住宅セーフティネットのあり方についての考察
本年3月に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)。前回(※【新しい住生活基本計画とは?①】何故「住生活基本計画」が必要なのか)の記事では、住生活基本計画がなんのためにあるのかと、新しい住生活基本計画の目標について触れた。
住生活基本計画においては、「住宅確保要配慮者の増加に対応するため、空き家の活用を促進するとともに、民間賃貸住宅を活用した新たな仕組みの構築も含めた、住宅セーフティネット機能を強化」することとされた。
これを受けて、社会資本整備審議会内に「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」が設けられ、7月22日に第3回の会合が開催され、中間報告案の審議が行われた。
私はこの小委員会の座長代理を務めているが、今回は、個人の立場からこの住宅セーフティネットのあり方について考察してみたい。
公営住宅制度との違いは?
今回の住宅セーフティネット制度の特徴は、以下の3点に集約できるのではないかと考えている。
1) 需要者として、高齢者、子育て世帯、低額所得者、障害者、外国人等の従来公営住宅が対象としてきた層よりも、より広範な層を制度の対象としていること
2) 供給されるものとして、公営住宅という公的主体が整備、管理するものではなく、民間が既に整備、管理を行っている住宅ストックを用いること
3) 住宅と入居者のマッチングだけでなく、居住支援という形で、家賃債務保証や入居後の見守り支援などのサービス提供についても、民間事業者、社会福祉法人、NPOなど多様な主体の参画を得ること
このような政策は、これまでの公営住宅のような再分配的な住宅政策と、どの部分が本質的に異なるのであろうか。
ひとまず、公営住宅制度とはどのような制度であったと考えることができるだろうか。言うまでもないが、公営住宅とは、
1) 住宅が量的に不足していた時代に、公的主体が市場では供給されえない、低所得者等向けの住宅を整備する
2) 公的主体が、低所得者をはじめとする入居希望者と、住宅のマッチングを行って、その後の管理も実施する
という制度として位置づけることができるだろう。
そもそも公的主体、具体的には地方公共団体は、1)及び2)のような業務を行うにあたって、この社会で最も適した主体であろうか。
まず1)について検討してみよう。元々公的主体が、住宅の整備について、民間企業をはじめとした他の主体に対して、比較優位を持った主体かというと、首をかしげざるを得ない。それでも、だれも供給しないのであれば、地方公共団体による直接供給という手段を、とるしかなかったかもしれない。しかし、もはや空家・空き室が820万戸存在する状況下では、公的な主体による直接供給を支持する根拠は相当程度剥落したと考えられる。
しかし、空家・空き室を再分配用の住宅として提供することは、適当であろうか。もっと質の良い、ぴかぴかの住宅を提供することが、望ましいのではないだろうか。
この議論は、なぜ現金支給ではなく、住宅という現物で再分配を行っているかという理由に、遡って考える必要がある。自分が何を必要としているかについては、自分が一番よく知っている。これが消費者主権を支える根拠である。だから、経済学では一般的には、生活保護のような現金支給の方が好ましいとされている。
質について一定の上限がある財による再分配を行う意義
それではなぜ、公営住宅などの現物支給が、残っているのであろうか。
これは、所得や資産があるにもかかわらず、再分配を申請する不正受給を、公的主体が見抜く能力がないことが、一つの根拠となっている。つまり、現金であれば、所得の低い方であろうと、お金持ちでもいくらでも欲しいだろう。
言葉は悪いが、下級財という財が存在する。普通の財は、所得が上がれば需要が増える。しかし、下級財とは所得が上がれば、需要が低下する財を指す。僕にとっても、大学の学生食堂は、お金がないときには非常に助かる存在だが、懐が豊かな状況ではあまり積極的に使う気がしない。
つまり、市民生活を送る上で最低限の機能を備えてはいるが、「すごく良質」とは言えない公営住宅は、下級財によって再分配を行っていることと同義である。この場合、十分な所得や資産を持っている者は、この住宅への入居を希望しないため、不正受給問題はそもそも発生しない。また、今回のセーフティネット住宅については、高齢者等必ずしも所得を限定しない層も対象としている。一方、ものすごくお金を持っている方に、政策資源を投入することは、納税者としても一定の抵抗があるのではないか。
質について一定の上限がある財による再分配は、その問題を回避できる。このため、耐震性能等に関しては、一定の性能を確保するための支援を行うものの、空家・空き室となっている既存住宅を用いることには、対象者のスクリーニングを行っているという意味があるように考えられる。
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