はじめに
4月7日、2026年度(令和8年度)の予算が参議院本会議で可決・成立した。今回の税制改正では、「年収の壁」の引き上げや子育て世帯への支援強化に関心が集まっているが、不動産投資家にとっても極めて重要な改正が盛り込まれている。特に、これまでの相続税対策としての不動産投資の優位性を揺るがしかねない内容が含まれており、今後の不動産投資戦略の抜本的な見直しが迫られる可能性も高い。本記事では、不動産投資の視点で、今後、投資家や資産家に影響を及ぼすと思われる改正内容について確認したい。
貸付用不動産の相続税評価方法の見直し(5年ルールの導入)
今回の改正で、不動産投資家が最も大きな影響を受けると見られているのが、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価方法の変更だろう。
これまで、アパート・マンションといった収益物件の購入は、富裕層を中心にごく一般的な相続税の節税方法だった。たとえば、時価1億円のマンションを購入した場合でも、相続税評価額は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に算出されるため、3,000万円から4,000万円程度にまで評価額を圧縮することが可能だった。
しかし、改正により、取得から5年以内に相続が発生した場合、原則として“課税時期における通常の取引価額”によって評価されることになる。具体的には、収益物件の取得価額の80%で評価することになり、従来は60%から70%ほど圧縮できていた評価額が、20%程度の圧縮にとどまり、節税効果が大幅に低下する。
そのため、相続税対策として評価額の圧縮を狙っていた資産家にとっては、大きな痛手となる。余命宣告を受けた後や高齢になってからの不動産購入による節税メリットが失われるため、いわゆる「駆け込み相続対策」が事実上無効化することになる。
近年、相続直前に購入した収益物件の路線価による相続税評価が否定された“2022年最高裁判決”や、“2024年のマンションの評価方法の改正”というトピックスがあったが、今回の改正も、これらの一連の流れを受けたものといえるだろう。
なお、この改正は、相続の5年前から所有している土地にアパート・マンションなどを建築する場合には適用されない。その場合は、従来通りの評価額の圧縮効果が期待できるため、今後は、“収益物件購入”か“所有地に建築”かによる節税効果の使い分けについても正しく認識しておく必要がある。
不動産小口化商品の評価適正化
不動産小口化商品とは、特定の収益不動産を小口化して不特定多数の投資家に販売し、収益を分配する投資商品のことである。たとえば、都心にある10億円の収益物件を1,000口で募集する場合、1口100万円からの出資が可能になり、投資家は出資額の割合に応じて収益の分配を受ける。不動産小口化商品の中でも任意組合型の場合、投資家は不動産自体を所有する形態となるため、相続税評価額の圧縮効果が期待できる。また、不動産小口化商品は現物不動産と異なり、分割して分けやすいというメリットもある。
しかし今回の改正により、不動産小口化商品については取得の時期に関わらず、“課税時期における通常の取引価額”で評価することとなった。なお、不動産小口化商品の“課税時期における通常の取引価額”とは、次のいずれかとなる。
・投資家の求めに応じて事業会社が示した処分価格や買取価格
・事業会社が把握している売買実例の価格
・定期報告書などに記載された価格
この評価額の見直しにより、今後は不動産小口化商品を利用した相続税対策は、ほぼできなくなる見込みとなった。また注意したいのは、改正前に節税目的で不動産小口化商品を購入した場合でも、改正後の評価方法が適用されることになるため、当初想定していた相続税の節税効果が受けられなくなる。
そのため、今後、不動産小口化商品の購入を検討する場合は、相続税対策ではなく、利回りや資産性の維持に重点をおいた商品選びが必要になるだろう。
不動産投資家にとって数少ない追い風になる「少額減価償却資産の特例拡充」
今回の改正内容は不動産投資家にとって逆風といえるが、そのなかで、スケールは小さいが数少ない追い風になるのが“少額減価償却資産の特例拡充”である。中小企業者等(青色申告を行っている個人も含まれる)は、少額減価償却資産の取得価額を一括で損金算入(個人は経費計上)できるが、その限度額が、従来の30万円未満から40万円未満に引き上げられた。設備投資を行う不動産オーナーにとっては、経費処理の柔軟性が増すメリットといえる。ただ少額減価償却資産の合計の上限額300万円は改正されていないため、注意が必要である。
不動産投資家・資産家が取るべき対策
2026年度(令和8年度)改正への対策を一言で言えば、相続を見据えた早期の対策開始と長期保有の推奨といえる。以下のポイントについて見直すことを推奨したい。
(1)相続税対策の早期開始と物件選びの再考
これまでもさまざまな改正により、相続発生直前の相続税対策が封じられてきたが、今回の改正もその流れの一つといえる。今回創設された「5年ルール」を回避するためには、投資家が元気なうちに物件を購入し、少なくとも5年以上の長期にわたり保有する必要がある。
(2)生前贈与の早期実行
教育資金等の一括贈与については2026年3月31日をもって廃止となり、生前贈与の有効な1つの手法が閉ざされた。一方、2024年に改正され、使い勝手の良くなった相続時精算課税制度については、今後有効に活用したい。
(3)相続税の増加に備える
今回の改正で網にかかった相続税対策を行っていた人の中には、当初想定していたよりも相続税の負担が重くなるケースも増えることが予想される。そのため、納税資金として現金を残しておく必要性が高まる。
(4)資産構成のリバランス
今後、不動産だけに偏ったポートフォリオは、評価方法の突然の変更に対して脆弱といえる。今回の改正を踏まえ、現預金、株式などの運用資産、保険、不動産などのバランスを見直し、税制改正によるマイナスの影響を弱めるとともに、納税資金の流動性を確保することも大切になる。
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まとめ
2026年度税制改正は、これまで相続税対策の王道とされていた「市場価格と相続税評価額の乖離」を埋める厳しい内容となった。ただし、このような政策は今に始まったことではない。これまでも、小規模宅地の評価減における事業用宅地・貸付用宅地の適用の厳格化や、マンションの評価方法の見直しなど、評価額の圧縮効果を利用した相続税対策を封じる施策は、毎年のように行われてきた。
また、非上場株式の評価方法の見直しについても議論が始まっており、今後、法人化による節税対策にもメスが入ることが予測される。不動産投資家としても、常にアンテナを張りながら新しい情報を入手し、税理士など専門家のサポートを得ながら速やかに対策を講じていくことが必要な行動パターンとなるだろう。




