愛する地元を盛り上げるために幼なじみが集結

琵琶湖の最北端に位置する西浅井(にしあざい)町。現在は長浜市に編入したこの町には、雄大な琵琶湖の景色とのどかな田園風景が広がっている。「西浅井町になんだか面白いことをしている人たちがいる」と、滋賀県内のみならず、全国で噂になっているという。
それが兼業農家集団「ONESLASH(ワンスラッシュ)」だ。

ONESLASHは、地元出身の20~30代のメンバーが集まり5年前に結成。メンバーそれぞれが建設、不動産、飲食店、アパレルなどの本業を持ちながら農業に従事している兼業農家だ。「Rice is comedy=米づくりは喜劇だ」をコンセプトに、全力で楽しみながら米づくりや第一次産業の課題解決に向けた活動を行っている。

彼らが企画したイベントや取組みは、シンプルに言うと面白い。その面白さやアイデアが、県内外の自治体や農家、企業、メディアなど、各方面から注目されている。

筆者は彼らが生まれ育った滋賀県長浜市西浅井町を訪れ、ONESLASH代表の清水広行さんにお話を伺った。

いい意味で“人たらし”な清水さん。その人柄が多くの人を惹きつけているのだろう。ちなみにRice is comedyの語源となった「Life is comedy」は喜劇王チャップリンの言葉だが、チャップリンが愛用したステッキは滋賀県の伝統工芸品なのだとか。不思議な縁を感じるいい意味で“人たらし”な清水さん。その人柄が多くの人を惹きつけているのだろう。ちなみにRice is comedyの語源となった「Life is comedy」は喜劇王チャップリンの言葉だが、チャップリンが愛用したステッキは滋賀県の伝統工芸品なのだとか。不思議な縁を感じる

まずはONESLASHの発起人である清水さんについて少し紹介したい。

清水さんはスノーボーダーとして、北海道やカナダなど国内外で活動。しかし22歳の時にけがが原因でその道を引退することを決意し、Uターンした。地元の仲間に帰ってきたことを告げると「じゃあ何かやろうよ!」と口々に言われたという。

「地元の友だちとは昔から『大人になったら何かやろう』と話していたんです。具体的に何をやるかはまったく決まっていませんでしたが(笑)」と清水さん。

それがONESLASHの始まりだ。

帰ってきたときに感じた「危機感」が原点

清水さんは帰郷してすぐ、地元の春祭りに参加した。清水さんが子どもの頃は、屋台が並び、神輿が出たり子どもたちが踊ったりと活気があり、毎年この祭りに参加するのが楽しみだったそうだ。

「久々に参加してみると、屋台も出ておらず人もまばら。『雨が降りそうだから神輿はやめるか?』と大人たちが相談している。『なんじゃこれは。めちゃくちゃつまらない祭りになってるやん!』と愕然としました。これでは子どもたちが大人になったとき、故郷に愛着を持てるわけがない……と、そこで危機感を持ったんです」

清水さんは続ける。「雨が降る中で神輿を担いだ経験がいい思い出となり、大人になったら役立つと思うんです。でも面倒を避けたいから大人たちはやりたがらない。『それならば俺たちがやろうや』と仲間に声をかけました」

こうしてONESLASHメンバーは、この春祭りを楽しいものに復活させようと動き出した。

次の春祭りには、屋台を出店しマジシャンを呼んだ。すると子どもたちは「俺らの集落の春祭りがこんなことになるんや」と大興奮。そして「うちの集落ではこんなオモロい祭りがあるんやで!」と自慢げにほかの集落の子を誘い、どんどん子どもたちが増えていった。

清水さんはこう話す。「もともと僕たちの親世代がやっていたことが、時を経て少し衰退していただけ。子どもは素直です。楽しいことが好き。だから参加する。僕たちがやったのは伝承です」。こうして春祭りは昔のような活気を取り戻したのだ。

春祭りの成功後は、飲食店や雑貨店などが大集結する「マルシェ」や、100m超えの「流しそうめん大会」、ジビエ料理のB1グランプリ「西浅井ジビエ村」など、新たなイベントを次々に企画し成功を収める。ジビエ村は積雪の2月開催にもかかわらず、午前中には1,800食が完売してしまうほど、県内外から多くの人が訪れた春祭りの成功後は、飲食店や雑貨店などが大集結する「マルシェ」や、100m超えの「流しそうめん大会」、ジビエ料理のB1グランプリ「西浅井ジビエ村」など、新たなイベントを次々に企画し成功を収める。ジビエ村は積雪の2月開催にもかかわらず、午前中には1,800食が完売してしまうほど、県内外から多くの人が訪れた

