減り続けている農業従事者と農地

農業従事者の減少と高齢化が止まらない。厚生労働省の「荒廃農地の現状と対策」によると、1995年時点の農業従事者の数は256万人で平均年齢は59.6歳だった。それが2019年には140万人、66.8歳となっている。これに伴い農地面積も減少している。過去最大であった1961年には608.6万ヘクタールだったが、2023年は429.7万ヘクタールと約3割(179万ヘクタール)減った。この減少した面積は、都道府県面積で2位の岩手県(約152.8万ヘクタール)より広い。農地面積減少の主な理由は、宅地などへの転用や耕作放棄地の発生だ。耕作放棄地とは、「過去1年以上作物を栽培せず、今後数年間に栽培する意思のない農地」のことだ。

耕作放棄地をそのまま放置していると、害虫や害獣の住処となって周辺住民に迷惑がかかり、税金も納め続けなければならない。そういったことから農業を引退、または農地を相続した人などのなかには、農地を売却したいと考える人も少なくないだろう。だが、農地の売却のハードルは、思いのほか高い。

日本の農地面積は、ピーク時の1961年(昭和36年)と比べて約3割(179万ヘクタール)減少している(出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策」)日本の農地面積は、ピーク時の1961年(昭和36年)と比べて約3割(179万ヘクタール)減少している(出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策」)

最も高いハードルは農地法

ハードルの内容は複数ある。その先頭が農地法だろう。農地を維持することは、国民の食生活に直結する。そのため、農地は法律によってほかの用途に用いられないように厳しく規制されているのだ。

農地を売却するには、まず農地法に基づいて許可を得る必要がある。その許可権者は、地目を農地のまま売却するなら農業委員会、農地以外に転用して売却するなら都道府県知事(申請先は農業委員会)だ。農業委員会とは、各市町村に設置された農地法に基づく権利移動の許可や事務を担う組織である。

農地のまま売却をするなら、購入できるのは農業委員会の許可を受けた農家または農業従事者に限られる。したがって、「週末だけ農業をしたい」といった人には売却できない。農家が減少している状況下でこれは大きなハードルだろう。

荒れた水田(画像はイメージ)荒れた水田(画像はイメージ)

転用する際に立ちはだかる農地区分

では、農地以外に転用して売却すればスムーズに事が運ぶのだろうか。更地にして宅地や駐車場用地とすれば、買い手も見つかりやすいかもしれない。しかしながらこの場合も、転用後のしっかりした事業計画がなければ許可が下りない。また、そもそも農地の区分よっては転用許可が下りないこともある。農地は以下の5つに区分けされている。

●農用地区域内用地

市区町村が定める農業振興地域整備計画で農用地区域と指定された農地。転用は原則不許可。

●甲種農地

市街地調整区域内で特に良好な営農条件を備えている農地。転用は原則不許可。

●第1種農地

営農条件が良好で、集団的(おおむね10ヘクタール以上)の農地。転用は原則不許可だが、公共性の高い事業に転用する場合等は許可。

●第2種農地

鉄道駅が500メートル以内にあり、今後は発展が見込まれる生産性の低い農地。転用は、周辺に当該事業を実現できる農地以外の土地や第3種農地があれば不許可。

●第3種農地

鉄道駅が300メートル以内にあり、都市化が著しいと見られる地域の農地。転用は原則許可。

農地は5つに区分されており、そのうち3つは原則として転用不許可となっている(出典:農林水産省ホームページ)農地は5つに区分されており、そのうち3つは原則として転用不許可となっている(出典:農林水産省ホームページ)

農地売却の流れ

以上のハードルをクリアしていけば農地の売却は可能だ。その後の流れは次のようになる。

●地目が農地のまま売却する場合

1. 購入者を探す
知人や農協などに紹介を依頼するといった方法で購入者を探す。

2. 売買契約を締結する
契約の際は、「農業委員会の許可が下りなければ契約解除」という条件を必ず入れる。

3. 農業委員会に許可申請をする
提出書類は委員会によって異なるので、各自治体のホームページなどで確認しておく。

4. 農業委員会から許可通知が届く

5. 購入者へ農地を引き渡す
このときに代金を受け取り、所有権移転登記を行う。

●地目を転用して売却する場合

1. 農地区分を確認する
自分の農地がどの区分なのか、農業委員会や市区町村の担当課に問い合わせて確認する。

2. 購入者を探す
方法としては知人からの紹介のほか、農地売買の経験が豊富な不動産会社へ依頼するといったことが考えられる。

3. 売買契約を締結
この際、農地のまま売却する場合と同様に「農業委員会の許可が下りなければ契約解除」という条件を必ず入れる。

4. 農業委員会に転用許可の申請を行う
許可権者は都道府県知事だが、申請先は農業委員会。

5. 都道府県知事から許可通知が届く

6. 購入者へ農地を引き渡す
このときに代金を受け取り、所有権移転登記を行う。

農地の売却には高いハードルがある(画像はイメージ)農地の売却には高いハードルがある(画像はイメージ)

農地売却にかかる費用や税金

●仲介手数料

農地の購入者を不動産会社に見つけてもらった場合、仲介手数料を支払う。この金額は売却額によって以下のように変わる(消費税別)。

売却額200万円以下:売却額の5%以内
売却額200万円超400万円以下:売却額の4%+2万円以内
売却額400万円超:売却額の3%+6万円以内

例:売却額1,000万円の場合
1,000万円×3%+6万円+消費税=39万6,000円

ただし、不動産会社が直接農地を買い取る場合は、仲介手数料はかからない。

●税金

農地売却の際に発生する税金は、所得税・住民税・復興特別所得税だ。これらの税額は、譲渡所得に基づいて算出される。

譲渡所得=売却額-農地購入額-諸費用(仲介手数料など)
税額=譲渡所得×税率

それぞれの税率は、その農地を売った年の1月1日現在で、農地の所有期間が5年を超えるか否かで異なる。5年を超える場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となる。

・所有期間5年超(長期譲渡所得)の場合
所得税:15%
住民税:5%
復興特別所得税:0.315%
合計:20.315%

・所有期間5年以下(短期譲渡所得)の場合
所得税:30%
住民税:9%
復興特別所得税:0.63%
合計:39.63%

以上のように所有期間によって税率が大きく異なるので、売却するタイミングはよく検討したほうがいいだろう。


耕作放棄地は、前述のように放置していると雑草が茂り害虫や害獣が発生しやすくなる。周辺住民にとっては迷惑となるはずだ。また、いざ売却する段階になっても、時間がたっていればたっているほど復旧するのに手間も費用もかかる。さらに2017年度からは、農業委員会等から耕作放棄地と判断された農地の固定資産税が約1.8倍になった。農地の売却は手間がかかるが、使用する予定がなければ早めに手続きを行うのが得策だろう。

最近は里山の荒廃によって害獣被害も拡大している。荒廃理由のひとつが耕作放棄地の発生だ最近は里山の荒廃によって害獣被害も拡大している。荒廃理由のひとつが耕作放棄地の発生だ

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