石巻で空き家再生を手掛ける巻組

東日本大震災から10年目の節目ともいえる2021年。株式会社巻組(宮城県石巻市)は株式会社ガイアックス(東京都千代田区)と資本業務提携を行う、という情報が住宅業界、リノベーション業界をにぎわせた。目的は、石巻市内を中心に展開してきた「空き家を改修したシェアハウス」の運営事業を東北各地へと拡大すること。空き家に関わる事業での資本提携はそう多くない。そして2022年1月、一戸建ての空き家を活用した、資本提携でのシェアハウス第1号が石巻市郊外にオープン予定だ。

巻組をご存じだろうか? 代表取締役の渡邊享子さんを筆頭に6人という少数精鋭で、地元の空き家を生かしながら、シェアハウス、ゲストハウスなどの管理運営、リノベーションのコーディネート、クリエイティブ人材の育成支援など、幅広い事業に取組んでいる。被災地に根付き、新たな事業に挑み続けてきたことから、2019年には第7回DBJ(日本政策投資銀行)女性ビジネスコンペティション女性企業大賞を受賞するなど、渡邊さんとその業績は、まちづくり、震災復興などの枠を超えて知られる存在になっている。

2020年に完成した民泊施設とカフェ「OGAWA」の外観(左)<br />右の建物の2階にはワークスペースを設けている(写真提供/巻組。以下、特記以外すべて巻組)2020年に完成した民泊施設とカフェ「OGAWA」の外観(左)
右の建物の2階にはワークスペースを設けている(写真提供/巻組。以下、特記以外すべて巻組)
2020年に完成した民泊施設とカフェ「OGAWA」の外観(左)<br />右の建物の2階にはワークスペースを設けている(写真提供/巻組。以下、特記以外すべて巻組)OGAWAの1階にあるキッチン付きの和室のコミュニティスペース。2階は宿泊用の個室とドミトリー

東日本大震災の居場所探しが機となった、シェアハウス運営

渡邊さんの空き家活用のきっかけは、まさに東日本大震災直後に遡る。当時、渡邊さんは都市計画を研究する大学院生として、即座に石巻の被災地支援に参加していた。その際、地元には単なる一時的なボランティアではなく、長期的、計画的に支援に関わろうとする人たちが増えていた。ところが、多くの建物が地震や津波によって使用不能になっており、彼らが寝泊まりできるような場所は非常に限られていたという。

「地元の方々も住むところがない中で、地域外の人たちが新たに住宅を借りて住むのは非常にハードルが高かったんです。そこで、みんなで集まって住んで、昼間は復興活動をして…という状況を見て、シェアハウスをつくりたい、と考えたことがそのまま事業に結び付きました」

その後、2014年頃から住宅や店舗つき住宅などの空き家を活用して、次々にシェアハウスやゲストハウスを手掛け、自ら運用も担っていく。

隣の建物にあるOGAWAのワークスペース。近隣に建物が接近しておらず十分な採光隣の建物にあるOGAWAのワークスペース。近隣に建物が接近しておらず十分な採光

解体、改修は最低限にして、初期投資を抑える

そのような状況の中で、渡邊さんは2015年ごろから、空き家を保有する大家さんから度々相談を受けるようになった。人口が減っているこの地域で、保有している空き家を売買することは半ばあきらめているものの、放置して朽ちさせるなどして住環境を悪化させ、近隣に迷惑をかけるわけにもいかない、どうしたらいいのか…というもの。そのころから、相談を受けた大家さんと要望が合えば空き家を買い取り、シェアハウスなどに活用するケースが増え始めた。とは言っても、無償かそれに近い金額で譲ってもらうケースも多いのだという。

「私たち巻組は、空き家を活用する技術や、リノベーションを含む運営などについても知見があります。私たちがシェアハウスなどで活用して、並行して地域外からの移住や二拠点居住を望む入居者を誘引していく。そのようにして大家さんの住まいに対する想いをつなげたり、地域の活性化にも貢献したりしていきたいですね」

震災から10年超の昨今になると、石巻周辺の住宅に関する状況がさらに変わったという。この10年の間に復興予算で約7,000戸の新築住宅が供給された一方で、震災当時に16万人だった人口が、今や14万人を切っている。結果、住宅は供給過多となり空き家増加につながったと考えられる。2018年の住宅・土地統計調査では、市内に空き家が1万3,000戸あることが明らかになっている。

OGAWAの2階のドミトリー。壁は合板を取り付けて刷新、壁紙や塗装などは省いた(写真/介川亜紀)OGAWAの2階のドミトリー。壁は合板を取り付けて刷新、壁紙や塗装などは省いた(写真/介川亜紀)

