スーパー撤退後に誕生した複合施設・春日台センターセンター
神奈川県相模原市と厚木市に挟まれた愛川町は1960年代後半から町内に広大な内陸工業団地が整備され、それに伴って団地や住宅の開発が進んだエリア。春日台センターセンターがある春日台もそんな住宅地のひとつで、本厚木駅からバスで向かうと厚木市から続く工業団地を抜けた先にある。
バス通りから住宅街へ入り、無人の公園から目を向けた先に春日台センターセンターがあった。2019年に自治会が50周年を迎えた春日台には中心部に商業エリアがあり、そこにあったスーパーが春日台センター。2016年になくなってしまったスーパーの跡地を、もう一度春日台の中心地にという願いを込めて名付けられた複合施設が春日台センターセンターである。
スーパーがあった敷地を利用し、幅約42mと東西に細長い木造の建物が新築されており、公園から向かうと建物中央を南北方向に貫く通り土間を抜けたところがかつての商店街の中庭部分。団地にはよく中庭を挟んで向かい合わせに店が並ぶ商店街がつくられていたものだが、ここもまさにそんな感じ。ただ、残念ながら開いている店はごくわずか。商店街としてはあまり機能していないように見えた。
中庭の向こうには壁に春日台会館と書かれた、地域の集会施設があり、中庭の中央にはこの住宅地が誕生した50余年前に植えられたものであろう大きなくすの木。中庭を眺められる建物前のベンチで春日台センターセンター・センター長の安倍真紀さんに話を聞いた。
地域と話し合う中で生まれてきた複合施設
経営母体である社会福祉法人愛川舜寿会はここから500mほどの場所で老人ホームを運営している。もちろん、春日台も、ありしの春日台センターも知っており、2016年のスーパー閉店後に地域の雰囲気が悪くなっていくことに心を痛めてきた。
「ここは周囲1キロ圏内に小学校が2校あり、当時から買い物客に加えて子どもたちが集まる場所でした。春日台センター自体はできて30年ほどだったでしょうか、商店街の他の店舗同様、客が減って成り立たなくなって閉店してしまったのですが、その後も子どもたちは集まってきていました。ただ、中心となる場所がなくなり、落書きが増えるなど雰囲気は悪化。治安を懸念する声も出てくるようになりました」
そこで、同会では地域の人たちと「あいかわ暮らすラボ」というコミュニティを立ち上げ、地域交流フェスやトークなどを繰り返してきた。そのなかから生まれて、形になったのが春日台センターセンターである。
「最終的には町の公募に応じて高齢者事業プラスαということになったのですが、高齢者だけではなく、もっと広く地域の人たちが集まりやすい場になることを模索。共生、寛容を理念として考え続けた結果が地域共生文化拠点となる複合施設です」
高齢者向け施設だけでは高齢者しか集まらないし、障がい者向け施設も同様。そうした特定の誰かのためだけではなく、そうした人たちに加え、地域の子どもや大人、このエリアに多い外国人なども含め、誰もが来やすい、集まれる場所を目指したのである。
できる人ができることをやる場所
具体的にどのような場かを見ていこう。建物の最も西側にあるのは「洗濯文化研究所」と名付けられたコインランドリー。布団が洗える大型ランドリーマシンもあり、セルフ利用のコインランドリーとは別に、洗濯代行サービスも利用できる。依頼すると洗濯から畳みまでを代行してくれるそうで、ここは障がい者の就労支援の場としても機能する予定となっている。
「といっても働く人全員が洗濯だけに関わるようなことは考えていません。ランドリー以外も含めてできる人ができることをやるのが基本。できる人にはPCでチラシを作ったり、SNSで情報を発信したりすることもお願いしたいと考えています。人がそれぞれなように仕事もいろいろ。得意なことをやって支え合いながら働く、できないことがあってもそれを卑下することなくそのままでいられる、ここはそんな場所です」
そのためには適切な場に適切な人を配する必要があるが、それはその人をちゃんと見ていれば分かることで、福祉職としての専門性のひとつだと安倍さん。障がい者の就労はできることが少ないのだから、やれと言われたことをやればよいとされてきた時代が長く、今もそうした考えがなくなったわけではないものの、そうではないのだという。
春日台センターセンターでは小規模多機能型居宅介護施設に通所する人が昼食のご飯を炊いたり、みそ汁を作ったりもしている。建物内にある小さな駄菓子店は、かつて店をやっていた認知症の人が店番をしており、ほかのことには混乱があってもちゃんと勘定はでき、それがやりがいになってもいるとか。いくつになっても、どんな状況であっても、やることがあり、それを待っていてくれる人がいるのは幸せだろうと思う。
誰もが自分のペースで過ごせる場
広く、大きなテーブル、椅子が多数用意されたランドリーを出たところには、建物を南北に貫くもうひとつの通り土間があり、続く建物は小規模多機能型居宅介護施設。その建物に入る角にはコロッケスタンド「春日台コロッケ」がある。
かつて春日台センターで人気だったコロッケ屋さんを再現したもので、ひとつ180円。飲み物も販売されており、ランドリー利用者はもちろん、ふらりと訪れた人も熱々のコロッケと飲み物でのんびりできる。そのために、春日台センターセンターでは随所に座るところが用意されている。
「どんな施設だろうと関心はあっても入りにくいと思っている人にとって、入る口実になるのがコインランドリーや、コロッケスタンド。屋根があり、座るところもあるので、近所の人が散歩の途中でちょっと座ってお茶を飲んでのんびりしてというのはよくある風景です。敷地内には子どもや高齢者などいろんな人がおり、それが安心感につながっているのではないかと思っています」
コロナ禍で家族以外の、自分たちとは違う人たちと会う機会が減った昨今。多様な人がそれぞれのペースで過ごしているこの場所に来ると自分のペースでいいのだ、構えなくてよいと思えるのだろう。
そんな春日台センターセンターで最も多い来訪者は子ども。取材に伺ったのは夏休みでほとんど誰もいなかったが、学校のある時期は学校帰りの子どもたちであふれんばかりになるという。
「多い日には100人くらいが集まってきます。駄菓子店があり、コロッケが売っていて、涼しく、Wi-Fiもあって、勉強していても、ゲームしていても怒られない。子どもたちにとっては天国のような場所だろうと思います。いつもは5時までが小学生、それ以降は中高生が来ています」
子どもたちにとっては天国?
