アメニティは人を惹きつける
東京大学CSIS不動産情報科学研究室では、アメニティの集積が住宅の価値にどのような影響を与えるのかといった研究を進めている。その理論的な背後のある構造を解説する。
アメニティにより、創造的な人材を引き付けることができ、それによって都市が成長しているとするのであれば、アメニティの集積が大きいところでは、資本化仮説に基づけば住宅の価値が高くなっているはずである。そのような関係性を確認するためには、ヘドニック・アプローチが理論的にも、実証的にも有効である。
Rosen(1974) によって提案されたヘドニックモデルは、差別化された生産物の市場均衡理論を発展させ、住宅のような財をどのように分析することができるのかを、経済理論と計量経済モデルの両面から示した。
具体的には、商品供給者のオファー関数(offer function)、商品需要者の付け値関数(bid function) およびヘドニック価格関数の構造との間の関係を厳密に検討し、市場価格を消費者および生産者の行動から特徴づけている。
ここで、Shimizu et al (2014)に基づき、歩行可能な範囲におけるアメニティの集積と家賃との関係を分析した結果を紹介しよう。同研究では、「Walkability」の範囲を500mとして設定したうえで、首都圏全域を対象として、アメニティの集積と家賃との関係について分析している。
広域的な地域における歩行可能な範囲におけるアメニティを識別した住宅市場における競争関係を明示化していくうえでは、都心までの距離や最寄り駅までの移動時間といった立地や人口を中心としたその他の要因の集積も併せて制御しないといけない。
国際比較のために設定したアメニティの分類の主なもの
アメニティ集積を観察するためには、その定義を明確にしていくことが重要となる。
一概にアメニティといっても、主体によって必要とするアメニティに対する需要が異なり、空間的な立地密度や立地行動が変化してくるためである。
同研究では、シカゴ大学のClark教授が国際比較のために設定した24のカテゴリーへと分類している。
代表的なものを挙げれば、歩行可能な範囲における
①芸術の集積
②バーやカラオケ・ダンスホール・酒場・ビアホールなどナイトライフの充実度
③衣料品店やジュエリー店等のファッションの集積
④保育所や託児所などの育児環境の充実度
⑤小・中・高校や大学または学習塾も含む教育環境
⑥専修学校や趣味の教室などの学習環境
⑦外国公館や国際機関などの集積に伴う外国文化への近接度
⑧図書館に代表される文化の充実度
⑨動物園・植物園・水族館・プラネタリウムなどのレクリエーションの集積度
⑩映画館・ゲームセンター・テーマパークなどのエンターテイメントの集積
⑪公園の充実度などの子育て環境
⑫レストランなどの食文化の集積
負の効果としては
⑬墓地や駐車場
などの存在などがあげられる。
アメニティの多様性が住宅価値を高める
ファッションの集積とレストランの集積の空間分布を見ると、ファッションについては、首都圏のなかでも青山や表参道、銀座などの東京の都心部の一部の地域に集積が存在する一方で、レストランについては、家計が立地するほとんどの地域に存在している。
つまり、アメニティごとに、空間的な集積の度合いや消費可能とする空間的な間隔が異なる。
アメニティの全体としての集積度と多様性を見ると、すべてのアメニティの集積(合計数)と24種類のアメニティの種類からみた多様性(最大値:24)をみると、郊外部に移るほどに集積度よりも多様性が欠如していく様子が見てとれる。
このような空間的な分布を踏まえて、ヘドニック関数を推計する。具体的には、地域メッシュに存在するアメニティの種類数とアメニティの集積のレベル(アメニティ数)が住宅家賃に対してどのような影響を与えているのかを抽出する。
得られた結果を見ると、アメニティ数の増加よりもむしろアメニティの多様性の増加によって、住宅家賃を高めていることが報告されている。
また、アメニティの個別効果では、専修学校や趣味の教室などが集積しているところでは住宅家賃が高い。このような指標は、地域の文化水準を示す代理指標となっている可能性がある。また、小中学校や大学・学習塾などの教育施設が集積する地域、国際関連施設、公園が集積する地域、レストラン等が集積する地域でも家賃が高い。
一方、墓地・駐車場等や映画館・ゲームセンターが集積する地域では家賃を押し下げている。
アメニティと家賃の関係性
アメニティといってもレストランなどの生活の利便施設や公園などの環境を高めるようなアメニティの集積と家賃との間には正の関係があるが、墓地や駐車場などの外部不経済をもたらす施設、ゲームセンターなどの治安の悪化を招くような施設が集積した場合には、家賃を押し下げるといった結果は、先行研究と整合的である。
しかし、この結果は、慎重に解釈しなければならない。
アメニティの集積が人口の集積を生み、住宅家賃を高めているのか、人口が集積し、とりわけ高所得者の多い家賃の高いところに公園などの正の外部性を持つ施設が供給され、負の外部性を持つ清掃工場などの施設が低所得者の多い家賃が低い地域に配置されているといった可能性も否定できないためである。このような研究は、Environment Equityの研究として進められている。(Yasumoto, Jones and Shimizu (2014)を参照されたい)
※本研究の詳細は、下記の論文をご覧いただきたい。
CSIS Discussion Paper 131 (The University of Tokyo)
「アメニティと家賃-都市アメニティの集積が人口集積・住宅サービス価格に与える影響-」
清水千弘・安本晋也・浅見泰司・Terry Nicholas Clark(July 26, 2014 (Aug 16, 2014 改訂)
http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/dp/131r1.pdf
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