東急百貨店本店跡地に計画される新たなランドマーク

東急百貨店本店跡地(2026年4月撮影)東急百貨店本店跡地(2026年4月撮影)

東急百貨店本店は、かつて渋谷区立大向小学校の移転に合わせて東急が落札し、渋谷区から用地を取得したのが始まりとされている。同本店は、渋谷区の道玄坂二丁目(渋谷駅北西側)に位置し、1967年に開業した。元々の計画では、オリンピック施設やNHK放送センターと連携して渋谷の街のにぎわいを広げ、新宿や池袋に比べて開発が遅れていたという課題を解決しようと、スポーツセンターの建設が予定されていた。

しかし当時、西武百貨店の渋谷進出(1968年開業)が判明したことで、集客施設が駅周辺に偏る恐れが生じた。そこで、同地に百貨店を立地させて商業地としての面的な広がりをもたらし、街全体の活性化を促す狙いから、用途が百貨店へ変更された経緯がある。先日、その西武渋谷店も2026年9月30日をもって閉店することが発表された。

同百貨店は1967年の開業から約55年にわたり渋谷における文化発信拠点の一つとして役割を担ってきたが、今回の再開発計画に伴い、2023年1月に営業を終了した。そして、同地では、新たなランドマークとなる「Shibuya Upper West Project」が立ち上がり、同プロジェクトに伴う建築工事が2025年3月に着工した。本稿では、その再開発計画とはどのようなものなのか、現在判明している情報からその概要を解説していく。

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プロジェクトの計画概要

同プロジェクトのキーコンセプトは「Tokyo’s Urban Retreat」である。2025年の報道発表資料では、「渋谷の喧騒から離れ、自らのエネルギーが落ち着きを取り戻し、創造的な発見ができる都心のオアシスとして、身体的、精神的、知的にも満たされ、包括的なウェルビーイングを体験できる空間を創造します」とされている。

Urban Retreatは直訳すると「都会の隠れ家」や「都市の避難所」という意味になる。リトリート(Retreat)とは、山奥や海辺などの自然豊かな場所に行って日常のストレスから離れ、心身を癒やすことを指すが、それを渋谷という都会でも味わえる空間にしようとするコンセプトであることがうかがえる。

では、なぜ、Retreatなのだろうか。それには、東急百貨店本店跡地の周辺環境が関係している。その理由の一つとして、周辺にはBunkamura、渋谷区立松濤美術館や戸栗美術館、高級住宅地が位置し、大規模な再開発が進んでいる渋谷駅前とは異なった空間が形成されていることが挙げられる。実際、今回のプロジェクト地は、大規模な市街地再開発プロジェクトが進む「特定都市再生緊急整備地域(下図参照)」の北西端に位置する。再開発が積極的に進められている中心地とは異なることから、「Urban Retreat」を形成するのに適していたといえるのかもしれない。

また、都市計画的にみても面白い。東急百貨店本店跡地までは都市計画上、地域地区の一つである「商業地域」が指定されているが、その隣接地には「第一種低層住居専用地域」が広がっている(下図参照)。一般的に、商業地域と第一種低層住居専用地域の間には、緩衝地帯となる別の用途地域を指定する。しかし渋谷では、先に高台側に住宅地が整備され、その後に谷地に商業地域が発展していった歴史があるため、商業地域のすぐ隣に一線を画す閑静な住宅地が広がる珍しいエリアとなっている。本稿では深く触れないが、住宅地としての渋谷も魅力的であり、同プロジェクトによって周辺住宅地の魅力はさらに高まるかもしれない。

都市再生緊急整備地域(渋谷駅周辺地域)並びに同地域内における実施中のプロジェクト ※出典:内閣府https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html都市再生緊急整備地域(渋谷駅周辺地域)並びに同地域内における実施中のプロジェクト ※出典:内閣府https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html
都市再生緊急整備地域(渋谷駅周辺地域)並びに同地域内における実施中のプロジェクト ※出典:内閣府https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.htmlプロジェクト周辺の用途地域 ※渋谷区(2025年8月29日)「都市計画図・日影規制図【用途地域等】」

