構想約40年。近現代の美術・デザイン作品約6000点を擁して開館
大阪・中之島は、東西約3kmに及ぶ細長い中洲だ。北に堂島川、南に土佐堀川が流れ、それぞれの対岸といくつもの橋で結ばれている。この島の上に、大阪市役所や日本銀行大阪支店といった行政・金融の中枢が置かれ、国立国際美術館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪市立科学館をはじめとした文化施設が集積する。ただ、キタやミナミの繁華街に比べるとビジネス街の印象が強く、ややまちの賑わいに欠ける印象があった。そんな中之島の「人の流れを変えた」と言われるのが、2022年2月にオープンした大阪中之島美術館だ。
大阪市には85年の歴史を持つ大阪市立美術館があり、前述の東洋陶磁美術館もある。新たな美術館が計画されたのは、大阪の実業家で美術コレクターの山本發次郎の収集品約600点が大阪市に寄贈されたことがきっかけだった。大阪市制100周年記念事業として「近代美術館」の構想が始まる。それが1983年のこと。以来、バブル崩壊や市政の変遷など紆余曲折を経て、約40年越しの開館に漕ぎ着けた。
長い準備期間中にも作品の収集は続けられ、開館時点のコレクションは約6000点に上る。山本發次郎コレクションに含まれていた佐伯祐三の代表作群に加え、モディリアーニ、ダリ、バスキア、岸田劉生、森村泰昌など国内外の近現代美術、また、グラフィックや家具・工芸などのデザイン作品もある。もちろん、大阪ゆかりの作品群も数多い。開館記念「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」では「長らくお待たせしました!」と言わんばかり、選りすぐりの約400点がずらりと展示された。
「正面」を持たない直方体の建物。人々は三方向から自由に行き交う
南隣にあるシーザー・ペリ設計の国立国際美術館が、その空間のほとんどを地中に埋めているのと対照的に、大阪中之島美術館は地上5階建て。商業施設と駐車場を収めた1階の上に、人工地盤のようなテラスと芝生広場が載り、そこから2階ホールにアクセスする。2階は四方ガラス張りで、その上に巨大な黒い直方体が浮かんでいるようだ。この直方体内部の4・5階が展示室になっている。
三方向を道路に接する大阪中之島美術館には「正面玄関」がない。南の国立国際美術館側と北の堂島川側にそれぞれ階段があり、道路から直接2階に上がることができる。北東側には向かいの「中之島四季の丘」との間を2階レベルで結ぶブリッジがあるほか、1階から入ってエレベーターで上がってもいい。さまざまな方向から入れて、さまざまな方向に抜けられるようになっているわけだ。
シンプルな箱の中に現れる、巨大で入り組んだ吹き抜け空間
建物の設計は、公募型設計競技(コンペ)で選ばれた遠藤克彦建築研究所。コンペでは、美術館の核として「パッサージュ」を設けることが求められた。「パッサージュ」とはフランス語で通路や小径を指し、「展覧会入場者だけでなく幅広い世代の人が誰でも気軽に自由に訪れることのできる賑わいのあるオープンな屋内空間」を意図したという。これを受けて遠藤克彦建築研究所が提案したのが、館内全体を縦横無尽につなぐ、巨大な吹き抜けを中心とした空間だ。
遠目には、黒く四角いシンプルな箱。しかし中に入ってみると、圧巻の大空間にあちこちから外光が差し込み、長大なエスカレーターと階段が縦横に交差する。2階はチケットカウンターやミュージアムショップがあり、誰もが無料で入れるスペースになっている。ベンチに腰掛けて展覧会の余韻を楽しむ人の姿も見られた。
展覧会のチケットを買った人だけが乗れる、2階から4階へのエスカレーターは、さながら吹き抜け空間を堪能するアトラクションだ。下りエスカレーターの下をくぐり、大きな壁面に掛けられた展覧会のバナーを眺め、高さ約30mの大空間を見晴らす。これから待つアートとの出会いに期待が高まる。ここからさらにエスカレーターを乗り継いで、5階の展示室に向かう。
作品鑑賞の合間に、中之島の東西南北の景観が差し挟まれる
最上階にたどり着いて、まず目を見張るのは堂島川を望む大開口だ。4階と5階合わせて四方に開口があり、展示室から展示室へ移動する合間に、中之島周辺の景観も、ぐるりと巡ることになる。
展覧会の鑑賞を終え、ゆるやかな折り返し階段で4階に戻ると、上りとは90度向きの異なる下りエスカレーターで2階に下りる。ここから1階へは幅広の階段でつながっており、1階もまた、南北に通り抜けられる「パッサージュ」になっている。上へ下へ、右へ左へ、さまざまに向きを変えながら、移動そのものを楽しめる。
植栽が施された2階テラスは一周可能。路面にはカフェもオープン
上下移動は多いが、もちろんエレベーター完備なので、車椅子やベビーカーでも安心して訪問できる。親子トイレや授乳室、休憩室も用意されており、小さな子ども連れにもやさしい。1階路面にはデンマーク発のインテリアショップ「HAY OSAKA」が入居し、2022年7月18日にはカフェ「Musée KARATO」がオープンする。緑豊かな植栽に囲まれた美術館は公園のようでもあり、中之島散歩の目的地におすすめしたい。
今後は、豊富なコレクションを核にした企画展を中心に、巡回展なども随時開催していくそうだ。
大阪中之島美術館 https://nakka-art.jp












