ホームレスの生活再建のために、アパート入居の連帯保証人に

「貧困」…ここ数年、目にする頻度が急増した言葉である。

日本に貧困状態の人がどのくらいいるかを示す指標には、貧困率(相対的貧困率)がある。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(※)によると、1985年に12.0%だった貧困率が徐々に上昇し、2000年には15.3%、2012年には16.1%と過去最悪となった。つまり、今、日本人のおよそ6人に1人が貧困状態ということになる。

そうした貧困問題に取り組むのが、「認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい(以下、もやいと記述)」。多くのメディアに取り上げられてきたNPOなので、ご存知の方も少なくないだろう。生活に困窮している人からの相談に応じ、公的な制度を利用するための支援を行なっている。例えば、情報提供や、福祉事務所への生活保護申請に同行するといった支援だ。なかでも力を注いできたのが、アパートなど賃貸住宅入居の際の連帯保証人を引き受けるという入居支援事業。もやい設立の2001年から現在までの15年で、累計2400世帯の連帯保証人を引き受けてきた。

もやいが連帯保証人の引き受けを始めた経緯や現状、課題など、もやいの設立メンバーで初代理事長の稲葉剛さんと、稲葉さんより2014年に理事長を引き継いだ大西連さんに話を聞いた。

左)稲葉剛さん。1969年生まれ。東京大学教養学部在学中から平和運動、外国人労働者支援活動に関わる。「自立生活サポートセンター・もやい」設立後、しばらくは学習塾講師として生計を立てながら活動を続けていたという。2015年、立教大学大学院特任准教授に就任し、貧困・社会的排除、居住福祉論を教えている 右)大西連さん。1987年生まれ。2010年から「もやい」の活動に参加。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、生活に困窮している人への相談支援にも携わるように。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にも参加している左)稲葉剛さん。1969年生まれ。東京大学教養学部在学中から平和運動、外国人労働者支援活動に関わる。「自立生活サポートセンター・もやい」設立後、しばらくは学習塾講師として生計を立てながら活動を続けていたという。2015年、立教大学大学院特任准教授に就任し、貧困・社会的排除、居住福祉論を教えている 右)大西連さん。1987年生まれ。2010年から「もやい」の活動に参加。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、生活に困窮している人への相談支援にも携わるように。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にも参加している

住む場所がなければ、再就職の道は閉ざされる…

東京都新宿区にある「もやい」の活動拠点「こもれび荘」。</BR>連帯保証人引き受けにあたり、保証料は2年間で8000円。このほか、「もやい結びの会」への入会が条件になっているため、年会費として1200円。何かあったときにすぐに駆け付ける必要があるので、入居する賃貸住宅は、「こもれび荘」から片道約90分以内にある物件としている

東京都新宿区にある「もやい」の活動拠点「こもれび荘」。
連帯保証人引き受けにあたり、保証料は2年間で8000円。このほか、「もやい結びの会」への入会が条件になっているため、年会費として1200円。何かあったときにすぐに駆け付ける必要があるので、入居する賃貸住宅は、「こもれび荘」から片道約90分以内にある物件としている

「もやいは、私と湯浅(筆者注:社会活動家の湯浅誠氏)が中心になって立ち上げた団体です。私も湯浅も、学生時代のボランティア活動が始まりでした。1994年から東京の新宿や渋谷の路上生活者の支援活動に関わり、炊き出しや夜回りパトロールをしていたのです。体の具合の悪い人がいれば救急車を呼んだり、福祉事務所まで付き添って職員と交渉して病院の入院にこぎつけるといった活動です」と、稲葉さん。

やがて稲葉さんたちは、他の路上生活者支援団体や支援者と連携し、ある運動に奔走する。東京都に対し、「自立支援センター」の早期開設を求める活動だった。

「ホームレス状態とは、住所がない状態です。住民票がなく、履歴書に書く住所がないために求職活動が困難になり、再就職の道が閉ざされてしまう。その結果、路上生活から脱却できない状況に陥ってしまうのですが、東京都が打ち出した支援策が『自立支援センター』という施設の開設でした。路上生活者が一時的に入所でき、宿泊と食事の提供にとどまらず、住民票の設定など就労支援を行なうことを目的としたものです。都内5ヶ所に開設する計画で、私たちは一刻も早い開設を求めていました」(稲葉さん)。

2000年に東京都が「自立支援センター」を開設。路上生活から施設に入所し、就職できたケースも少なくなかった。しかし、稲葉さんのもとには、新たに深刻な相談が寄せられるようになった。
「施設に入所して仕事を見つけ、『働いてアパートに入るだけのお金も貯まった、でも、連帯保証人が見つからないからアパートに住めない』というんです。そこで、私や湯浅が個人的に連帯保証人を引き受けました。しかし、連帯保証人を求める人が増え続け、今後も増加が予想されました。個人でなく、組織として対応する必要があると考えるようになり、都内の路上生活者支援団体のメンバーに声をかけ、結成したのが『もやい』です」(稲葉さん)。

