下田市に絶景ワーケーションスポットが誕生

コロナ禍をきっかけにリモートワークが増え、その受け皿ともなるワーケーション施設が全国に増えつつある。その一つ、静岡県下田市に「WORK×ation Site 伊豆下田」が2021年7月に開業した。眼下に広がるオーシャンビューは圧巻である。大浦海岸を一望でき、施設の庭にはBBQ設備も併設されている。

東京駅から特急「踊り子」に乗れば、乗り換えなしで最寄りの伊豆急下田駅に到着する。さらに車に乗って5分ほどでワーケーション施設だ。踊り子号の車内は、非日常感を味わえるワークスペースとしても快適だ。移動中も含めてワーケーションのプランニングができるのも、この施設の訴求ポイントだと、運営管理をする三菱地所株式会社の担当者。ちなみに施設の所有は下田市である。

施設は、会社での利用を想定していて、ワーケーションポータルサイトを運営するJTBが予約管理を担う。近隣には伊東園ホテルグループや東急グループのホテルがある。今後は下田市の旅館組合との連携も検討していて、ホテル経由の予約も見据えている。

三菱地所では、2018年8月よりワーケーション事業を展開していて、2019年5月に和歌山県・南紀白浜に最初の施設を開業。続いて長野県・軽井沢、静岡県・熱海、そして4 拠点目として下田に「WORK×ation Site 伊豆下田」を開業した。

海辺にあるワーケーション施設は、リゾート感満載だ海辺にあるワーケーション施設は、リゾート感満載だ
海辺にあるワーケーション施設は、リゾート感満載だ屋内のオフィススペースから海が正面に見える

歴史的な場所が、また人が集う場所にと生まれ変わった

一部の壁には、下田市の伝統的な建築である「なまこ壁」を再現している一部の壁には、下田市の伝統的な建築である「なまこ壁」を再現している

「WORK×ation Site 伊豆下田」を訪れた最初の印象は、立地の良さだ。入り江に面した絶景ポイントに位置し、江戸時代に「下田御番所」があった場所だ。御番所とは、戦国時代からの軍事的緊張が残る中、1636年に江戸幕府が大浦に置いた海の関所のことで、江戸往来のすべての船を検問した。その結果、下田の町は寄港する船舶で賑わい、現在のまち並みの基礎が築かれたのだ。

現在の「下田御番所」跡は下田市所有の指定文化財という位置づけで、その一角にあった病院をリノベーションしてワーケーション施設とした。築55 年の3 階建て、延床面積約275m2の建物は、モダンさとレトロさを兼ね備え、クールな開放感あるオフィス空間に生まれ変わった。

ワーケーション施設内に入ると、黒を基調にした内装で、「黒船をイメージした」と三菱地所の担当者。照明が船のキャビンライトになっている。壁には瓦屋根の装飾があり、それは下田やその近隣の伝統建築らしさの表現だ。
1階、2階それぞれにワークスペースと、さらにキッチンもあり多目的利用も可能だ。また各ワークスペースのオフィス家具を屋外に持ち出して、庭や3階の屋上テラスをワークスペースとして利用することもできる。開放感のある仕事時間を実現できそうだ。

下田市は年間450人の施設利用を目標に掲げている。地方の資源をビジネスチャンスにつなげ、下田に1回来て終わりではなく、継続的に来たくなる場所にしていきたいと意気込む。歴史的な場所にワーケーション施設ができ、人が集まるという地政学的な意味も大きい。

一部の壁には、下田市の伝統的な建築である「なまこ壁」を再現している施設の屋上から見える入り江には、江戸時代前半、番所に立ち寄る多くの船が停泊していた

2019年以降、ワーケーションに積極的な下田市

東京駅から乗り換えなしで伊豆急下田駅に着けるのは大きなメリット東京駅から乗り換えなしで伊豆急下田駅に着けるのは大きなメリット

ここ最近、国内の多くの自治体がワーケーションに取り組み始めているなか、下田市は、コロナ禍前から取り組む先進エリアのひとつだ。2019年11月にワーケーションの全国組織が立ち上がり、その際には創立メンバーに名を連ねている。

下田市が積極的なのは、東京から電車1本で来られる立地、飲食店が並ぶペリーロードや宿泊施設も至近で、温泉や釣り、サーフィンなど多彩なアクティビティもあり、ワーケーションの場所として高いポテンシャルを持つからだ。