地域の子どもたちにとっては楽しい居場所となっているわけだが、もちろん、それは狙ってのこと。この場を経験して育った子どもたちはなんで、あんな場所があったんだろう、自分たちにとって必要だったよね、愛川町ってよかったよねと思うはずで、その愛着がこの土地に住み続けたい思う気持ちにつながってほしいという。
また、ここには高齢者も、障害を持つ子どもたちもいる。そんな子どもと一緒に遊んだ経験を経て子どもたちは世の中には自分と違う人がいることを知り、優しくなっていくのではないかとも。
「多様な人が集まる場所が必要と言われていますが、実際にそうした場はそれほど多くありません。もっとできればよいと思っていますし、できるんだとも思い、つくりました」
コロッケスタンドのある建物内の小規模多機能型居宅介護施設は、東西の土間を境に居室部分と小上がりに分かれている。小上がり部分は通所者が宿泊する際には寝室として使われることもあるが、それ以外の時間は子どもが勉強したり、おやつを食べたりと自由に使われている。
その小上がりに面してあるのが前述の駄菓子店。また、そこには建物内唯一の掲示板がある。逆に言えば、ここ以外の場所には他の建物でよくある「●●禁止」といったような掲示は一切ない。居心地のよい場所をつくるため、張り紙は掲示板に限定しているからである。
館内に張り紙がない理由
「居心地のよい場所をつくるためにはどうすれば良いか。私はルールを作って禁止事項を張り紙するより、自分で考えよう、みんなの場所ならみんなで守ろうと思います。お菓子の紙をポイ捨てする子どもがいたら、昔っぽいやり方ですが、その場でそれはダメだよと叱る。怒られるのは関心を持たれる、気にしてもらえるということですから、そこに関係が生まれます。でも、張り紙に注意事項を代弁させている限り、そこには関係が生まれません。張り紙は関係を生まないのです」
聞いて思ったのは、世の多くの施設は利用者と関係を持ちたくないから張り紙をするのかもしれないということ。利便性を重視する、人が通過するだけの施設なら仕方ないかもしれない。だが、それ以外の人との関係を育もうとする施設であれば、本当に張り紙は必要なのか。当たり前と思っている行為を見直してみると発見があるかもしれない。
小規模多機能型居宅介護施設を抜け、通り土間を渡ったところは1階、2階ともに認知症のグループホームとなっており、1階の中庭に面した部分は小学校から高校生までの障害のある子どもが通う放課後等デイサービスになっている。
続いてはランドリールームの脇の通り土間から階段を上って2階へ。階段を上がった南側には広いテラスがあり、そこに面しては2つの部屋がつくられている。ひとつは寺子屋と呼ばれる学びの空間。就労支援、学習支援などに使われており、定期的に学習塾にスペースを貸してもいる。
もうひとつのコモンズルームと呼ばれる空間は、同様に机に向かうこともできるほか、会議などにも使えるようになっており、子どもたちの学習スペースにも。いずれも窓が大きく、特にコモンズルームは階下の雰囲気が感じられる開放的な空間だった。
コモンズルームの背後には貸室3室もある。シェアオフィスとして使えるようにつくられており、ボランティアに参加すると賃料が安くなる仕組みとか。現在は2室埋まっている。
時間が変えてきたもの、変わらないもの
安倍さんの解説で建物を見学して回り、さて、この施設を何と言うのだろうと考えた。建物の大きな割合を占めるのが高齢者向け、障がい者向けの施設であることを考えると、全体としては福祉施設と言うのかもしれないが、実際には地域、特に子どもの居場所であり、将来的には地域、街の再生の起点になりうるかもしれない場所でもある。
安倍さんの名刺には地域共生文化拠点とあり、なるほどとは思うが、それだけでは言いきれていない気もする。では何かと言われると困るのだが、非常にさまざまな可能性を秘めた場所ということだけは分かる。人が交じり合うこと、互いに寛容であることの意味は大きいと感じた。
もうひとつ、これもまた答えのない問いなのだが、かつてのこの場所には商店、スーパーがあるだけで地域の暮らしが問題なく成り立っていた。ところが現在のこの場所には意識して何かをつくる必要があり、かつてはなかったような施設が生まれた。
それ自体は地域にとって喜ばしいことなのだが、この違いの間には何があるのだろう。50余年という時間が流れ、くすの木は成長したが、人間の社会は高齢化し、弱体化もしているように思われる。
変わったもの、変わらないものがある中庭に立つと、ここに流れた時間が変えてきたものが意識される。答えは人それぞれだと思うが、考えることには意味があるように思った。特に春日台センターセンターという場について深く考えるためには役に立つ気がする。
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