地域のネガティブをポジティブに

楽しくない祭り、人が集まらないイベント、獣害をもたらす野生動物などといった地域のネガティブを、発想の転換でポジティブに変え成功させてきたONESLASH。

「もっと周りのネガティブを探してみようと思った時に、『農業』って儲からない・キツイ・後継者がいないなど、ネガティブなイメージだなと思ったんです」

このイメージをひっくり返そうと、ONESLASHは農業部門「Rice is comedy(米づくりは喜劇だ)」の活動をスタート。

「スノーボーダー時代、米どころと呼ばれる地域にも住んでいました。その頃からずっと思っていたことが『地元のお米のほうがおいしい』ということ。何をどうというのは表現できないのですが、とにかく『滋賀のお米はおいしい』と感じていたんです」と清水さん。

このエリアに住む多くの家庭には、代々守っている田んぼがあるという。そのほとんどが兼業農家で、機械は家単位ではなく地域でシェアして使うのだそう。昔から助け合って生きてきたのだこのエリアに住む多くの家庭には、代々守っている田んぼがあるという。そのほとんどが兼業農家で、機械は家単位ではなく地域でシェアして使うのだそう。昔から助け合って生きてきたのだ

「まずは自分たちで米づくりを始めました。すると周りが集まってきて助けてくれるんです。祭りやイベントもそうですが、西浅井町の人は何かやっていると『何やってんの?』『何かあったら手伝ったる!』と、同世代だけでなく、70~80代のおじいちゃんおばあちゃんまで世話を焼いてくれる。『もっとやれ!』『応援するから』とみんなが協力的でした」

地元の人たちにアドバイスをもらいながら育てた1年目のお米は、やはりおいしかった。

ただ、抽象的に「おいしい」ではなく数値でおいしさを実証したいと、アミロースやアミロペクチンなどの成分バランスを測ってみることに。すると日本の平均が60点、某有名米が80点、そして西浅井のお米は93点という驚異的な点数を叩き出したそうだ。

「やっぱり…と思いましたね。だってうまいんですもん(笑)。滋賀県は琵琶湖を有しているので水がよく、水の流れもいい。豪雪地帯である西浅井町は寒暖差も大きく、おいしいお米ができる条件がそろっているんです。おいしいことは数字で実証されたので、もう点数で戦う必要はないと思いましたね。それならアプローチを変えようと。そこで思いついたのが『ゲリラ炊飯』です」

街中に突如現れる「ゲリラ炊飯」でおいしさを伝える

おいしい米をつくって売る。それだけでも十分楽しかったというRice is comedyだが、ある日「もっと面白いことしよう!」ということになった。

「とりあえず無計画でホームセンターへ行きました。そこで羽釜を見つけて購入。薪で炊いてみると、すこぶるおいしいご飯が炊けたので『じゃあおにぎりにして配ろう!』ということに。これが『ゲリラ炊飯』誕生の瞬間です」と清水さんは笑う。

「大工の友人に頼んで廃材で移動屋台をつくってもらいました。そこに羽釜を積んで、街中で突如炊飯。できたてのご飯をおにぎりにして無料で振る舞ったんです。するとみんなが『おいしいおいしい』と言って食べてくれる。そこで初めて『93点の米なんですよ』と言うと、みんな納得して購入してくれたりファンになってくれたりしました」

ある日ゲリラ炊飯の行列に何度も並び直しおにぎり食べている子どもがいた。「普段はご飯を全然食べないんです」とお母さん。その子はゲリラ炊飯をきっかけにご飯が大好きになったのだそう。今ではRice is comedyのお得意様だある日ゲリラ炊飯の行列に何度も並び直しおにぎり食べている子どもがいた。「普段はご飯を全然食べないんです」とお母さん。その子はゲリラ炊飯をきっかけにご飯が大好きになったのだそう。今ではRice is comedyのお得意様だ

Rice is comedyがつくるお米は、ゲリラ炊飯先やECサイトで販売しているのだが、毎年収穫量が増えているにもかかわらず足りないほど売れているそう。「おいしい」そして「面白い」には、それほどの価値があるのだ。

