廃棄予定の建設資材を引き取り、アウトレット建材として販売

2021年4月に設立された「HUB&STOCK(ハブアンドストック)」(以降、ハブスト)というスタートアップをご存じだろうか。建設現場で余剰となった未使用・新品の資材を買い取り、アウトレット価格で販売するという、サステナビリティに資する事業に取り組んでいる。社会解決型のビジネスを展開するボーダレス・ジャパン(東京都新宿区)の子会社だ。
「ストック(資源)をつなぐ、ハブのような存在になりたい、という願いを込めてこの社名をつけました」と代表の豊田訓平さんは話す。

代表の豊田訓平さん。現在はひとりで全業務をこなす(写真/介川亜紀)代表の豊田訓平さん。現在はひとりで全業務をこなす(写真/介川亜紀)
代表の豊田訓平さん。現在はひとりで全業務をこなす(写真/介川亜紀)資材の引き取りに使用しているというトラック。豊田さん自らが運転、運搬している(写真/介川亜紀)

基本的なサービスは、建設会社の倉庫に行って不要になった余剰資材を買い取り、ハブストの倉庫で保管しながらアウトレット建材として販売するというもの。10月に東京都板橋区に構えたばかりの約20坪の倉庫は、取材に伺った2022年1月現在、すでに約600種1万2,000点の資材でいっぱいだ。資材の種類は壁紙や床材、タイル、ドア、金物など多岐にわたり、倉庫内に分かりやすく分類・保管されている。壁紙や床材が半数を占めるという。

「今は、1都3県の建築会社約20社と提携していて、基本的に2、3ヶ月に1回のペースで資材を引き取りに行っています」(豊田さん)

代表の豊田訓平さん。現在はひとりで全業務をこなす(写真/介川亜紀)倉庫の様子。豊田さん自ら組み立てた棚にアウトレット建材を整理。棚は足場として使われる単管パイプを組み立てたもの(写真/介川亜紀)
代表の豊田訓平さん。現在はひとりで全業務をこなす(写真/介川亜紀)タイルやブリックも多数。箱や包装は空いているが中身はすべて未使用(写真/介川亜紀)

メーカー希望小売価格の7~8割引き! ユーザーはLINEの公式アカウントから購入も 

ハブストではそれらの資材を、メーカーの希望小売価格の7~8割引き、卸売価格の2~3割引きで販売している。利用者はリフォーム会社や不動産管理会社、DIYをする人たちが多い。不動産管理会社は、入居者退去時の原状回復リフォームに活用するのだという。資材の購入はLINEの公式アカウントから申し込む。

「改修に使われるケースが多い理由は、それぞれ品番の資材の分量が限られるためです。改修であれば(うまく組み合わせて使うなどすれば)ほぼ支障はないと思います」(豊田さん)

気に入ったものが見つかれば、格安で満足度の高い改修が実現することになる。

アウトレット建材を活用して原状回復した賃貸住宅。小ロット品は部屋や場所ごとに使い分けられるというメリットがある。施工は平和建設(写真/HUB&STOCK。写真は特記以外すべてHUB&STOCK)アウトレット建材を活用して原状回復した賃貸住宅。小ロット品は部屋や場所ごとに使い分けられるというメリットがある。施工は平和建設(写真/HUB&STOCK。写真は特記以外すべてHUB&STOCK)
アウトレット建材を活用して原状回復した賃貸住宅。小ロット品は部屋や場所ごとに使い分けられるというメリットがある。施工は平和建設(写真/HUB&STOCK。写真は特記以外すべてHUB&STOCK)白い壁紙はすべてアウトレット建材。異なるデザインの壁紙でも、白系で統一すれば違和感はない
アウトレット建材を活用したリモートワークスペース。小規模な施工でも余剰が出ず、安価に収められる好例
アウトレット建材を活用したリモートワークスペース。小規模な施工でも余剰が出ず、安価に収められる好例

このほか、ユニークな販売方法をいくつか検討している。まずひとつは、ホームセンターでコーナーを設けてもらっての販売だ。

「ホームセンター側は、サステナビリティへの取り組みのアピールになるほか、ハブストのアウトレット資材と一緒に他の関連商品を購入する機会創出になるかもしれません」(豊田さん)

もうひとつは、「ハブスト・レシピ」と名付けた6~8畳の部屋向けの改修用資材のキットである。あるテーマを決め、内装に必要な資材をすべてまとめるというものだ。これは、豊田さん単独ではなく、興味を持った建築系の学生や不動産管理会社などと一緒に開発を進める可能性もあるという。

建設業界で目の当たりにした余剰資材の廃棄。「環境負荷を低減したい」

代表の豊田さんはなぜ、これまで一般的には見られない、余剰資材の販売に取組もうとしたのだろうか。豊田さんはこれまでゼネコン及びデザイン事務所に勤め、約200件もの建設現場に携わってきた。その中で長らく気になっていたのが、余った資材の廃棄だった。それらはいずれも未使用だ。

「建設業界では工期は厳守。そこで、資材の不足を防ぐため、多めに発注しています。余剰となった資材は他の現場に融通するのは難しく、ほとんど廃棄されてしまう。環境負荷は高い。BIM(Building Information Modeling)を使えばロスを最小限にできますが、すべての現場に導入するのは現実的ではないと思います」(豊田さん)

また、いわゆる新建材は混合廃棄物のためリサイクルが難しく、最終処分場で埋め立てられる。排出量は関東4都県のみで約100万トン(2018年)に上るうえ、しかも、最終処分場の残余年数は6.5年という状況だ。いっぱいになれば、他の地域に廃棄場所を探すことになる。リサイクルできたとしても、エネルギーを消費するため、結局は環境に負荷がかかる。