入居者の安否確認のほか、連帯保証人としてトラブルにも対応

生活相談は、「こもれび荘」にある相談室(写真)で毎週火曜に面談による相談を受け付けている。電話での相談は毎週火曜と金曜に対応。メールでも受け付けている。来所、電話、メールを合わせ、年間約3000人から相談が寄せられるという生活相談は、「こもれび荘」にある相談室(写真)で毎週火曜に面談による相談を受け付けている。電話での相談は毎週火曜と金曜に対応。メールでも受け付けている。来所、電話、メールを合わせ、年間約3000人から相談が寄せられるという

もやいの結成までのプロセスで、稲葉さんはひとつの事実を知った。路上生活者には「経済的な貧困」だけではなく、「人間関係の貧困」の問題があると痛感したのだ。
「路上生活にいたる過程で、人間関係を失ってしまった人が多いのです。家族や友人、かつての会社の同僚とのつながりがなくなり、頼る人もなく、路上で生活するようになった人たち。その象徴が、『アパートに入居したくても連帯保証人が見つからない』ということだと、思いいたったのです」(稲葉さん)。

「経済的貧困」と、「人間関係の貧困」。この2つを社会的に解決していくことが、もやい発足から今にいたるまで、活動の理念になっている。連帯保証人の引き受けでは、アパート入居時に保証人になるだけではなく、アフターフォローにも注力してきた。そのひとつが入居者の安否確認。アパート入居後に年4回、郵便による確認を行ない、場合によっては入居先を訪ねていく。それでも入居後に家賃滞納や、失踪して行方不明になってしまうといったトラブルは起きてしまったという。

「アパートの大家さんや、物件を管理する不動産会社から家賃滞納の連絡が入ったとき、僕ら連帯保証人は滞納分家賃の立て替えをするのですが、まずは現地へ行って入居する本人とお話します。そして、家賃を滞納している原因を聞き、僕らがフォローする。例えば、借金を抱えてしまっているなら弁護士など法律の専門家を紹介する、失業して生活に困っているなら生活保護の申請に付き添ったり、お米などの生活物資の支援をします。生活の立て直しに向けて僕らがサポートしていくのです」と話すのは、大西さん。

入居者と連絡がとれなくなり、部屋を訪ねたら亡くなっていたという、孤独死の現場に立ち会うこともあったというが、連帯保証人として部屋の片づけや原状回復の手配、遺体のお見送りなども行なってきた。

こうした積み重ねもあり、「私たちに対して協力的な大家さんや不動産会社も増えてきていると思います」と、稲葉さんは言う。

広い意味で「ホームレス状態に置かれた人」をサポート

その一方で、稲葉さんと大西さんは、貧困状態にある人が増え続けていることを実感していると話す。もやいの連帯保証人引き受けの条件は、「ホームレス状態にある人」なのだが、初期の頃は路上生活者がほとんどだったのが、徐々に変わってきた。

「当初は、路上で暮らす50代、60代の単身男性が大半でした。事業に失敗して借金を抱えたり、失業して日雇い仕事の現場を渡り歩く状況だったり、いろいろな事情から路上生活を送るようになった人たちです。それが2004年頃から20代、30代の若者から相談を受けるようになりました。ネットカフェで暮らしていたり、友人の家を転々としていたり…。これも住む場所をなくしたホームレスです。なんらかの理由で親との関係が切れていたり、親から虐待を受けていた若者、児童養護施設の出身で行き場をなくしてしまった若者もいます」と、稲葉さん。

そのほか、派遣の契約がきれて寮を出て住む場所がない人、夫からのDV(ドメスティックバイオレンス)を逃れるために転々とせざるを得なくなった人、病気や障がいのため病院に長期入院していて退院後の住まいがない人、高齢で単身という理由でアパート探しに苦労している人、外国からの難民…。もやいが連帯保証人になる対象が広がっているという。

「ここ最近は連帯保証人の代わりに家賃保証会社の利用を条件とする不動産会社も増えていますが、家賃保証会社の審査に通らないという人からの相談も少なくありません。また、家賃保証会社を利用できても、緊急連絡先が必要です。その場合、緊急連絡先のみ、もやいが引き受けるケースもあり、現在約400世帯の緊急連絡先となっています」と、大西さんは説明する。

問題が多様化している今、稲葉さんが直近の課題として挙げるのは公営住宅の増設問題だ。

「東日本大震災後、特に東京圏では住宅の耐震性が重視され、高齢者など低所得者の住まいとなっていた木造アパートが建て替えられる傾向にあります。家賃が跳ね上がり、払えなくなって追い出されるケースもあります。その後、一時的に生活保護施設などに入所しても、退所後に入居できるアパートを確保するのが難しい、という現状があります。日本では、低所得者向けの公的な住宅が不足していますので、解決しなければならない問題です」。

