高齢者にとっての死活問題。人口流出が加速する恐れも

人口減少や高齢化が進み、作業中の事故も後を絶たない豪雪地帯。自治体や国は道路の除排雪に多くのコストをかけているが、特に独居の高齢者らにとって自宅周りの除排雪は大きな負担で、集合住宅への住み替えや、地域の活力低下につながっている。

筆者が暮らす北海道旭川市は、道内有数の降雪量がある。一部の町内会で危険箇所のパトロールや、自主的な除雪支援などを行っている。また、社会福祉協議会に登録した有償ボランティア「スノーサポート隊」が高齢者宅に出向き、玄関から公道まで除雪するなど、複数の支援制度がある。ただ担い手の確保が大きなハードルで、住民同士が助け合う仕組みをどうつくるか、模索を続けている。

安全面での問題もある。古い家屋は雪の重みで倒壊の危険にさらされ、屋根の雪下ろし中の死亡事故もなくならない。札幌市などと同様に、除雪の負担を避けるために住み慣れた家を手放し、中心部の集合住宅に移る人もいる。

筆者が経営するゲストハウスのタイニーハウス。しばらく注意を怠ると、屋根の雪が滑り落ちるリスクがある筆者が経営するゲストハウスのタイニーハウス。しばらく注意を怠ると、屋根の雪が滑り落ちるリスクがある
筆者が経営するゲストハウスのタイニーハウス。しばらく注意を怠ると、屋根の雪が滑り落ちるリスクがある積もった雪が巨大な塊となって軒下に形成される「雪庇(せっぴ)」。多雪地帯ではケアが必要だ

国土交通省は、地域で支え合う「共助」を軸にした除排雪の体制づくりや、安全対策などをモデル的に実施している団体を支援している。2022年3月14日にオンラインで2021年度の報告会を開き、北海道、青森県、山形県、群馬県、長野県、島根県で活動する8つのモデル団体が発表した。広く参考になりそうな5つのポイントを紹介する。

筆者が経営するゲストハウスのタイニーハウス。しばらく注意を怠ると、屋根の雪が滑り落ちるリスクがある山形県飯豊町のNPO法人「まちづくりいいで」による除雪支援

その1、まずは地域の実態把握から

「まちづくりいいで」が、世帯の状況を把握するために使っている調査用紙「まちづくりいいで」が、世帯の状況を把握するために使っている調査用紙

除雪のサポートを始めようにも、ゼロからではどこから着手すべきか途方に暮れかねない。地域の事情や特徴をつかみ、取組みの方向性を決める上で、事前の実態把握が欠かせない。また試行後に振り返り、より細かく実態を把握できると効果的だ。

山形県飯豊町のNPO法人「まちづくりいいで」では2021年度、モデルとなる世帯を抽出し、世帯構成や近親者の情報、要望事項などを「調査カード」で把握した。現地でも家屋周辺を調べ、「除雪カルテ」を作成。それをもとに7世帯を支援し、降雪の前後でどう変化するかを確かめた。

群馬県上野村は2021年度、地域包括支援センターの職員や、村道管理や消防の担当職員でプロジェクトチームをつくり、他の課にも知ってもらうために、福祉部局内に実行チームを発足させた。支援が必要と思われる世帯を訪問し、スクリーニング調査を実施。その調査シートでは「要介護認定」の形式を応用し、得点や特記事項を書き込めるようにした。

山形県鶴岡市の福栄地域協議会『福の里』は2021年度、地域団体の中に「除雪部隊」を立ち上げ、その会員や自治会の協力を得て、高齢者のみで暮らすなどの42世帯をピックアップ。有償ボランティア12人で作業した結果、ボランティア側の意欲は強かったが、依頼は十分に寄せられなかったという。他人に頼ることへの抵抗感のほか、屋根の雪下ろしを依頼したいのに、実際に頼めるのは1階部分の作業であるといった「ミスマッチ」が要因になっていたと分かった。

その2、若者や地域外など多様な担い手の確保を

体力のある若手が都市部に転出し、高齢世帯が増える中、さまざまな階層や地域外の人も巻き込んでいる団体もある。

除雪が難しい人が暮らす地域で大学生ボランティアらが雪かきをし、雪だるまの数などを競う「スポーツ雪かき」。これを企画運営している「日本スポーツ雪かき連盟」(北海道小樽市)はニーズを把握しようと、マッチングアプリで高齢者と地元の中高生らを結ぶことを計画。コロナで2021年度はできなかったが、困りごとを知り、新たな担い手を確保したい考えだ。

