東京都の温室効果ガス削減に向けたこれまでの動き

家庭部門のエネルギー消費量は増加傾向となるなか、東京都は新築住宅の太陽光発電設置義務化に向け動き出している家庭部門のエネルギー消費量は増加傾向となるなか、東京都は新築住宅の太陽光発電設置義務化に向け動き出している

2022年5月25日から東京都は、新築住宅の太陽光発電設置義務化に向け環境確保条例の改正のためのパブリックコメント(意見公募)を開始した。
東京都は環境確保条例で、2002年より大規模建築物に対して環境性能の確保を目指した建築物環境計画書制度等の制度を導入してきた。2008年には大規模事業所に対するCO2排出容量の削減義務化を課している。

環境確保条例は大規模建築物を中心に温暖化対策を進めてきたことから、東京都ではオフィスビル等の業務部門のエネルギー消費量は減少傾向にある。一方で、個人住宅に対しては規制が手薄だったこともあり、家庭部門のエネルギー消費量は増加傾向となっている。

CO2排出量を削減していくには、個人住宅も対策していくことが不可欠な状況となっており、太陽光発電設置義務化に至ったというのが全体の経緯である。

東京都が目指すゼロエミッション東京とは

東京都では、2050年までにCO2排出量を実質ゼロとする「ゼロエミッション東京」という目標を掲げている。最終的には2050年CO2排出量実質ゼロとすることがゴールであるが、その中間地点である2030年には50%の削減を目標(2030年カーボンハーフ)としている。近年、国内外で頻発している大規模な気象災害を抑制していくには、世界の平均気温上昇を「1.5度」に抑えることが望ましいとされている。

「ゼロエミッション東京」では、1.5度を目標に整合した社会システムに移行するためのさまざまな取り組みが行われていく。

2050年を目標とした場合、住宅に限っては現存する7割程度の建物が今後新築されて建て替わる見込みだ。そのため、2050年に目標を達成するには今から新築建物の対策をしていく必要があり、太陽光発電設備の設置義務化も「ゼロエミッション東京」を成し遂げるための施策の一つということになる。

出典:東京都ホームページ<br>ゼロエミッション東京戦略概要版 CO2排出量削減に向けた2050年までの道筋出典:東京都ホームページ
ゼロエミッション東京戦略概要版 CO2排出量削減に向けた2050年までの道筋

検討されている義務化の内容

パブリックコメントで検討されている義務化の内容は以下のようなものとなっている。

【検討中の義務化の内容】

太陽光発電設備の設置義務者:一定の要件を満たすハウスメーカー

設置義務量:年間供給棟数×85%(設置可能率)×2kW/棟(義務量)

権利形態:建築主が所有する、または事業者が所有することも検討中


(1)設置義務者

太陽光発電設備の設置義務者は大手ハウスメーカー等の事業者に課されており、住宅購入者に直接課されていないことがポイントとなっている。対象となる事業者は、都内の供給延べ床面積が年間で合計2万平米以上の事業者である。
年間2万平米以上を供給している事業者は約50社程度とされており、義務対象事業者も50社程度の施工会社になると見込まれている。対象者が上記のような大手ハウスメーカー等に限定されたのは実効性の高い制度設計を目指していることが理由である。

東京都では、現在、一定の断熱・省エネ性能の基準を満たした建物を「東京ゼロエミ住宅」と認定し、補助金制度を設けている。東京ゼロエミ住宅の補助金制度は、申請件数のうち約9割が一戸建て住宅であり、そのうち8割が注文住宅となっている。しかも、申請者のうち約8割が大手住宅事業者(全国上位30以内)という状況だ。

つまり、補助金の申請状況から「大手ハウスメーカーに注文住宅を依頼する人」はエコ住宅に対する関心が高く、義務化の内容を受け入れやすいと考えられている。
最初から全事業者に義務化を課すと強い反発も予想されることから、まずは現時点で太陽光発電設備に対して関心の高い層にターゲットを絞ったことになる。

(2)設置義務量

義務化は事業者に設置義務量を総量で課していることもポイントだ。パブリックコメントの段階では、「年間供給棟数×85%(設置可能率)×2kW/棟(義務量)」を設置すれば義務を満たしたことになるとしている。つまり、大手住宅事業者に住宅を依頼しても太陽光発電を設置せずに家を建てられる人が一定数いるということになる。