巻組のシェアハウス、ゲストハウスなどの数は改修中の物件を含めて延べ15棟、現在も稼働しているのは11棟だ。それだけの数をつくり会社の事業を維持してこられたのは、1棟1棟、収益化をにらみつつコストパフォーマンスのよいリノベーションを心がけてきたからだという。使える部分は積極的に残し、解体する箇所を最低限に抑える。水回りは刷新が必要なケースが多いが、キッチンなどは合板を組み合わせなるべくシンプルに仕上げるようにしている。屋内のデザイン性にはこだわりつつ、あえて外観は最低限の修繕を施すのみにとどめ、新たな設備や機能は付加せずにミニマルな改修を行っている。

「新たな材料費や工事費だけでなく、実は解体した箇所の廃材の処分費などもばかになりません。そういう意味でも、使えるものは使う。そこまでコストを切り詰めています」

OGAWAの2階のドミトリー。壁は合板を取り付けて刷新、壁紙や塗装などは省いた(写真/介川亜紀)OGAWAの洗面スペース。合板にシンクを組み合わせたミニマムなデザイン(写真/介川亜紀)

ガイアックスとの資本提携で事業拡大を図る

あるときから、渡邊さんはシェアハウス、ゲストハウスを、石巻にとどまらず、東北地方をはじめとする広範囲で展開することを考え始めた。実践に向けて壁となったのが資金繰りだった。
「無償か無償に近い空き家を購入し、効率的にリノベーションをしてはいますが、やはり相当額の初期投資は必要ですし、投資費用の回収にも時間がかかります」

思い悩んでいた2021年初頭、社会起業家の支援をするNPO法人を介してガイアックスの代表執行役社長と知り合い、とんとん拍子に出資が決まった。同代表はすぐに現地を訪れ、視察したという。ガイアックスは主にソーシャルメディアとシェアリングエコノミー領域のスタートアップなどを対象に、さまざまな事業支援を行う会社だ。昨今はシェアリングエコノミーの中でも不動産分野に着目し、全国住み放題を銘打った「ADDress」、外泊すると賃料が下がる賃貸物件「unito」などの事業にも出資している。
「シェアリングエコノミー的な不動産の流動化に着目されていたことから、巻組のコストパフォーマンスの高いリノベーションに興味を持っていただいたようです」

今後はまず、仙台への通勤可能なエリアから空き家を掘り起こし、シェアハウスへのリノベーション、運営を開始する予定だ。
「東北地方は4~5人の家族が住んでいた、大型の一戸建ての空き家が多いんですね。それらを有効に活用していきたい。仙台の通勤圏でシェアハウスを点在させるような事業スキームが確立できたら、他の地方都市の通勤圏でも展開してみたいですね」

「ADDress」の物件の一例。北鎌倉の緑に囲まれた考古学者の元自邸を転用したものだという(写真/アドレス)「ADDress」の物件の一例。北鎌倉の緑に囲まれた考古学者の元自邸を転用したものだという(写真/アドレス)

シェアハウスを通して、住む地域、暮らし方の選択肢を増やしたい

渡邉さんがシェアハウスやゲストハウス、ひいては住宅に力を注ぐ理由は何なのか。
「ここ10年で石巻に新築の復興住宅が増えたり、立派な防潮堤ができたりしました。現地の人たちの生活やその変化などをそっちのけで、ハード整備に膨大な復興予算が使われたのだと実感しています。それって高度経済成長期とあまり変わらないですよね。そういう様子から、私たちの暮らしに関わる住宅業界を変えていきたいという思いが強くなりました。人口減少を先駆けている東北地方で、今の時代に見合う住宅の活用方法を探ってみようと思っています」

シェアハウス「ハグロBASE」。ここは現在、3人の女性がアトリエとして使用しているというシェアハウス「ハグロBASE」。ここは現在、3人の女性がアトリエとして使用しているという

空き家それぞれの持ち味を生かし、さまざまな間取り、デザインに直していくと、そこを気に入って入居した人たちがそれぞれ新たなライフスタイルを見つけ、発信するようになるのではないか。それをヒントに、多くの人が日本各地に住みやすい地域や住まい方を見つけられるようになり、各地域の持続可能性にもつながるのではないか、と渡邉さんは考えている。シェアハウスはその際たる形なのだという。

「シェアハウスはまだ一般的ではなくて、個性的な居住者が多いんですね。一人暮らしで農業や狩猟をやっていたりする。自身が暮らしやすい形のシェアハウスと出会えば、ライフスタイルとして選びうると思います。また、『ミニマリズム』『エコロジー』などに感度が高い層が育っている昨今、空き家を活用してミニマルスタイルをつくる、そういう選択肢としてもシェアハウスをもっと浸透させていきたいと思っているところです」

シェアハウス「ハグロBASE」。ここは現在、3人の女性がアトリエとして使用しているというアーティストたちに活躍の機会を提供するため、倉庫を活用した制作・発表の場「Creative Hub」の2階はコワーキングスペース

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