大和ハウスグループ みらい価値共創センター「コトクリエ」オープン

みらい価値共創センター「コトクリエ」みらい価値共創センター「コトクリエ」

2021年10月、奈良県に新しい研修施設「大和ハウスグループ みらい価値共創センター(愛称:コトクリエ)」がオープンした。
大和ハウス工業が掲げる「共創共生」という理念のもと、みらいの価値を創造する人財(みらい価値共創人財)を育成することを目的としたものであるが、注目すべきポイントは、大和ハウスグループの社員だけでなく、子どもから高齢者まで幅広い地域住民や異業種の企業、研究機関などとの交流施設として運営されることである。

みらい価値共創センター「コトクリエ」全面開放型の大型研修室 「STUDIO2 」
愛称:「コトクリエ」のロゴマーク愛称:「コトクリエ」のロゴマーク

施設のコンセプトは「森の会所」。
会所とは、室町時代に身分の分け隔てなく車座になって和歌を詠むなど、文芸や遊興のために人が集まっていた場所のこと。
「立場や世代を超えて、夢の実現を語り合い、社会とともに未来を共創する場所をつくる」という思いに、創業者 石橋信夫の生誕地である「吉野の森」の豊かな生態系のイメージを重ねて、「森の会所」になっている。
この施設は、創業者の考えや言葉をはじめ、大和ハウスのDNAを若い世代に引き継いでいく重要な場所でもあるのだ。

ちなみに、みらい価値共創センターの愛称である「コトクリエ」は、『コト』と『コ・クリエーション』が組み合わされた造語。『コト』には、かつての都を表す『古都』、また多種多様な人々をあらわす『個と』、そして未来を担う人財をあらわす『子と』といったさまざまな意味を持たせている。これは、大和ハウスグループの関係者による公募で最優秀賞に選ばれたものである。

ここまで聞くと、どんな施設か興味が湧いてくるのではないだろうか。
今回、みらい価値共創センター長 池端正一氏に施設内を案内していただいた。

「共創共生」が具現化された独創的な建築デザイン

独創的なデザインの外観独創的なデザインの外観

まず、「コトクリエ」の建物自体が、今まで見たことがない独創的なデザインになっている。
「みらい価値共創人財」を輩出するということなので、てっきり近未来的なガラスウォールの建物だと想像していたのだが、むしろその逆。
まるで大地が隆起したかのように、いくつもの地層が積み重なったような建物なのである。
しかし、この建築デザインこそが「共創」の賜物であり、多くの人びとの想いや願いが、建築家小堀哲夫氏の監修のもと具現化したものである。

このプロジェクトは、グループ内のさまざまな職種や役職の社員が延べ150人参加した、ワークショップから始まった。そこから生まれたキーワードは「歴史を活かし、大和ハウスのDNAを継承する」(池端氏)というもの。

DNAについては、大和ハウスグループのシンボル、エンドレスハートのもとになったメビウスの輪と二重らせん構造のDNAを組み合わせて表現することに。確かに建物を上から見ると、メビウスの輪やDNAのらせん構造を思わせるデザインになっている。
また、創業者 石橋信夫の、「21世紀は風と太陽と水」を事業化すべきという言葉は、「風のパティオ」「太陽のホール」「水のサロン」として、建物内に落とし込まれている。
さらに、この場所は平城京の跡地であったことから、発掘調査で採取した奈良時代の土を外壁材にするなど、1300年の歴史を建物に重ねているのである。

独創的なデザインの外観上空から見た建物外観
曲線が印象的な建物外観曲線が印象的な建物外観

敷地面積約1万8,000m2という広さに、延床面積約1万7,000m2の4階建ての巨大な施設。
曲線だらけの個性的なデザインの建築は、さぞ大変だったことだろう。

「今回のプロジェクトは、企画設計から実施設計、そして生産・施工・建物維持管理にわたり一気通貫でBIM(※1)を活用しました。これまで施工したことがない建物に取組むことは大きな挑戦でした。さまざまな人たちが協力し合い創り上げた、まさに研修のようでした」(池端氏)