改めて、報道発表資料によると、「Shibuya Upper Westエリア」とは、「多様な開発が進む渋谷の中で、渋谷スクランブル交差点を中心とした渋谷駅周辺と東京を代表する高級住宅地・松濤の結節点である東急百貨店本店跡地から、富ヶ谷、上原、駒場などに向かって西側へと広がるエリア」とされている。そして、この東急百貨店本店跡地において、同店舗に代わる新しいランドマークとして、文化の継承と発展を目指した文化複合拠点が整備される。

都市再生緊急整備地域(渋谷駅周辺地域)並びに同地域内における実施中のプロジェクト ※出典:内閣府https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html外観イメージ ※出典:東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店、株式会社東急文化村(2025年3月12日)『“もう一つの渋谷”における新ランドマーク「Shibuya Upper West Project」着工 隣接するBunkamuraとの融合により、同地に息づく文化の継承と発展に向けた、文化複合拠点が誕生へ ~新施設へ「Bunkamuraザ・ミュージアム」の拡大移転が決定~』
都市再生緊急整備地域(渋谷駅周辺地域)並びに同地域内における実施中のプロジェクト ※出典:内閣府https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html再開発プロジェクトに近接して位置する渋谷区立松濤美術館と周辺に広がる閑静な低層住宅地(2026年4月撮影)

地上34階建ての新ランドマーク。注目の施設構成とは

再開発に伴い整備される建築物は、地上34階建て、高さ155.7mに及ぶ超高層ビルとなる。従前の地上9階建てであった東急百貨店本店を遥かに超える規模である。また、同ビル内には日本初進出となるスモールラグジュアリーホテルブランド「The House Collective(ザ・ハウス・コレクティブ)」が8〜17階に開業し、隣接するBunkamuraから「Bunkamuraザ・ミュージアム」が7階へ移転する。加えて、18〜33階が賃貸レジデンス(住宅)、商業施設が地下1階〜地上6階で構成される。

このうち、7階へ拡大移転する「Bunkamuraザ・ミュージアム」は、ノルウェーに拠点を置く国際的な建築・デザイン事務所のSnøhettaがデザインを担当する。展示面積を約1,000m2へと広げ、天井高も最大約6m確保する計画だ。これにより、最新設備を生かした幅広い分野の大型展覧会の開催が可能となる。

用途配置図 ※出典:東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店、株式会社東急文化村(2025年3月12日)『“もう一つの渋谷”における新ランドマーク「Shibuya Upper West Project」着工 隣接するBunkamuraとの融合により、同地に息づく文化の継承と発展に向けた、文化複合拠点が誕生へ ~新施設へ「Bunkamuraザ・ミュージアム」の拡大移転が決定~』用途配置図 ※出典:東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店、株式会社東急文化村(2025年3月12日)『“もう一つの渋谷”における新ランドマーク「Shibuya Upper West Project」着工 隣接するBunkamuraとの融合により、同地に息づく文化の継承と発展に向けた、文化複合拠点が誕生へ ~新施設へ「Bunkamuraザ・ミュージアム」の拡大移転が決定~』

<建築計画の概要>
・建築物の名称:(仮称)Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)
・用途地域:商業地域(指定建蔽率80%、指定容積率700%)
・建物用途:物販店、飲食店、ホテル、共同住宅、美術館、駐車場
・敷地面積: 13,675.30m2
・建築面積: 11,944.45m2
・延べ面積:119,041.07m2
・構造・規模:鉄骨造・一部鉄骨鉄筋コンクリート造、地上34階・地下4階、高さ155.7m
・完了予定:2029年7月31日
・建築主:東急株式会社
・設計者:株式会社日建設計、株式会社石本建築設計事務所
・デザインアーキテクト:Snøhetta(スノヘッタ)※建築・デザイン事務所(ノルウェー)
・施工者:大林・東急・西武建設共同企業体(代表:大林組)

※出典:東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例第5条第1項の規定による現地設置標識(2026年4月12日時点)

用途配置図 ※出典:東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店、株式会社東急文化村(2025年3月12日)『“もう一つの渋谷”における新ランドマーク「Shibuya Upper West Project」着工 隣接するBunkamuraとの融合により、同地に息づく文化の継承と発展に向けた、文化複合拠点が誕生へ ~新施設へ「Bunkamuraザ・ミュージアム」の拡大移転が決定~』Bunkamuraファサード(2026年4月撮影)

