中古住宅の長寿命化などに補助金を交付する制度
日本の空き家の増加が社会問題となって久しい。一方で中古(既存)住宅を選ぶ人も増えているようだ。2020年度「土地問題に関する国民の意識調査」(国土交通省)を確認すると、「あなたが所有したいと思う住宅はどのようなものですか(新築住宅or既存住宅)」という質問に対し、2011年度は「新築・既存どちらでもいい」「既存住宅」と答えた人は合わせて30.8%だった。ところが2020年度は合計で46.6%となっている。従来の日本人は新築志向が強かったが、近頃は半数近い人が「中古住宅でも構わない」または「中古住宅がいい」と考えているのだ。
しかしながら、いざ中古住宅を購入しようとすると品質が気になるケースが多い。国土交通省の調査(2016年10月)によると、中古住宅の購入を検討したが購入しなかった人の89%が「設備に不具合はないか」、82%が「耐震性能」、80%が「耐久性能」を重要視していた。
このような背景から国は「長期優良住宅化リフォーム推進事業」を行っている。これは中古住宅の長寿命化や省エネ化等に資するリフォームや子育て世帯向け改修に補助金を交付する制度だ。
インスペクションなど3つの交付条件
補助金を受けるには3つの条件を満たす必要がある。
①インスペクション(現況調査)の実施
インスペクションとは、床や壁の傾きや雨漏り、白アリ被害など劣化状況の有無を把握するための調査だ。劣化事象が見つかった場合は、リフォーム工事と同時に補修を行うか、対応方法と対応時期の明記が必要になる。なお、インスペクションを行うのは原則、建築士である既存住宅状況調査技術者(国家資格)でなければならない。
②リフォーム後の住宅が一定の性能基準を満たすこと
一定の性能基準には、下記の必須項目と任意項目がある。それぞれの性能のレベルは後述する。
「必須性能項目」
・躯体構造等の劣化対策:柱、床などの腐朽、蟻害の抑制
・耐震性:大地震でも倒壊しない耐震性の確保
・省エネルギー対策:窓や壁、床、天井などの断熱化。給湯器などの効率化
「任意性能項目」
・維持管理、更新の容易性:給排水管を点検・清掃・交換しやすくする
・高齢者対策(共同住宅のみ):バリアフリー化
・可変性(共同住宅のみ):将来の間取り変更等に対応しやすくする
③リフォーム履歴と維持保全計画を作成すること
リフォーム工事の内容を示す図面、写真等を作成し、保存する。また住宅を長持ちさせるために30年以上に対して少なくても10年ごとに点検を行う維持保全計画を作成する。
補助金はリフォーム全体に出るのではなく、上記のような特定の性能項目を一定の基準まで向上させる工事などに対してだ。性能向上工事以外には、次の工事が対象となる。
・三世代同居対応改修工事
・子育て世帯向け改修工事
・防災性・レジリエンス性の向上改修工事
それぞれの内容は、下の画像で確認してほしい。
補助限度額は最大300万円
さて、気になる補助金の金額だが、これは住宅性能をどれだけ向上させるかによって異なる。基準(事業タイプ)は以下の3つだ。
3つの事業タイプ
1.評価基準型
性能項目のうち必須項目である劣化対策、耐震性、省エネルギー対策について評価基準に適合する。具体的には国が定める住宅性能表示制度の劣化等級2、耐震等級1、断熱等性能等級3といったレベルだ。
2.認定長期優良住宅型
所管行政庁(都道府県、市区町村など)から長期優良住宅(増改築)の認定を受けるもの。具体的には国が定める住宅性能表示制度の劣化等級3、耐震等級1、断熱等性能等級4、維持管理対策等級3といったレベルだ。
3.高度省エネルギー型
長期優良住宅の認定を受けたうえで1次エネルギー消費量が省エネ基準比20%削減されるもの。
補助限度額
補助限度額は事業タイプによって異なり、次のようになっている。
補助率
3分の1(補助対象リフォーム工事等の合計額の3分の1が補助される)
補助限度額
・評価基準型:100万円/戸(150万円/戸)
・認定長期優良住宅型:200万円/戸(250万円/戸)
・高度省エネルギー型:250万円/戸(300万円/戸)
( )内は「三世代同居対応改修工事を実施する場合」「若者や子育て世帯が工事を実施する場合」「中古住宅を購入し、売買契約後1年以内に工事を実施する場合」。
なお、評価基準には例外もあり、基準そのものも複雑だ。そして各世帯の予算や求める住宅性能もそれぞれのはずだ。そのため、どの事業タイプに合わせてリフォームを行うかは、工事を依頼する事業者と相談すればいいだろう。
補助金受け取りまでの流れ
補助金を受け取るまでには次のような段階を踏むことになる。
1.事業者登録
2.インスペクション
3.維持保全計画の作成、工事内容の確定、工事請負契約の締結
4.住宅の情報を同事業のホームページに登録
5.交付申請、交付決定
6.リフォーム工事実施、リフォーム履歴作成
7.完了実績報告、交付額確定通知
8.補助金振り込み
リフォーム工事を行う事業者は、工事の請負契約を締結する前に事業者登録をする必要がある。すでに登録済みの事業者はこちら↓のサイトで確認できる。
https://choki-reform2.jp/R03APR/publish/1
同事業の申請手続きは、リフォームを依頼する登録事業者が行う。補助金の受け取り方法は、事業者が受領後に発注者に支払う方式か、工事代金を請負金額から補助相当分を差し引いて支払う方式か選ぶことになる。
一戸建てだけでなくマンションも対象
同事業は、一戸建てだけでなくマンションも対象だ。ただし、劣化対策や耐震性については、建物全体で評価基準等を満たす必要がある。また、維持管理更新の容易性の基準適合を判断する際には、共用配管・当該住戸の専用配管の両方が基準適合していることが必要だ。このようにマンションならではの条件があるので、詳しくは管理会社や下記サイトなどで確認してほしい。
https://r03.choki-reform.com/guest/faq/search.php?keyword=2
なお、2021年度の同事業の交付申請受付はすでに終了となっている。来年度(2022年)も同様の内容になる見込みだが、詳細が決まるのは2022年4月中旬になるはずだ。正確な内容を知りたければ、その時期に長期優良住宅化リフォーム推進事業「総合トップページ」を確認すればいいだろう。
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