※1 Building Information Modelingの略。コンピューター上に建築物のデータを3次元で再現し、設計・施工・維持管理の工程で情報を活用する仕組み

共創共生を体現する「森の会所」を構成する3つのゾーン

開放感のある広々とした「太陽のホール」開放感のある広々とした「太陽のホール」

施設内は見通しが良く、開放感のある広々とした空間に、優しい照明が心地よい。
最初に案内していただいたのが、建物の中央部のゾーン「太陽のホール」。吉野杉など、奈良県産の木材が空間内にふんだんに使用された、大ホールである。
「天窓を開放することで、空気の流れが生まれ、館内の空気を循環させることができます」(池端氏)と言われるように、吹き抜けからは光が降り注ぎ、建物内にもかかわらず、まるで森の木々に囲まれているようだ。

ここでは毎月、従業員のための健康ワークのほか、巨大なスクリーンを使った大規模なセミナーやフォーラムなども行われている。また、シームレスに上下階をつなぐ構造になっているので、360度さまざまな場所からホール内を見ることができるのも楽しい。
「コトクリエ」は、この太陽のホールをはじめ、建物内に数多くの木材が使われており、そのデザイン性の高さから、「ウッドデザイン賞2021」を受賞している。

開放感のある広々とした「太陽のホール」県産木材がふんだんに使用された「太陽のホール」
円形の中庭「風のパティオ」円形の中庭「風のパティオ」

建物の南側のゾーンが「風のパティオ」。
心地よい風が吹き抜ける4層吹き抜けの円形の中庭で、地域に開放された緑のオープンスペースになっている。丸い壁に囲まれているので音響効果が高く、バイオリンやフルートのコンサートが行われるそうだ。

この明るい中庭に面してダイニングがある。ここでは、食事のカロリー計算がされており、3食すべてにサラダなど、野菜や果物を4種類以上採用することで、健康に配慮した食事を提供している。
また、観葉植物とアロマの香り、鳥のさえずりが特徴的な癒しのセルフカフェスペースがあるので、一息つきながら語らうことができる。

そして、建物の北側のゾーンが「水のサロン」。
意見を活発に出し合う「動」のゾーンに対して、心静かに落ち着き、より深い思考で自分自身と向き合う「静」のゾーンである。ここには、創業者が好んで引用した水五訓の映像が流れる瞑想ルーム「伯楽の間」がある。
また、遺跡発掘調査で出土した平城京の井戸が、実物展示されているので、間近で見ることができる。1300年前の歴史と対面できる貴重な場所だ。
当時の住宅の柱跡形状が1階の床仕上げに表現されていたり、建物があった場所が周囲より明るい照明で演出されているのも面白い。

開放感のある広々とした「太陽のホール」景色と照明が印象的な「ダイニング」

人々が集い、語らい、成長する「現代の会所」

「Inspiration STUDIO」「Inspiration STUDIO」

施設内には、自由に議論を交わして新しい価値を生み出す仕掛けが、空間デザインや最新のテクノロジーなどを使って、あちらこちらにちりばめられている。

「Inspiration STUDIO」は、ワークショップを効率よく進めるために使われる場所。オランダで育まれた脳科学ベースのファシリテーションメソッド『Brain Active』を国内で初めて取り入れた研修スペースで、専門のファシリテーターが、大型マルチビジョンによる映像演出などで、相互理解やアイデアの創出を生み出す手助けをしてくれる。
「Biophilic STUDIO」は、植物やアロマや自然環境音、影ができにくい照明等でより深い集中ができる研修スペース。

「手元に影ができないのでストレスが少なく、顔の表情もよくわかるという特徴があります」(池端氏)

