なぜ、一般的に仏壇を備えるようになったのか

2020年は、3月20日がお彼岸の中日となる。日本ではお彼岸にお墓参りや法事が営まれることが多いが、日々の先祖への感謝は仏壇で行うことが多いだろう。

ところで近年、家に仏壇を置く家庭は減少しており、仏壇をどのように設えるか知らない人が増えているようだ。細かい作法に通じる必要はないが、宗派ごとにまつり方が違うようで、いざというとき困らないよう、基本的な知識を知っておくとよいだろう。

まず、仏壇とはどういったものなのだろうか。
その最古の記録は『日本書紀』の「天武天皇十四(685)年三月二十七日、「詔して、『国々で、家ごとに仏舎をつくり、仏像と経典を置いて、礼拝供養せよ』といわれた」という記事だとされる。家ごとに作るよう詔があったというのだから、仏舎自体はそれ以前からあったのかもしれない。
しかし当時、仏像や経文は珍しいもので、庶民が持っていたとは考えづらく「家」は豪族を指していたと考えられる。平安時代や鎌倉時代にも仏壇は存在したが、貴族や武家、豊かな家庭などに限られた。

広く普及するのは江戸時代だ。天草四郎の乱が起きると、幕府はキリシタンを厳しく弾圧するようになる。寛永十七(1640)年には宗門改易の制度が施行され、仏教徒である証明ができねば罰せられた。旦那寺の『宗門人別改帳』に記載されれば、仏教のなんらかの宗派に属している証明になったが、わかりやすい仏教徒の証しとして、民衆も仏壇を持つようになったようだ。

仏壇が広く普及したのは江戸時代だった仏壇が広く普及したのは江戸時代だった

宗派ごとの仏壇の設えとは

仏壇は先祖を供養するためのものだと思われがちだが、本来は仏像をまつるものなので、もっとも尊い場所には本来本尊が置かれる。仏壇には漆塗りのものや唐木のもの、箪笥型や白木のものなどがあり、宗派によって本尊や位牌、水のお供えや香炉にも違いがある。

日本国内に存在する宗派は代表的なものだけでも18あるが、ここでは信者数が多いとされる浄土真宗本願寺派、浄土真宗大谷派、浄土宗、真言宗、天台宗の仏壇の設えについて見てみよう。

浄土真宗本願寺派は漆塗り金仏壇で、内柱や外柱は金箔の上に金具が飾られており、内陣も総金箔ときらびやかだ。本尊は阿弥陀如来で位牌は用いない。水を供えず、土香炉あるいは蓋無し香炉が使われる。

浄土真宗大谷派の仏壇も漆塗り金仏壇だが、宮殿の屋根が二重であるなど本願寺派に比べると荘厳な印象だ。本尊は阿弥陀如来で、位牌は用いず法名を書いた掛け軸を脇に掛ける。水は供えず、土香炉が用いられる。

浄土宗は仏壇の様式に定めはないが、本尊は阿弥陀如来で、脇侍として、向かって右に観音菩薩、左に勢至菩薩の掛け軸を掛けるのが宗派としての様式だ。

真言宗も定まった様式はないが、本尊は中央に大日如来、向かって右に弘法大師の御影像、左に不動明王をまつるのが一般的だ。しかし真言宗では、大日如来はさまざまな菩薩に具現すると考えられており、それらの菩薩がまつられることもある。

天台宗も定まった様式はなく、本尊は一般的に釈迦如来。脇侍は向かって右に天台大師、左に伝教大師を祀る。

線香のあげ方も宗派ごとに違いがある

宗派ごとにお線香のあげ方も変わるようだ宗派ごとにお線香のあげ方も変わるようだ

宗派によって多少の違いはあるが、仏壇へのお供え物は、線香・仏花・灯明・仏飯・浄水の「五供」が基本。
インドでは香りが死者の食べ物になると考えられており、生前に良い行いをすれば良い香りを、悪い行いをすれば悪い香りを食べると信じられた。
だから良い香りの線香を捧げることで、先祖への尊崇の思いを表現することにもなるのだ。線香をあげるのは朝、水や仏飯を供えたあと灯明をつけ、その炎で火をつけた線香を供えて合掌する。神道と違い、仏教は柏手を打たず静かに手を合わせるので注意が必要だ。

線香のあげ方も宗派ごとに違いがあるので、それぞれ見てみよう。
浄土真宗は、本願寺派も大谷派も一本を折って二本にし、寝かせて供えるのが基本。これは線香が発明される前、「常香盤」と呼ばれる香炉を使っていた名残とされる。だから、香炉の幅が狭いなら、それに合わせて折れば良い。
浄土宗は一本をそのまま立てるか、二本に折って立てる。
真言宗と天台宗は三本の線香を立てる。三は「仏・法・僧」の三宝にちなんでおり、仏教にとって大切な数字だ。

しかし、線香の本数は地域の風習によっても違いがあるようなので、他の家庭の仏壇に線香を供える際は、家人のやり方を聞くと良いだろう。

仏花は淡い色の菊や百合、蓮の花などが多いが、故人の好きな花を使うこともある。毎朝取り替えるのが理想だが、毎日水を入れ替えて、枯れる前に花を替えることが多いようだ。

灯明も毎朝供える。供養のために炎を絶やさない方が良いとされるが、本物のロウソクでは火事を引き起こす可能性があるので、LEDの灯明も販売されている。本物の火を使う場合、仏壇を離れるときは手で仰いで消す。

仏飯は家族と同じものを供える。炊きあがった御飯はまず仏飯器に盛ってお供えし、その後家族の器によそう。供えるのは朝が基本だが、朝はパンで夕食時にしかご飯を焚かない家庭では、夕食時に供える例もあるようだ。

仏教では死者は喉が渇くとされるので浄水を供えるが、浄土真宗の教義では、すべての死者は、苦しみの一切ない極楽浄土へ往生するので、水を供えない。極楽浄土には「八功徳水」と呼ばれる、においがなくてやわらかく、冷たくて口当たりの良い、おいしい水が充満しているのだ。

後に残るものを贈ると「後に引く」として忌まれる

お供え物を贈るときは、後に残るものを贈ると「後に引く」として忌まれる。果物やお菓子、お線香を選ぶのが無難なようだお供え物を贈るときは、後に残るものを贈ると「後に引く」として忌まれる。果物やお菓子、お線香を選ぶのが無難なようだ

法事で他家の仏壇にお供え物として、お菓子やお線香を贈ることもあるだろう。のし紙の水引は黄白や白、銀。「御供え」の表書きをし、「お仏壇にお供えください」と家人に手渡すと良いだろう。

後に残るものを贈ると「後に引く」として忌まれるため、果物やお菓子、お線香を選ぶのが無難だろう。法事のあと、参列者に配れるよう、個別包装をしたお菓子や果物が喜ばれるようだ。予算は地域によって違うが手土産と同等の額とされるから、3000円程度が一般的といわれている。

何が喜ばれるかわからず現金で贈る場合、のしの表書きは「御仏前」「御香典」になる。

日本の仏教には数多くの宗派があり、すべての知識を頭に入れるのはなかなか難しいが、少しでも基本的なしきたりを知っておけば、いざというときには役に立つ。


株式会社ごま書房『お墓・仏壇入門』ひろさちや著 1991年6月30日初版発行
鎌倉新書『現代の仏壇・仏具工芸』中江勁著 1977年8月30日初版発行

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