「日本スポーツ雪かき連盟」は「ご近所同士の共助には限界がある」として、拠点の小樽市で大学生や高校生、中学生らの力を借りることに着目。雪かきにゲームの要素を加え、若者が楽しく参加できるよう工夫している。

青森市も、若者のボランティアを呼び込みつつ、学校や企業など地域内外の関係者との連携を強化。町内会や地区社会福祉協議会が、高校や大学とを地道に結び付け、2021年度の除雪ボランティア登録者数は2017年の508人から839人にまで増えた。市内にリモートワークで滞在している県外の自動車メーカー社員にもボランティアを依頼。市の担当者は「『地域のことは地域で』という仕組みは弱体化している。県内外の社会人にも働きかけ、除雪ボランティアや用具支援のサポーターとして、地域貢献してもらえたら」と今後の展望を発表した。

北海道小樽市内で活動する、「日本スポーツ雪かき連盟」の学生ら北海道小樽市内で活動する、「日本スポーツ雪かき連盟」の学生ら
北海道小樽市内で活動する、「日本スポーツ雪かき連盟」の学生ら青森市内の住宅で除雪作業をする、県外企業の社員

群馬県水上町の「みなかみ町社会福祉協議会」は、強みであるコーディネート力を発揮し、町内外からの担い手の養成を目指す。現状では建設会社のボランティアが屋根の雪下ろしを担うことで対応しているが、依頼者が急増する中、建設会社の負担軽減が急務という。

その3、協力の輪を広げるための情報発信を

NPO法人「まちづくりいいで」が配布したチラシNPO法人「まちづくりいいで」が配布したチラシ

支援を受ける側も提供する側も、当事者も地域外の人も。多くの人が理解してこそ、地域での活動が続けられる。担い手を確保し、幅広い協力を得るには情報発信が欠かせない。

鶴岡市の「福の里」では、2021年度に新たに募集した有償ボランティアが思うように集まらなかったが、新聞に掲載されると急増したという。飯豊町のNPO法人「まちづくりいいで」では、NPO法人による玄関先の除雪支援の制度を分かりやすくまとめたチラシを配布し、反響や応援が寄せられた。

鬼無里地区が発行する「雪下ろし情報」鬼無里地区が発行する「雪下ろし情報」

先進的な取組みで知られる長野市の「鬼無里地区住民自治協議会」では、雪下ろしの対応状況や支援制度、除雪用具の貸出情報などをまとめた「雪下ろし情報」を発行し、地域内で全戸に配布している。地区オリジナルのアンカー(転落防止のための命綱固定金具)の普及に取組んでいるが、屋根上作業の危険性と過酷さを理解してもらえるよう、市職員に作業に同行してもらった。そのことで関係者のモチベーションが高まったという。

豪雪地帯対策に精通した国土交通省の「雪国の未来を考える懇談会」委員で、公益社団法人「中越防災安全推進機構」の諸橋和行・地域防災力センター長は報告を聞き、鬼無里地区の関係者が他地域に招かれて取組みを伝えていることに触れ、「(広く知られることで)自信や責任感が生まれる」と講評した。

その4、有償化のメリット・デメリットの検討を

ボランティアというと「無償の奉仕」というイメージが根強いかもしれないが、頼む側の精神的な負担や、続けやすさを考え、有償化した団体も多い。

報告会で「有償ボランティアの方がお互いに割り切ってやりやすい」と振り返ったのは、NPO法人「まちづくりいいで」。依頼者も支援者も会費を払ってNPOに入会し、支え合う仕組みとしている。実際の作業では、除雪機械の大きさや時間に応じて料金を決めている。

鶴岡市の「福の里」では、依頼者が1人1時間あたり1,000円を負担し、そのうち100円を運営側の手数料に充て、残り900円をボランティアの謝礼としている。「完璧にやろうとすると1日以上かかってしまう」(担当者)ため、作業時間は1時間で区切っている。

現金以外の形もある。「日本スポーツ雪かき連盟」では今後の実証実験に使うマッチングアプリで、除雪作業を手伝った中高生らにポイントを付与することを想定。小樽市内の商店街で使えるように、クオカードや図書カードに交換することも検討している。青森市は、商品券への交換やバス運賃への充当ができるポイント制度と連携させている。