また、壁全体がホワイトボード仕様になっているので、壁に文字や図を書きながら、自由に議論し合える。話の過程が壁全体に残るので、より理解が深まることだろう。

「Inspiration STUDIO」「Biophilic STUDIO」
明るい研修室「STUDIO1」明るい研修室「STUDIO1」

2階部分には、円形の「風のパティオ」を取り巻くように、さまざまなSTUDIO(研修スペース)が用意されている。
少人数から100名を超える大人数でも対応できるように、広さも形もさまざまである。共通しているのはガラスの仕切りで、外から中の様子が見えるようにオープンになっていることや、壁全体に文字が書けるようになっていること、机や椅子の色とデザインがそれぞれ異なることである。

他にも、ビーズソファに座りながら話ができるミーティングスペースや、一人で集中したいときに使える、吸音材で仕上げた個室のような静かなスペースも用意されている。
会議やワークショップの目的に合わせて使い分けることで、より自由で活発な意見交換ができることだろう。

従来のような、スクール形式に机を並べた、同じような部屋がいくつもある研修施設ではなく、あらゆる空間が開放され、スロープや吹抜けによってフロアがシームレスにつながっているので、お互い刺激し合い、偶発的な出来事が起こりやすくなっているのだ。
また、施設内も緩やかな曲線の空間になっているので、人工的な建物であるにも関わらず、なにか巨大な生き物の体内にいるような感じがする。
五感を刺激する空間にいることで、新しい発想やインスピレーションが湧いてくるのだろう。

「Inspiration STUDIO」ミーティングスロープ

新たな出会いや交流が生まれるマスターリビングルーム

マスターリビングルーム
マスターリビングルーム

施設全体では、宿泊個室や多目的個室、多人数用の宿泊ブースを設けており、288名が宿泊できる。宿泊ブースには、ユニットごとに小単位のリビングルームがあるので、研修者同士が交流できるようになっている。また、フロアの中央部にある、大画面の映像設備を備えた広いマスターリビングルームは、新たな出会いや、交流、そしてつながりが生まれる場所として使われている。

一般的な研修施設は、何度も使うと目新しさがなくなるが、ここでは、来るたびに違う場所を利用できるので、いつも新鮮でワクワクできることも狙い。

「前回の研修の様子が大画面に映し出されるなどアーカイブを使った仕掛けも用意されている」(池端氏)ということなので、毎回研修が楽しみになるだろう。

マスターリビングルーム
奈良盆地の景色を一望する「丹生庵」
水五訓の映像が流れる瞑想ルーム「伯楽の間」
水五訓の映像が流れる瞑想ルーム「伯楽の間」

また、東大寺や春日大社、生駒山、若草山など、広大な奈良盆地の景色を一望する、おもてなし空間「丹生庵」も設置。遺跡の発掘で出てきた、土器や壺なども展示されている。

このように、「コトクリエ」には、意見を出し合い考え学ぶ場所、人と出会い交流する場所、歴史に思いを馳せ、自分を見つめ直す場所など、さまざまな空間が用意されているのである。

マスターリビングルーム
遺跡発掘調査で出土した平城京の井戸

ESG経営、SDGsを踏まえた環境配慮の取り組み

祈祷室祈祷室

「共創共生」という理念は、ESG経営や、SDGsに通じるものであり、「コトクリエ」のさまざまな場所に反映されている。

例えば、「オールジェンダートイレ」。
出入り口とは別に複数の出口を設けるなど、サインや動線を工夫することで性別に関係なく利用者が気兼ねなく使うことができる。私も使わせていただいたが、一方通行の動線は人の目が気にならないので、とてもよく考えられている。

ダイニングでは、リサイクル原料50%のプラスチック食器を利用するなど資源の有効活用を促進。
また、宗教や宗派を問わず、多様な文化的背景を持つ利用者のための「祈祷室」や子育てをしながら仕事や研修ができるよう「授乳室」が設けられている。

