個人向けサウナの需要が高まっている
第3次サウナブームといわれて久しい昨今。今や自宅にサウナを置きたいと考える人も少なくないようで、個人向けサウナの需要がじわじわ高まっていると聞く。なかでもバレルサウナは一般家庭にも設置できるサイズ感で注目を集めている。
バレルサウナとは、サウナの本場フィンランド発祥の樽(バレル)型のサウナのこと。現在、日本で流通しているバレルサウナは大半が輸入商品だという。そんななか、コストをかけて外国のサウナを輸入するのではなく、地元の木材を有効活用しようと地産地消のバレルサウナを販売する会社が増えてきた。
今回は、愛知県春日井市にある株式会社アーティストリーが販売をスタートした県産材のバレルサウナについて紹介してみようと思う。
主に商業用家具製作を手がけるアーティストリー。立体物や曲線を美しく造形する3D5軸を駆使した繊細な技術に定評がある。2022年9月鎌倉にオープンした英国アンティーク博物館/BAM鎌倉(設計:隈研吾)のファサードの加工なども手がけた。写真は、第5回あいち木づかい表彰 製品部門優秀賞/愛知県森林協会長賞を受賞したローベンチ。名古屋市のコミュニティスペース「FabCafe nagoya」のためにデザイン・製作したもの
愛知県の森を循環させるために考案されたというバレルサウナ。地元豊田市の森から切り出された木材を使用している。
同社営業開発部営業開発課・三好將斗さんに経緯について尋ねると「日本に流通しているバレルサウナの多くは海外から輸送コストをかけて輸入しています。カーボンニュートラルの時代のなか、森に恵まれた自分たちの国の森林資源を活かしたものを作った方がいいのではと思い、豊田市と豊田市に関わりのある人たちと一緒に構想を考えたのがきっかけ」とのこと。
さらに、「バレルサウナに日本の木材が使用され、その資金が山に還元されることで森林の手入れが行き届き、元気な森が育つという好循環にもつながる」という想いも、製作をスタートさせた理由だったという。
高い技術を要するサウナ。熟練した家具職人が匠の技でつくり上げるのが同社のバレルサウナの特徴だ。サウナ人気とともに、森の循環にも目を向けるきっかけづくりとして期待が寄せられている。
効率よく熱気を循環させるバレルサウナの特徴とスペック
まずは、バレルサウナの特徴やスペックについて紹介しておこう。
【形状】
樽のような円筒形のフォルムは熱気をバランスよく対流させることができるため、無駄なく短時間でサウナを適温まで上げることができる。
半日ほどで組み立てが可能。土台やベンチ、スノコ、扉の一部にはビス止めしている箇所があるものの、木材の接合部分には木栓を使用しており、釘を使わないためさびにも強い。基本的には設置場所に部材を持ち込んで職人が組み立てる。
【素材】
樹種は豊田産のスギもしくはヒノキから選べる。スギは断熱性、調湿性に優れていて特有の温かみがある木材だ。ヒノキは防虫殺菌効果に優れているほか、香りのリラクセーション効果も期待できる。それぞれ、木材ランクのなかでも希少性の高い「無地」と「上小節(じょうこぶし)」を採用し、サウナに適した含水率10~13%の木材を使用している。
【本体のサイズ(長さ)】
L1800(mm):2~4人用
L2500(mm):4~6人用
L3000(mm):6~8人用
幅は1,915mm、高さは土台を含め1,925mm。
【ストーブ】
サウナの心臓部分であるストーブは電気製で、ロウリュも楽しめる本場フィンランドSAWO社サウナストーブを採用。ストーブの大きさは下記の2種類。
4.5kwストーブ:気温10℃で室温85℃まで上昇
6.0kwストーブ:寒冷地またはL3000に推奨
【屋根材】
バレルサウナの屋根部分にシート状のアスファルトシングルを装着することで、屋外使用にも対応。屋外に設置する場合、雨風などの対策は欠かせない。アスファルトシングルは軽量で柔らかく、ひび割れやさびが発生しにくいという特徴があり、防水・防音性にも優れている。屋根材の下には防水シートやコーキングも施し、万全の対策を施しているとのことだ。
【参考価格】
L1800スギ材(4.5kwストーブ)を豊田市に完成品を納品した場合
組み立て費用と電気工事費、基礎工事費、運搬費などの諸経費を含め340万円(税抜)。同条件でヒノキ材の場合、355万円(税抜)。設置する地域や規格、基礎工事の規模によって金額は変動するため、現地調査と見積もりは必須だ。
バレルサウナの設置には電気・基礎工事が必要
サウナストーブは大量の電気を消費するため、単層200Vの回線が必要となる。立地によっては、コンクリートの基礎や土台を新たに設置する工事が必要な場合も。