その対策として、稲葉さんは自治体で民間アパートを借り上げるなど、空き家を活用しての住宅セーフティネットの仕組み作りが急務だと話す。その仕組み作りは、国でも検討を始めているが、稲葉さん自身も2年前に「一般社団法人つくろい東京ファンド」という団体を設立し、空き家・空き室活用による低所得者支援に着手している。

「こもれび荘」は交流の場としての役割も。20代、30代の若者を対象にした集まり「ランタンベアラ こもれび」(写真)や、女性対象の交流場所「グリーンネックレス」を定期的に開催している(写真提供:「自立生活サポートセンター・もやい」)

「こもれび荘」は交流の場としての役割も。20代、30代の若者を対象にした集まり「ランタンベアラ こもれび」(写真)や、女性対象の交流場所「グリーンネックレス」を定期的に開催している(写真提供:「自立生活サポートセンター・もやい」)

アパート入居後、気軽に立ち寄れる交流サロンを作った

上)「こもれびブレンド」。東ティモールからフェアトレードのコーヒーの生豆を購入し、交流サロンで働く人たちが自ら焙煎し、販売している。販売にあたり、プロから豆の焙煎指導を受けたという(写真提供:「自立生活サポートセンター・もやい」)</BR>下)取材に訪れたときは、カフェ営業に向けて準備中だった。稲葉さん(左)も手伝いに参加

上)「こもれびブレンド」。東ティモールからフェアトレードのコーヒーの生豆を購入し、交流サロンで働く人たちが自ら焙煎し、販売している。販売にあたり、プロから豆の焙煎指導を受けたという(写真提供:「自立生活サポートセンター・もやい」)
下)取材に訪れたときは、カフェ営業に向けて準備中だった。稲葉さん(左)も手伝いに参加

では、1987年生まれの若い大西さんは、住まいや社会の課題としてどんなことを感じているのだろう。

「今、日本では働く人の4割が非正規の不安定な雇用です。そして、年収200万円以下の人が1100万人ほどいます。現役世代とされる人の低所得化が進んでいるのです。低所得ゆえに貯金もできず、家を買おうとする人も少なくなるかもしれません。そういう元気のない社会になるのは恐ろしいですが、周囲に生活に困っている人が多くなると、貧困が当たり前になり、本当に生活が困窮しているのに『助けて!』と言えなくなる。それが一番怖いと思うんです。貧困が話題になる場面で、『昔は貧乏だったけど、みんなで支え合っていた』という話をよく耳にしますが、今は支え合える前提が違います。少子高齢化で家族の人数が違う、親が亡くなると頼れる兄弟がいない、会社も定年まで支えてくれるとは言い切れない、助け合っていける地域のコミュニティもない。そうなると、孤立してしまう人が増えることになりかねません。孤立という問題と、貧困は密接に関わり合っているので、もやいの活動のなかでも"交流“には力を入れていきたいです」。

この交流事業は連帯保証人引き受け事業のアフターフォローでもあり、もやいの活動理念である「人間関係の貧困」の解決をめざす活動だ。
「アパートに入居して生活が落ち着いたあと、独りぼっちになって引きこもることのないよう、誰でも気軽に立ち寄れる交流サロンを作りました」と稲葉さん。2004年、新宿区内の元印刷所だった一軒家を借りて改装し、もやいの活動拠点「こもれび荘」とし、1階の相談室の隣室に開いたのが「サロン・ド・カフェ こもれび」と名付けた交流サロンである。

今回の取材もこのサロンで行なわれた。毎週土曜に自家焙煎コーヒーや手作りランチ、スイーツを提供するカフェとして営業し、もやいの入居支援事業の利用者のほかにも、一般の人にも開放している。筆者が取材に訪れた日はその前日の金曜。カフェ営業に備えて料理の仕込みや、コーヒー豆を挽く人たちの姿があった。いずれも、もやいが連帯保証人を引き受けた人たちで、「高齢になってしまったけど、働きたい」という希望を受け入れてのことという。ここで出す自家焙煎のコーヒー豆は販売もしていて、元ホームレス状態の人たちの仕事を創出することにもつながった。これもまた、もやいの取り組みの成果だろう。

今回の取材を通じ、住まいを持つことがいかに重要なことであるかを知ったと同時に、住まいの貧困は社会全体で考えていかなければならない問題であると感じた。

(※)厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査の概況」より
貧困率調査は3年ごとに行われている。

☆取材協力
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
http://www.npomoyai.or.jp/

2016年 07月11日 11時04分