明治期に建てられた古民家をイベント活用で再生

今回は、愛知県豊川市で空き家だった古民家を人が集まる場所への活用に取り組んでいる事例をご紹介したい。

そこは「千両宝辺(せんりょうほうべ)」。なんとも縁起の良さそうな名前は、千両町(ちぎりちょう)という町名と区域に由来する。

こちらを運営するのは、別の記事(リノベーションのモデルハウスとしての役割もある愛知県豊川市初のコワーキングスペース「TOCOTOCO」)で取材させていただいた、株式会社イトコーの戸建部門 営業統括マネージャー・松原登志雄さん。同じくイトコーで働くパートナーの青野佳織さんと暮らす家でもあり、一部のスペースを「千両宝辺」という名で、不定期でさまざまなイベントの開催に開放している。

残念ながら今は、世界中に広まってしまった新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、イベントの開催は中止しているが、落ち着いたら再開する予定だ。

築100年以上の古民家の一部をイベント開催に活用築100年以上の古民家の一部をイベント開催に活用

今の時代にこれほどの大きな住まいはなかなか新たに生まれない

縁あって、農家だった方の住まいを譲り受けることになり、2016年に引越してきた。建物は10LDKで、庭や蔵、畑を合わせると300坪という広さだ。

「ずっと前から古民家に住みたかったんです。構造材の大きさや、開放感が魅力的。今、こんなに大きな家に住める人ってそんなにいないですよね」と松原さん。青野さんも「ここを壊して分譲住宅にするという話もあったのですが、もったいないと思って。昔の生活ではこれだけのスペースが必要だったのでこの大きさで造られていましたが、今の生活ではそれほど必要がないので、新たには生まれてきません。この時代の建物がなくなったら、こんな広さの中古住宅はなくなっていっちゃいますから」と続けた。

元の住人の丁寧な暮らしぶりもあってか、大掛かりな修繕はなし。松原さんは「耐震工事はやっていません。100年持っているのだから。建築に携わっている人間としてはあるまじき意見ですね(笑)」と話す。

「なにもしなくても古いものって美しいなって思います。余分なことをするとそれを壊しちゃいますしね」と青野さん。

ただ断熱補修のリフォームは行った。それ以外では、しばらく空き家だったことと、不要になった家財道具などが残されていたことから、掃除に時間を要したそうだ。障子やふすまの張替え、畳の交換なども行った。

残されていた家財道具の一部、古いスピーカーや金庫などは今もインテリアとして活かされている。また、夏には一部を取り外すと風通しがよくなる工夫が施された建具などもそのまま使用されており、趣を出している。

①千両宝辺としてイベントに開放しているスペース<br>②長い年月、人の暮らしを支えてきた柱や建具などが趣のある雰囲気を醸し出している<br>③夏には一部を取り外すと風通しがよくなる工夫が施された建具④作家さんの作品や、松原さんが仕事先で譲り受けたアンティークなどがセンスよく飾られている①千両宝辺としてイベントに開放しているスペース
②長い年月、人の暮らしを支えてきた柱や建具などが趣のある雰囲気を醸し出している
③夏には一部を取り外すと風通しがよくなる工夫が施された建具④作家さんの作品や、松原さんが仕事先で譲り受けたアンティークなどがセンスよく飾られている

縁がつながって、さまざまなイベントを開催

松原さんたちが勤めるハウスメーカーのイトコーでは、家族や友人などが気軽に集まれるアウトドアキッチンを備えた空間「GOOD-TIME PLACE」に力を入れている。近所と疎遠になってきている社会において、オープンマインドの暮らしを提案する。

この千両宝辺も、そんなスタイルにちなんだものでもある。家族4人での暮らしでは使わないスペースを、イベント開催の空間として貸し出すことにした。

住み始めてから約1年後の2017年、知り合いの写真家の写真展を開催した。それをきっかけにハンドメイド作家の展示販売、ヨガ教室、中国茶会、演劇、ライブコンサートなど、さまざまなイベントが開催されている。

貸しスペースとして大々的に宣伝したことはなく、イベント開催者の友人、イベントに来た人など、縁がどんどんつながっていったという。最近では子育てをしながらハンドメイド作品を作っているママたちのグループ展も人気で、SNS告知のみで、個人宅に300人ほどの来場があったというから驚きだ。

マーケットの開催は全国各地で人気だが、千両宝辺のように建物内であれば天候を気にしなくていいのもポイントになる。

利用料について聞いてみた。
「私たちは会社員なので、ほとんど経費くらいしかいただいていないです。その都度、企画に合わせて必要なものを準備できるように、相談して決めます」(青野さん)

松原さんは「まぁ、自分たちが楽しんでいますからね。人が集まると活気も出てきますし、この家自体も喜んでいるような気がします」と語った。

お二人が会社勤めのため、すべての開催希望に応えられないのが残念で、「場所さえあれば、やりたいことがある方がけっこういらっしゃるのだな」(青野さん)と感じているそうだ。

これまで開催されたイベントの様子。左上・左下は作品の展示販売、右上は演劇。庭先にキッチンカーがきたことも(写真提供:千両宝辺)これまで開催されたイベントの様子。左上・左下は作品の展示販売、右上は演劇。庭先にキッチンカーがきたことも(写真提供:千両宝辺)

次は、蔵を改修して絵本図書館に

イベントに参加した人から「実家をこう活用すればいいんだ」という感想をもらったこともあったという。

「ひとつでもこういった古民家が残ればいいなと思っているんです。ここを見て、こんな風に使えるんだと。物置きのようになっちゃっているような家を使ってみようかと相談してもらえたりしたらうれしいです」(青野さん)
「空き家の利活用のひとつですね」(松原さん)

このコロナ禍でイベント開催ができないこともあり、今は蔵の修繕を行っているそうだ。この蔵は絵本図書館にする予定で、すでに周囲の協力で500冊ほどの絵本が集まっているとか。

「恵まれているなと思うのは、ご近所の方がみなさん喜んでくださっていること。イベント開催時にご挨拶はしますが、一緒に参加してくださる方も多くて。もし、人が来ることを嫌がる方がいらっしゃったらできないと思うんです」と青野さん。

古き良き建物を未来につなぐだけでなく、地域や人のつながりも生む場所となっている。

千両宝辺 https://ja-jp.facebook.com/sennryouhoube/

古民家でイベントスペースの千両宝辺を運営する松原さんと青野さん。現在は、絵本図書館にする予定の蔵を改修中(右2枚は写真提供:千両宝辺)古民家でイベントスペースの千両宝辺を運営する松原さんと青野さん。現在は、絵本図書館にする予定の蔵を改修中(右2枚は写真提供:千両宝辺)

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