増え続けている住宅確保要配慮者

昨今、65歳以上の高齢者の単身世帯や生活保護受給世帯数が大幅に増えている。1980年の一人暮らし高齢者(65歳以上)は約88万人。それが2015年には約592万人に増加した(出典:平成29年版高齢社会白書(内閣府))。また、1992年の生活保護受給世帯数は約58万6,000世帯だったが、2017年2月には約164万世帯に増えている(出典:生活保護制度の現状について(厚生労働省))。

このようなことから、高齢者や低所得者などの住宅確保要配慮者が賃貸住宅を契約しにくい状況が生まれている。大家が住宅確保要配慮者へ部屋を貸すことに対して、家賃滞納・孤独死・事故などの不安を持ち、契約を拒むケースが多いからだ。
一方で最近は空き家や空き部屋の増加も大きな社会問題となっている。

そこで国は2017年10月に「住宅セーフティネット制度」を開始した。この制度は、空き家・空き室を活用して高齢者・低所得者・障がい者・子育て世帯など住まい探しが比較的困難になりがちな住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度や登録住宅の改修・入居への経済的支援などを盛り込んだものだ。

同制度の開始にともない国土交通省は、大家の不安を払拭し、制度の活用を促進するために「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」を作成した。その内容を解説しよう。

住宅セーフティネット制度のイメージ。住宅確保要配慮者に対して都道府県などが入居を拒まない住宅の情報を提供するなどの仕組みとなっている(出典:『新たな住宅セーフティネット制度の枠組み』(国土交通省))住宅セーフティネット制度のイメージ。住宅確保要配慮者に対して都道府県などが入居を拒まない住宅の情報を提供するなどの仕組みとなっている(出典:『新たな住宅セーフティネット制度の枠組み』(国土交通省))

住宅確保要配慮者の受け入れに対する12の質問と回答

「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」にはA4サイズの簡易版とA3サイズを折りたたんで使用する配布用がある。前者は大家自身がプリントアウトして読むことを想定し、後者は各自治体や不動産事業者などが大家へ配布することを想定したもの。どちらも内容はほとんど同じだ。興味のある人は簡易版と配布用のいずれかを選び、ダウンロードして読んでほしい。

同ハンドブックは、住宅確保要配慮者の受け入れに対して大家からよく出る12の質問とその答えをまとめたものだ。質問は「住宅セーフティネット制度は大家にとってどのようなメリットがあるのか」(Q1)、「要配慮者を受け入れるにあたって不安なことはどこに相談すればいいのか」(Q2)、「入居者が亡くなった場合、契約の終了はどうすればよいのか」(Q12)といったシーンごとの内容。要配慮者受け入れの検討開始から契約終了までの不安を流れに沿って回答しているので分かりやすい。

「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」簡易版。</br>連絡先一覧など、内容を補足するQRコードも記載されている「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」簡易版。
連絡先一覧など、内容を補足するQRコードも記載されている

回答を補足するサイトなどにつながるQRコードも記載

たとえばQ1を見ると次のような回答が用意されている(一部抜粋)。

●「Q1.住宅セーフティネット制度を活用することには、大家にとってどのようなメリットがありますか?」の回答。

・ 登録した住宅が専用ホームページに掲載され、広く周知される
・ 居住支援協議会に参画する不動産関係団体、居住支援団体や自治体のネットワークによって、入居者が確保しやすくなる
・ 一定の要件のもと改修費等への補助が受けられる
・今後、増加が見込まれている高齢者や外国人等の住宅確保要配慮者を受け入れる際のノウハウや支援団体等とのネットワークが得られることで、安定的な賃貸経営につながるものと考えられる

さらに回答を補足するサイトなどにつながるQRコードも記載しているので、スマートフォンがあればその場ですばやくリンク先を確認することが可能だ。

仲介会社や不動産関係団体等向けの解説版も用意

またこのハンドブックには、大家から相談を受ける仲介会社や不動産関係団体などの関係者に向けた解説版も用意されている。これは大家向けのハンドブックのQ&Aを補足する客観的データや「家賃設定の方法は?」(Q10)といった関係者向けの20のQ&A、法的トラブルといった大家向けよりもさらに専門的な内容に対する相談窓口などを全241ページに渡って記載したものだ。関係者は事前にこの解説版を読む、または相談を受けるときに用意しておくことで、大家に対してより説得力のある説明ができるようになるだろう。

制度は道半ば。しかし、ぜひ一読を

以上のように国は空き家・空き室問題と住宅確保要配慮者問題の同時解決に取り組んでいる。ところが制度が開始されて約半年経った現在、その成果は乏しい。

住宅セーフティネット情報提供システムを確認すると、住宅セーフティネット制度に登録された住居数は707戸(2018年5月18日現在)。国は2020年度末までの目標を17.5万戸としているので達成率はわずか約0.4%だ。国土交通省へその理由を問い合わせると、おもに次の2つをあげた。「1.登録手続きが煩雑である」「2.各自治体が補助金等の予算を確保できていない」。どちらも半年前にスタートしたばかり故なので、今後改善の余地は十分にあるとのことだった。

どうやら住宅セーフティネット制度は今のところ道半ば。だからといって大家の立場からすれば制度を知らなくていいわけではない。制度を理解すれば、その考えに賛同する人や利用することにメリットを感じる人も少なからずいるはずだ。ぜひ、「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」を一読して制度を利用するか否かを判断してほしい。

■国交省:大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000056.html

空き家、空き室に悩むオーナーにとって、住宅セーフティネット制度を理解することは無駄にならないはずだ空き家、空き室に悩むオーナーにとって、住宅セーフティネット制度を理解することは無駄にならないはずだ

2018年 06月12日 11時05分