「資源循環(リユース)だと、リサイクルに比べて消費エネルギーが少なくなります。そこで、資源循環を促すようなハブストのビジネスモデルをつくり上げました」(豊田さん)

今後は、ハブストのシステムの全国展開のほか、アウトレット建材を活用して衰退に悩むまちの家々をまとめて改修するような、大規模なプロジェクトにも取組みたいとする。

下田市の空き家再生プロジェクトにアウトレット資材を提供。サステナビリティの輪を広げる

先頃、ハブストは株式会社LIFULLが運営するLIFULL Fab (デジタルファブリケーション機器を備えた会員制シェア工房。以降、Fab)と提携。 Fabの運営メンバーを中心に進行した静岡県下田市の空き家再生プロジェクトの内装の材料に、アウトレット建材が取り入れられた。

「当社は事業を通じて社会課題の解決に取り組んでおり、Fabでもサステナブルなモノづくりを意識していました。そこで、今回の空き家再生プロジェクトでは、古材や建材資源ロス問題に資するアウトレット建材を優先して活用することにしました」とFabの責任者(プロジェクト発足当時)、小田陽子さんは説明する。

改修前の室内の様子。大きな傷みはなかったが、築30年なりの古さ。いわゆる新建材で構成された内装だった(写真/LIFULL)改修前の室内の様子。大きな傷みはなかったが、築30年なりの古さ。いわゆる新建材で構成された内装だった(写真/LIFULL)
改修前の室内の様子。大きな傷みはなかったが、築30年なりの古さ。いわゆる新建材で構成された内装だった(写真/LIFULL)改修を行った建物は比較的傷みが少なかった。周辺の建物の中には潮風の影響で傷みが激しいものも(写真/LIFULL)

当プロジェクトは、2019年にLIFULLと下田市が結んだ、空き家などの利活用等を通じた地域活性化連携協定を発端に生まれたもの。当協定では、少子高齢化対策、経済活性化対策の一環として、テレワークやワーケーションなどの新しい働き方、生き方の推進と、下田市で増加している空き家、空き店舗、遊休資産などの有効活用をめざしている。
当プロジェクトには、新型コロナ感染症を機とした働き方の変化を背景に、ワーケーションなどの一時利用を通じて、下田市の関係人口を増やしたいという狙いがあった。

「一足飛びに移住、定住は難しいものの、ワーケーションを機に下田の魅力に触れてもらうことで、定期的に通う人々を増やすことができるのではないでしょうか」(小田さん)

改修前の室内の様子。大きな傷みはなかったが、築30年なりの古さ。いわゆる新建材で構成された内装だった(写真/LIFULL)改修修了後の様子。1階は壁を取り払い、既存の柱を現しにして、広々としたコワーキングスペースに(写真/LIFULL)

使用量の合う箇所に、床材のフローリング、タイルを活用

江戸末期に下田を開港したペリー・マシュー提督が歩いたとされているペリーロード沿いにある、築30年の漁師の元寮、延べ床面積130m2の建物をコミュニケーションスペース+シェアハウスに改修する計画を立てた。近隣は、平滑川に沿って続く石畳の道に、江戸末期~大正時代に建造されたとされる建物が並び風情がある。

「1階はコミュニケーションスペースとして、”ワークスペース”、”小商いスペース”、”キッチン”で構成。2階は個人スペースがあるシェアハウスに。ハブスト のアウトレット建材の中から、コワーキングスペースの床材やタイルを利用しました。優れたデザインや材質の建材を安く使えるのはうれしいですね。一方、気に入っても量が足りないというケースはありそう」(空間コーディネート・内装設計担当の沼田汐里さん)

改修後の1階、コワーキングスペースの様子。棚やデスクはコンピュータ制御された木材加工機を活用して加工した。曲線にも対応する(写真/LIFULL)改修後の1階、コワーキングスペースの様子。棚やデスクはコンピュータ制御された木材加工機を活用して加工した。曲線にも対応する(写真/LIFULL)
改修後の1階、コワーキングスペースの様子。棚やデスクはコンピュータ制御された木材加工機を活用して加工した。曲線にも対応する(写真/LIFULL)ボランティアを募り、DIYで内装を仕上げた。参加者は大学生のほか、会社員、カメラマン、舞台演出家などさまざまだった(写真/LIFULL)

今回はボランティアを募り、壁・天井の塗装や家具のデザインやコンピュータ制御された木材加工機での部材の切り出し、新たな内装の仕上げなどの作業を手伝ってもらった。計10日間工事現場を公開し、ワークショップイベントには1日あたり10名、延べ約30名が参加したという。首都圏など遠方から来た人は近隣のゲストハウスに宿泊するなど、当プロジェクトは施工段階から関係人口の獲得に貢献したようだ。なお、このシェアハウスは2022年3月から利用者の募集を開始。ワーケーションなどでの短期滞在はもちろん、コワーキングスペースの一時利用も可能だ。

今後は、空き家の掘り起こしから、ハブストのアウトレット建材を活用した再生まで一貫して盛り込んだプロジェクトを下田市で面的に展開する予定だ。アウトレット建材の認知と流通がさらに広がることで、並行して、よりサステナブルな空き家再生が日本に広がっていくかもしれない。

■取材協力
・HUB&STOCK https://hub-st.jp/
・LIFULL Fab   http://fab.lifull.com/

改修後の1階、コワーキングスペースの様子。棚やデスクはコンピュータ制御された木材加工機を活用して加工した。曲線にも対応する(写真/LIFULL)床のフローリングはハブストのアウトレット建材(写真/LIFULL)
改修後の1階、コワーキングスペースの様子。棚やデスクはコンピュータ制御された木材加工機を活用して加工した。曲線にも対応する(写真/LIFULL)水まわりのタイルもアウトレット建材(写真/LIFULL)

公開日: