津波被害の教訓を活かし、レジリエンス(強靱化)を持った国へ

東京都千代田区イイノホールで開催された「津波対策技術フォーラム」東京都千代田区イイノホールで開催された「津波対策技術フォーラム」

2015年11月5日、「津波防災の日」に定められているこの日、津波防災に対する現状の課題と今後の対策について理解を深める「津波対策技術フォーラム」が東京都で開催された。

南海トラフ巨大地震や首都直下型地震による、これまでにない甚大な津波被害が危惧される中、政府は東北地方太平洋地震による津波被害の教訓から「国土強靭化基本計画」を策定した。
この計画は主に、津波による人的被害を未然に防ぐ防災と、日本経済の停滞の回避を目指しており、インフラ整備をはじめとするハード面の対策と、平時に実施する防災訓練などソフト面での対策を適切に組み合わせる体制を整備するとしている。

今回は、このフォーラムの主催でもあり、国土強靭化基本計画を、産・学・官・民の連携によって推進する一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会を中心に、政府関係者、津波対策に向けた最新技術を開発する民間企業など総勢14名が登壇。各々の見地から津波防災に対する提言が述べられた。
今回はその中から、津波防災を意識する上でより実用的な内容だった宮城県気仙沼市、三重県南伊勢町という2つの自治体からの提言を中心にレポートする。

東北地方太平洋地震の被災を教訓として活かすために ~宮城県気仙沼市の提言~

東北地方太平洋地震が起こった当時の様子を語る宮城県気仙沼市 菅原茂市長東北地方太平洋地震が起こった当時の様子を語る宮城県気仙沼市 菅原茂市長

「もしあの時、妻の言うことを聞いていなければ、家族全員が津波に流されていた…。」
そう当時を振り返るのは、宮城県気仙沼市の菅原茂市長だ。

2011年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋地震。その3分後、気象庁から発表された石巻市鮎川への津波到達予想時刻は15時00分だった。
津波がやってくるまでに自宅周辺で逃げられる場所はないと判断した菅原市長は、家族に自宅の2階に避難するよう指示を出した。
しかし、妻がその制止を振り切り高台へ向かったため、家族全員で自宅を飛びだしたという。
実際に津波が到達したのは、気仙沼湾口(大島横沼付近)が15時23分、気仙沼湾奥(魚町)が15時29分。高台まで避難する時間はあった。「高台や内陸に避難するだけの避難時間があるとわかっていれば、多くの方が命を奪われずに済んだのではないだろうか」と菅原市長は悔やむ。

この津波の経験から菅原市長は、今後の津波対策の課題として2つ挙げた。
1つは先ほど紹介した正確な津波の到達予想時刻の必要性だ。津波の正確な到達予測時刻を住民にきちんと伝達し、避難時間に余裕を持たせることができれば、より安全な場所に逃げることができる。
もう1つ課題が、津波発生時に気象庁から発表される津波予報区の見直しだ。現在の津波予報区は、都道府県ごとに分けられているものの、まだまだその単位が大きく、自分がいる地域への津波到達時刻が予測しづらい状況だ。

こうした被災の経験から気仙沼市では、実際の津波発生時に、気象庁による津波警報等の発表後も、住民に津波が来る緊急性を伝える必要性があると考え、沖合に設置してあるGPS波浪計の観測状況を避難広報に活用するという。GPSで取得した沖合の波の高さなどの観測状況を住民に随時知らせることで、津波の到達をイメージしやすくなるのだ。これらの情報は防災行政無線をはじめ、TVデータ放送、災害FM、FacebookなどのSNSといったツールを想定している。
また、有事の場合の津波情報を発信するだけでなく、平時においては東北地方太平洋地震の津波と同等の規模を想定した防災マップを住民が参加するワークショップで作成している。このワークショップは市内14地区で開催されており、地域特性が異なる各地域ごとに避難目標地点までの安全な避難方法を検討している。

東北地方太平洋地震から4年余り。「当時被災した住民たちは、これからも地元気仙沼に住み続けるべく、海の恵みを信じて、これからも復興に向けて頑張っている」復興に向かって前進する力強い菅原市長の言葉だった。

高齢化が進む町が取り組む巨大地震への備え ~三重県南伊勢町の提言~

南海トラフ巨大地震に備えた町の取り組みを語る三重県南伊勢町 小山巧町長 南海トラフ巨大地震に備えた町の取り組みを語る三重県南伊勢町 小山巧町長

南海トラフ巨大地震対象地域の1つである三重県南伊勢町。古くはチリ地震や幕末の安政東海地震により津波の被害を受けた地域でもある。
この人口1万5000人弱の町にある38集落のほとんどは海岸部の漁業集落であり、津波浸水想定地域にも指定されている。また、2020年には高齢化率50.1%となるなど高齢化が進んでおり、町において津波対策はインフラ整備などのハード面の対策に加え、住民に対して「揺れたら逃げる」という徹底的な防災の意識づけと、防災訓練といったソフト面からの両面のサポートが必須だった。

