをサポートしている。また、多世代複合施設ならではのつながり、共に過ごす時間や空間も大きな魅力である。各フロアはサービスごとのゾーニングはしっかりしながらも、自然なふれあいが生まれる仕掛けが盛りだくさんで、まさにコミュニティの拠点といえそうだ。それぞれ役割を持ったフロアを見ていこう。

1階は交流と学びのフロア

1階は、交流ホール、デイサービス、学習塾、アフタースクール、認可保育園、事務所で構成されている。

施設のコンセプトが体感できる交流ホールを軸に、年齢に合わせて子どもたちの能力と学力を育む学習塾を中心とした教育系のスペースと、高齢者向けのデイサービスがある。多世代の交流や、幅広い学びのために開かれたフロアで、福祉と教育のコラボレーションとして、高齢者のデイサービスと子ども向けのアフタースクールを同じ場所で展開しているのが面白い。デイサービスのスペースを営業終了後にアフタースクールスペースとして共用利用することで、日常的に多世代が共生する暮らしを創出するのが大きな狙いだそうだ。

また、学習塾の空き時間をワーキングスペースや社会人向けの講座などに活用。世代や国籍を問わない幅広い学びの場を提供している。時間軸をうまく活用し、年代を限定しない学習環境を整えている。

1階の交流ホールは開放的な空間が広がるデイサービスと子ども向けのアフタースクールが共用利用しているスペース

2階は多世代フロア

2階には認知症を専門とした高齢者向けグループホームと、認可保育所「Gakken ほいくえん吹田SST」があり、高齢者施設は、認知症になっても自分らしく暮らせる環境、保育園は、1階のアフタースクールとともに、乳幼児期以降の子どもが安心できる環境とゆたかな経験を提供している。この2つのリソースを活用し、「こどもの日」や「七夕」などに合同のイベントを実施するなど、学研グループならではの多世代交流を実施している。

3階以上は高齢者向けフロア

3階はグループホームとサービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)入居者向けの食堂が入ったフロア。4階から上はサ高住の居室で、元気な人から介護が必要な人まで、高齢者が安心して暮らせるようになっている。1人部屋と2人部屋があり、身体の状況や生活ニーズに合わせて介護型居室か自立型居室を選ぶことができる。

サ高住では、食堂などの高齢者が日中の多くを過ごす共用部に、生活リズムサポート照明システムを導入し、外出をしなくても健全な生活リズムを保ちやすくする環境を整え、最先端の技術で認知機能低下検知に取組む。また、すべての居室に見守りシステム(ライフレンズ)を設置し、入居者の居室での状態や生活リズムをリアルタイムで把握。「人」の五感に代わる見守りを実現することで、スタッフの精神的・時間的なゆとりを生み出し、介護サービスの品質向上を目指しているという。


なお、建物内部の各所には、さまざまな色がちりばめられ、楽しい空間をつくり出してる。これは、色が与える心理効果を考えたもので、それぞれの空間に適したテーマカラーが選定されているそうで、幅広い世代が利用する施設として工夫がされているのだ。
このように、1つの建物の中に幅広い世代の居場所あり、自然と交流できるような環境がつくられているのである。ここでは多種多様な世代が交流し、互いに助け合いながら生活しているのが、日常なのである。

1階の交流ホールは開放的な空間が広がる多世代交流の様子
1階の交流ホールは開放的な空間が広がるそれぞれの空間に適したテーマカラーが設定されている

Gakken多世代スクエア吹田SSTを見学して

ウェルネス複合施設の外観ウェルネス複合施設の外観

核家族化が進み、多世代で暮らすという経験が少なくなっている現在では、多世代が交流する場所や仕組みが必要になっているのかもしれない。「Gakken多世代スクエア吹田SST」はあえて、さまざまな世代が交流できるような仕掛けが随所にされている。子どもの頃から、高齢者や要介護の高齢者など、多様な人々と一緒に暮らすのは、多様性を知るという観点からも、とてもいいことだと思う。また、すべての人が暮らしやすい街こそ、本当に暮らしやすい街といえるだろう。

今回感じたのは、最新のテクノロジーを利用することで、今までにないコミュニケーションやコラボレーション、安全性の確保を実現できることである。世代によって違う活動時間を利用して、同じ場所を時間によって使い分けるアイデアもすばらしいと感じた。この試みがうまくいくか、これからが楽しみである

異業種共創で推進する、この次世代型スマートシティを体感するツアー(有料)が定期的に実施されているので、興味がある方は参加されるといいだろう。

公開日: