地元の人も観光客も。「&n」でもっとこのエリアが好きになる
名古屋駅から岐阜駅まで電車で直通約20分と好アクセスであるにもかかわらず、市街地近くに山や川などの豊かな自然を有する岐阜市は、中部圏で今もっとも住みたい街として注目されていると言っても過言ではないだろう2022年2月に発表された「LIFULL HOME'S 住みたい街ランキング2022中部圏版」。「借りて住みたい街」で4年連続1位、「買って住みたい街」では2位にランクインしたのは「岐阜」である。
岐阜市の中心部を流れる、日本三大清流のひとつ「長良川」。1,300年以上の歴史を持つことで有名な「ぎふ長良川鵜飼」は、市民の誇りでもある。
鵜を巧みに操る鵜匠は鵜と共に生活をするのだが、鵜匠が暮らしているのが長良川右岸にある「鵜飼屋地区」。このエリアには長良川温泉や長良川うかいミュージアムなどもあり、多くの観光客も訪れる風光明媚な場所だ。
そんな鵜飼屋地区に、このエリアを愛する人たちの手によってつくられた複合施設がある。その名も「&n(アンドン)」。“&nagaragawa”の意味を込め、“長良川を楽しむ”をコンセプトに2019年に誕生。今や地元の人たちの集いの場であり、観光客との交流の場にもなっている。
地元の有志が集まり、旧木材倉庫をリノベーション
お話を伺ったお2人に、鵜飼屋地区の魅力を尋ねた。すると「とにかく住んでいて“心地がいい”んです」と右髙さん(写真右)。「四季の移ろいを肌で感じることができる豊かさです」と白木さん(写真左)は答えてくれた「&n」は以前材木店が倉庫として使用していた建物をリノベーションし誕生した。そもそもどういった経緯で&nをつくることになったのか。
運営メンバーである長良川リバースケープLLPの右髙英一さんと事務の白木あやさんに話を伺った。
「この地域には、13年前から『長良会』という地元の人たちが集まるコミュニティーがあるんです。この土地が好き、面白いことが好き…そんな人たちが集まる長良会は、月に1回集まって(飲み会をして)、情報交換をしたりまちづくりイベントを企画したりしています。メンバーはざっと50名ほど。ただ長良会は来たい人だけが参加する“ゆるい”会。参加するメンバーは多いときも少ないときもあります」と右髙さん。
そんな長良会に、2018年の夏「空き家になっている木材倉庫を活用できないか」という相談が持ちかけられた。そのときに参加していた右髙さんを含むメンバーが中心となり、後日倉庫を見に行くことに。
右髙さんはそのときのことをこう振り返る。「倉庫の内部は独特な構造で、ちょっとした迷路のよう。『これは面白いぞ!』『ここで何かやろうじゃないか!』と、みんなワクワクしていました。ただその時点では、何をやるかは全く決まっていませんでしたが(笑)」
やると手を挙げたのは、デザイナーや建築家、アーティストなど、多様な長良会メンバー13名。「長良川リバースケープLLP(以下:リバースケープ)」という組合をつくり運営することとなった。
「ひとまず掃除をして、週に1回集まりミーティングをすることになりました。少しずつアイデアを出し合ううちに、リバースケープのメンバーの中に『じつはいつか居酒屋をやりたいと思っていて、昔から居酒屋で使う機材などを集めている』という人がいたんです。『それいいじゃないか。やろう、やろう!』と。それで倉庫の一部で居酒屋をやることになり、そこから伝手で『面白そう!』と賛同してくれるお店が増え、お花屋さんやアンティークショップ、アトリエなどの入居が決まっていきました」
そうして「誰もが気軽に立ち寄れる、長良川や鵜飼屋を楽しむ拠点をつくろう」という方向性が決まり、鵜飼開きに合わせた2019年5月11日(※)オープンに向けて動き出した。
※ぎふ長良川鵜飼の開催は毎年5月11日~10月15日
メンバーには言いたいことが言える。ゆるりと支え合える関係性