設置可能率が100%ではないのは、都内では隣地に高い建物があるなど、日当たりが確保できずに太陽光発電設備の設置に適さないエリアもあるためだ。都内では平均約85%(条件付きも含む)の地域が太陽光発電設備の設置に適しているとされ、その数値を根拠に設置可能率も85%となっている。ただし、設置可能率や義務量はまだ検討中の段階であり、パブリックコメント後に変更される可能性はある。

(3)権利形態

設置後の太陽光発電設備の権利形態に関しても、建築主所有や事業者所有が検討されている。建築主所有は単純で、発電された電気は住宅所有者が利用でき、余れば売電もできる。ただし、建築主所有の場合、実質的な初期費用の増額分は建築主負担となる。

一方で、事業者所有方式は建築主の初期費用負担をゼロにするために検討されている方式だ。事業者所有方式で検討候補となっているのは以下の3つの方法である。

1つ目は、住宅所有者(建築主)が事業者に太陽光発電設備のリース料を支払うという方式だ。
2つ目は、事業者が発電された電気を住宅所有者に売るという方式である。
3つ目は、事業者が屋根の賃料を住宅所有者に支払い、電気は事業者が売電できるという方式だ。

パブリックコメントの段階では、上記のような建築主の初期費用を軽減する案も提示されている。

出典:東京都ホームページ<br>「東京ゼロエミ住宅」の概要出典:東京都ホームページ
「東京ゼロエミ住宅」の概要

義務化の課題

義務化の課題としては、以下のような点が挙げられる。

(1)事業者および建築主の理解

義務化の最大の課題は、事業者および建築主の理解が得られるかという点だ。まず、義務対象者は一部の施工会社であるため、すべての施工会社ではないことから公平ではないと思える。単純にいえば大手住宅事業者に依頼すると「太陽光発電の分だけ値段が上がってしまう可能性がある」制度であるため、大手住宅事業者からの反発が予想される。
恐らく事業者は「お願いする形」で太陽光発電設備の設置を建築主に依頼することが予測され、受注がしにくくなる懸念はある。設置可能率も100%ではないことから、事業者も顧客の線引きが難しくなると思われる。

また、建築主の理解はさらに重要になってくる。建築主は義務対象者以外の施工会社も選べるため、義務対象外の施工会社を選択する建築主が増えれば、太陽光発電の普及は進まない。建築主は初期費用のみならず、設置後に発電設備のメンテナンス費用もしくは廃棄費用も必要となってくることから設置を拒む理由は多く存在する。仮に義務対象となる大手住宅事業者に建築を依頼しても断ることはできるため、同じ施工会社に依頼した建築主間でも不公平感は生じてしまう。過去の補助金の申請状況から実行可能性の高い制度設計にはなっているが、逆に公平性に欠ける部分もあり、運用していくには事業者および建築主の理解が必要となるだろう。

東京都環境確保条例の改正についてのパブリックコメントは東京都ホームページで確認することが出来る東京都環境確保条例の改正についてのパブリックコメントは東京都ホームページで確認することが出来る

(2)景観やデザインへの影響

東京都の案では景観やデザインへの議論が全くなされていない点が気になるところである。今でも山林や農地に突如として現れる巨大な太陽光発電設備に、唖然とする人は多いのではないだろうか。環境にやさしいのか、環境を破壊しているのかわからない太陽光発電設備も多いと感じる。

東京都であっても、例えば団地開発が行われ、その屋根にすべて太陽光発電設備が設置されれば、少し異様な景観になると思われる。仮に東京で実現できたとしても、京都などの観光地では今後も展開できない制度かもしれない。
また、屋根は住宅の雰囲気を決める重要なアイテムであり、デザインの観点から設置したくない建築主は一定数存在すると予想される。太陽光発電設備を普及させるには、デザイン性の改良も必要になるといえる。将来、太陽光発電は普及したものの、電柱のように景観の観点から「やっぱり外そう」となることは避けたいところである。

太陽光発電の設置義務化 今後の予定

2022年6月時点において、いつ義務化が始まるのかは未定である。
パブリックコメントは2022年6月24日までとなっており、制度は集まった意見を基に確定していく見込みとなっている。

東京都としてもできるだけ早く制度化したいと考えており、義務化は近いうちに実現すると予想される。

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