渋谷駅では100年に一度と題した都市再生プロジェクトが進行中

現在、渋谷駅周辺では、「100年に一度」と題した大規模再開発が進行中である。2034年度の全体完成を目指し、東急株式会社、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)が中心となって、官民協働のもと、スクランブルスクエア開発や駅改良、広場整備などが同時に進行している。また、その周辺でも宮益坂地区や道玄坂二丁目南地区、渋谷一丁目地区などにおいて市街地再開発事業が進められており、複数の都市再生プロジェクトが同時複合的に進行している。

今後、各再開発ビルが順次開業していく中で、2029年度の竣工を目指す今回の「Shibuya Upper West Project」は、渋谷駅全体の再開発が完了する前に完成し、段階的な都市再生プロジェクトの重要なピースとして大きな期待が寄せられている。加えて、渋谷駅中心部とは性格の異なる「Tokyo’s Urban Retreat」というキーコンセプトのもと、渋谷の新たな文化発信拠点として重要な役割を担うと考えられる。

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現地の建築状況とスケジュール

再開発は2025年3月に着工している。現地の状況としては、仮囲いが設置されているとともに、地盤改良等の建設機械が稼働しており、基礎関連の工事が進んでいることが確認できる。報道発表では、竣工予定は2029年度としている。また、東京都の条例による現地設置の標識では工事完了予定を同年の7月末としているため、順調に進めば2029年夏頃には完成形の姿を見ることができそうだ。

建築状況(2026年4月撮影)建築状況(2026年4月撮影)
建築状況(2026年4月撮影)建築状況2(2026年4月撮影)

再開発概要のまとめ

「Shibuya Upper West Project」は、半世紀以上にわたり渋谷の文化を牽引してきた東急百貨店本店跡地を、次世代のランドマークへと昇華させる壮大なプロジェクトである。地上34階、高さ約156mの超高層ビルへと変貌を遂げる同地は、単なる商業開発にとどまらず、渋谷の街が持つ独自の文化と、松濤エリアなどの芸術が交差する結節点として、渋谷にこれまでになかった新しい価値を提示するのではないだろうか。

また、本プロジェクトの核心は、コンセプトである「Tokyo’s Urban Retreat」に集約されている。100年に一度といわれる大規模な都市再生プロジェクトが加速し、常に変化し続ける渋谷駅周辺の喧騒から一線を画して、心身の充電や創造的な発見を促す“都会の隠れ家”としての機能を追求している。日本初進出のホテル「The House Collective」や、新たに拡大移転する「Bunkamuraザ・ミュージアム」の導入は、この地が育んできた上質な文化を継承しつつ、国際的な発信力を高める象徴となるだろう。

2029年夏の竣工を目指す同ビルは、駅中心部の再開発が成熟に向かう時期に誕生する。渋谷の生活スタイルや芸術、そして安らぎが融合するであろう新施設は、多様化する都市のニーズに応える「もう一つの渋谷」の顔として、街全体の魅力をさらに多層的なものへと引き上げていくことが期待される。

そして、この変化はプロジェクト敷地内にとどまらない。渋谷駅の西側は、商業地域のすぐ背後に松濤の低層住宅地が広がり、その先には東京大学駒場キャンパスも位置している。都心でこれほど用途地域の落差が近距離に現れるのは珍しい。一般には緩衝となる用途地域を指定するが、渋谷は谷と高台の地形的な特徴もあって境界が急接している。駅前の喧騒から距離を取りつつ、文化と安らぎの空間へ人の流れが自然とつながれば、道玄坂上から松濤方面への回遊性や店舗の立地環境にも良い影響がもたらされるだろう。

再開発プロジェクトに近接して位置する渋谷区立鍋島松濤公園(2026年4月撮影)再開発プロジェクトに近接して位置する渋谷区立鍋島松濤公園(2026年4月撮影)
再開発プロジェクトに近接して位置する渋谷区立鍋島松濤公園(2026年4月撮影)新たな人の流れや回遊性が期待される「松濤文化村ストリート」(2026年4月撮影)

<参考資料・文献>
・東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店、株式会社東急文化村(2025年3月12日)『“もう一つの渋谷”における新ランドマーク「Shibuya Upper West Project」着工 隣接するBunkamuraとの融合により、同地に息づく文化の継承と発展に向けた、文化複合拠点が誕生へ ~新施設へ「Bunkamuraザ・ミュージアム」の拡大移転が決定~』
「東急100年史」、第3章第6節第1項新宿・池袋を追尾する渋谷