「本体だけで200~300kgあります。そこに人が4人入るとして500kgにはなりますので、基礎がしっかりしているというのが必須条件です。室内に置きたいという相談もあるのですが、土台さえしっかりしていれば置けなくはないです。ただ、排水の問題もあるので屋外設置のほうが望ましいといえます」(三好さん)
保障期間は1年間(※)。メンテナンスは年に1回程度、防水撥水塗装をするだけで大丈夫だそう。
※正常な使用状態で破損が生じた場合のみ保障対象
バレルサウナに使用されるのは害虫に強く強度がある豊田産木材
使用する愛知県豊田市の木材について、製材を担当する西垣林業株式会社・地域材活用事業部主任の沼田真実さんによると「豊田の木材は虫害が少なく、強度のあるものが多い」とのこと。そもそも木は育った土地の環境に強いという性質があるため、地産地消のバレルサウナは外国製に比べるとコスト、耐久性を見ても優位といえそうだ。
さらに今回のバレルサウナについて、林業が抱える課題について沼田さんはこう話す。
「豊田市の山は全体の約60%が人工林です。人工林は、適切な間伐をしないと地面に水を蓄える機能が低下してしまいます。災害の起きにくい森林にしていくためには間伐をし、その木材を利用することで、資源を循環させていくことが重要です。健全で災害の起きにくい山にしていくこと、そのために木材を利活用していくことは、その地域に住んでいる人の安全を守っていくことにもつながると思っています」
川上、川中、川下の協働で生み出したバレルサウナ
写真右)“川上”で森の木を間伐、管理する豊田森林組合の井原さん。中央)“川中”である製材業・西垣林業の沼田さん。左)バレルサウナの発案者。デザイン・設計を担当した“川下”にあたるアーティストリーの大西さん木工業界でよく使われているのが川上・川中・川下という表現。森で木を切ったり管理したりするのが“川上”、木を製材・流通するのが“川中”、木を使って製作する家具職人などが“川下”といった具合に3つの分業制となっている。今回のバレルサウナは、“川上”である豊田森林組合と“川中”の西垣林業、“川下”のアーティストリーがタッグを組んで製作にあたった。
「これまでは何かを作るにあたって三者間の細かい仕事内容がお互いに見えにくい環境にありました。うまく連携ができていなかった川上、川中、川下の関係性がバレルサウナの制作を通して、各々の仕事を知るいいきっかけになったと思います。僕自身も森や製材工場を見に行って、だいぶ視点が変わりました。木をただ切るのではなくどのように切るのか工夫されていたり、丸太を製材するときにどこから切ったら無駄なく使えるのか細かく計算されていたりと、どういう人がどんな想いで木に向き合っているのかを知って意識が変わりました。バレルサウナを販売する立場としても、単なる商品としてだけでなく熱意をもってユーザーに届けることができます」と三好さんは話す。
バレルサウナをきっかけに地域の森に目を向けてほしい
国土の約70%が森林という森林大国・日本。地元の資源をどう使っていくのかは、今後も大きな課題だ。
「地域の資源である木材を選んでいただくには、多くの方が地域の森林に関心を持つことが大切だと考えています。バレルサウナをきっかけにこの木がどこから来たのか、その森はどんなところなのだろう? など、森林に関心を持っていただくことを期待しています」(沼田さん)
ブームに乗って大手百貨店ではサウナ催事が各地で開催されている。アーティストリーが手がける県産材バレルサウナも、販売開始から立て続けに催事に登場している。
「多くの方に来場していただき、想定していた手応えが得られた」と三好さん。客層は20代~30代がボリューム層だが、セカンドライフを楽しもうとするシニア層など幅広い層が興味を持って見に来ていたとのこと。別荘やこれから建てる新築住居への設置を検討する人が多く、一般ユーザー以外に温浴施設の担当者からの問合せもあったとか。部材が持ち運べることから、キャンプ場やイベント会場での活用も広がりそうだ。
サウナ愛好家を指す「サウナ―」やサウナでリフレッシュした状態を指す「ととのう」というワードは、今やすっかりメジャーとなった。地元の木材を使ったバレルサウナは、人間だけでなく森も“ととのう”サウナ。
「人の体も環境も循環させるのが地元産材を使ったバレルサウナです。環境が“ととのう”ための一端を担っているという誇りを持って使用していただけたらうれしい」と三好さん。
バレルサウナがどんな場所でどのように展開されていくのか、楽しみだ。
【取材協力・写真提供】
◆株式会社アーティストリー
http://www.artistry.co.jp/
◆Photo:toha
【参考動画】
「豊田の森から生まれたバレルサウナ short」
https://youtu.be/yeMWj9W8XuY
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