青森市が構築している、共助組織のイメージ青森市が構築している、共助組織のイメージ
「まちづくりいいで」が会員と締結する覚書「まちづくりいいで」が会員と締結する覚書

「雪国の未来を考える懇談会」委員は、有償ボランティアの注意点をアドバイスした。

山形県在住の沼野夏生・東北工業大学名誉教授は、高齢者が雪の事故で亡くなった例を引き、「除雪は自己責任」という風潮が強まることを懸念した。その上で、鶴岡市の「まちづくりいいで」が、住民同士が支え合うために覚書(協定書)を交わし、受け手も担い手もNPO法人の会員になっている点を評価。「有償ボランティアは、個人の責任をお金で解決する側面もあり、自己責任とつながりやすい。『まちづくりいいで』の方法は、他地域でも使えるのでは」と話した。

また筒井一伸・鳥取大学教授は、「お金が介在しても大切なのは笑顔。ボランティアの楽しみを忘れないように、ボランティアを組織より個人という単位で考えることも重要」と伝えた。

その5、「地域づくり」とリンクさせた活動を

住宅の周囲を除雪する、水上町のボランティア住宅の周囲を除雪する、水上町のボランティア

国土交通省の呉祐一郎・地方振興課長は、「除雪の問題は、高齢化や人口減少など、地域づくりと重なる部分がある。持続できる地域の体制づくりを支援していきたい」とあいさつした。各団体からも、地域づくりとリンクさせる報告が相次いだ。

群馬県水上町の「みなかみ町社会福祉協議会」は、雪かきを「きっかけ」と捉えている。要支援者へのさまざまな生活支援の一環という位置づけで、目指すのは近所の助け合いによる「地域のつながりの再構築」だ。

「日本スポーツ雪かき連盟」は、活動を始めたきっかけとして「若者を主体とした地域コミュニティーの再構築」を挙げた。高齢者との交流を通して、参加した若者が「地域リーダー」として育つことを期待している。

NPO法人「まちづくりいいで」は活動を始めたことで、「除雪支援は地域づくり」という気付きが得られた。担当者は「NPO法人が間に入って会員が支え合い、お互いが何とかしようという機運をつくるのが大切。通年での見守り活動につながれば」と展望を語った。

奥出雲町で活動する有償ボランティア「かめさんお助け隊」奥出雲町で活動する有償ボランティア「かめさんお助け隊」

島根県奥出雲町の「亀嵩地区小さな拠点づくり委員会」は2020年度、地域の困りごとを解決する有償ボランティア「かめさんお助け隊」を結成。試⾏的な取組みとして除雪を実施したところ、地域コミュニティーの希薄化や、つながりや共助の必要性を痛感した。2021年度は同隊の中に除雪に特化した 「スノータートルズ」を組織し、29人がボランティアとして登録した。除雪だけでなく、豪雨災害などから住民を守る仕組みへ発展させるという。

一足飛びにはいかない担い手不足。「共感」から「共助」へ

長野市の「鬼無里地区住民自治協議会」は「明るく楽しく、たまに大真面目に雪国の問題に取組んでいる。そのつながりが地域づくりにも生かされ、良い化学反応がたくさん起き、地元に愛着がわく」と手応えを発表した。

群馬県上野村では、除雪できない世帯の玄関先スペースを「雪のほっと休憩所」として提供してもらい、除雪に汗を流す村民と交流する仕組みをつくった。2021年度は59ヶ所が登録され、地域でのつながりを維持する場となり、消防団活動にも好影響があったという。担当者は「直接会って声を交わすきっかけをつくる役割を休憩所に持たせた」「担い手不足は深刻だが、無理に人を動かそうとしても共感は生まれない。相手への共感が絆を育み、『共助』が強くなってこそ、担い手不足が解消される」と強調した。

除雪作業の傍ら、上野村の「ほっと休憩所」を訪れるボランティア除雪作業の傍ら、上野村の「ほっと休憩所」を訪れるボランティア

除雪支援を入り口に、地域のつながりを生むというゴールを共有する。関係者と地域の実情をつかみ、多様な担い手を巻き込めるような、持続可能な仕組みを考える―。雪のない季節でも、腰を据えて準備できることは多そうだ。

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