鎌倉にプラスチックの地捨地消をめざす産学官共創拠点誕生

2022年6月、鎌倉駅近くに産学官共創の「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」として、リサイクリエーション慶應鎌倉ラボ(以下:ラボ)が誕生した。
これは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に地域共創分野育成型プロジェクトとして採択されたもので、慶應義塾大学(代表機関:プロジェクトリーダー田中浩也環境情報学部教授)、鎌倉市(幹事自治体)及び参加企業団体21社(幹事企業:株式会社カヤック)によるプロジェクトの研究拠点。
国内初のプラスチックのアップサイクルの都市型施設で、地域と一体になり地域で発生したごみを分別回収、資源として活用して資産に変える、「地産地消」ならぬ「地捨地消」に取組むプロジェクトだという。

鎌倉駅から徒歩約5分のリサイクリエーション慶應鎌倉ラボ外観。窓から「ごみを資源に。資源をまちの資産に。」と呼びかける鎌倉駅から徒歩約5分のリサイクリエーション慶應鎌倉ラボ外観。窓から「ごみを資源に。資源をまちの資産に。」と呼びかける

通常は慶應大学の研究施設として運用され、イベント時などには公開されるこのラボ。プロジェクトリーダーでもある田中浩也教授は、日本で初めて家庭で3Dプリンターを使った人物で、けして広いとはいえないラボ内には実験用に小型8台(2階含む)、中型1台、大型1台の3Dプリンタが設置され、5人で研究を行っている。いったい3Dプリンタを使って、どんなリサイクルが可能なのだろうか。

鎌倉駅から徒歩約5分のリサイクリエーション慶應鎌倉ラボ外観。窓から「ごみを資源に。資源をまちの資産に。」と呼びかけるラボにはいると、大中小の3Dプリンタや試作品が沢山並ぶ

東京五輪の表彰台は使用済プラスチックのアップサイクルだった

窓際には小型の3Dプリンタや試作品、奥には原料となるリサイクル素材や中型・大型3Dプリンタの機器類などがズラリ並んでいるラボ室内を、慶應義塾大学SFC研究所の青木まゆみ特任助教にご案内いただいた。

まず目に飛び込んでくるのは、入口の繊細かつ複雑な模様のブルーのパネル。
「これは、昨年(2021年)開催された東京五輪・パラ五輪大会の表彰台に使われたものと同じパーツを組み合わせたものです」。2020年の大会では、五輪史上初となるリサイクル素材を使用した表彰台が使用された。これを実現するための「みんなの表彰台プロジェクト」では、P&G社の事業協力のもと使用済の洗剤ボトルが集められ、原料として活用された。ラボのプロジェクトリーダーを務める田中浩也教授らは、この「みんなの表彰台プロジェクト」にも3Dプリント製造設計担当として参加。私たちが東京五輪で見たあのブルーの表彰台やメダルを置く台は、3Dプリンタを使ってリサイクルプラスチックからつくられたアップサイクル品だったのだ。

表彰台は、パネルを現場で組み合わせて使用。デザイン性が高い上に、個人競技と団体競技では壇上にあがる人数も異なるため表彰台の規模も異なるが、パーツを組み合わせるこの表彰台はサイズも臨機応変に対応しやすく、使用後もリサイクルしやすく、好評だったという。

「みんなの表彰台プロジェクト」では、洗剤の詰め替えボトルをリサイクルして使用。プラスチックは溶かして東京五輪カラーに着色したペレット(瓶の中)になり、これを3Dプリンタ利用でデザインされたパネルに成形される「みんなの表彰台プロジェクト」では、洗剤の詰め替えボトルをリサイクルして使用。プラスチックは溶かして東京五輪カラーに着色したペレット(瓶の中)になり、これを3Dプリンタ利用でデザインされたパネルに成形される

この表彰台パネルをはじめ、ラボ内には3Dプリンタを使ってアップサイクル研究中の試作品が数多く並んでいる。例えば色とりどりのスニーカー。そもそもスニーカーは様々な素材でできた数多くのパーツを組み合わせた複雑な製品。
「樹脂製の単一素材を使ってパーツを作り組み合わせれば、またリサイクルも可能になります。色もイベント参加者の意見を聞きながら作成しました」と青木助教。
ここでは3Dプリンタでどこまで複雑なモノづくりができるか、どんなニーズがあるのか、日々研究されているのだ。