交流人口の増加などを目的に、2019年3月には、市内でワーケーションの勉強会を開催し、先進エリアのひとつである和歌山県からゲスト講師を招聘した。同年5月にはワーケーション研究会の第1回勉強会を開催。さらに10月には、「ワーケーションサミット2019in伊豆」を開催し、首都圏でワーケーションを実践している企業や団体、伊豆半島の各市町、関係団体、NPO等関連団体から多数の参加があった。

2019年7月に開業した「LivingAnywhere Commons 伊豆下田」の告知ページ2019年7月に開業した「LivingAnywhere Commons 伊豆下田」の告知ページ

また2019年7月には「LivingAnywhere Commons 伊豆下田」という個人利用者向けのワーケーション施設がオープンし、同年12月には、下田市の地域産業の活性化を目的に、その運営会社でもある株式会社LIFULLと空き家等の利活用を通じた地域活性化連携協定も締結した。

下田市にとって、2019年はワーケーション元年といえそうだ。

フリーランスから企業人材へとワーケーションの幅を広げたい

この建物は、かつて病院にあった住居棟だ。病院施設自体は解体しているこの建物は、かつて病院にあった住居棟だ。病院施設自体は解体している

「WORK×ation Site 伊豆下田」へとリノベーションをする前は、久しく空き物件だった。病院施設となっていたが、2011(平成23)年に所有者の親族から「有効活用してほしい」と下田市に寄贈の申し出があった。しかし病院の建物は 耐震構造が不足していたため取り壊し、住居棟だけを残した。もっとも具体的にどのように活用するかは未定だったので、役所では議題にはのぼるものの、先送りを繰り返し、数年がたっていた。そんな折、今回のワーケーションプロジェクトが動きだした。

ここでのワーケーションのターゲットを「都心の会社勤めの方々にしよう」と下田市の担当部署内で意見が上がった。それは、すでに2019年に完成したLivingAnywhere Commonsがフリーランスのワーカーが多く、そこと差別化する意味で、「企業人材を」と考えたのだ。

そして和歌山県南紀白浜ですでにワーケーションの実績がある三菱地所にアプローチ。三菱地所は、オフィスビル事業をはじめ商業・物流施設、ホテル、空港、住宅、海外事業等さまざまな事業を展開しており、特に東京駅西側に位置する丸の内エリアには約30棟の建物も所有・管理している。同エリアには100を超える上場企業の本社があり、約4,300の事業所が集積する日本屈指のオフィス街だ。下田市はそこへリーチできる三菱地所の強みを掛け合わせることで、関係人口創出の足がかりになると期待した。丸の内と下田を結ぶ取り組みだ。

この建物は、かつて病院にあった住居棟だ。病院施設自体は解体しているキッチンを取り入れることで、オフィス以外の用途も可能となった

下田からワーケーションの新しいビジョンを開発していく

下田市には南国の植物も多くあってエキゾチックだ下田市には南国の植物も多くあってエキゾチックだ

下田市からのオファーを、三菱地所は前向きに捉えたそうだ。下田のポテンシャルについて三菱地所は、東京駅から乗り換えなしでアクセスできることや、自然や文化、さらにこの施設からの景観などを挙げ、可能性を高く評価した。

下田市は三菱地所と2020年10月に提携を結び、大浦の病院の跡地をワーケーション施設として、その管理運営を任せることにした。建物自体を下田市が1億2,000万円かけリノベーション。内装デザイン、インテリアを三菱地所が手配して2021年7月の開業に至った。近隣にホテルが多いため、相乗効果も期待できる。

ワーケーションの今後について三菱地所は、新型コロナの影響で場所や時間を柔軟に選択するワークスタイルが一層広まりを見せる中、人が集う「意義」が改めて問われているという。もともと10年ぐらい前からオフィスの在り方が変わってきており、コワーキングスペースやテレワークなど、ニーズが多様化してきて、それに対応してきた。
ワーケーションについては、エリアの想いも大切なファクターになるだろうと、三菱地所ではみている。

下田市がワーケーションにかける想いは、「ワーク」と「like」つまり仕事と好きなものを組み合わせることだと市の担当者。それが下田ビジョンだ。仕事とやりたいことを実現する、そういう場所にしていきたいと意気込む。例えば、仕事×サーフィン、仕事×釣り、仕事×ヨガなど。
ワーケーションに取り組んでいる自治体の多くが、観光資源を前面に出している。一方、下田市が提案する形は、観光地で仕事をするというだけではなく、好きなことを見いだせる場所。その環境を整えたいと下田市の担当者は抱負を語る。今後の展開に期待したい。

下田市には南国の植物も多くあってエキゾチックだ浜辺でヨガを満喫する
下田市には南国の植物も多くあってエキゾチックだ海辺で観察するのも楽しい

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