祈祷室オールジェンダートイレ
万葉植物に彩られた「万葉の庭」万葉植物に彩られた「万葉の庭」

南側の外構「万葉の庭」を中心に約60種の万葉植物(万葉集で詠まれた植物)が植えられている。その結果、さまざまな生物がこの場所に集まってきている。
「万葉植物を探すワークショップなど、文学と植物、生物に触れる教育にも使われている」(池端氏)とのこと。

雨水も、敷地外に出さずに地下水に戻す「レインガーデン」と、屋根で受けた雨水を地下の貯留槽に貯めて植栽への散水やトイレの浄化水として利用する2つの取組みがなされている。

これらの取組みにより、「コトクリエ」は、国内認証の「BELS(省エネルギー)」「JHEP(生物多様性)」、日本初となる3つの国際認証「LEED(環境配慮)」「SITES(ランドスケープ環境)」「WELL(利用者の健康・快適性)」の合計5つの環境認証を取得している。
この環境認証取得で培ったノウハウを活かして、他の施設にも提案していくとのことだ。

祈祷室雨水を水景として活用した「まほろばの庭」

みらい価値共創センターの存在意義と今後の展開

地域の展示物(2022年3月時点)*3ヶ月ごとに展示物は入れ替わります。地域の展示物(2022年3月時点)*3ヶ月ごとに展示物は入れ替わります。

この施設は、グループ企業の社員教育にとどまらず、地域住民や異業種の企業、研究機関などとの交流施設にもなっている。

この施設が目指しているのは、地域の子どもたちを中心とした「共育活動」、さまざまなステークホルダーとの「共創活動」、大和ハウスグループの新たな事業価値を生む「社員教育」の3つの活動を通じて「『みらい価値共創人財』の育成拠点」となること。

例えば奈良女子大学附属中等教育学校との連携プログラムである「理想の家を造ろう」や、大学生のワークショップ「私たちが描く、2055年の世界」などの共育活動を実施。
「家をつくる、街をつくるなどのワークショップに対して、どのようにしたら人の役に立つのかという視点で取り組んでもらっている」(池端氏)

子どもも大人もさまざまなカリキュラムを1日で体験できる「コトクリエDAY」も実施されている。

地域の展示物(2022年3月時点)*3ヶ月ごとに展示物は入れ替わります。フォーラムの様子

また、異業種企業や研究機関とともに社会課題解決への価値を生むことにも取組んでいる。
2022年2月10日には、「第1回森林・木材みらい価値共創研究会~木材加工技術と実用化~」が開催され、約200名の方がZOOMウェビナーを用いたオンライン開催に参加した。
「この施設を通して一般の人にも、“知る”⇒“学ぶ”⇒“考える”⇒“創る”⇒“生きる”という過程における、“知る”のきっかけを与えていきたい」(池端氏)という。
ツアーガイド付きの施設見学ツアーもあるので、興味がある方は見学されるといいだろう。


テクノロジーがますます進化し、AIが労働業務を行うようになるならば、人間は、人間にしかできないことを磨いていく必要がある。みらい価値共創人財を育てるためには、人間本来が持っている五感を活性化させ、解き放つことが必要なようだ。リモートワークが増加することで、五感を使う環境がますます少なくなり、人間関係が気薄になりがちな時代だからこそ、こういうリアルな研修が必要とされるのだろう。

「コトクリエ」は、大和ハウス工業が今まで培ってきた事業や人財育成のノウハウを社会に還元するという新しい試みである。それは、「何をしたら儲かるかではなく、どういう商品が、どういう事業が世の中のためになるかを考えろ」という、創業者の精神であり、大和ハウスグループの原点そのものである。
企業には、それぞれの企業精神や哲学がある。そのノウハウを社会に還元することで日本の未来はもっと良くなるような気がする。このような取組みをする企業が増えることを期待したい。

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