リバースケープにはリーダーがいない。誰でもリーダーになり得る立場にあるのだ。アイデアのある人が発案し、それに賛同した他のメンバーが無理のない程度にサポートする。もちろん異論があれば唱え話し合う。みんながそんな関係性なのだ。だからこそ面白いアイデアも生まれ、形になっていくのだろう。
「メンバーは決して積極的というわけではありません。強制することもない。ただただ楽しいことや面白いことが好きな人たちなんです」と右髙さんは話す。
それぞれの得意を活かし、ゆるりと支え合う関係性なのだ。&nはメンバーそれぞれがアイデアを持ち寄り、徐々に形になっていった。
白木さんはこう話す。「いつもメンバーの皆さんの雑談から、いろいろなことが始まっていくんです。それはとても面白く刺激がありますね。本業がありながらも『地元を盛り上げたい』『チャレンジしたい!』と、楽しそうに話し動いている姿を素敵だなと思いながら見ています。仲間がいることは心強いですね」オープンから間もなく3年が経とうとする今も、みんなで意見を出し合い、改善したり新しい企画を発案したり、&nは進化を続けている。
地元の人と観光客の交流が生まれる場所
&nに入居する飲食店は、居酒屋、イタリアンレストラン、カウンターバーの3店舗。いずれも地元の人が常連客となっている。そこに観光客がふらりと訪れ、地元住民との交流が生まれているそうだ。
その他、芸術家や衣装作家のアトリエ、ライフスタイルショップ、花店、骨董品店など他に類を見ない多彩なテナントが入居。本来の目的と違う店を覗いてみるのも&nの楽しみのひとつだ。
さらに、目の前の長良川で行われる「SUPツアー」の受付カウンターや川魚の直売店もあり、川魚の直売店では川漁師による「和船ツアー」も行っている。地元の人でもなかなか体験できない“長良川遊び”ができると好評だ。
地域の人とのつながりを大切に、イベントも開催
「私たちが大切にしているのは“地域とのつながり”です。地元の皆さんの理解があってこそ。まずは地元の皆さんに楽しんでもらいたいです。地域の方たちともっと関わり、もっと絆を強くしていきたいですね」と白木さん。
&nのオープンをきっかけに、鵜飼屋地区を訪れる人も増えた。もっとこのエリアを知ってもらい、魅力を伝え、地域の人たちにも喜んでもらえるイベントを、リバースケープでは企画している。
「毎月第2日曜日には『あんどん朝市』を開催しています。&nは店ごとに営業時間や定休日が異なり、朝は営業していないお店も多いです。朝市を開催することで、夜は来られない地元の高齢者の方たちにも楽しんでいただいています」
不定期開催の「夜市」では、行政をも動かした。「&n内だけでなく(遊歩道の)『長良川プロムナードにも出店したら面白いよね』という発案から、岐阜市に相談しました。最初は実証実験という形で出店することができたのですが、たくさんの人で賑わった結果、岐阜市より長良川水辺空間の活用として、このエリアを商用利用できる枠組みができました。私たちの活動が拡がってきていると感じましたね」
今年の鵜飼開きである5月11日にも、イベントを開催する予定。今後もきっとメンバーの雑談からさまざまなアイデアが生まれ、私たちにこれまでにない長良川を楽しませてくれることだろう。
右髙さんはこう話す。「子どもたちが将来、この街を誇りに思えるような場所になってほしいと願っています。そのためにもいつまでも僕らがやるのではなく、市民に開き、いろんな人が参加できるような土台を作りたいです。誰もが関われるようになるといいですね」
自分たちの住む街に愛着を持っているからこそ、その素晴らしさを多くの人に知ってもらいたい、守りたい、そしてさらに発展させたいと思うのだろう。メンバーの皆さんの根底にあるのは“この街が好き”だという思いだ。
筆者は取材をしながら、鵜飼屋地区に住む皆さん、そして素敵な仲間に囲まれたリバースケープのメンバーを羨ましく感じた。一方で自分の住む街のことをあまり知らないと気づいた。まずは自分の住む街を知ることから始めたいと思う。
取材協力:&n(アンドン)
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