東京都の転入超過数は6.5万人 前年の7.9万人から17.7%の転入減を記録

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住民基本台帳人口移動報告 2025年の結果を公表(総務省統計局)

総務省統計局から2025年の年間移動人口の状況が公表された。正式には「住民基本台帳人口移動報告」と言い、名称通り住民票がどこからどこへ移動したかを基に男女別・年齢階層別などの人口の移動状況を明らかにする不動産関係者必見のデータだが、エリアごとの総人口の推移や出生数などには関心が高くても、これまで移動人口に注目してエリアの居住ニーズをイメージするケースは少なかったように思われる。

月次ベースでも移動人口の状況が公表されているが、今回は2025年の年間データを基にその傾向および特徴を分析・解説する。

全国:転入超過は東京都など7都府県のみ 40道府県は転入より転出が多い“転出超過”

例年の傾向として顕著なのは、大都市圏中心部への移動人口の集積だ。高校を卒業して大都市圏にある大学や専門学校に進学する、あるいは大学卒業後に同じく大都市圏の企業に就職するイメージが強い日本の社会構造を前提とすれば(もちろんこのようなティピカルなケースばかりではない)、大企業や大学ほか教育機関が集積している大都市圏中心部に人が集まってくるのは当然のことと言える。

全国:転入超過は東京都など7都府県のみ 40道府県は転入より転出が多い“転出超過”

表のとおり、全国47都道府県のうち年間の転入者数が転出者数を上回る“転入超過”を記録しているのは、東京都の6.5万人を筆頭に滋賀県までの7都府県のみであり、残りの40道府県は転入者数が転出者数を下回る“転出超過”となっている。端的に言えば、都市圏の自治体が全国から人流を吸い上げているという見方が可能だが、後述する年齢階層別に移動人口を確認すると、異なる様相が浮き彫りになる。

転入超過となっているのは、超過数が多い順に東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県と首都圏1都3県および近畿圏中心部が並び、6番目に福岡県、7番目は滋賀県となっている。三大都市圏のうち中部圏中心部の愛知県は全国で19番目、2千人強の転出超過であり、事業集積地としてエリアが活性化しているのは、誤解を恐れずに言えば東京と周辺、大阪そして福岡ということになる(自治体のGDPなどほかの指標で比較すれば愛知県の経済規模は福岡県の2倍以上に達する)。

このデータからは、全国から首都圏全域、もしくは大阪、福岡を目指して流入してくる人が如何に多いかが実感される。また、滋賀県が転入超過となっているのは、京都市内の物件価格および賃料の高騰によって京都から電車で20分程度の草津~大津エリアに転居するケースが近年急激に増えていることに起因している。その京都府は全国で30番目、4千人弱の転出超過となっているから、住宅価格も賃料も消費者物価も何もかも高いエリアでの生活が年を追うごとに厳しさを増している事実が浮き彫りになる。

さらに、同じく都市圏に位置している自治体でも、兵庫県は全国18番目で2千人強の転出超過、和歌山県および奈良県も人数は少ないものの転出超過となっているから、近畿圏全体では“大阪府一極集中”の様相を示している。つまり、首都圏では1都3県とも大幅な転入超過であるのに対して近畿圏ではほぼ大阪府のみ、中部圏では愛知県よりさらに地域フェーズを縮小して名古屋市に限ると5千人強の転入超過となっており、人口が流入するエリアの規模が、都市圏ごとに大きな違いがあるということも分かる。

なお、参考までに全国の政令市と特別区の移動人口データを示すと、傾向としては都道府県単位と大きく変わらないが、事業集積性の高さおよび地方圏での“ミニ東京”と位置付けられるエリアもあって人口の集積性=周辺エリアから人を吸い寄せる力は押し並べて高いが、広島市や北九州市など、その求心力が明らかに低下しているエリアもあって地域ごとに明暗が分かれている。