「みんなの表彰台プロジェクト」では、洗剤の詰め替えボトルをリサイクルして使用。プラスチックは溶かして東京五輪カラーに着色したペレット(瓶の中)になり、これを3Dプリンタ利用でデザインされたパネルに成形される繊細かつ複雑なデザインのオリンピック表彰台パネルとスニーカー、いずれも3Dプリンタで作られたものが展示されている

3Dプリンタ利用で脱炭素に貢献、環境に優しい椅子をコラボ開発

もうひとつ目につくのは、曲線が印象的なデザインの椅子。
これは脱炭素社会にむけて、株式会社オカムラと慶應義塾大学のコラボレーションによって生まれた家具のプロトタイプ。CO²排出量を削減するバイオマスポリエチレンを原料として、3Dプリンタを使って生産された共同研究作品だ。

「Up-Ring(アップリング)」のプロトタイプの椅子。製品化までに、たくさんのプロトタイプを作成した「Up-Ring(アップリング)」のプロトタイプの椅子。製品化までに、たくさんのプロトタイプを作成した

3Dプリンタを使ってモノをつくるメリットは、多数ある。従来は金型を作ることからモノづくりがスタートするが、3Dプリンタではその必要なく設定を変更するのみのため、一台から生産できる。
「プロトタイプをたくさん作って、微調整することが可能になります。高さを少し変えるなど、特注品も作りやすいですね」と青木助教。
これによって、素材や手間の無駄を省くことができ、消費電力などを合わせると環境負荷を抑えられるという。
なお、この椅子やテーブルは、現在「Up-Ring(アップリング)」という商品として、完成品はオカムラから販売中だ。

「Up-Ring(アップリング)」のプロトタイプの椅子。製品化までに、たくさんのプロトタイプを作成した椅子はギリギリ中型のプリンタで作成可能。椅子はデザインによって6時間~12時間かかるので、セットして帰宅して朝確認

リサイクルから製品化まで完結する体験型ワークショップも

この3Dプリンタを使ったモノづくりを実感できるよう、ラボではイベントとして不定期で市民参加型の体験型ワークショップを開催している。既に2回開催され大好評だというワークショップの流れをもとに、プラスチックのリサイクルから製品化までの流れを説明しよう。

ワークショップは、参加者がリサイクル用にプラスチックハンガーを持参するところから始まる。
そもそもプラスチックはチョコレートに例えられるように、熱で溶かして固めることで成形しやすいのが特徴。
ラボに集められたプラスチックは、プランターなど汚れているものの場合は、まずネットに入れて「洗濯機」で洗う。特に汚れていないプラスチックハンガーなどの場合は、「粉砕機」に入れて細かくする。粉砕機は大きな音がするため防音用のパネルを張り付けているが、機械そのものはそんなに大きなものではないのだという。

破壊されたプラスチック片は形が不揃いなため、「リペレッター」に入れて熱で溶かして成形し、粒が揃った「ペレット」(いわゆるプラスチック原材料の形)にする。このペレットを3Dプリンタにかけると、溶けたプラスチックがまるでそうめんかモンブランのクリームのように設計した通りに出てきて、層になって固まって完成品になるという流れだ。

粉砕機で裁断されたプラスチックハンガー。裁断しただけではサイズが大小バラバラ、持ち寄ったものなので色もさまざま粉砕機で裁断されたプラスチックハンガー。裁断しただけではサイズが大小バラバラ、持ち寄ったものなので色もさまざま
粉砕機で裁断されたプラスチックハンガー。裁断しただけではサイズが大小バラバラ、持ち寄ったものなので色もさまざま粉砕したものを3Dプリンタにかけられるようペレットにする。ペレットはリサイクルプラスチックだけでなく、お茶殻を混ぜてほうじ茶の香り付きなど様々なペレットが開発されていて、これも資源循環の研究テーマ

ワークショップで作成する一輪挿しは、3Dプリンタでわずか25分で出来上がる。
参加者は目の前で見慣れたプラスチックハンガーが粉々になり、ペレットになり、一輪挿しになるリサイクルの一連の流れを実感し、目を輝かせるという。
「子どもたちはもちろん、付き添いの大人にとっても初めての体験。皆さん、表情が変わります」と青木助教。
短時間でリサイクルの流れや仕組みを実体験できるのが、この都市型ラボの大きな役割なのだ。