※ゲリラ炊飯は許可を取って行っています

コロナ禍もプラスに変換。全国からオファーを受け次章へ動き出す

ゲリラ炊飯が縁で人とつながり、さまざまな場所でゲリラ炊飯を行ってきたRice is comedy。しかしこのコロナ禍でゲリラ炊飯ができなくなった。

「逆にチャンスだと思いました。オンラインが当たり前になり、都会でなくてもいい、むしろ田舎に魅力を感じる人も増えたと思います。世界のスピードがゆっくりなうちに、われわれも準備する時間を持てたのは大きいですね」

Rice is comedyがコロナ禍で準備していたことのひとつが「ゲリラ炊飯バス」だ。全国行脚するためのバスの製作することを決め、クラウドファンディングで資金調達。なんと400人以上の人に合計約550万円の協力をしてもらった。

現在絶賛改装中のゲリラ炊飯バス。今後ラッピングを施し、キャンピングカーのような仕様になる予定。全国の子ども食堂や学童保育へゲリラ炊飯行脚する予定だそう。近い将来、あなたの街にもやってくるかもしれない現在絶賛改装中のゲリラ炊飯バス。今後ラッピングを施し、キャンピングカーのような仕様になる予定。全国の子ども食堂や学童保育へゲリラ炊飯行脚する予定だそう。近い将来、あなたの街にもやってくるかもしれない

「もともとは自分たちが面白くてやっていたゲリラ炊飯でしたが、ゲリラ炊飯を行うことで人が集まり、人と人がつながり、その後はRice is comedyを介さずとも各地でさまざまな企画が立ち上がっているんですよね。僕らがコミュニティのハブになっていると感じました。それならオファーをもらってわれわれが全国に行き、それまでなかったコミュニティをつくって帰る。地域の着火剤になりたいと思っています」と清水さん。

既に現在40ヶ所以上からオファーをもらっているというRice is comedyの全国行脚で、また笑顔がつながるだろう。

農業が誇りとなりアイデンティティとなる社会に

Rice is comedyはゲリラ炊飯以外にもさまざまな活動を行っている。

例えば知られざる田んぼや農業の楽しさを紹介するYouTube。これがじつに面白い。「お米ってこうやってつくられているんだ」「お米づくりって楽しそう!」と思わずにいられない。そしてメンバーのキャラクターも魅力的なのだ。

7割がお米でできたプラスチックは、石油系プラスチックの含有量を大幅にカットできる期待の素材だ。同素材の袋は、2025年に大阪で開催される国際イベントの公式ショッパーにもなっているそう。近い将来私たちにとって当たり前の素材になるかもしれない7割がお米でできたプラスチックは、石油系プラスチックの含有量を大幅にカットできる期待の素材だ。同素材の袋は、2025年に大阪で開催される国際イベントの公式ショッパーにもなっているそう。近い将来私たちにとって当たり前の素材になるかもしれない

また南魚沼の企業が開発した「お米のプラスチック」への参入に向け動いている。このお米のプラスチックが普及すれば、お米の価値もぐっと上がるだろう。清水さんはプラスチックの売り上げをどんどん農家に還元したいと話す。

「米づくりのイベントを行うと、あっという間に定員がいっぱいになります。農業のイメージといえば、儲からない・キツイ・後継者がいないなどネガティブなものが多いですが、第一次産業に憧れを抱く人やこれから農業を始めたいと考えている人も多い。そんな『つくり手』を育てることもしていきたいですね。そのためにも、農業を楽しくて儲かる産業にしなければなりません。Rice is comedyは米づくりを担うのではなく、僕らが農家のお米をできるだけ高く買い取れるようにする。そのためにもRice is comedyを世に広め、西浅井町のお米の価値を、ひいては農業全体の価値を高めたいと思っています」と清水さんは語る。

Rice is comedyは農業と企業・地域・店舗・消費者などをつなぎ、農業が儲かる仕組みをつくろうとしているのだ。よい循環ができれば、同じ課題を抱える地域や産業のモデルとなるだろう。

今回のインタビューで、清水さんからあふれ出すアイデアやユーモア、そして人間力の高さに圧倒された。何よりも、仲間と共に農業を全力で楽しんでいること、そして自分が生まれ育った西浅井町が大好きだということが伝わってきた。

清水さんはまだまだ温めている企画ややりたいことがたくさんあるらしい。今後ONESLASHやRice is comedyは、どんな活動をしていくのだろうか。非常に楽しみである。

取材協力
ONESLASH
Rice is comedy

農業が誇りとなりアイデンティティとなる社会に粒ぞろいなONESLASHのメンバーと仲間たち。取材して一番感じたことは、彼らの「心の豊かさ」だ

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