対前年比では東京23区で1万9,607人(33.3%)、大阪市で6,249人(38.8%)の転入超過数の減少


また、対前年の増減を確認すると、東京23区で1万9,607人(33.3%)、大阪市でも同様に6,249人(38.8%)もの大幅な転入超過数の減少が発生しており、転入超過は継続しているものの転出者数の増加によって都市圏中心部での人口集中にも翳りが見え始めている。これはひとえに住宅価格あるいは賃料の高騰および物価の上昇がその原因で、東京23区と大阪市という東西の中心からその周辺エリアへと人流が拡散し始めていることがわかる。東京23区からは横浜市、川崎市、さいたま市といった周辺エリアへ、大阪市からは堺市へと動きがみられ、住宅価格あるいは賃料高騰がもたらす人流への影響が極めて大きいことが明らかだ。

全国:転入超過は東京都など7都府県のみ 40道府県は転入より転出が多い“転出超過”

年齢階層別の移動人口の状況:市場メカニズムの変化を促進

「住民基本台帳人口移動報告」は男女別だけでなく年齢階層別(基データは5歳階層に区分)のデータも公表しており、4月下旬には市区町村ごとのデータも追加公表されるから、どのエリアに注目が集まっているのか、地域ごとの傾向に違いはあるのかなど詳細な分析が可能だ。

年齢階層別の移動人口の状況:市場メカニズムの変化を促進

年齢階層を大きく子供、若年層、ファミリー層、高齢者層に区分して確認すると、一部報道で「東京一極集中」と評された状況には安易に首肯できない一面があることが明らかになる。すなわち、東京都では専ら15~34歳の若年単身者層が新入学・新卒採用によって大量に転入超過しているのであり、何年間か東京で生活し出会いを経て結婚・出産のライフステージに変化すると、子供と一緒に郊外方面(その多くは周辺3県だが北関東エリアにもファミリー層の転入超過傾向が認められる)へと移動していることがわかる。
愛知県、大阪府もほぼ同様の年齢階層別の動きを示しており(大阪府は35歳以上のファミリー層が辛うじて転入超過だが他の年齢階層から大きく数を減らしている)、これは確かに一度は東京や大阪といった大都市に人流が集中するものの、その後ライフステージが変化すると都市圏郊外へ、もしくはさらに都市圏の準郊外~地方圏へと予算に応じて拡散し始めるケースが増加することが明らかだ。つまり、都市圏での住宅価格および賃料の高騰は、子育て世代であるファミリー層を職住近接エリアに居住させることを事実上ほぼ不可能にしていると言っても過言ではない。

移動人口の現状を確認すると、一義的には大都市圏およびその中心部に多くの人口流入があり、その多くは若年単身者層であることが明らかになった。都市圏への人口流入は教育機会と就業機会を求める全国からのニーズが集約された結果だが、一方で都市圏に暮らしていたファミリー層は、生活の安定を求めて、職住近接の生活よりも経済的な負担がより少ない郊外もしくは準郊外方面での生活を選択する機会が増えていることもまた明らかになっている。

住宅価格および賃料の上昇、消費者物価の高騰によって、日々の生活が維持しにくくなっている世帯が相対的に増加し、郊外方面へと転居し始めている実態は、今後の住宅政策を大きく変える契機となる可能性がある。東京都では2026年度から民間と協力して200億円超の規模のファンドを組成し、相場よりも安価な賃料で入居可能な“アフォーダブル住宅”の提供を始めると公表した。都市圏域内で効率的に生活し子育てし生活基盤を築くことは、衣食住が古来より生活する上で欠かせない基本的で重要な要素とされる通り、疎かにすることのできない優先事項であり続けるから、投資や投機需要を一定程度規制し、そのうえで実需を従来以上に重視する住宅政策を打ち出していく必要があるだろう。

中山登志朗のニュースピックアップとは

LIFULL HOME'S総合研究所副所長兼チーフアナリストの中山登志朗が、不動産業界に関わる方なら知っておくべきという観点でニュースを厳選し、豊富な経験に基づくコメントとともに伝えるコーナー。業界関係者はもちろん、不動産に関心がある人にとっても、重要な動きを理解できるほか、新たな視点を得ることができるはずだ。