ハード面の対策としては、町内でも主要な幹線道路である国道260号線を盛土で7mの嵩上げをし、コンクリートで補強することで被災時の防災道路に整備をした。
避難場所の整備として、これまで38地区274カ所だった避難所をより高い海抜20m以上の242箇所に絞り込み、消防署や保育園などの津波から回避すべき施設もあらかじめ高台へ移設した。今後は老人ホームや医療施設の移転も計画中だ。

こうしたハード面による対策に加えて、南伊勢町が力を入れているのがソフト対策だ。大きく自助(自分の命を守る)と、共助(地域での助け合い)の2つに大別されており、それぞれ様々なプログラムが用意されている。
自助のプログラムとしては、防災ワークショップや町民が全員参加で15分以内に一時避難場所へ避難する総合防災訓練、また漁業集落が多いこの町では、漁業者の海上からの避難勉強会も重要な項目となる。陸上だけでなく、海上の避難マップの作成にも取り組んでおり、津波の到達時間や場所に応じて、母港に戻る、沖出しする、近くの浜に乗り上げて一刻も早く逃げるといったパターンを想定している。
加えて、高台へ避難するための体力をつけるため、高齢者を対象に月に2回、健康体操の教室を開催している。南伊勢町長の小山巧氏は、こうして日頃、継続的な防災意識、体力づくりをすることで、本当に津波が来た場合に対応できる町民が育っていることを感じているという。

共助のプログラムとしては、宮城県気仙沼市と同様に、地域条件の異なる各地区ごとに災害行動計画を住民自身が作成、「地域の防災力」をつける点を意識している。各地区の問題点を洗い出し、それぞれの地域に必要な対策を検討する。全町的に、高齢者に対しての悉皆調査をすることで、町民一人一人がどのような身体状態であるのか、どのような薬を服用しているかなどのデータを蓄積、避難所生活に活用したいという。小さな町で、住民の移動が少ないがゆえに可能な防災対策といえる。
しかし、こうして策定した決まり以上に、地域のつながりによる日頃の災害に対する意識合わせが大切だと小山町長は言う。自身の地域の避難経路をご近所さんとの散歩のコースにするなど、防災意識だけではなく、いざという時とっさに判断できるような慣習化が大切だという。
平時の際から、いかにして被害を抑えるかということを考える、徹底した防災意識の向上を見せる南伊勢町の発表だった。

防災は知識よりも日頃の訓練が大切

気仙沼市長 菅原氏の発表からもあったように、東北地方太平洋地震では、想定していた以上の津波が来たことで、インフラの整備による対策だけでは防災対応できないケースが露呈した。
そうした場合に、やはり住民一人ひとりの防災・減災に対する意識の向上が、被害を抑える重要なポイントになってくることは、気仙沼市、南伊勢町の取り組みから伺うことができた。
今回、このフォーラムに登壇した東北大学 災害科学国際研究所所長の今村文彦氏も「防災の知識も大切だが、実際に有事の際に使えなければ何にもならない。日頃の避難訓練などを通じて、"知識"を"判断力"にする訓練が必要だ」と語った。どうしても「いつかそのうち」という意識になりがちな防災意識であるが、有事の際は一瞬の判断が生死を分ける。

東北地方太平洋地震の教訓を活かし、いざという時のために、今後私たちがどのような意識を持って過ごすべきかを改めて考えさせられた。

フォーラムの最後には、学者、民間企業、自治体によるトークセッションが行われた。
左から仙台商工会議所 震災復興交流委員長/一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会 理事 横山英子氏(ファシリテーター)、東北大学 災害科学国際研究所所長 今村文彦氏、三重県南伊勢町長 小山巧氏、宮城県気仙沼市長 菅原茂氏、河北新報社報道部 防災・減災デスク 須藤宣毅氏、日本テレビ放送網株式会社 インターネット事業局 局長代理 若井真介氏、東京工業大学 特任教授/一般社団法人 レジリエンスジャパン推進協議会 事務局長 金谷年展氏フォーラムの最後には、学者、民間企業、自治体によるトークセッションが行われた。 左から仙台商工会議所 震災復興交流委員長/一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会 理事 横山英子氏(ファシリテーター)、東北大学 災害科学国際研究所所長 今村文彦氏、三重県南伊勢町長 小山巧氏、宮城県気仙沼市長 菅原茂氏、河北新報社報道部 防災・減災デスク 須藤宣毅氏、日本テレビ放送網株式会社 インターネット事業局 局長代理 若井真介氏、東京工業大学 特任教授/一般社団法人 レジリエンスジャパン推進協議会 事務局長 金谷年展氏

2016年 01月10日 11時00分