粉砕機で裁断されたプラスチックハンガー。裁断しただけではサイズが大小バラバラ、持ち寄ったものなので色もさまざまワークショップで制作する一輪挿しとその原料となるプラスチックハンガーをリサイクルしたペレット
粉砕機で裁断されたプラスチックハンガー。裁断しただけではサイズが大小バラバラ、持ち寄ったものなので色もさまざま一輪挿しなら小型の3Dプリンタにかけて25分で出来上がる。一方椅子などの大物は中型又は大型プリンタを使い、デザインによって6~12時間かかる

リサイクルの分別精度がアップサイクルの品質を左右する

ペットボトルはリサイクルされて再びペットボトルに。ビンや缶もそれぞれリサイクルされて再び同じものになるように、詰め替えパックも純度が高くリサイクルしやすい素材なのだという。花王株式会社では自社でリサイクルして、同じ詰め替えパックにリサイクルしているというが、この純度が高い素材を利用してアップサイクルで新たな形を生み出そうと取り組んでいるのが、このラボだ。

興味深かったのが、取材時に行われていたリサイクル素材のテスト。3Dプリンタに適した材料になっているか、素材の品質を確認するため複雑な形状のテスト品を出力して比較する。
「プラスチックハンガーでも、同一種類をリサイクルした方が純度は高まります。その点シャンプーや洗剤など生活清潔用品の詰め替えパックはリサイクルしやすいのです」と湯浅亮平特任講師。
同じ詰め替えパックでも、食品関係は菌が繁殖しやすく匂いが残ったりするためリサイクル工程が複雑になるため、現在は生活清潔用品に限定して回収しているのだという。

テスト品を確認する湯浅特任講師。「リサイクルの品目が揃っていると綺麗な成形になり、雑味があると形が崩れやすくなります」テスト品を確認する湯浅特任講師。「リサイクルの品目が揃っていると綺麗な成形になり、雑味があると形が崩れやすくなります」

リサイクルによるアップサイクルの大前提となるのが、リサイクル目的に適したきちんとした分別。まさにリサイクルの基本で、きちんと分別すれば資源になるものも、混ぜてしまえばただのごみになってしまう。

一連の見学をしたことによって、容器包装プラスチックのなかでも生活清潔用品の詰め替えパックは特別なものに思えてくるから不思議だ。

テスト品を確認する湯浅特任講師。「リサイクルの品目が揃っていると綺麗な成形になり、雑味があると形が崩れやすくなります」テスト品三種。右が細かな線も崩れずに綺麗に出力されてていて、左は直線がゆがんでいるのがわかる

展示で見える化、湘南江の島駅にプラスチックから生まれた「プラレール」

鎌倉市では2016年から花王株式会社がガールスカウトを通じて、2017年から株式会社カヤックや街づくりネットワークである「カマコン」を通じて、市民を巻き込んでプラスチック回収活動「RecyCreation(リサイクリエーション)」を展開している。

回収したプラスチックのリサイクルを見える化するため、様々なイベントや展示が行われてきたが、現在は湘南モノレールの湘南江の島駅にて湘南モノレール模型「sasumo(サスティナブルモノレール)」を展示中だ。

この激しいアップダウンやカーブのあるジェットコースターのような湘南モノレールのレールや橋脚も、リサイクル材を活用して3Dプリンタで制作されたもの。しかも人感センサーで人が近づくとレール上をモノレールが走り出す仕組み。展示台に使われている色とりどりのブロックもプラスチックのリサイクル品。花王株式会社提供のもので、かねてからのプロジェクトで回収されたリサイクルプラスチックからできた「おかえりブロック」だ。

湘南モノレールの湘南江の島駅「sasumo(サスティナブルモノレール)」は12月中旬まで展示予定湘南モノレールの湘南江の島駅「sasumo(サスティナブルモノレール)」は12月中旬まで展示予定
湘南モノレールの湘南江の島駅「sasumo(サスティナブルモノレール)」は12月中旬まで展示予定「おかえりブロック」は組み合わせて形を作りやすいため、既に様々なイベントで活躍している

