3・11と原発事故がもたらした「エネルギーの自立」という教訓

金谷年展氏は、ナショナル・レジリエンス懇談会のメンバーとして広報戦略を担当している。金谷年展氏は、ナショナル・レジリエンス懇談会のメンバーとして広報戦略を担当している。

1995年の阪神淡路大震災は、旧耐震基準で建てられた家がいかに危険であり、その建て替えがいかに急務かということを私たちに教えてくれた。では、2011年3月11日に起こった東日本大震災は、その後の住宅政策にどのような影響を与えたのだろうか。東京工業大学ソリューション研究機構特任教授・金谷年展氏はこう語る。

「3・11がもたらした最も重要な教訓は、福島原発事故によって、“電気は必ず供給される”という神話が崩壊したことです。原発事故による電力不足で計画停電が行われ、国民の間に節電への意識が浸透。住宅の世界でも、『安全・安心』『エネルギーの自立』といったキャッチコピーがユーザーの人気を集めました。省エネや脱オール電化、停電時対応、再生可能エネルギーによる発電・蓄電などが、住宅を語る際の大きなキーワードとなってきたのです」

それと歩調を合わせるように、2012年7月、再生可能エネルギーの固定価格買取制度がスタート。これは、太陽光や風力・水力・地熱・バイオマスなどで発電した電力を、電力会社が一定期間、固定価格で買い取るよう義務付けたものだ。この制度により、一気にメガソーラーが普及。また、規制制度改革により、太陽光発電用に自宅の屋根を貸し出す「屋根貸しビジネス」もできるようになった。

「近い将来、住宅にエネルギーマネジメントシステム(HEMS)を入れて省エネを徹底しながら、自宅でエネルギーを作って売ることが一般的になるでしょう。ふだんはソーラーで発電・蓄電しながら光熱費を節約し、災害時にはエネルギーを自給しながら、自立して暮らすことができる。環境に優しく経済的で、災害にも強い住宅の開発が求められているのです」

シェールガス革命により、今後はガスコージェネの普及が進む

シェールガス革命により、エネルギーの主役は石油から天然ガスへと変わりつつある。 (出典:アメリカ・エネルギー情報局公表資料)シェールガス革命により、エネルギーの主役は石油から天然ガスへと変わりつつある。 (出典:アメリカ・エネルギー情報局公表資料)

では、今後、住宅のエネルギー自立において要となるのは、どのようなシステムなのか。金谷氏によれば、それは「天然ガスを燃料とするコージェネレーション(熱電併給。以下、コージェネ)」だという。
コージェネとは、燃料を燃やして電気と熱を取り出す仕組みのこと。自家発電を行いながら、廃熱を冷暖房や給湯などに利用することで、エネルギーを有効利用し、省エネにつなげる効果がある。
現在は、原発と火力発電が電力量の7割以上を占めているが、国はエネルギー基本計画の中で、2030年までにコージェネの割合を3%から15%まで、再生可能エネルギーを11%から25~35%まで増やすことを検討している。

「その背景にあるのは、シェールガス革命です。アメリカでシェールガスの商用化が進み、天然ガスの供給量が飛躍的に拡大しました。また、日本近海にはメタンハイドレードが埋蔵され、国内で消費される天然ガスの約100年分が眠っているといわれます。エネルギーの主役は石油から天然ガスへと移りつつあり、今後は天然ガスの価格低下が進むでしょう。このため、家庭でも天然ガスを利用したコージェネや自家発電装置が普及すると考えられます」

電力自由化とHEMSの普及で、エネルギーの”隣組”が出現

今後は、天然ガスを燃料とするコージェネの普及が予想される今後は、天然ガスを燃料とするコージェネの普及が予想される

さらに、家庭でのエネルギー利用や自家発電の方法も、多様化のきざしを見せている。
「2016年には電力の小売の全面自由化が予定され、家庭でも電力会社や料金プランが自由に選べるようになります。ソーラー設備のある隣家や事業所から、一番安くて品質のよい電気を選んで買える時代が来るわけです。一方で、住宅からは電力メーターやガスメーターが消え、HEMSを備えた住宅が一般化するでしょう」

