野菜とリフォームは似ている?
ソムリエとは本来レストランで客にワインを選定し提供する、専門知識のある給仕人のことを指す。だが、それが「違いが分かる専門家」という意味の汎用性を持つようになったのは、2001年に野菜ソムリエという資格認定がスタートして以来。2016年時点では日本全国で5万人以上が資格を取得しており、最近では野菜ソムリエのいる八百屋、レストランなどを見かけるまでにポピュラーな存在になった。
2016年8月に誕生したリフォームソムリエ協会には、その野菜ソムリエ協会の立ち上げに加わったメンバーが参加している。同協会の代表理事吉村司氏は「野菜とリフォームは似ている」ともいう。それは野菜も、リフォームも「仕方ないから食べる、やる」という点。
「野菜は健康のために大事な食べ物ですが、だから、仕方なく食べているという人が少なくありません。同様にリフォームも、本当は面倒だし、お金もかかるからやりたくないけれど、壊れたから仕方ないとやっている人が大半。でも、大金をかけてやるリフォームがそれで良いものか。楽しんでやるものに変えられないか、それがリフォームソムリエを発案したきっかけです」。
野菜ソムリエは野菜を知ることからスタート。それが野菜を楽しむ生活に繋がり、現在では流通や生産の現場を変えるまでに至っている。それをリフォームでやろうというのがリフォームソムリエだ。これまでリフォーム関連の資格の大半がプロを対象としていたことを考えると、消費者向けとしては初の資格でもある。
衣食住のうち、住の知識だけが遅れている
生活に必要な三要素としては衣食住が挙げられるが、私たちはそのうち、衣、食については十分な知識を持ち、自分に合わせた選択をしている。今、着ているシャツの素材、洗濯の仕方あるいは自分に似合う色は何かなど、いろいろな知識があり、ファッションを楽しんでいるし、食についても同様。だが、住に関してはどうか。リフォームソムリエ協会が8月3日に初めて開いたジュニアリフォームソムリエ講座の冒頭、講師の尾間紫氏が参加者に問うた。
「床は部屋のグレードを左右する最も大きな存在。安い床の上に高い家具を置いても映えないものの、床が良ければ安い組立家具でも良く見える。それなのに我が家の床について素材も知らなければ、手入れ法も知らない人が大半です。子どもがいる家庭なら一番触れる場所ですし、高齢者や犬を飼っている場合には選び方で健康が左右されます。知っているだけで選択肢が増えるのに知らない。もったいないことです」。
この30年間で1500戸以上のリフォームを手掛けてきた尾間氏によると、知らないで無駄なリフォームをしたり、かえって家の状態を悪くする例も少なくないとか。以前に比べれば様々な情報が発信されるようになってはきているが、問題はその大半が「売りたい側の発信」だということ。中立的な立場からの情報でモノを考えるようにしないと消費者は損をすることにもなりかねないのだ。
魚焼きグリルひとつにも各社各様の考え方、使い勝手
今回はリフォーム初心者を対象にした1日のジュニアリフォームソムリエ講座に参加したのだが、聞くことすべてが新鮮でお得な内容だった。具体的な内容としては家事をラクにしたい、ペットと暮らしたいなどの目的別、キッチンや床など部位別のポイントに加え、最新のトレンド、商品紹介、リフォーム開始前に知っておきたいことやショールーム、カタログの見方などと広範にわたる。そのうちからいくつか、知っておくと役に立ちそうなポイントをご紹介しよう。
ひとつは設備機器類の選び方。マンションのモデルルーム、住宅展示場、家電店のいずれでも「どれでもそれほど変わりません」と言われる設備機器類だが、実は大きな違いがあるという。たとえば魚焼きグリルでは魚がおいしく焼けるもの、掃除が楽なもの、オーブントースター代わりに手軽に使えるもの、本格的なミニオーブンとして使えるものなどと機種により違いがある。魚を焼く際も煙を出さないようにする、焦げつかないようにする、後に臭いを残さないようにすると開発方針が異なり、どれがベストかは使う人次第。どれでも良いと適当に選んでしまうと、後になって使いにくかったりするから、どういう商品特性があるかは事前にチェックしたいものだ。
同様にコンロのガラストップの手入れも、汚れはスクレーパーでこそげ落とす、ごしごし擦る、雑巾で優しく拭くと各社様々。このあたりはリフォームする人ばかりでなく、住宅購入、建設する人も知っておくと得する知識だ。
また、木造住宅では室内の場所によってサイズに誤差があるということも覚えておきたい。1cm以上違う例まであるそうで、となると家具やカーテンを買う際に1ヶ所だけ測って決めてしまうのは危険。必ず何ヶ所かで測るのが失敗しないコツだ。
成功するリフォームは目的、タイミングがポイント
目的別、部位別リフォームの話を通じて感じたのは、いずれの場合も目的が大事という点だ。尾間氏の紹介した事例で施主から出窓を作って欲しいとオーダーされたという話があった。普通なら言われるままに出窓を作るところだろうが、尾間氏は意図を聞いた。すると、家族が揃う朝の食事タイムを明るくしたいからだという。だとしたら、南側に出窓を作っても明るくはならない。尾間氏は東側の窓のリフォームを提案。それによって明るいダイニングを実現したという。
私達はしばしば、こうした具体的だが、目的を伝えない注文をしてしまいがちだ。窓を付けてと注文すれば窓は付くが、それによって実現したかったことは何か。それを考えないと、せっかくお金をかけてリフォームしても目的は叶わない。どういう暮らしをしたいから、どこをどうする。そこを明確にすることがリフォーム成功への道とつくづく思った。
もうひとつはタイミング。リフォームを考えるきっかけとしては修繕の必要、家のライフサイクルに合わせたメンテナンス、人のライフサイクルの変化、グレードアップ欲求の4種類があるそうで、それをバラバラにやっていくのは費用の無駄。適宜組み合わせてやることが効率的、経済的な面だけでなく、見た目的にも良いとか。
具体的には足場が必要な工事、水回り、同じフロアの工事、外壁はそれぞれまとめてやるのが良い。「道路工事のようなつぎはぎリフォームはみっともない」と尾間氏。だが、それをやるためには行き当たりばったりではなく、長期計画を立ててリフォームをするという姿勢が必要。住宅に関する問題は長い目で考えなくてはということだ。
3段階のソムリエ資格に広がる活動範囲
最後に今後のリフォームソムリエ資格について。今回は3種類ある中で、一般消費者と事業者の初心者を対象とするジュニアリフォームソムリエ講座を受講したが、今後は中級者を対象とするリフォームソムリエ、事業者のみを対象とするリフォームソムリエプロフェッショナルの講座が展開される予定。
ジュニアリフォームソムリエについては10月以降毎月講座が予定されており、説明会も随時開催される。講座は朝10時から夕方17時までとけっこうみっちり。加えて受講後に課題を提出する必要もあるが、こうした資格を持っていればプロと渡り合えるようにもなるのではなかろうか。受講料は3万7,800円(税込)。
また、今後は野菜ソムリエ同様、活躍の場を広げていきたいとも。野菜ソムリエが単なる趣味ではなく、仕事としても成立しつつあることを考えると、インテリア、住宅好きの人にとって新しい仕事の可能性が広がったとも言えよう。
リフォームソムリエ協会
http://www.resoa.info/
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