2022年11月には、湘南モノレール江の島駅に新たに鎌倉時代の源氏の13の勢力エリアの大型立体地図「鎌倉FABの13人」も出現している。
これは湘南の中学や高校などが各エリア担当に分かれ、3Dプリンタを利用してプラスチックを再生した150ミリ角の144ピースを出力、最終的に組み合わせて縦1800ミリ×横1800ミリの大型立体地図にするもの。多くの関係者をリサイクルに巻き込み、実際に再生にも参加し、展示することでリサイクルの流れを実感できるプロジェクトで、これも完成が楽しみだ。

湘南モノレールの湘南江の島駅「sasumo(サスティナブルモノレール)」は12月中旬まで展示予定「この展示が愛情や愛着をもってリサイクルに取り組むきっかけになれば」とプロジェクトを担当されたSOLIZE株式会社の高橋幸宏チームリーダー(左)と湘南モノレール株式会社の戸井田純一係長(右)

リサイクルの見える化がひとりひとりの行動変容と循環型社会を生む

しげんポストで回収している生活清潔用品の詰め替え用パックとは、シャンプー・リンス、ボディウォッシュ、メイク落とし、液体入浴剤、ハンドウォッシュ、食器用洗剤、衣類用洗剤や柔軟剤、浴室用洗剤などが入った薄いプラスチックフイルム性のもの。メーカーは問わないので、キャップがあればはずし、使い切って、洗って、乾かしたものを、市内に設置されたしげんポストへしげんポストで回収している生活清潔用品の詰め替え用パックとは、シャンプー・リンス、ボディウォッシュ、メイク落とし、液体入浴剤、ハンドウォッシュ、食器用洗剤、衣類用洗剤や柔軟剤、浴室用洗剤などが入った薄いプラスチックフイルム性のもの。メーカーは問わないので、キャップがあればはずし、使い切って、洗って、乾かしたものを、市内に設置されたしげんポストへ

こうしてプラスチックのリサイクルやアップサイクルの流れを知っているのと、「分別しても最終的にごちゃまぜにして燃やしているのでは」という疑念を持っているのでは、同じ分別作業をするにも大きな違いが生まれる。

分別の目的や意味を理解すれば、ごみに対する意識は変わり、自ずと行動に変化も生まる。ひとりひとりが変わることで、コミュニティが変わり、社会も変わる。例えばリサイクル工程に合わせて21種類に分別される鎌倉市に東京都内から引っ越した際は多いと思って戸惑ったが、住んでから、更に今回の取材を通して、私自身の意識も大きく変わった。
そのままリサイクルしやすいビン・缶やペットボトルだけでなく、紙ごみの中でも牛乳パックや段ボールは効率よくリサイクルできるから特別扱い。容器包装プラスチックごみの中でも、今日から生活清潔用品の詰め替え用包装プラスチックは別格。もちろんこれらの基準はリサイクルをする自治体によって異なり、リサイクル工程が変わればさらに分別も変化するので、各自治体のリサイクル状況に合わせた行動をするようになった。

鎌倉市役所入口のリサイクルコーナー。「しげんポスト」だけでなくマイボトル推進のためのウォータークーラーやインクカートリッジの回収箱などが並ぶ鎌倉市役所入口のリサイクルコーナー。「しげんポスト」だけでなくマイボトル推進のためのウォータークーラーやインクカートリッジの回収箱などが並ぶ

ちなみに鎌倉市では、この生活清潔用品の詰め替えパックの回収を、通常の資源ごみの回収とは別に、市内に設けられた「しげんポスト」で行っている。「しげんポスト」は現在市役所(鎌倉市御成町・写真)と株式会社カヤック(鎌倉市御成町)とリサイクリエーションラボ(鎌倉市大町)に設置されていて、ほかに市内の小中学校を通じても回収の取組みをしているという。

「しげんポスト」そのものも、3Dプリンタを使ってつくられた。それぞれの自治体のリサイクル事情を把握し、きちんと分別すれば、ごみが貴重な資源に変わる。ごみをごみで終わらせないで資源に、そして資産に変えるために、いつもよりちょっと丁寧に分別。
そんな一人一人の小さな行動の変化が、循環型社会に繋がる一歩になる。

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