電力の小売自由化とHEMSの普及――この2つのコラボレーションは、これまでの地域のあり方を大きく変える可能性をはらんでいる、と金谷氏は指摘する。
「たとえば、家庭用コージェネの代表格である東京ガスの『エネファーム』は、1家に1台の発電機が必要です。しかし、今後は、分譲地ごとに発電機を1台設置し、その電気を30戸で分けあうといったこともできるようになります。工場や事業所で使っているコージェネは割安なので、これを使って発電した電気をみんなで分け合えば、1軒あたりが負担するコストは激減する。これまで、住宅のエネルギー利用は“個々の住宅=点”で考えるのが普通でしたが、2016年以降には、“地域=面”で考えることができるようになります。地域全体でエネルギーの有効利用を行う、スマートコミュニティがいよいよ実現するのです」

災害時のエネルギー自立を可能にした『レジリエンス住宅』

スマートハウス『GURUGURU CH12』外観<br />写真提供:LIXIL住宅研究所スマートハウス『GURUGURU CH12』外観
写真提供:LIXIL住宅研究所

こうした動きを受けて、住宅市場では新しいソリューションが次々に登場している。
たとえば、金谷氏がプロデュースし、LIXIL住宅研究所が2011年に発表した次世代スマートハウス『GURUGURU CH12』は、太陽光発電・バイオマス・地中熱という3つの再生可能エネルギーを活用。また、HEMSと連動したスマートロボット『リリボ』に、音声で省エネや災害時対応をナビゲーションさせるという野心的な試みも行っている。

「今後、スマートハウスが普及すれば、標準装備のスマートメーターを通じて膨大なデータが蓄積されるでしょう。しかし、このデータをどう活用するかはまだ見えていないのが現状です。大切なのは、蓄積したデータを宝の持ち腐れにするのではなく、きちんと “見える化”して活用すること。GURUGURUがスマートロボットを導入したのも、こうした目的があってのことです」

災害時のエネルギー自立にいち早く取り組んだという点で、スマートハウスGURUGURUの試みは画期的だったが、一方ではさまざまな課題も浮上した。最大のネックは、蓄電池から電気を供給できるのがわずか3時間だけという点だった。これでは、災害時にライフラインがストップすれば、自立した生活を営むことはできない。
そこで、LIXIL住宅研究所は2013年、新たに『レジリエンス住宅CH14』を発表。貯槽量150kgのバルクに貯めたLPガスをコージェネの燃料として使うことで、非常時にも1ヶ月以上電力を自給することを可能にした。

災害対策は待ったなし。日本における真に強靭な住まいとは

巨大地震の襲来が予想される中、日本の住宅政策も正念場を迎えている。来るべき大災害に備え、日本の住まいはどこへ向かおうとしているのか。
「安倍総理のリーダーシップの下、来年、いよいよ強靭な国づくりへの本当の第1歩が始まります。その前提となるのが、いかに既存の住宅を“倒れない家”にできるか、ということです。
みなが安心・安全な家に住めるようにするためには、住宅の価値革命を起こさなくてはなりません。その上で、災害でライフラインが止まっても1ヶ月間は住み続けられるような“エネルギーの自立”をいかに実現するかが、次のステップとなるでしょう。

今後、国土強靭化を考える上で一番重要なのは、“非常時に役立つだけでなく、平常時にも役に立つ”という概念です。100年に1度来るかどうかわからない災害のためだけでなく、平常時にもメリットがある方法を模索していかなければならない。災害に対応できる家であると同時に、日頃から省エネ効果があり、売電でお金を稼げる家を作っていくこと。それが、真の意味でのレジリエンス(強靭性)だと私は考えています」
現在、首都直下地震の被害想定では最大85万棟、南海トラフ巨大地震では最大240万棟の建物被害が出ると予想されている。災害への対応が待ったなしの局面を迎えている今、これからの家づくりは、国土強靭化の視点を抜きにして考えることはできない。災害大国日本における住まいとはどうあるべきか――あらためて真剣に考えてみる必要がありそうだ。